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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
動乱の北王国編 後編
222/411

撃ち合いセツゲン

 狼に案内されるがまま街を走っていたセンデルケンは、ようやく辿り着けた場所に居た知人と共に、街の北東部に向かっていた。


「ーーーアリオール? いや、見ていいない。大体あいつはアノンと行動をしていたはずだ…。アノンは?」


 彼の隣を走るのはラモダ・グノーチェス。彼と合流したのは実に、数分前だ。


「アノンは…死んだそうだ」


「何…だと…っ!? っ、そうか……」


 ラモダは瞳を伏せた後、先を四足で走る動物に視線を戻す。


「あの狼…あの男のペットか?」


 追求は後、と言うことだった。


「そのようだ」


「中々良い毛並み…いや、凄い狼だな」


「…?」


 「利発そうだ」と続けられて、「あぁ」と疑問を解決する。

 金色の毛は北風に当てられ、フワリと靡いている。

 触るとモフモフとしてそうだ。毛の金の色には汚れや曇りがなく、そこいらの『ホワイトウルフ』とは、同じ狼でも全く別種の存在であると窺えた。


「喋ったりしてな」


「まさか。見たことも聞いたこともない話だ。そんなことあるはずがないだろう」


「さぁどうだろうな? 何せーーー」


 彼等の後ろにはもう一人、人物が居る。

 スートルファ・ミノジェストン。風の魔法を使うハイエルフ。先程から喋らない彼は、どうやら前を走る狼を注視しているのか視線は合わない。


「ーーー後ろの方が興味を持っている程だ。喋ってもおかしくはないだろう?」


「それは根拠としておかしいだろう。妙に方向性が擦れているように感じる」


「人語は解せているんだから、話せそうな気がしなくもない。と言うか、動物と話せる道具でも作ってみたいから、もし話すことが出来るのなら、話してみたい」


 どうして急にそのようなことを考え始めたのか。突然生じる発明の衝動の根源は謎である。


「バウッ!」


 先を行く狼が速度を上げた。


「なっ、待てっ!!」


 それを急いでラモダ達が追うと、その先で待つ男の姿が不明瞭な視界に映る。


「ゼン!」


 センデルケンが男の名前を呼ぶと、ゼンは驚いたように彼のほうを見た。


「ガトルナフ将軍…生きていたか!」


「あぁ、どうにかだが。それよりも、お前の力がすぐに必要になった」


 センデルケンは自分が理解している範囲でゼンに事情を話した。

 『ベルクノース』の地下で何かが起こっており、それが『古の氷魔獣』の仕業によるものかもしれないこと。またレガーデスがどうしてか分からないが、その下に居るかもしれないこと。  そちらは謎の装束の男と、レティナ・クンティオが確認に向かっていること。『古の氷魔獣』の存在がこの街に魔物を引き寄せようとしていること。現在、それを迎え討とうと自分達が動いていること。


「……そうか」


 そしてアノンが命を落としたことも、伝えた。


「お前に続いて陛下を影で支えていた男が…な」


「……」


 レガーデスの教育係であったセンデルケンの補佐をしていたのは、他ならぬアノンであった。口こそ悪く当たりも強かったが、それも全てはレガーデスの成長を期待してのことであり、彼を思ってのことだった。


『陛下に王の資格が無いかもしれない…だと? 馬鹿か? この国を治めるのは陛下以外にあり得ない。アイツの優しさが、甘さがこの国に必要なんだ。軟弱過ぎるのは今から鍛え直せば良いし、足りないところは俺達が支えれば良い。だろ? ガトルナフ将軍』


 軟弱気質なレガーデスの悩みを打ち明けた時、かつてアノンはそう言った。センデルケンがポロリと零した愚痴であったが、彼の言葉を訊いて自らの意思をより強く固めたのだ。

 「一体何をやっていたのか」と、ホテルでアリオールを責めようとしたが、彼は喉元まで出掛かったその言葉を寸前で止め、今こうして動いているのだ。


「レティナが…と言うことは、村長が命じられた…か!」


「ですね。姫様は今村長と共に居るみたいです。…先程まで感じられなかった魔力マナが…微かに感じられます」


「姫様も…それは良かった」


 少し離れた所では、ガノンフとスートルファが話をしていた。

 更に少し離れた所では、狼が南西の方角を向いていた。が、


「…! バウッ!!」


「おわっ、何だ!?」


 突然の南の方角を向くと、唸りながら吠えたので、ラモダが素っ頓狂な声を上げる。


「バウッ」


 そのまま狼は南に向かって走って行った。


「あ、おいっ! 一体何なんだ?」


「魔物ですよ。南の入口から襲来です。このままですと、民家の中に隠れられている住民の方々に被害が及びますよ」


 ラモダの疑問にスートルファが答える。突然の言葉に彼が驚いたのは言うまでもない。


「っ、魔物か? クソっ、スートルファ! “クイック”!」


 ガノンフが、風を纏ったような動きの速さでそれを追って行った。続いてスートルファも駆けて行く。


「…あれが“クイック”…速度加速魔法の一つ…か!」


「感心している場合か。俺達も急ごう。力を貸してくれるか、ゼン」


「承知!」












 一足先に街の南入口に到着した狼ーーーヴェアルは、『ホワイトウルフ』を始めとした魔物の群れと対峙していた。


「ガルルルルル…!!!!」


「魔物としての理性を失い、本能がこの地の引力に引かれたか。愚かな……」


 狼が喋っている。

 勿論人のように口を動かしている訳ではなく念話のようなものだが、ラモダの予想は当たっていた。


「ゥゥゥッ、バウッバウッ!!」


 散開した魔物の群れに取り囲まれるが、当然ヴェアルの中に焦る気持ちは生まれない。


「個体数での圧倒が、戦局を決定するのではないと言うことを…教えてやる!!」


 ヴェアルは悪魔。その力は事象を捻じ曲げ、念の下に物質を操る。

 その動きは俊敏にして、常に相手の三手先を読み動く。「賢狼」と呼ばれる所以だ。

 相手がどんな存在であるのか理解する能の無い魔物が、一斉に金毛の狼に跳び掛かった。


『私の敵を狙い撃て!』


 そして一斉に弾き飛ばされ、消滅した。


「…行け、“ターミナルブラスト”!」


 ヴェアルの周囲に展開した光球が、その声で意思を持ったかのように不規則な軌道を描き始めた。


「そこだ…!」


 発光。そして、“サイコブラスト”が光球から発射される。

 魔物が呑み込まれ、消えた。


「遅い、もらった…!!」


 光球は魔物を逃さない。

 放たれた念動魔力(マナ)の奔流は直線状に伸び、そして建物の前で消滅する。多くの魔物を道連れにして。

 光球が描くのは直線、曲線ーーー実に様々だ。が、その共通した動きは一つ。魔物に“サイコブラスト”を放つことだ。

 放つ、放つ、動いてそして、放つ。

 魔物に逃れる術は存在しない。襲い掛かろうとする魔物から、その姿を滅していく。

 声の無い断末魔が奔流に掻き消される中、ヴェアルは微動だにしない。動かずとも、魔法のみで対処出来るために。


「止めだ!」


 ヴェアルの眉間から念動魔力(マナ)が電流のように、鋭く、甲高い音を立てた。

 それに応じるように光球の軌道が複雑性を増し、放たれる“サイコブラスト”の間隔が狭まり、光の眩さが増大した。


「私が人の側に立ち、魔物を討つとはな。運命とは数奇なものだ……」


 最後とばかりに全光球から同時に放たれた“サイコブラスト”は、揃った位置から直線を描き、網目状の軌跡を残して光球、魔物共々消滅した。


「…ふむ、そろそろか」


 ヴェアルは腰を下ろし、所謂「お座り」の体勢を取る。

 彼が消し飛ばしたのは魔物の軍勢のほんの第一陣。人間の部隊で例えるなら先行部隊だ。

 弓弦達が地下での問題を解決しない限り、魔物はこの地に集まる。半永久的に。

 また、ハイエルフの二人ならまた別の話だが、人間の足では到底今の魔物の襲来には間に合いそうになかった。なのでヴェアルがこうして動いた訳だ。

 出来るだけ魔法を用いて圧倒している姿を見られたくなかったので、ある程度の力を出したが、少々やり過ぎた感が否めない訳ではない。が、弓弦から拝借してきた魔力マナの半分も使っていないので余力は十分にある。


「魔物共の数は少なかったみたいだな」


「バウッ」


 ガノンフが追い付いた。人前では狼を演じるように言われているヴェアルは、内心複雑ながらも使い魔としての狼に徹する。

 狼の姿をしているクセに、狼の真似をすることがコスプレのように思えて不思議な恥ずかしさを覚えている彼は、後で弓弦に苦言の一つでも呈してやろうと決めた。


「ガノンフ、魔物はどうですか?」


 スートルファも追い付いた。


「既にコイツが片付けていたみたいだ。後続は無いみたいだな」


「…感じられないの間違いでしょう。…この街の地下より漏れ出た穢れた魔力マナは、どうやら私達ハイエルフの索敵能力を阻害しているようです。あのままですと、我々が姫様の居場所とは見当違いの場所を当たっていたように」


「(…成程確かに。瘴気はその類の性質を持っている。…だがそれは、偶然か?)」


 ハイエルフ達の会話を聞きながら、ヴェアルはそう思った。

 物事の起始と経過が、ここでも整えられている。


「(…ふむ)」


 答えは、狼の中だけに止められた。


「バウッバウッ」


 代わりに別の答えを示そうと吠えることで、魔物の襲来を報せる。

 ヴェアルが悪魔として手を貸すのは先程までだ。これからは、単なる狼としての行動に徹さねばならないーーー重ねて不本意ではあるが。


「…もう街の近くに魔物が居るのか」


「…数…多い…なっ!」


 センデルケンとラモダが息を切らせながら到着した。そこから少し間が空いてゼンも。どうやら道に迷っていたようだ。

 彼らの見詰める先ーーー街の出口の少し先に影が見えた。その数、およそ百は超えている。


「ラモダ。機械兵器の補充分ははまだあるか?」


「ギリギリ…だな。何だかんだ言って武器の消耗は激しいから…どこまでやれるか」


「どの程度だ」


「…爆薬と銃弾が少し、だ。無くなり次第久々の剣だな。確実に」


 隊員服の内側に装備した爆弾と、剣を見せながらラモダは答える。

 他の三人には及ばないものの剣が使えない訳ではない彼は、もしもの時のために剣を持ち歩いていたのだ。


「それは何年前のことだ? 大丈夫なのか」


「俺は戦える。それよりも……」


「バウッ」


 まだヴェアルが喋るのかどうかが気になるラモダ。当然ヴェアルに話すつもりが無いので結局意味の無いことだが。


「前はこの街を攻める立場にあったのに、今は守る立場か。面白いものだ。この場に俺達が“在る”こと…これも長老の樹の思し召しか?」


「…。取り敢えず近くの魔物を討ちます。あのままですと、街に危害が及びます」


「あぁ、やるぞ。戦いたくない相手を相手にしてこちとら不満だったからな。魔物相手に一発…!」


 ガノンフの足下で、炎が巻き起こる。

 起こる炎は陣を描き、魔法の発動体となった。

 雪が溶け、水へ、そして蒸気に変わり、消える。物質の状態変化を一瞬にして生じさせた火球が、焦茶髪の男の掌に生じた。


『炎よ、ここに集え…集いて化せーーー』


「少しだけ離れていた方が良いですよ。そのままですと、巻き添えがあるかもしれません」


 距離を置く三人を他所に、魔法は発動の時を待つ。


『ーーー焼き焦がせッ、エクスプロージョンッ!!』


 業火の火球が、放たれた。

 着弾と同時に大爆発を起こす炎弾は、戦いの始まりを告げる銅鑼の轟音。

 災難を逃れて攻め来る魔物達を前に、一行はそれぞれの得物を構えて突撃する。


『風よ、ここに集いて刃となれ…ウィンドカッターッ!!』


 切れ味鋭い風の刃が空気を薄く切り裂き、魔物の胴体を深く切断する。


「推して参るッ!!」


 雪と、魔法に紛れて先行したのはゼン。

 魔物の群れに向けて『零式斬鉄剣』を振りかぶった彼の動きに合わせるかのように、空気が唸る。

 剣が伸びた。身の丈の数倍の長さにまで伸びた鋒が、横に走る。


「“斬鉄剣・一文字斬り”ィッ!!」


 空気が魔物と共に横一文字に断たれる。一閃を振り抜いてみせた彼は、更に魔物の群れに斬り込んで、なおも往く。


「我が斬鉄剣は、竜巻の如し!」


 竜巻が起こる。純粋な斬撃だけによるその竜巻は、多くの魔物を巻き込み唸りを上げた。


「“斬鉄剣・竜巻斬り”ッ!!」


 雲海の高さにまで届かんとする竜巻の轟音は、斬り刻まれた魔物の断末魔さえも掻き消す。

 雪が、舞い上がった。舞い上がる雪の凄まじさは、吹雪にも匹敵するか。


ーーーォォォォッ! チェストォォォォッッ!!!!


 距離が離れているにも拘らず、聞こえてくる雄々しい声は非常に大きいものだ。


「相変わらず良く出ている声だ。こちらも行くぞ!!」


「了解!」


 剣を下段に構えたセンデルケンに拳銃を構えたラモダが続き、突撃する。

 その左右にガノンフとスートルファが並ぶ。


「バウッ」


 そこから少し離れてヴェアル。

 魔物の軍勢と、人間とハイエルフと悪魔の小さな混成軍の真っ向からの衝突が、地を轟かせる。

 白の景色に魔物の体液が混ざり、周囲は生々しい光景だ。だが、それさえもどこか、儚気で美しくてしまうのは雪の魔力なのだろうか。

 男達が、斬る。魔物が、喰らう。行われている行為は生か死の瀬戸際を決めるものであるが、それさえも美しい。

 雪が残虐を染め、舞台を演出する。

 既に止むことのなくなった吹雪が、

男達の体力を減らしていく。

 しかし、北大陸に住まう魔物の殆どは、吹雪を得意としており、時間の経過と共に両者の状態に明確な差が現れていく。

 だが、それは状態においての話。

 状況が崩れることなく戦闘は行われていき、魔物はその数を減らしていった。

 増えていくのは魔物の死骸。それを乗り越えながら、戦闘を行っていく傍、それぞれ異なった懸念がセンデルケンとヴェアルの中にあった。


「(…お前は一体、何をしている?)」


 センデルケンは、アリオールのことが気になっていた。

 急ぐようにしてホテルを出て行ってしまった彼は今、何をしているのであろうか。よもや、一人で城に攻めて行ったりはしていないかと、そんな懸念だ。


「(距離が遠いな……)」


 ヴェアルの懸念は、現在の一行の位置に関するもの。

 戦闘開始時に比べて今、五人と一匹の現在地は雪原に移っていた。

 最初が街の入口付近で戦っていたため、現在地はかなり雪原寄りに移動している。

 もし今、別方向から街に襲撃があったら到底侵入を妨げ切れるものではない。

 ヴェアルは一悪魔戦闘を止め、背後の方向に意識を向けた。

 吹雪のため、視界は不明瞭だ。風と戦闘の音に紛れ、向けた意識によって一つ以外、街の入口を覆っているもの以外の反応を示す五感はなかった。が、


「(ちぃっ)」


 第六感が反応を示した。

 背後から驚いたような声が掛けられたかのような気がしたが、吹雪の所為で聞こえない。


「(…やはりかッ!!)」


 ある程度の街の中に戻って来たヴェアルは、他に戦闘が起こっているであろう他の方角へと急いだ。

「ごちそうさんだ~!!」


「お粗末様でした。隊長君凄いね、殆ど食べちゃった」


「美味いもんだからな。当然箸が進むってことだ~」


「うんうん、作り甲斐あったよ。やっぱり沢山食べてくれる人、素敵だなぁ」


「お、お~? 照れるから止しとくれ~! はっはっはっは~♪」


「あ、こらっ隊長君。シテロちゃん起きちゃう」


「…あ、すまんな~」


「駄目だよも~。喜んでもらえるのは嬉しいけど。でも謝ったからよろしい」


「……ほ」


「じゃあ私、片付けしちゃうから。隊長君どうする? 業務は終わっているし、艦は今停泊中なんでしょ?」


「あぁ、そうだ~。セイシュウの奴が今リィルちゃんに捕まっちゃっているからな~」


「そっか。じゃあこの後は寝ちゃうんかな?」


「う~ん? ま~、自分の時間を有意義に使うだけだな~」


「そっかそっか。じゃあ、帰る?」


「そうだな~、あまりお邪魔するのも悪いからな~。悪い、帰らせてもらうわ~」


「うん、分かったよ。沢山食べてくれてありがとね♪」


「美味い飯をご馳走様だ~」


「は~い。ではでは今回の予告をお願いしちゃおっかな」


「なっ、いっ、いきなりだな~」


「えへへ、だって隊長君のショートストーリーの後書きだからね。さ、どうぞ」


「…道理で呼ばれることが多い訳だな~。よ~し。『異邦者の次は侵入者か。慌ただしいものだ。一人と訊いた。一人と言えば大体の察しは出来るが…それもどうやら違うようだ。…何だ、この侵入者は。一体何の目的でここを訪れたのだーーー次回、侵入者はコドモ』…何者だ。…だとさ~。んじゃ、‘トウガの所に飲みに行くとするか’」

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