表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
動乱の北王国編 前編
217/411

鋼鉄のオトコ

 雌雄は、決した。


「ーーー無念…ッ」


 切り裂かれたような痛みが全身を走り、ゼンは雪に倒れた。


「っ!! 中々どうしてやる。…俺まで少し危なかったかもしれないな」


 相手の男の頬に走る赤い線。ゼンの一撃は、確かにこの男に届いてはいた。

 だが、届いたのは薄皮一枚。それまでだ。


「…刺さないのか」


 死の決心を着けたゼンは下されるであろう止めを、動かぬ身体で静かに待っていた。しかし、いつまでも下りない幕に堪え切れず声を発した。


「……」


 一体何のつもりなのだろうか。

 そう思い返答を待っていると、


「優先順位が別の対象に変化しただけだ。お前から、別の奴へ」


「何…だと…?」


「それに、放っておいてもお前はいずれ命絶える。わざわざ、手を下すまでもない」


 分かってはいた。身体の痺れから、既に立つ力が残されていないということは。

 斬鉄剣を握っているのは、せめてもの足掻きだ。最期まで闘志を捨てない武士、ゼン・ゾンガデスとしての、せめてもの。


「(…俺はここで果てるのか…? 両陛下に捧げた剣を下げ…命果てねば…ならん…とは……)」


 雪は優しく、彼の意識までも包もうとする。

 包まれたら最期、彼の意識が戻ることはないだろう。故に、仰向けの彼は灰色の空を強く睨んだ。


「さらばだ、東国の志士。お前は良くやった。どうか安らかに旅立つと良い」


 まだ、死ぬ訳にはいかないものを、好き勝手に言う。本人に自覚は無いだろうがゼンはそれを、侮蔑と受け取った。


「(いやまだだ…ッ! まだ剣も…この身体も…折れてはいない…ッ!!)」


 随分と安い挑発にも等しいそれはしかし、彼の戦意を再燃させるには十分過ぎるものだった。

 片膝を立てる。

 限界を迎えている身体を奮い立たせ、もう片方の膝も立てる。


「…まだ立つと? どこにそんな力が「問答無用!!」ッ!!」


「ハァァァァッ!!!!」


 どこにそんな力があったのかーーーそう問われると、返す答えに窮さねばならない。

 一つ確かなのは、先程までは本当の意味で立ち上がる力すら残されていなかったことだ。それが今や、


「つぅぅッッ!!!!」


 元々戦闘を行っていなかったかのような回復振りを見せている。

 身体の出血は無くなり、瞳は闘志に満ち溢れーーー


「チェェストォォォッ!!!!!!」


 ーーーその力は、元よりも強まっていた。

 剣風がスートルファの身体を持ち上げ、吹き飛ばす。予期せぬ攻撃であったために、空中で体勢を整えるしかない。


「その力…常軌を逸している? そんな剣を一体どこで…!」


「逆縦一文字斬り!!」


「なッ、ここまで伸びる!?」


 斬り上げるために振るわれた剣は、本来の実に、二倍以上の長さまで伸びガノンフに肉薄せんとする。

 受け身の戦闘を強いられていた彼は、自らの常識では判断の追い付かないゼンの攻撃を、余裕を持って避けようとしたのだが、


「ッ!!」


 避けるよりも先に、迫る鋒が動きを止めた。


「っとと…危ないぞー!!」


 それどころか、振り上げられようとしていた刃は、振り下げられた。


「ぬぅっ!?」


 家屋の屋根に降り積もっていた雪が、ゼン目掛けて一斉に滑り落ちたからだ。


「何奴!?」


 雪の質量に剣を押さえられる形となったゼンの声に応えたのは、危険を伝えた声のした方ーーー彼の背中側に建てられていた家屋の屋根だった。


「雪景色の強震にはご用心だ! 今のようになりたくなかったらな!」


 そこには、二人を見下ろすようにして男が立っていた。


「その魔力マナ…! 近くで視ると良く分かる! お前…いや、あんたが…っ!!」


 興奮気味のガノンフが地上に降りると、何と控えたのを一瞥してゼンは弾かれたようにその人物を見詰めた。


「ーーーまさか」


 一瞬にして相手の正体の見当は付いた。

 戦っている相手からして、まさか現れるのではと、予見していたのだ。


「どうでも良い問答なんざ要らない。俺の要求を受け入れるか否か、それだけを答えてもらいたい!」


「要求…? お願い…と言うことか」


 訊き返したのはガノンフだ。


「…そうだ!! 要求は一つ! 暫くの間で良い、殺し合いを止めることだ!!」


 唐突な要求だ。

 だが要求と言うよりは、どうも選択の余地がある雰囲気を放っていなかった。


「さぁどうする? 止めるか、止めないか…返答次第では…まぁ、実力行使になるんだが」


 随分と穏やかではない雰囲気だ。押し殺されてはいるが、確かに剣呑な雰囲気を感じた。


「…それは、姫様に危険が及ぶことに関係があることか!」


「…そんなところだ。それで、どうする」


「俺は受け入れよう。目的は一緒のはずだからな」


「…そっちの剣使いは?」


 「姫様」というフレーズが引っ掛かった。

 彼等は彼等で、何かを守るためにこの場に居るのであろうか。それとも、ウェンドロに人質でも取られて無理矢理協力させられているのだろうか。とすれば、自身にひたすら投降を迫ったのにも納得が出来るので、ゼンはそのように考えた。


「俺も構わん。良ければ加勢もするが、何をすれば良い」


「そうか、ありがたい。だが戦いを一時中断してくれるだけで十分だ。他所様の内輪揉めに介入する気はさらさら無いから…な!」


 それだけ言い残して、男は街の北東部の方角へと走って行った。

 ゼンは剣を鞘に納めて腕組みをする。瞑目したのは、自身の身体に起こった不可思議な現象について思案するためだ。


「……」


 視線を感じた。ガノンフが視線を剣に注いでいたのだ。


「(やはり剣か。俺の身に何が起こった……)」


 鞘に納まる『零式斬鉄剣』

 この剣は先王が存命であった頃。彼が北方遠征で『ベルクノース』の北方に位置する『氷玲山』という名の山の山頂に赴いた際、空間の中心部に鞘ごと刺さっていた剣だ。

 武器としての美しさ、永久凍土の銀世界の中で一際荘厳たる存在感を併せ持つこの剣を見た際、ゼンは呼吸をするのを忘れた後、思い出したかのように深呼吸をし掛けて死に掛けた記憶がある。「氷点下の深呼吸は肺をも凍らせる故に禁句」ーーーという、自身が入山の際に部下に伝えた言葉に反してだ。

 巨大化する等、明らかに剣の常識を超えた物であるので、研究材料として国が管理するものとばかり思っていたゼンであったが、先王の計らいによって彼の所有物のままにされたのだ。


「(…あの時、力が流れ込んでくるような感覚があった。あれが我が剣によるものなのだとすれば、『零式斬鉄剣』…お前は一体?)」


 ーーー因みに『零式斬鉄剣』というのは、鞘に彫られている剣の銘らしきものだ。

 ゼンはこの剣の銘、特に「斬鉄剣」という部分を語呂の良さから気に入っており、この剣を自身の相棒とすることを決めていた。

 長らく自分の剣に悩まされていた彼はこの剣に出会う前まで、大概に東国の刀鍛冶に依頼しようとまで考えていたのだが、お蔭様で余程の事情が無い限り別の剣を握る予定は無い。

 この剣ーーー全体的な武器の構造としては、東国産のものだろうか。刀と呼ばれる武器に似ている。それも、彼がこの剣を愛用しようと思う要素だ。

 これからの自分の生命を預けるそれ故に、抱いた疑問が気になってしまった。


「(…先程の男も視線を注いでいた。この斬鉄剣…一体…?)」


 これからも使い続けていきたい剣なのだが、もしもの時のためにラモダか、東国の刀鍛冶に調べてもらおうと、ゼンは何だかんだ理由を付けて東国に赴こうとするのであった。


* * *


 雪に沈んだ男の姿。


「アノンッ!!」


 一度撃ち抜かれた際は、「まさか」と疑った。

 続いて撃ち抜かれた際は、「やはり」と確信してしまった。

 倒れ伏した男の名を呼んだアリオールは、女性指揮官に向けて肩に担いだ得物の引鉄を引いた。


「それはっ!?」


 放たれた“エアバズーカ”が女性に避けられる。

 その隙を突いて、アリオールはアノンの下に駆け寄った。


「アノン・ローゼン! 返事をしろ! アノン! ぐっ!?」


 息はある。あるーーーが、傷が深い。深過ぎた。

 相手が至近距離で放った攻撃は、どちらもアノンの身体を、完全に貫通しており、血がそこから流れ出てくる。

 二つの貫通痕が見るも無残な姿を晒させていた。


「…!!!!」


 虚ろな瞳は、焦点を結ぶことはない。

 呼び掛けに応えない彼の身体は、既に雪の所為だけではない冷えが、確認出来た。


「…アノン……!!」


 そして、アノン・ローゼンは、息絶えた。


「…投降すれば、そんなことにならなかったのに。…残念だけど、自業自得よ」


 倒れた男の瞼を閉じさせると、アリオールは中腰から体勢を静かに戻す。


「…本当の最後通告よ。私達はあなたの背後の小屋に行かなければならないの。投降して。これ以上無駄な血を流させたくないわ」


「フン…流れた血を無駄と言う貴様等に従う道理は無い!」


 この先の小屋に行かせてはならない。

 レガーデスを手に掛けさせてしまったのならば、これまでの仲間達の死が無駄になってしまうから。

 「投降」という選択を選んでしまえば、臆病者と叱ったレガーデスのことを否定することが出来ないからだ。

 蛮勇か、勇気か。「生きる」という選択肢を取るのならば、投降することでウェンドロの軍門に下ることが最もな安全策だ。

 時には逃げること、それも一つの作戦とは分かっている。


「…そうまでして、死にたいのね」


 ーーーしかし、今この場での最適な作戦が「逃げ」であったとしても、アリオールにそれを選ぶ心算は一切無かった。


「…訊け、ヒーローと呼ばれた者共よ」


 どのような状況であろうと、それが単に、蛮勇に過ぎない行為であったとしても、彼は最期まで戦い抜く決心を固めた。


「ーーーお前達を、抹殺してやる」


 装備した、凡ゆる武器を展開してアリオールは雄叫びを上げる。


「出来るものならやってみなさい! 向かってくるのならば容赦は無しよ!」


 女性の指揮官もそれに対し、応戦の構えを見せる。


「ウォォォォォッ!!!!」


 銃火器が一斉に火を噴く。爆音に等しい銃声と、反動に見舞われながらも彼は攻撃を止めない。

 アリオール側の攻撃は弾かれようと、向こう側の攻撃は、一直線に彼を攻める。

 貫通力のある鉄砲水に、極限定範囲の渦潮、押し潰そうとする水球に、身体に絡み付いて動きを阻害しようとする水の綱。足下から噴き上げた水によって身体を持ち上げられ、宙に浮かんだ瞬間、意思を持ったかのような水が身体を貫こうと衝突し、飛沫を上げた。


「ーーー耐えたッ!?」


 街の中では高層建築の部類に入る建物の、五階部分から滑り落ちつつ攻撃を放っていく。

 銃倉が空になった火器は、弾を再補充するかあるいは、廃棄する。

 既にかなりの弾丸を撃ち尽くしているはずなのだが、攻撃が止む気配は無かった。


「(これ程の力…あれ程の耐久力ッ!! これが人間なのだとすれば、強くなったものね…!!)」


 結界は一度破られたものの、何度でも張り直すことが出来る。故に、アリオールの攻撃の殆どは擦りすらもしていないのだが、男は武器を撃ち尽くしてもなお、諦めなかった。


「これなら、どうかしらッ!!」


 放たれる鉄砲水。

 何度もアリオールの身体を貫通しようとしていた水だが、今度は、


「ーーーッ!?」


 彼の眉間を狙った。

 仰け反った彼に対して次々と放たれる魔法群は、武器を潰し、彼を完膚無きまでに無力化しようとした。

 それは、彼女なりの情けだ。

 二度と立ち向かうことが出来ないようにすれば、もう勝てない戦いに苦しみを覚えることはないのだ。

 なるべく痛みと、苦しみを覚えないように配慮されたも、無慈悲とも取れる一撃を受けたアリオールは、


「…ッ!!」


 そのまま仰向けに倒れるようなことをせずに、踏み止まった。


「まだ立つと言うのっ!? く…っ!!」


 代わりに、女性の方が身体をよろけさせた。

 繰り広げられている戦闘に際し使用した魔力マナが、底を尽きようとしていたのだ。


「ヌォォォォォッ!!」


 それに対し、武器を全て破壊されたアリオールは、謎の雄叫びを上げる。


「レッツターミネート…レッツチャージング…!!!)」


 彼の頭上に光が、集う。

 いや、正確には彼が装着している黒眼鏡に光が集っているのだ。


「シューーッ!!!!」


 光が、線となって走った。

 結界を切り裂き、鋭い音と共に熱を生じさせる一撃は、彼の叫びか。


「っ…光魔法…を模した一撃…ッ!? その黒眼鏡…魔法具ね!! こうなったら過耗症覚悟で全力を…ッ!!」


 渾身の光線は、女性指揮官に対して正に会心の一撃であった。

 アリオールは眼に見えての傷を負った彼女に追い打ちを掛けようと、再度光線の発射準備に取り掛かる。

 対する女性も、何か強力な一撃を放とうと準備をしたのだが、もう一人の指揮官が「レティナ」と、女性の名らしきものを呼び行動を諌めた。


「それ以上の魔力マナの行使は生命に至るぞ。自粛せい」


「ですが村長、あの男を退けない限り我々はあの方を」


 「村長」とレティナに呼ばれた人物は、これまで武器と思われていた木製の杖でアリオールーーー正確には彼の後方を示すと、表情を徐ろに緩めた。


「…儂等はどうやら一つ、思い違いをしていたのやもしれないの。あそこを見い」


「あそこ…? …ッ!!!!」


 好機とせんばかりの大きな隙だったが、背後を示された以上何者かに背後を取られていては危険なので、チャージを維持したまま視線を一瞬背後に向ける。


「…!!」


 そこには新たな人物が居た。

 不思議な意匠の装束を着用したその人物は、倒れ伏してもう動くことのないアノンを悔し気に見詰め首を左右させると、咳き込んだ。


「こほっ…少し…遅かったみたいね」


 危害を加えてくるかと気を張ったが、明らかな病人のその女性から戦意は感じなかった。


「こほっ…悪いわね。もしかしたらと思ったのだけど……」


「…何者だ」


「…。風邪を引いたただの病人よ。付け加えるのなら、そこの二人の知り合い」


 只者ではない女性は彼の隣を通り抜けて行くと、双方の間の位置に立った。


「まずは挨拶…かしら。久し振りね? デイル、レティナ」


 不用意に背中を向ける女性だが、何かおかしなことをすればすぐに攻撃出来るように、チャージは続ける。


「…お久しゅうございますな、姫様。随分とお美しくなられて……」


「姫様……ようやくまた会えたわね…でも、どうしてここに」


「それはこちらの台詞よ。積もる話があるのだけど…その前に一つ、私のお願いを訊いてもらえないかしら。…そこの人も」


 三者は知り合いなのだろうか。再び咳き込んだのを心配されながらも、帽子を被ったその人物は言葉を続けた。


「戦いを止めてほしいの。今すぐに」


 衝撃的な言葉だったが、アリオールは心のどこかで安堵感を覚えていた。

 死ぬことを恐れる感情があったということだろうか。


「姫様がこの場に居る以上、戦いをする理由はありませんぞ」


「…どう言うこと? こほっ」


「姫様…身体の具合が悪いの?」


「…場所を変えた方が良いですな」


 視線が向けられる。

 頷くしかない状態ではあるが、背を向けたら殺されてしまうかもしれない。そんな危機感があった。

 ーーーしかし先程までアリオールが戦ってこれたのは、一人ではなかったこともあるが、デイルと呼ばれた人物が、攻撃という攻撃をしてこなかったのも大きい。

 つまり彼等は自分を、何時でも殺そうと思えば殺せるような状況なので、危機感を抱くだけ無駄という結論にすぐに達した。


「…悪いわね。じゃあ私達が宿泊しているホテルまでお願い。案内するわ」


 沈黙を肯定と受け取ったらしい女性が、宿泊しているらしいホテルの名前を言うと、アリオールの中でピンとくるものがあった。有名なホテルだ。


「…待て、弔う」


 しかしそこに行く前に、死した知人の骸を弔わなければならない。

 物言わぬ男の身体を抱き上げ、彼は一行の前より消えると暫くして、戻って来た。


「…皆ご苦労だった。帰る場所に帰ると良い」


 困惑し、中にはアノンの死に悲しみを覚えたのか、瞳を赤く染めつつも、デイルの言葉に兵達が帰って行く。

 彼等にも命があり、帰る家があるのだ。

 死んだ仲間の兵達は、誰も死にたくなかったはずだが、それは相手も同じでありーーーそんな複雑な感情を抱きながら、アリオールは距離を置きつつ三人の人物に付いて行くのだった。


* * *


『ああも優に話して良かったのか? 随分とお喋りだったが……』


「…ん、そうだな」


 先程説得したので二組目。

 この『ベルクノース』の街では現在、三箇所で戦闘が繰り広げられているので、これで過半数の戦闘を止められたことになる。

 いきなり現れて、「戦闘行為を中断しろ」だなんて随分と上から眼線の身勝手な要求だとは重々承知しているが、どうにも時間に余裕が無い。


『…ならば、どうして先程は説得に時間を掛けた? 一度目と比較して明らかに、そうと眼に見えてはいたが……』


「…あぁ、それは」


 何と言うか、まぁ…案の定と言えば良いだろうか。

 …フィーめ、無理していないと良いんだが。


『成程、彼女が動いたか。風邪が悪化しないことを祈りたい……』


「あぁ。心配してくれてありがとな。…ま、兎に角だ。どうやら向こうも終わったようだし、このままイヅナを迎えに行くさ」


 …一人、魔力マナが消えてしまったな。

 間に合わなかったのは正直…悔しい。守れたかもしれなかったのだから、尚更だ。

 …。この継承争い…一体、どんな風に落ち着くんだろうな。気になる…が、まずはこの危険な魔力マナの源をどうにかしないと……


「はぁ……」


『幸せが逃げるぞ、弓弦』


「吐きたいものは仕方が無いんだ。…早く終わらせて、フィーやイヅナとのんびりしたいからな」


『…ついでに、戦の終結も確かめると。そのつもりだな?』


「さぁて、な」


 …泥沼の気配はあるが、そうならないことを祈りたい。

 後は…あのハイエルフ達か。フィーとどんな関係があるのか、気にはなるんだが…そこは、アイツの好きにさせとかないと。

 …だが、取り敢えず言い付けを守らなかったんだ。後で説教、予約しとかないとな。


『フッ、ご褒美の間違いか』


「はは、違い無いかもな」


 さて、急ぐか。

「ダダンダン、ダン、ダダン♪ 癖になるリズム。ダダンダン、ダンダン♪ だんだんだ~ん♪ なの」


「お~? ドラムなんか叩いて。さてはシテロちゃん、今から音楽制作でもするのか~?」


「ん~? しないの。ただ、叩いてるだけなの」


「そうか~。そいつは残念だ~」


「隊長君は音楽…作ったことある?」


「いや、俺は作ったことないな~。音楽ってヤツは俺の柄じゃないからな。聴いてる分には良いが、作ろうとは思わないな~」


「ふ~ん、なの」


「反応薄いな~」


「む~」


「ん~?」


「む~~」


「ん~~?」


「むむむ~~~なの」


「…?」


「いんすぴれ~しょんが沸かないの」


「言い方辿々しいな~。まさかシテロちゃんも横文字に弱いのか~?」


「…ふぁ」


「…ん~?」


「すぅ…すぅ……」


「…。寝付き良いな~!? 爆睡か~」


「んん…すぅ…すぅ……ん」


「…椅子に凭れてるが、あの体勢じゃちと寝るにはキツいな。運ぶか~」


「僕も手伝うよ、レオン」


「どわっ!?  セイシュウお前、いきなり出てくるなよ。驚いたじゃないか~」


「まぁまぁ、さ、早く彼女506号室に連れて行こう」


「ん、ん~…あぁ、そうだな。だが一人で大丈夫だ。女の子の身体一つ持ち上げられないようじゃ隊長失格だからな~。一人でやる」


「いいや、ここは僕に任せてもらおう。レオンはほら、業務が残ってるだろう? きっとリィル君が今頃探しているはずだよ」


「はっはっは~、残念だったな! 今日の業務は終わってるんだな~」


「く…っ」


「…で、セイシュウ。お前さん、どうしてそうもシテロちゃんの身体を抱き上げたいんだ~?」


「決まってるだろう? 見てくれ、アレ」


「ん~?」


「デカい」


「…おいおい、気持ちは分からないこともないが止めとけ~」


「…ユール……お日様……♪」


「ありゃ既に弓弦の奴に惚れてるし。それに…あ~、まぁ、そうだな、うん」


「?」


「取り敢えず、隊長として俺が運んどくから」


「…隊長として、か。そんなこと言って彼女のたわわな果実を堪能しようとしている魂胆は丸分かりだよ、肉体派」


「丸分かりなのはお前さんの煩悩だ、頭脳派」


「…『…ぐ、ぅ……ここまで…逃げて来た。騙し騙しだが、身体はまだ動く。…まだあの方の下へは遠いが…必ず辿り着いてみせる。どうか、無事でーーー次回、落ち延びて来たキシ』…陛下。…すぴー……すぴー」


「…今、予告を言わなかったか~?」


「…もらったッ!!」


「お、おいッ!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ