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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
動乱の北王国編 前編
215/411

ようやく上げる、重いコシ

 アノンの声が聞こえたような気がして、レガーデスは顔を上げる。


「っ…!」


 顔に当たる冷気は、寒さを通り越して痛い。深く息を吸えばそこから身体中が凍り付いてしまうような空間を一人、彼は歩いていた。

 もう、どれだけの距離を歩いたのかは覚えていない。が、歩みを止めることはなかったため、ある程度の距離を歩いたのは確かであった。

 極寒の永久凍土に、彼以外の生物は見当たらない。魔物等を始めとした生物が居ても、街の安全性の問題上いかがなものかとは思うが、この地に眠っている化物以外にもう一体でも何かが居てもおかしくはないと思うレガーデスだ。

 道は、基本的に一本道だ。

 時折、二手に分かれていたり、三叉路になっていたりはするが、大抵分岐点からでも分かる程度の距離に壁があり、行き止まりになっていたため、一本道で間違いは無いだろう。

 幸いとして、来た道を引き返せば元の場所に戻れるし、間違いの道を選んでしまったことで二度と出られなくなってしまうようなリスクを犯すを必要性は皆無だ。しかし、例え今、元来た道を引き返したとしても、入口の扉を通れるかどうか。

 きっと今頃既に、扉には重い氷が張り付いているだろう。来た時は、アリオールの常人外れの馬鹿力で無理矢理扉を開けることが出来たが、当然レガーデスにそのような力は、無い。

 寧ろ、彼は同年代の男性と比較すると、筋力の面では劣っている。どちらにしろ、入ったらもう、引き返すことは出来なかったりするのだ。

 なので、例えこの先に別の出口を見付けたとしても、入口と似たような状況であったとするならば、彼は通行することが出来ないのだが、そこまで思考が回る程利口ではない。

 彼はただ、前に進むことしか考えていなかった。


「…? (ここは……)」


 更に進んで行くと、ここでようやく分かれ道が機能する。

 眼の前で続いているのは、三叉路。

 先は見えない。だが少し進んでみようかと一歩前に進んでみると、突然風が吹き付けてきた。


「(何だ…!?)」


 悍ましい程の寒気を覚えた。

 例えるならば、心臓を鷲掴みにされたような感覚ーーーとすれば、正しいのであろうか。

 それは、レガーデスから向かって中央の道から感じるものだ。他の左右の道からは、何も感じない。


「(ふむ……)」


 道は三つに一つ。

 恐らく、内二つは出口に続いているようなーーーそんな気がした。

 『ベルクノース』の地下に広がるこの永久凍土。出口は合計三箇所あるという記録があるのは、既知だ。

 恐らく、片方が『聖廟』へと繋がる道で、もう片方が、未だ知られていない出口へと繋がる道だろう。

 ーーー気になるのは、中央の道だ。

 この先はどこに繋がっているのだろうか。そんな疑問が彼の脳裏を過ぎった。


「……」


 怖くはあった。

 この寒気の正体はもしかしたら、この地に封印された古の氷魔獣なのかもしれない。そんな存在が道の先に居るかと思うと、身体が別の意味で震え上がりそうだった。

 どうせならば、一眼で良いから自身の眼で見てみたいという好奇心への、武者震い。怯えの感情が希薄なのは、魔獣は封印されているために危険が一切無いと、思い込んでいるからだろうか。


「(行ってみよう。もしかしたら、誰にも知られていないような出口に繋がっているかもしれない)」


 ゆっくり、慎重に歩みを進めて行く。

 床や壁、辺り一面を覆っている氷は、透明度が高いためか、透き通っている。彼の姿を鏡のように映す氷晶群は、ただ美しかった。

 氷の道が、続く。

 足下は滑り易く、走りでもしたら滑って転んでしまいそうだ。なので転ばないようにも注意を配る。

 また風が吹いた。


「……っ」


 怖気。それはこれ以上進んではいけないと、まるで警告をしているかのよう。


「(…行こう)」


 風が収まるのを待ってから進む。

 レガーデスが踵を返すことはない。既に先程の三叉路からそれなりの距離を歩いているので、ここまで進んで引き返すのも億劫だ。

 行ける所まで行こうと決心が固まっているのは、やはり好奇心か。戦いからは、逃げの姿勢を貫き通した彼が、並みの人間ならば怯えて逃げてしまうような環境でも前を見ることが出来るのは、ある種恐れ知らずとでも評せるのだろうか。

 少し歩いた所で、一息吐く。

 少し遠くを見遣ってみるも、道はまだ続いているようだ。挟むことで幅200m(マール)の道を形成している氷の壁は、見詰めていると吸い込まれてしまいそうだ。


「(よし)」


 息が整ったことを確認すると、軽くストレッチをして衣服に付着した氷を剥がして進む。

 先程風が吹いてきた、ということはどこか外に繋がっているのかもしれないと、今更ながらにして思い至った。


「(出口は近い…か? もう少しか)」


 もし、その先がどこにも繋がっていないとすれば、どうして風が吹き付けてくるのであろうか。

 三箇所ある通用口の内、確認されている二箇所が扉で仕切られ、ここは空間としては密閉されているはずが、中では空気があり、“四箇所目”の道からは風まで吹き付けている。

 その謎を疑問に思わないままレガーデスは、先へと進むのであった。


* * *


 …ずっと…いや正確には少し前から、か。思っていることがある

 “このままで良いのか”と。


「あなた…?」


 フィーの体調は、良くなっている。

 この調子だと、後一日…ぐらいか、ゆっくり身体を休めていれば元気になりそうだ。

 まったく…こいつときたら、自分で勝手に外出て行って、勝手に熱出しているんだもんな。参ったもんだと言いたい。


「ん? どうかしたか?」


 …そうだな…熱も下がってきてはいるし、後一日もあれば、俺の隣にはいつものフィーが居るだろう。だが、一日あれば…外で起こっている戦いが終わりを迎えてしまうような…そんな気配を感じる。いや気配じゃないか、予感か。うん…? 直感…? まあ良い。

 戦闘の状況は…この部屋から窺った限りだと、魔法を使う者が居る側の圧倒的な優勢状況だ。人数の限りだと、戦力差は一と九にも満たない。片側に対し、もう片側はその百倍近い兵で相対していると言ったところか。

 そんな状況なんだ。戦局の終結がいつ訪れるかどうか、分かったものじゃない。もしかしたら次の瞬間には、終わってしまうかもしれないから。

 …最初に比べて既に、かなりの人が死んでいるみたいだし…な。


「ふふ…思い詰めた顔をしている…なぁと、思って」


 …顔に出ていたか。

 いや…顔に出ていなくとも、フィーなら分かるか。考えていることを覗くことが出来るのだから。


「…そう見えるか?」


「…えぇ。何か…ウズウズしているような顔をしているわ…こほっ」


 …咳はまだ酷いな。

 俺にもう少し医療の知識があれば…何とか出来たりするのか? 薬を飲ませるには飲ませているが…治りが遅い。ハイエルフの自然治癒力は高いと思っていたんだが…あぁいや、まぁ人間、昨日患った風邪を翌日で治すことが出来る人も居なくはないってだけなのだから、翌日まで咳が続いている程度で一々騒ぎ立てる必要性も無い訳だ…が。はぁ…我ながら、心配性なのかもな。


「…そうだな。イヅナが心配なのもあるし…それに、気懸りなことがある」


「…あの、嫌な感覚よね?」


 …まぁ、当然分かるか。


「…行かないといけないだろう。人間同士のいざこざなら兎も角、あんな禍々しい魔力マナだ。ロクな奴が居やしないこと、太鼓判だ」


 誰かは知らないが、本当の本当に、パンドラの箱を開けてしまったみたいだからな。放っておくと、この街が消し飛ぶ…なんてこともあるかもしれない。

 それに……弱々しいが、小さな魔力マナが一つ、箱の底を目指しているようだ。何を思ってかは知らないが、とんだ馬鹿野郎って言ったところか。何とかして止めないと手遅れになってしまいそうだ。


「そう、止めに行くのね。折角の旅行なのに忙しい人……」


 …俺だってゆっくり休みたかった。

 イヅナと遊んだり、フィーの看病したりしながら、穏やかで幸せな旅行をゴロゴロと満喫したかったんだがな。


「…お前がゆっくり休めるようにするだけさ。引火するかもしれない爆弾に、火元を近付ける訳にはいかない」


「…こほっ…私も行く」


 フィーが身体を起こそうとするのを止める。…病人は寝ててほしい。


「駄目だ。お前がゆっくりと身体を休めることが出来るようにするため、行くんだからな」


「…駄目と言われても、追い掛けるかもしれないわよ? …箱の底に居る何かは、憎しみを喰らっているわ。一人より二人の方が心強いでしょ? 合体魔法だって使えるもの」


 …そこまで感じていたか。

 そう、街に漂う怨嗟を贄として、箱は開かれようとしている。

 それを防ぐためには、犠牲を増やさぬようにこの街で起こっている戦を終わらせ、同時に箱の底に進んでいる馬鹿を止めなければならない。

 …一応、合体魔法が使えないとしても、馬鹿を止めることぐらい俺一人でも出来ないことじゃあない。

 バアゼルと、クロと、ヴェアル…三悪魔をフル活用すれば、兵達を全て無力化してかつ、馬鹿を止めること…やれるはずだ。


「私も行く。お願い連れてって? 足は引っ張らないから」


「寝とけ、な? これ以上風邪を悪化させでもしたら、終いには泣けてくるぞ?」


 罪悪感で押し潰されそうになるからな。どうしても頷く訳にはいかない。


「泣かれるのは…困るわ。あ、でも泣いたら慰めてあげるわ。良いでしょ、ね?」


 …話が妙に擦れてるぞ。言葉の綾だと言うのに、どうして俺が泣かなきゃいけないんだ。


「ほら、抱きしめてあげるわよ? ほらほら…こほっ」


 ベッドで横になりながら手を伸ばされると、アングル的にヤバいものを感じる。もうそれだけで、ワザとやっているようなあざとさを感じる程にだ。


「もう良いから頼む、大人しく寝てくれ」


「ぅ……っ」


 髪を撫でてこれ以上話すのを防ぐ。

 取り敢えず撫でとけば良いように扱い易くなる…とは、断じて思っていない。断じて。


「もぅ…それ反則ですよ、ご主人様……? それに…寒いの…嫌いって言ったの誰…?」


「ぐ……」


 そこを突かれると痛い。

 もの凄ーーく、痛い。


「しょ、装束を着るから大丈夫さ! ほら、これ着れば…な?」


 だから、この装束の出番だ。もしもの時のための装束…持って来ておいて正解だったな。

 …まぁ、仮に『アークドラグノフ』に置いて来てしまったとしても、取りに帰るなり、姉さんを通じてアデウスに頼んで持って来てもらうなりで、出来るには出来たんだが。


「寒さも感じない。かと言って暑さも感じない。感じるのは…誰かさんの愛だけ…だったりしてな」


「…調子の良い人…。もぅ、知らないっ」


 外方を向いたフィーを見つつ、自分でもそう思った。これは流石に調子良過ぎだ。と言うか、かなり恥ずかしい。顔には出さないものの。


「はは…ゆっくり休んどけ。お前が寝ている間に全部終わらせておくから」


 …ついでにイヅナも拾って、ここに戻るように言っておくか。

 何をしているのかは分からないが、クロとバアゼルを連れて行く以上、あの子には戦場に一人で居てほしくはない。身を守ることは出来るだろうが、心配なのには変わらないんだ。

 …さ、そろそろ行かないとな。


「…私が言うと説得力無いかもしれないけど。あまり無理しないで」


 拗ねていても心配はしてくれるんだな。…あぁ、心配掛けさせるつもりはないさ。


「…ま、降り掛かる火の粉は払うまでだ。…じゃあ行ってくる」


「えぇ…行ってらっしゃい」


 話の最中で装束に袖を通していたからそのまま、窓から街へ出る。

 装束に掛けられている魔法、“シュッツエア”の効果が働いているためか、あまり寒さは感じないが、少なくとも館内着だと間違い無く風邪を引くような寒さだろう。…フィーの奴、余程急いでいたんだろうな。うっかり屋め。


『さて弓弦、まずはどうする』


 ヴェアルの声が頭に響く。

 …話し掛けるタイミングに気を遣わせてしまっているな。


「‘まずは一番近く…風属性の魔力《マナを感じる場所に行くつもりだ。どうやって止めたものか’」


『成る程。手近な場から済ませるつもりか』


「‘そんなところだ’」


 魔力マナから判断した限りだが、今から向かう場所は、他の三箇所に比べて圧倒的に生存者が多い場所だ。距離の面から考えても、一番最初に向かうにはもってこいってところか。

 それに…いや。まだ可能性の話だ。

 そっちは、起こってからまた考えるとしよう。


「(到着…!)」


 屋根の上に隠れ、下の様子を窺う。

 負傷者は多い…が、致命傷を貰っている兵は居なさそうだ。

 …攻撃魔法では、斬裂する効果のものが多いと言うのが風属性に対する俺の印象だが…これは……


「ぐぅぅぅぅッ!!!!」


 風の刃…そうか、“ウィンドカッター”…だが狙いが甘いな。あんな擦り傷を付けてどうするつもりなんだ…?


「まだまだいきますッ! このままですと、じきに直撃しますよッ!!」


 男の髪に隠れてはいるが……多分そうだ。いや、間違い無いが正しいのかもしれない。

 耳に…魔力マナに…魔法。

 あの男は…感じた通り、“俺達と一緒”だ。

 だが…妙だ。何か…違和感に近いものを感じる。

 いや、異物感か、これは。…何なんだ?


「直撃貰うのは、お前だッ!!」


 相対している全身ボロボロの男は、懐から何かの塊を投げ付ける。…ん? あの鉄の塊…まさかっ!?


「っ」


 咄嗟に伏せると、その直後に爆発が起こった。


『威力を向上させるため、極小範囲に限定して作用する爆弾か…やるな』


 「褒めてる場合かっ」と小言の一つでも言いたかったが、そんな余裕は無い。

 どうすればこの戦いを止められるのか…そのことを考えるので精一杯だ。

 取り敢えずあの風魔法使いの男…フィーの様子から察するに、彼女の知り合いかもしれない。

 だったら、賭けるとしたらそこしかないな…!


「っ、良いでしょう! ならばこの魔法…避けねば生命の保証は皆無です!」


 …爆弾のダメージが届いているみたいだな。だが…擦り傷程度。爆弾の質は悪くないと思ったが、やっぱり人間とは格が違うってことか。


「戦っている相手が相手な時点で覚悟は決めてある! 保証は皆無で、結構ッ!!」


 “サイクロン”…と視えた。

 初級魔法から一気に上級魔法…本気で殺しに掛かる気かッ!

 だったらーーー


「その戦い、少し待ってくれないか!」


 ーーー行くなら今しかない!


* * *


 ラモダの衣類の中には、幾つかの機械兵器が隠されている。そしてそれは、全てが彼の切札だ。


「戦っている相手が相手な時点で覚悟は決めてある! 保証は皆無で、結構ッ!!」


 言葉と共に、衣類のポケットに忍ばせたボタンを掴み、突撃する。

 先程打つけた爆弾にはダメージを与える以外にもう一つ、意味があった。

 それは、効き目の確認。ダメージを与えられるかどうかで彼は、次の行動を決めようとしていたのだ。


「覚悟ーーッ!!」


 爆弾でのダメージが届いた瞬間、彼の中で作戦が決まった。

 元より、有効な攻撃手段が確立されていない現在、相手を打ち倒すためには出来る限りの、最強の一撃を叩き付ける必要があった。

 その攻撃方法とは、身体に巻き付けるようにして装着した切札の、一斉起爆。文字通り、捨て身の最終兵器だ。


「その戦い、少し待ってくれないか!」


 だがそんな彼の行動を阻むかのように突然、彼と相手の間に闖入者が降り立った。

 見知らぬ男だ。少なくとも、城では見たことがない。

 相手方の増援か? と思ったが、


「この感じにその帽子…? あなたは一体……」


 相手もどうやら知らないその人物は、不思議な格好をしていた。

 所謂、旅装束と呼ばれる衣類の一種だろうか。生地としては薄いように見えるのだが、防寒性は高そうだ。が、被っている帽子は一体、どのような理由で被ってるのだろうか。

 北の国で被るタイプの帽子でないことは確かだ。南方の国では日差しを避けるためにに帽子を被るそうだが。兎に角、見覚えの無い出で立ちだった。

 顔立ちは、整っている。若い男だ。


「一体も何も、思った通りの存在だ。…と言っても、分かるか?」


 「思った通りの存在」

 そのフレーズが気になった。


「……まさか、そのままの意味ですと、つまり…っ!? 縁者と言うことですか!?」


「まぁそれは置いといて、取り敢えず話を訊いてくれないか? そこの人も」


「俺もか?」


 まさか自分に話を振られるとは思わず、自身を指差して確認までしてしまう。


「そうだ。じゃないと話が進まないからな」


 疑問に思う兵達を一瞥すると、アノンは頷く。更に、背中に隠した腕の動きで背後の兵に、治療を支持するのも忘れない。


「訊いてくれるな? 一方的に告げるようで悪いんだが…戦いを止めてほしい」


 確かに一方的ではあった。

 だが、頭ごなしに否定するような気が全く起きないのは、先程まで戦っていた相手の様子がおかしいからだ。


「どうしてですか? このままですと起こってしまうものに、気付かない方ではないとお見受けしますが……」


「(…起こってしまうこと?)」


 引っ掛かるフレーズに彼は眉を顰める。

 起こってしまうこと。それは、戦争ではないのだろうか? 何故戦争を起こそうとしているウェンドロ側の人物がそのようなことを言うのだろうか。


「…ここ、か?」


 男が足で示したのは、雪の降り積もった地面。


「…そうです。囚われのあの御方…その帽子の持ち主を助けなければなりません。このままですと、あの御方の生命が脅かされるのですよ…!」


「あの御方…? 俺達は誰も捕まえてはいないが」


「嘘を言わないでいただきたい。レガーデスと言う者とその一派が我々の大切な御方を拉致し、地下に幽閉した。そしてあの御方の魔力マナを使って、眼覚めさせてはならない災いを眼覚めさせようとしている…そう、ウェンドロ殿から伺っています」


 話が擦れている。ラモダはそう感じた。

 レガーデスは、他者の拉致は行っていなく、災いは何かは知らないが、明らかにそれと分かるような行動は取っていない。

 第一、その話の通りならば、ラモダ達が一方的に悪いようになる。

 しかし、先に攻撃を加えてきたのは向こう側だ。確かにラモダ達はウェンドロに対して反抗しようとしていたのだが、まだ、何もしていない。

 当然、何か嫌がらせのようなことはしていないし、ましてや誰一人として殺していない。それなのに、一方的に悪いように告げられるのは納得がいかなかった。

 だが気になることはあった。「あの御方」というフレーズだ。

 普通に考えれば、口にした人物に対して身分が上の人物を指す言葉だ。言葉だけを見たのならば、非常に有り触れた言葉だともいえる。


「あの御方…? あなた方が現世に戻られてまでに助けたい人が居ると……」


 次々と浮かぶ疑問の中で、一番気になったことを訊く。


「そう言う話は後だ。俺は他の所の戦いを止めないといけないから、疑問なら後で打つけてくれ。じゃ」


 しかし、言うだけ一方的に言って、突然の闖入者は、先程火柱が上がった方角へと走って行ってしまった。


「(…応急処置…は、終わっているか)」


 急いでいるのかどうかは別として、もう少し説明が欲しかったのが正直なところである。

 いきなり「戦いを止めてくれ」と言われて、去られてしまっては困惑するしかないのだ。


「……」


 相手は男が向かった方向を見詰めている。


「(どうする…?)」


 交戦の意思はそこに見受けられなかったので、ラモダは思案する。

 生きるためには、倒すしかなかった。誰が相手であったとしても。

 しかし、今戦う必要が無いのならば、向こうに交戦の意思が無いのならばーーー


「(話してみる…か?)」


 ーーー話をしてみるチャンスではないか!


「(……いや)」


 相手が本人ならば、会ってみたかった相手に違いは無いのだ。

 妙に緊張感を覚えているのは、アノンに冗談で言った手前、未だに信じられないためだ。

 しかしそれは仕方が無いのかもしれない。居るはずのない存在ーーー相手は正しく、そうなのだから。

 だが彼は、その人物に背中を向けて、味方の下に行く。

 誰もが緊張と安堵が入り混じったような面持ちをしていた。これ以上戦わなくても良いことへの喜びと、やはり眼の前にした存在への畏怖ともとれる表情が、どこか面白くもあった。

 そしえてラモダは腰を落ち着けた。向いた方角は、隠れ場の方角。


「(…アノンの奴、失神でもしてなければ良いがな……)」


 戦っていた相手の正体は、彼の中で既に見当が付いた。

 ーーー風魔法使いのあの男の名前は、恐らく『スートルファ・ミノジェストン』

 かつてこの国から悪魔を退けたハイエルフの一人だ。

 ならば、他の所で戦っているであろう味方の下にも、妖精が現れているのであろう。

 ラモダは眼を伏せながら一人思いを馳せる。

 センデルケンに続いて、他の面々の身にまでに何かがありでもしたらーーーそんな予想が過ぎりもしたが、彼はただ、この街のどこに居るとも知れぬ、知人達の無事を祈るしかないのであった。

「…ううん……」


「…あ、レイアが寝てるの。珍しいの」


「…ぅ…ん……んん……」


「机で居眠りは腰を痛めちゃうの。…ん~っしょっと」




「…よっこらしょっと…なの。ふぅ、この身体だと、人間の女の子の身体でも意外に重いの。でも元の身体に戻ったら大き過ぎて艦を壊しちゃうの。難しいの~」


「…ユ……君……」


「あ、寝言言っているの。…どんな夢を見てるのか分からないけど…幸せそうな夢を見ているみたい。…もう少し聞いてみるの」


「…えへ…おね~ちゃん…守…る…」


「…うん。良い夢を見ているみたいなの。だから邪魔しないようにしないと」




「…? 机の上に置いてある本…これ確か、フィーナが前読んでた本なの。…そろ~…っと…? わっ、綺麗な絵が書いてある…この女の子可愛いの♪ でもこの男の子…どこかで見たことがあるような気がするの。…台詞見たら分かるかもしれないの。『あの日抱いた夢は、変わっていない。あの日の願いは全てこの身にあり、この手中の先を照らしている。そう…変わらないーーー次回、その男、座さずタツ』…忌々しい。…? 何か違うの。違うような気がするの。…他の挿絵を見れば分かるのかもしれないの…っ!?」


「……zzz」


「…? どうして二人とも服を脱いでいるのか、さっぱりなの」


「……駄目だよ…香……そんな恥ずかしい…読ませ…」


「お片付けするの~♪」

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