遅れて来たセツメイ
子どもとは、好奇心の塊だ。
恐れを知らぬ好奇心は留まるところを知らない。
それは人間であっても、ハイエルフであっても、やはり変わらない。変わらないのだ。
「は?」
不穏な気配漂う街並みをフィーナと共に眺めてい弓弦は素っ頓狂な声上げずにはいられなかった。
「……」
フィーナは逆に、閉口せざるを得なくなっていた。
それぞれ同じことに気付いてしまったがための反応だ。
「今…見えたんだが」
「はい……」
「…小さな少女の姿が、見えたんだが」
「…。そう…ですね」
見知った少女が、街へと出て行くのを見たことによる動揺が、フィーナの口調を元に戻していた。
雪景色の街を見詰める二人は、口を閉じることを忘れている。
降る雪と、黒煙と、銃声が織りなす景色に見入っているのではなく、呆然としているだけだ。見入るはずもないのだが。
「…あの子は何をしに出て行ったんだ。外は寒いし、危ないだろうに……」
「…何か気になるものでも見付けたのだと思います。…ほら、子どもの好奇心に際限はありませんから」
「そしてその好奇心は歳を取ってもある程度は残されている…と。…あぁ、すまんすまん」
柳眉がピクリと動いたのを見るや否や、素知らぬ顔で窓の外を見る弓弦だったが、彼女の犬耳が垂れるとすぐに詫びる。
何か言い返してやりたいフィーナは彼の心を覗くが、彼は何かボロが出そうなことを考えておらず、少々不満になった。
ならばと、これまで弓弦が何かやらかしたことがなかったか記憶を探ってみる。すると一つ、思い出しことがあった。
「…あ、お腹が空いたのを理由に森に生えていた、安全保障の欠片もありはしないキノコを、思い切り良く食べた結果ベッドで半日寝込んだのも、きっと好奇心からなのですよね? ご主人様♪」
「うぐっ…」
因みにその時すぐに解毒することも出来たのだが、それも一つの勉強と放置した結果半日も寝込ませてしまったのは、今からすれば想像も付かない話だ。
それどころか、弓弦が寝込んでいるのを幸いと、あまり彼には見られたくなかった愛読書を頻繁に読んだものだ。
今では隣でも平気で読めるし、その程度のもので恥ずかしがっていたらキリが無い程のことをしているので、あまり気にしていないのだが。
「そうだな。あれも多分好奇心だ……」
「ふふっ…好奇心は歳を取ってもある程度は残されている。まったくその通りでお互い様です」
痛いところを突かれて遠い眼をする弓弦の姿が、微笑ましかった。
「…ああ言うところを見ると、やっぱり姉妹なんだな、と思う」
「イヅナですか? そう…ですね。好奇心の塊…と言う程のものではありませんが、子どもらしいですね」
「…子どもらしいと言うよりは、お前の妹らしいな」
「えぇ? 私が好奇心の塊みたいな言い方をしないでください」
弓弦は笑う。
揶揄われていると分かっていても、少しだけムッとしてしまうのは、多少自覚があるからか。
「似た者姉妹だよ本当。歳が離れていてもそう言うところがあると、何か安心すると言うか、良く頷ける」
「似た者…ねぇ」
「おかしいか?」
「いいえ別に」
フィーナの口調が元に戻る。
何か変なことを言ってしまったかと眉を顰める弓弦だが、どうにも思い当たらない。
しかしそんなこと考えてもイヅナが戻って来るということではない。
「…何か温かい飲み物でも飲むか?」
「えぇ、お願いします」
今度は混ざる、口調だ。
二人は、街に消えた少女の身を案じながらも、降る雪を見詰めティーブレイクへと入る。
「…しかし、人間同士の争いか。物騒だ。いつになったら終わってくれるものか……」
「…さぁて、ね? …って誤魔化す意味が不必要な程には、終わるかどうか怪しいところね。…時々大きな音も聞こえるし…一体どんな戦いをしているかしら?」
「さぁて、な? うちの姫様が変に首を突っ込んでいないと良いんだが」
それが懸念事項だった。
イヅナがこのタイミングで外に出て行ってしまったことには、必ず何かしらの理由がある。
それが外で起こっている争いに関するものであると、肯定出来る材料は無いのだが、否定出来るものもまた無いからだ。
『『支配の王者』が付いて行ったのにゃ。だから取り敢えず何かあれば報せてくれると思うにゃ』
「(あぁ、ありがとな)…どうやらバアゼルが護衛してくれているみたいだ。安心だな」
クロの言葉に内心で感謝して、フィーナに伝える。
弓弦と風呂で酒を酌み交わしてから、途端にバアゼルはイヅナのことを気に掛けるようになった。
どうしてかは本悪魔が語らないため謎であるが、弓弦はそれを微笑ましく思っている。
「…バアゼルが…一体どう言う風の吹き回しかしら?」
フィーナは蟠りがあるためか微妙な表情をするが、一息吐くと共に弓弦の淹れた紅茶が入ったカップを傾けたため、一応の納得をしているみたいだ。
「あいつにも思うところがあるんだろう。自分から進んで動いてくれるのは、それだけで頼もしい限りだ。…ま、悪魔の気紛れってヤツだ」
「…あまり良い響きじゃないわね。不吉にさえ思えてくるのだけど…大丈夫なのかしら……」
イヅナが何かの問題に巻き込まれることよりも、彼女の護衛としてバアゼルが付いていることに問題を感じるフィーナ。弓弦が「安心だ」と言うので、その言葉だけで心配する必要はどこにもないと思いたい彼女なのだが、そう思っていても心配だと思ってしまうので、何とも遣り切れない。
もっとも前者だろうが後者だろうが、イヅナを心配する気持ちからくるものなので、彼は「どうだろうな」と返すだけだった。
しかしフィーナは何を思ったか、何故か興奮したように言葉を続け、
「…まさかあの悪魔…うちのイヅナを狙っているのではないでしょうね。駄目よそんなの。それは幾ら何でも、あなたが許したとしても私、許さないわ。絶対に絶対、許さないわこほっ!? こほっけふっ…ぅぅ……」
結果咳き込んだ。
弓弦が優しく背中を叩いて摩るが、彼女の咳は中々止まらない。
「けほっけほっ! けほっ! 「熱っ!?」あっ、ごめんなさいっ!!」
咳き込むあまり、紅茶を溢してしまう。
溢した紅茶は弓弦の浴衣に見事掛かり、掛かった箇所を濡らした。
「大丈夫っ!? 火傷とかしていないわよねっ!?」
淹れた直後に比べて温度が下がっているとはいえ、それでも紅茶の温度は中々高い。
そんな紅茶が半分程掛かってしまったのだ。濡らしてしまった部分を拭き取ろうと、ベッドから立ち上がろうとしたフィーナの焦り様は当然ともいえようか。
「大丈夫だ。大丈夫だからフィー、お前はベッドから動くなっ。少し驚いただけだからっ」
弓弦はそんな彼女の肩を掴んでベッドに留まらせる。これで勢い良く立たれてまた咳き込まれでもしたら堪ったものではないからだ。
人が病を患ってしまうのは、仕方が無いことであり、完璧に予防することは不可能であるのだが、自分の所為で病を悪化させてしまうことは、絶対に阻止しなくてはならない。
こういう時、病気をすぐに治せる魔法があればと思う弓弦なのだが、自然治癒力を高める魔法はあっても、ピンポイントで風邪を治せるような魔法は存在しないそうなのだ。
石化や呪い、魔法封印、凍結等は解けるのだが、一部の毒や、病気の類は治療が難しい。
これには理由があったーーー
* * *
ーーーどことも知れぬ、どこか
照明が落とされ、暗闇に包まれていた室内の一箇所で、スポットライトが点灯する。
「はい! ここで登場説明お姉さんですわ!!」
その場所に立っている人物が居た。説明おばーーーお姉さんこと、リィル・フレージュだった。
「お、お~? どうしていつの間にか研究室に居るんだ~? 俺はさっきまで隊長室に居たはずなんだが~」
彼女の前で座らされている男の名前はレオン・ハーウェル。
彼がどうして一瞬の間で研究室に移動していたのか、それを知る者は居ない。
「さぁさぁ! 『どうして? 教えてリィルお姉さん!』本編での初出動ですわよ~!」
レオンの前に立つ人物はテンションの高い彼女だけではない。
「わ、わーいだ…ポンっ! 説明、お姉、さん! こ、今回はどんなことについて教えてくれるんだ…ポンっ!」
不思議な生物も居た。
狸ーーーにしては、大きいが、デフォルメされたその愛らしい容姿は、某可愛いもの好きの医療班主任に大いに喜ばれそうだ。
「…お、お前さん何をしているんだ~? さっぱり分からんぞっ!?」
「えぇ、そうですわね! 今回のお題は、『魔的要因』に関するものついてですわぁ!」
「わ、わー。パチパチパチだ、ポンっ!」
レオンを他所に、話は続く。
彼は、信じられないものを見ていると言わんばかりに人サイズの狸を見ており、驚きのあまり椅子から転げ落ちてしまっている。
「で、も、でも説明お姉さんっ!? “まてきよういん”って何なのだ、ポンっ! ぼ、ぼーく分からないな、ポンっ!」
「うんうんそれ、ごもっともですわ! それでは、説明しましょうッ!!」
人が罹患する“病”の症状には、大きく分けて二種類あるとされている。
「病? 病気とどう違うのだ! ポンっ!」
「広義の意味としてですわね。病というのは一般的に病気と呼ばれるものとは異なり、本来の病気としての枠組みに、魔法によって引き起こされる症状。呪いや凍結等々を入れたものですわ!! つまり病気と言うものは、病と言う大きな枠組みの中の、一つの要素を指しての呼称ですわね!」
「へ、へ~そう、なんだ! ポンっ! じゃ、じゃあそれと“まてきよういん”って、どんな違いが、ポンっ!」
「そうですわね。病と言う枠組みを要素である病気、魔的要因…それ等は全て、細かく分類されているので、どんな違いがあるのか? と訊かれますと、これはこれ。それはそれ。あれはあれ…と、非常に細々とした説明になってしまいますので、一番分かり易い分類方法を教えましょう!」
「わ、わー。教えてくれだポン」
「…あ、頭がこんがらがってきたぞ~…!?」
「まず説明のために、病と言う枠組みを、『魔的要因』とそれ以外の『非魔的要因』の二つに分けましょう!」
分類方法は簡単。
「魔法で治せるまたは、治し易いもの」が魔的要因。
「魔法で治せないまたは、治し難いもの」が非魔的要因だ。
まず前者ーーー魔法で治療し易い症状群というのは、いわゆる『魔的要因』と呼ばれる症状群で分類される。
これ等の主な特徴としては、罹患する際に魔法が関わっているということが大きなものとして挙げられる。
例えば、石化だ。石化とは、闇属性中級魔法“メドゥーサアイズ”等を代表として掛けられてしまう“魔的要因の症状”だが、どうして石化が起こってしまうかというと、魔力を用いて物質を構成する最小単位の粒子を、全て石の類へと変化させてしまうからだ。
しかしどう変化させるのかというと、また細かい話になるのだが、元素の周りを一つ一つ魔力で覆い、 変化させることが大きなポイントとなっている。
「お、お姉さん。どっ、どうして石化を例に挙げたのだポンっ!」
「そ、そんなことを気にするのか~!? どうでも良いじゃないかっ!」
「一緒に、“石化”についても説明出来るからですわ! どうして石化してしまうと動けないのに、魔法で皮膚を硬質化させて防御力を上げている状態だと動けるのか、その訳も説明しましょう!」
「や、止めてくれぇぇ……」
どうして動くことが出来るのか。
それは、魔力で覆うことの出来る範囲がポイントだ。
“石化”が、物質を構成する最小単位の粒子を魔力で覆うのならば、硬質化の魔法は、物質の、表面を魔力で覆っているのだ。
動けなくなる理由としては、あらゆる構成物質を石と同じものに変えてしまうため、脳や神経、筋肉もいわば、石で出来た模型のようなものに変えてしまうのが、それだ。
では硬質化では何故動けるのか?
硬質化で岩石物質に変えるのは、前述の通り物質の表面のみ。
つまり、表面の内側に位置する人間としての器官が全て、硬質化前と同じように機能しているから動けるのだ。
「詳しくすると、こんなところですわね。では話を戻しますわ!」
「分かり易いのだ、ポンっ!」
『魔的要因』の症状は魔法が原因となって引き起こされるものだ。
故に、治癒魔法というのは、いわば症状を引き起こしている魔力を打ち消す魔法なのだ。その逆が『非魔的要因』であるのだ。
「さっぱり分からんっ!? さっぱり分からんぞ!?」
「じゃ、じゃあお姉さん! 治癒魔法と、幻属性中級魔法“ディスペルマジック”ってどう違うのだ、ポンっ! 例えば石化状態を治療するには、光属性上級魔法“パージストム”が必要。だけどだ、ポンっ! お姉さんの説明だと、魔法効果を打ち消す効果がある“ディスペルマジック”があれば、魔的要因なんて全然へっちゃらなんだ、ポン? でも、それで打ち消してしまえるのなら他の治療魔法の必要性が無いんだ、ポンっ」
ハイエルフのみが使えるとされる『幻属性』の中級魔法、“ディスペルマジック”
もっともではあった。
「“ディスペルマジック”では、『魔的要因』に対して効果はありませんわ。魔法効果は魔法効果でも、“ディスペルマジック”で打ち消せるのは、結界や強化魔法…つまり、物質の表面に作用しているものしか効果がありませんわ。難しいですわね」
もう一つ区別出来る点は、“ディスペルマジック”の消費魔力だ。
発動している事象に対して働き掛け、強制的に効果を打ち消す力技なのだ。中級魔法といっても、その消費魔力は他の魔法の比ではない。
また力技である以上、発動者に求められる実力も相当だ。負担が大きいのである。
「他の治療魔法が柔の魔法とするのならば、“ディスペルマジック”は剛の魔法と言ったところですわね」
「へ、へー。違いが分かったような気がするんだ。ポンっ。あ、あれ? でも『非魔的要因』の症状は、どうすれば打ち消すことが出来るんだ、ポン?」
「『非魔的要因』…症状の例として風邪を挙げますわね」
何故『非魔的要因』は魔法での治療が難しいのか。それは、病原体が理由だ。
病原体とは、魔法とは理が違う存在だ。
魔法でないということは、魔法で打ち消すことに意味は無い。つまり、魔法での治療が難しいということになる。これがまた区別の難しいものなのだ。
簡単にいってしまえば、風邪を始めとした病原体ーーー自然発生のウィルスによる病は、薬や魔法で自然治癒力を高めることでのみ、対処が可能ということだ。
「ーーーと言うことですわ。『非魔的要因』に分類される病には、魔法と言う便利なものは効果を成さないと言う訳ですわね。分かりまして?」
「…わ、分かったんだポンっ。風邪とか、いかにも簡単に治せそうな病気でも、魔法では治せない場合があると言うことが良く分かったポンっ!」
「宜しい。隊長?」
説明に要した時間はそう長くないのだが、小難しい話はレオンの頭をパンクさせてしまうには十分過ぎるものだ。
実は全く集中して聞いておらず、途中居眠りまでしていたレオンだが、取り敢えずこの空間から解放されたかったので適当に頷く。
「…う、う…ぁ~うん。良く分かったぞっ、だから早く隊長室にだな~……」
「…まぁ、業務もありますし良しとしますわ。では、今回の説明はこれまで! 解説は説明お姉さんことリィル・フレージュと?」
「ゆ、ユリタヌキでお送りしたんだポンっ!」
ユリタヌキ。それが大きな狸の名前のようだった。
レオンは肉体派の男であり、基本的に馬鹿だ。だが彼でも、いや、彼以外の隊員でも、『アークドラグノフ』に居る人物達ならば、彼と同じ答えに辿り着く。
「なっ!? じゃあその中に入っているのはユリちゃんなのかぁっ!?!? ぶっ! そんな可愛らしい着ぐるみの中に入って…はっはっはっ!!」
「~~っ!!!! わ、わたっ…ぼぼ僕はユリタヌキだポンっ!! そんな人全く知らないんだポンっ!!」
勿論、ユリタヌキはユリタヌキだ。
説明お姉さんの助手の愛らしい狸であり、いわゆる妖精という存在だ。
妖精に中の人は居ない。居ないのだッ!!
「お~お~分かってる! 弓弦に知られたくないんだよな~? 弓弦の奴には内緒にしとくから安心しろ! …ん? おいおい、いきなり照明落としたら驚くだろ~」
照明が落とされ、暗闇になった空間にレオンの声が響く。
しかし次の瞬間。
「どわぁぁぁぁぁぁぁっっ!?!?!?」
グキッという生々しい音と共に彼の悲鳴や、床を打つ鞭の音が夢を持たない大人の末路を奏でた。
* * *
『ご覧のスポンサーの提供で、お送り致しましたーーー』
ーーーという番組が、『炬燵空間』内に設置されたテレビで放送されていた。
「成る程。興味深い……」
「にゃはは。どうしてそんにゃ番組がやっているのかに対しての突っ込みは無いのにゃ?」
「洒落に対して指摘をするのは私の役目ではない」
視聴していたのはクロルとヴェアルだ。
外の様子をテレビで見ていた二悪魔だったが、何気無くクロルが押したリモコンの番号でその番組がやっていたのだ。
どうしてこのタイミングでそんな番組がやっていたのか。どうして見知った顔が映っているのか。それは、永遠の謎に近いだろう。
「…大真面目に返してどうするのにゃっ。役割でにゃかったとしても、ちょっとくらいやりようはあったと思うのにゃ」
仕方無いとばかりにクロルは溜息を吐く。
「…そう求められてもな」
「にゃは、もう良いにゃ。期待していにゃいのにゃ…ふぁ…にゃあ」
「にゃ~あ。何か一つ、面白エピソードでもあっても良いと思うのににゃぁ……」と不貞寝する悪魔猫に対して、レイアのあられもない姿を見たことがあるという、自身最大の失敗談を語ることなど、到底無いのであった。
「…フレージュのストレスが溜まっているみたいだが、お前は何もしなくて良いのか? 八嵩」
「あはは…そのためのコーナー的救済措置なんだよね、アレ。なら別に僕が何かをする必要は無いよ。違うかい?」
「あらあら…そのようにして放置されているからこそ、余計に溜まるものもあるとは思いますよ?」
「…天部中佐。これは珍しい組み合わせだね」
「あぁ…確かに初めてじゃないか?」
「はい、仰る通りで御座います。それで、如何なる算段を用いられる御予定なのですか?」
「いや算段も何も…何も考えていないよ」
「…考えろ。だから未だにお前と言う男は……」
「何のことだい?」
「トウガさん、僭越ながら…申し上げても無意味かと」
「はぁ…フレージュの奴も随分と報われないものだ」
「クスクス…そうですね。ですが、苦難乗り越えてのものもきっとあるかと存じます」
「まぁ確かに、言えている。…だがその例にこの男が当て嵌まるかどうか」
「…予告読んで良いかい?」
「…早く読んでくれ」
「御願い致します」
「『街の北東部にて、男が吼えていた。その手に握った得物を縦横無尽に振るい、敵を蹴散らしていっている。敵は戦き、男から距離を取っていく。去る者は追わず、見逃すが訳がないのだが、向かって来る相手には、もはや問答無用ッ!! でお相手す。そんな彼はーーー次回、剣心シッソウ』…断てぬものは。…って、予告戻ったんだ」
「偶然だろう。じゃあ、解散!」
「クスクス……畏まりました」