表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
動乱の北王国編 前編
206/411

マッサージをする方と、されるホウ

 ようやく足の生えた樽の歩みが止まったのは、街の西端にある建物の側であった。


「(あ、止まった。やっと…着いたのね…っ、くしゅんっ! ぅぅ、寒い…)」


 彼女の身体は小刻みに震えている。

 一度追い始めてしまった以上途中で切り上げてしまうのは不本意。どうせなら最後まで見届けたかったのだ。

 つまり所謂乗り掛かった船なので今この場に居るのだが、樽の中身の正体を確認したらすぐにホテルに戻って風呂に入りたかった。

 出来れば昨日入れなかった分、家族風呂というものに今日入りたかったのだ。


「(早く帰りたいわね…もうっ。あら…何かを探してるみたい。それに…あの建物…入口が見当たらないわね……あ、樽を取るわ!)」


 建物の壁を触っている樽の中の人物は、何かを探してるようだ。といっても、外からでは分からない程度しか空いていない樽の穴から見える世界が狭いことに焦れたのか、樽を脱ごうとしている。

 樽が上に持ち上げられていき、人物の体躯が露わになる。当初、軍人と予想していたが、どうやらそうでもないようだ。

 足が細い。不健康と呼べる程ではないが、一体どこに筋肉が付いているのであろうか。日頃鍛えている男の足ではないーーー否、身体が全体的に細い。ともすれば女性かと見間違えてしまいそうだ。

 その人物を追う前に、一瞬見間違えてしまった情報が、真に間違いであると示されてしまったようなものなので、フィーナの興味は一気に冷めようとしている。

 視線の先の樽は、何かを逡巡しているのか、肩の辺りまで持ち上げたところで、動作を止める。先程からずっと近くに人の気配はするような気がしたが、向こうは向こうで樽を見守っている様子だったので、周囲に樽の中に居る人物の敵は居ない。

 それなのにちっとも嬉しくない焦らしに柳眉を逆立てつつある彼女であったが、


「…構うものかっ」


 樽を完全に脱ぎ捨てた男の姿を見ると、呆然としてしまった。

 彼女に見詰められる形で男が壁の一部分を押すと、その足場に地面の中へと入っていく。

 男も驚いているようで上にスライドしていく周囲を見回している内に、その身体は地中に沈んでいく。

 金髪の男だった。金髪の、長身の男ーーー体格こそ違うものの、彼女の記憶にあるとある人物と瓜二つの容姿をしている、軽装に身を包んだ男であった。


「!?」「……」


 眼が合った。驚きに瞳を揺らす男の中央に、フィーナの姿が映っていた。

 もっとも雪が強くなってきたので、明確に見えたかどうかは定かではないが、そこに誰かが居るということは確実に認識されたようだ。

 口をパクパクとさせる男。言葉が出ないようだったが、結局何か一言を言う前にその姿は地中に消える。

 そして彼に続くように一人、幅広い刀のような得物を背中に背負った人物が地中に入って行った。

 刀に興味はあったが、そこから追うことは流石に止める。まるで先程の人物が警告でもしているようだったからだ。


「‘…あぁ、そう言うことね’」


 雪が吹雪となりつつある中、一人納得したフィーナは踵を返す。

 彼女の眼ですら、視界が不明瞭になっている以上、人間の視力では一歩先ですら明瞭ではない帰り道。足を滑らせ掛けることも多々あったが、彼女は無事に屋根の上を跳んで、駆けてホテルの前に戻るのだった。

 ホテル前の扉が開くと、暖気が身体を包むと同時に、多くの視線に晒されたが気にせずエレベーターに乗ろうと、フロントを横切ると、


「お待ちくださいませ!」


 従業員の一人に声を掛けられた。


「そのように濡れた姿で当館内を歩かれては困ります! どうぞこちらで拭いてください!」


 言われて気付く。

 身体を冷えさせていた雪は、知らない内に水へと変わり、衣服を濡れさせている。

 全身ずぶ濡れとなった姿は、非常に艶かしく、視線を集める要因はそこにもあったようだ。

 「ありがとう」と、渡されたホテルのバスタオルに上半身を包む。


「‘…ねぇ、この人じゃない?’」


「‘…え?’」


 軽く服や髪の水分を拭き取っていると、二人の従業員(どちらも女性)がひそひそ声で話しているのが聞こえた。


「‘ほら、ちょっと前にイケメン君がお願いしに来た奥さんって。だったら案内しなきゃ’」


「‘ふぇ? ぁ…うん、そうだね’」


「くしゅんっ!! (何の話をしてるか分からないけど、行っても良いのかしら?)」


 寒くて仕方が無いフィーナ。くしゃみを抑えるのに忙しい彼女に小さな会話内容は聞こえなかった。

 なので、再びエレベータに向けて歩き出そうとすると、


「あの、三階に宿泊されているシェロック様でしょうか?」


 再度声を掛けられた。


「ぇ…えぇ、そうだけど」


 シェロックというのは、イヅナのの偽名から貰っている、ホテルでチェックインした名前だ。

 流石に本名を書いてしまうと、『二人の賢人』と結び付いてしまう可能性が大ありなので、少女の偽名を借りたという訳だ。

 少し戸惑ってしまったのは、普段から慣れていない名前のためである。


「数分前から貸切浴場を取られていますが、入浴されてはいかがでしょうか」


「え?」


 寝耳に水であった。

 思わず訊き返してしまったが、「何でもないわ。ありがとう」とその場を後にした。


「…くしゅんっ!! …初耳だわ」


 急ぎ足で貸切浴場へと向かう最中、思わず呟いてしまう。

 風呂には入ろうとしていたものの、今日貸切浴場の予約は入れていないはず。それなのにこうもタイミング良く自分達に貸し出されているとは思わなかったためだ。

 冷たい廊下を抜けて、脱衣所に向かう。

 通り抜けていく風は外程ではないと理解しているものの、先程まで暖房の効いた室内に居たためか酷く寒く感じた。

 震えたまま濡れた浴衣、濡れた下着を脱ぎ一糸纏わぬ姿になると、フィーナは脱いだ衣類を籠の中へと入れる。

 その隣の籠には、恐らく先に入浴している者が用意したのであろう、新しい浴衣が丁寧に畳まれ入れられている。その隣にも、同じように浴衣が入れられており、さらにその隣には、袋が置いてあった。

 中を見てみると、先に入っている人物が脱いだらしき浴衣と下着が入っていた


「(え? と言うことはまさか…ううん、考えるのは止めにして、先に入った方が良いと言うことかしら)」


 腕に付けてあったゴムで髪を結ぶと、急いで湯船へと向かう。


「ぅぅ…早く…お風呂…っ」


 戸を開けると、温いのか冷たいのか分からない岩に腰を落とし、足から順に手以外の肩まで浸かっていく。

 最初はとても熱く、火傷しそうな感覚を覚えたものだが、徐々に身体が慣れていったのか、平気になってきた。


「つぅ…っ!!」


 しかし手を湯面に付けてみると、掌が燃えるように熱く感じてしまったので、すぐ手を遠去けてしまう。


「ははっ、雪でも掴んだのか?」


 貸切風呂を取ってくれた先客の笑い声が聞こえた。

 早々に逆上せた訳ではない顔の朱を、見られないよう顔を背けると、向こうから近くに寄って来た。


「…痒いか?」


「ちょっと…ね。でも掻きたくなる程じゃないわ…くしゅんっ!!」


 最初は身体が冷え過ぎていたたて熱く感じたが、どうやら雪景色のためか風呂の温度は意外と低めのようだ。


「くしゃみか…風呂上がったら早めに身体拭かないといけないな。…と言ってももう手遅れかもしれないが」


「…ごめんなさい」


 後を追うのに時間を掛け過ぎた等の理由は言い訳でしかなく、自業自得な自身が申し訳無くなってくる。

 謝罪の言葉しか出そうになくて、口を噤むが、そうすると何故か眼頭が熱くなる。


「申し訳ありません…っ。勝手に出て行って、勝手にこうなるなんて…私はご主人様の犬失格です……」


 辛うじて堪えてはいるが、今にも堰を切ってしまいそうだ。

 魔法といえど万能ではない。気持ちを楽にすることは出来るが、病気を都合良く治せる魔法は無いのだ。故に治療薬は存在するのであり、薬もあるのである。

 楽しみにしていたこれからの日々を、ベッドの上で過ごすしかなくなったこと、気を遣わせていることーーーただただ罪悪感が込み上げてくる。


「謝られるようなことはしていないな。後、犬はヴェアルで十分だから気にしない。何かご主人様の犬って変な響きだしな。それに、そこはお礼の言葉を言うべきだ。そうだな…お風呂用意してくれてありがとうって」


「…っ、用意してくれてありがとう……」


「あぁ、どういたしまして。それで良いんだよ」


「…えぇ、そうね……?」


 正面に腰を下ろした弓弦はフィーナの手を取ると、その手を揉み始める。

 気を紛らわせるためかと思ったが、どうも血行を良くしようとしてくれているようだ。


「……」


 弓弦が気遣ってハンドマッサージをしてくれているのは分かるが、どうにも不思議な感覚に彼女は包まれようとしていた。

 腰に巻かれたタオル、足、戻って胴と順に視界に入れていくが、どこを見ても程良く付いた筋肉が映るだけだ。


「……」


 「素敵……」と出そうになる言葉を喉の奥で止める。


「…どうかしたか?」


「…ぇ……?」


 突然の問い掛け。マッサージに集中しているのか、視線を合わせない問い掛けに、普通に訊き返そうと喉を震わせた。

 しかし、思った以上に変な声が口から零れた。猫撫で声のような、寝惚け声のような、そんな声だ。


「…いや、無意識なら良いんだ。無意識なら」


「…?」


 何とも煮え切らない態度の弓弦だ。視線は相変わらず固定されており、瞳から感情を読み取ることが出来ない。

 代わりに犬耳を見詰めて感情を読み取ってみる。

 彼の黒髪から覗く同色毛の犬耳は、力無く垂れているかと思うと時々、ビクッと力が入る。

 不規則的ではあるが、垂れ下がっては力が入るを繰り返している犬耳を見詰めていると、


「な、なぁ……」


 また弓弦が問い掛けてくる。


「…ん……?」


「いや…。じゃあもう片方の手を出して…くれるか?」


 言われた通り差し出していた手を変えると、何故か彼が小さく息を吐いた。

 マッサージ効果で血流が良くなったのか、湯に浸けても痒みを感じない。

 ーーー思えば、今弓弦に揉まれている手も先程まで普通に湯に浸けていたような気がするが、気の所為と考え弓弦の身体を視姦かんさつしていく。

 大きく上下している肩、整った顔立ちには朱が差しているか。肩の動きに合わせて息が零れている口唇は、柔らかそうで、彼女を衝動に駆らせようとしてくる。

 頰も柔らかそうなので頬擦りしたい。だが頬擦りをしてしまったら、そこから続く衝動に負けてしまいそうなので、必死に堪える。


「(…? 堪えている…?)」


 ふと見れば、弓弦も何かに耐えているようだった。まるで視線を無理矢理手に固定させているような。しかも、時折別の場所に瞳が動こうとしているのを、瞼をギュッと閉じることで阻止しているようなーーー?


「…ぁ」「…っ」


 そこで気付く。

 弓弦が腰にタオルを巻いているのに対し、彼女は生まれたままの姿であることに。

 照れてくれるのは本当に嬉しく、初々しい反応は本当に微笑ましく思えてくる。親しき中にも礼儀ありとは良くいったものだが、別に“家族”の入浴で公共のマナー違反を犯す必要も無いと思ったのだ。

 一般家庭。家での入浴の際にタオルを巻いて入浴するかーーー答えは否、それだけなのだ。


「…別に気にすることないと思うのだけど…気になる?」


「……気にしない方が難しい…と言うか、無理な話になるんだが」


 どうしてそこまで気になるのか。そんな疑問が浮かぶ。


「…嫌?」


「まさか。と言う言い方はどうかと思うが、嫌では…ないな。はは……」


 意識すまいと考えているのか、視線を遠くした弓弦は空笑いをする。

 犬耳がビクッと動く。対面する形で湯船に浸かっているとお互いの表情が良く見える。

 その背後では、ドサッと積もったらしい雪が落ちた。今更ながら頭上に屋根があったことに気付くフィーナだ。


「ん…っ」


 強めに押され思わず、変な声が出てしまう。だが、弓弦は気にしないよう努めているかの如く、無言で手を揉み続けた。


「よしこんなものか。ハイエルフの自然治癒力だったら、明日か明後日にはきっと治るはずだな。それまでの辛抱…と言ったところか」


 手が離すと同時に弓弦は移動し、距離を少し置かれてしまう。背中を向けている彼に対して、余程眼に毒であったのかと落ち込む彼女だったが、


「…そう言えばイヅナはどこ? あの子も一緒に入ってこその家族風呂なのに、あの子が居ないんじゃ夫婦風呂じゃない」


 暗い思考を切り替え、この場に居ない少女について訊くことに。


「イヅナは結構早めに出て行ってしまったな。ホテルの中を散歩しているか、あるいは部屋でゆっくりしてるんじゃないか?」


「そう…‘気を回してくれたのかしら? まさか…ね’」


「…さぁて、な。後で本人に訊いてみたらどうだ?」


 小さな声で呟いただけであったので、そこは無視してほしかった。耳が良過ぎるというのも考えものであるが、かといって肝心な言葉を聞いていない可能性が生じるよりはマシなのだ。

 ーーー特に困るのは、無意識で呟いた何気無い愛の囁きもしっかりと聞いていたりすることだ。確かに聞かれず、逆に訊き返されてしまうと虚しいことこの上ないのだが、聞かれていたら聞かれていたで恥ずかしいのである。


「『…夫婦仲良し…して』だと「仲良し!?」」


 フィーナは声を裏返してしまった。そんな彼女を見詰める弓弦の眼は不思議そうだ。

 それもそのはず。弓弦は、少女が言った言葉の通り普通の意味で受け取ったのだが、フィーナはそうでない。


「あ、あの子ったら何てことを言うのかしら! 一体どこでそんなふしだらなこと……っ」


「…ふしだら? いや、ふしだらな言葉なのかこれって……?」


「そうですよ、だって夫婦仲良くと言えばつまりそれは……互いが互いを深く愛し合うことなのだからっ」


 頰を熱が帯びていくような感覚を弓弦は覚えた。


「…口調混じってるな。しかし…そうか、愛し合う……」


 動揺しっ放しのあまり、口調が乱れているフィーナが濁した言葉の意味を理解すると、口をパクパクとさせる。


「…気が利く子だな! 流石はイヅナだ、姉思い、兄思いの良い子じゃないか! ははは…は?」


 そして、そのまま風呂から出ようと腰を浮かせたところで、背中から温かく、柔らかなものが彼の腰に手を回して動きを拘束する。


「‘…据え膳食わぬは男の恥よ、ご主人様’」


 耳元で囁きながら、フィーナが力を強めると、


「っ!?!?」


 弓弦の身体が、一瞬だけ強張った。あまり見られない状況での反応に驚きながらも、より力を強める。

 やはり、先程よりも分かり難いものの弓弦の身体が強張る。


「…まさか最初から、これが目的であんなことをやっていたんじゃないよな」


 安心感と幸福感を感じようと、弓弦の肩に顔を乗せる。


「…あんなことって?」


 それは同時に、弓弦が顔を背けるのを防止するためでもあった。

 頰が頰に触れる。

 弓弦の頰は、温かかった。


「…ワザと…だったよな? ワザととしか思えないんだが…っ!!」


「そんなの、訊いてみないと分かりませんよ? ご主人様」


 訊きながら先程までの自分を顧みている彼女には、心当たりがあまり無い。やっていたことといえば、マッサージのために片方ずつ弓弦に手を差し出していたことぐらいだ。身体の視姦はしていたので、精々そちらだろうかと考えていると、


「っ、ならどうやったらタオルの中に手を突っ込んで、あまつさえ中を触ってくるんだ!? 訳が分からないんだがっ!!」


 予想を遥かに超える答えが返ってくる。

 言われてみれば、だ。確かに弓弦の身体に意識が向いていたのは間違い無い。だがまさか、自分が無意識の内に欲望のままに行動していたことが信じられなかった。


「え…っ?」


「人が片方の手を揉んでいる間もう片方の手でひたすらひたすら…! ワザとと言わずして何て言うんだっ」


 確かにワザととする他無いことだ。もしワザとでないことを説明しようにも、誤魔化しのための説明材料が致命的に欠けている。かといって、無意識でしたと本当のことを言ってしまえば、それはワザとよりも中々に危ない意味を持っているのだ。

 寒いのでお互い再び湯に浸かると、フィーナは呆然と自分の両手を見詰める。

 無言のままグー、パーを繰り返していると、弓弦が小さく咳払いをした。


「…(手の動きだけで意識しているのかしら? ふふ、照れてる姿、可愛いわ…♪)」


「照れてない」


「あら…でしたらどうして顔が赤いのですか♪」


「逆上せ掛けてるんだ。気にしないでくれ」


 投げ遣り気味に言う弓弦は隙を窺っては逃げようと試みている。しかし、それを認めるフィーナではない。

 爪を立て、微かに触れる距離を保ったまま、弓弦の肌に触れていく。表情の変化を見せようとしない弓弦だが、犬耳は素直に彼が何かしら感じていることを示していた。

 それを繰り返していくと、彼の身体がフラフラと揺れ動き始め、息が荒く、深くなっていく。

 フィーナは、心の高揚を感じ得ずにはいられなかった。同じように彼女の息も荒くなりつつあり、瞳は切なそうに潤んでいった。そしてとうとう、


「〜〜っ!!!!」


 衝動に耐え切れなくなった彼女は彼を離さまいと、自分だけの人で居てほしいと、言葉で語らずとも彼に伝わるよう身体を強く、強く抱きしめた。


「…! 良いの、良いのね! やったわ♪」


 すると、弓弦が身体を預けてくる。ようやく応えてくれたと嬉々とする彼女であったが、すぐに様子がおかしいことに気付く。


「…ふふ、ご主人様ったらそんな…全部私に任せるつもりなのですか? まぁたまには良いのですけどちゃんと出来たらご褒美を下さいね?」


 閉じられた瞼。その前で手を振っても反応は無い。


「…あなた…? やっぱりこっちの話し方の方が良くて拗ねてるの? おーい」


 頰を突いてみる。男性なのに弾力のある頰は彼女の指を受け容れるが、彼の眉を顰める等の反応が無い。


「…あなた…? あ、あら…?」


 ーーー弓弦は身体に力を入れなくなったのではなく、入れられなくなったのだ。このことに彼女が気付いた時、彼はすっかり逆上せて意識を失っているのであった。

「…このタイプの逃げ方をしたか、橘は」


「逃げ方…な~。普通に逆上せただけなんだと思うが~」


「甘いな隊長。女に攻められる際に逆上せるなど、そんな作り物のような話があって堪るか。あいつは間違い無く逆上せた演技をしたのだろう」


「はぁ、成る程な~。だがしかし…な~?」


「…?」


「やっぱり逆上せただけだと思うんだがな~…っく、トウガ、お代わり頼む~っく」


「摘まみは何か食べるか?」


「摘まみか~…あ、何か串焼きでも頼む~」


「分かった。じゃあ向こうで焼いてくるから少し時間をくれ」


「あ~、頼む……」


「あまり飲み過ぎるなよ? 出番が無いからって」


「お~? 出番…か~…。ま~どうでも良くはないかもしてくれないが良いかもしれない@*&#%……」




「…潰れたな。仕方無い、焼き鳥茶漬けにでもして食うか……と、その前に、か。『城を追われ、街を迷いながらようやく辿り着いた指定の場所。兵士が居た。一応…知り合いになるのだろうか。そんな人物も居た。その者は相も変わらず、不思議な音を全身から立てていた。他にも居た。一応私の知り合い…よりは、父上の腹心か…あまり、歓迎されていないみたいなのはきっと、私のことが気に入らない故だろうかーーー次回、隠されたノロシ』…センデルケン…私は…どうすれば良い…? …さて、早速湯を沸かす前に」


「…zzz」


「…八嵩はちがさでも呼んで、隊長を連れて帰らせるとするか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ