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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
動乱の北王国編 前編
204/411

雪に躍り出すモノ

 イヅナは一人、扉の前に居た。


「…美味しい」


 手に持つ果物を食べながら壁に寄り掛かっている彼女は、その感想を隣に座っている狼の頭の上に乗る蝙蝠に伝えた。

 少女は先程突然この二匹によって扉の外に連れ出されたのだ。半ば強引な連行ではあったが、少女がそれに従ったのは、中に居る二人の人物の間に流れる空気が理由だ。

 何も聞こえてこない扉の先で現在何が起こっているのかーーー少女に知る由は無い。


「甘酸っぱくて…果汁が沢山詰まっていて…皮とか噛んだら溶けちゃう…凄く蜜柑してる」


「ふむ…美味と思うか。中々に良い舌を持っているな、娘」


 彼女の感想に満足したのか、バアゼルの声は上機嫌だ。

 一人扉の外で待ち惚けをする羽目になっているイヅナを哀れと思ったのか、蝙蝠悪魔は突然として少女に蜜柑を渡したのだ。


「ふむ…ならば此れもくれてやろう」


 驚くべき点は、バアゼルが秘蔵ともいえる蜜柑を少女に提供したことだ。

 蜜柑の味に、非常に五月蝿いこの蝙蝠悪魔、真の蜜柑の味を理解出来ないような有象無象に秘蔵蜜柑は絶対に提供しないのだ。

 それを彼は、提供したのだ。


「蜜柑の味一つ分かるだけでそう評し、秘蔵物を施すか。王者は一体、どこまで甘くなるのだろうな……」


「黙すと良い『紅念の賢狼』…沈黙を強制されたくなければな」


「照れなくとも…いや止めておこう。藪蛇だな……」


 通路には現在、少女以外の人物も歩いているのだが、悪魔二体の姿は彼等には捉えられない。顕現に際し消費している魔力マナの量を減らしているためだ。

 なのでイヅナの姿は見えているのだが、わざわざ足を止める者は居ない。止めたら止めたで、何か問題があるようではあるが。


「にゃはは、追い出されたけど凄いことににゃっていたのにゃ」


 壁から顔を半分だけ出したクロがそう言うと、フワリとまるで幽霊のように彼女の前に着地する。


「…どうなってたの?」


「にゃは、口じゃとても言えにゃいのにゃ。でも簡単に言うのにゃら、おんにゃの子になった弓弦が自分から股『黙せ』」


 もがく猫の様子にイヅナは首を傾げる。「股」と言ったのは分かったが、それ以降に何を言ったのか分からなかったためだ。


「…?」


 視線で残りの二体に問い掛けるも、外方を向かれる。答える気は無さそうだ。

 未だ年端もいかない純粋な少女に、余計なことを話さない、話させない程度には彼等も道徳というものを弁えているのだ。悪魔なのに。


「時に娘、勧める蜜柑の品種は存在するか? お前が勧める蜜柑ならば食してみよう」


 結局、扉の中で何が起こってるのかは謎であるので、イヅナは話題転換とばかりのバアゼルの問い掛けに思案する。

 バアゼルが弓弦に頼んで各地の蜜柑を収集してもらっているのは、少女にとっても既知のことであり、彼が知らない蜜柑の品種は恐らく、零にも等しいだろう。となると、所謂ブランド品種というものは網羅されていることになるので、必然的に市場にあまり出回っていない蜜柑が脳裏に浮かんだ。

 その多くは単一異世界にのみしか回っていない固有種であり、隠れた逸品と称するのが妥当な物もあるのだが、入手が難しいのが難点であった。


「…あるにはある。けど……」


 彼女はそのことを素直に伝えた。


「ふむ…致し方無し、か。近い内に彼の男に頼むとしよう…む?」


 小さく笑ったバアゼルは訝しむような声を発すると、扉の中に入って行く。

 暫くすると扉の奥から声が聞こえるようになった。なので彼女が扉を開けると、


「……」


 ベッドで仰向けに倒れたまま、恍惚として天井を見詰める弓弦が視界に入った。


「ふふ…あんなに乱れて…可愛い…♡」


 その隣で横になっているフィーナもまた、そんな彼を見詰めて悶えていた。


「…っ……♡」


 そんな彼女に身体を撫でられるとビクっという痙攣ような動きと共に、熱っぽい吐息が彼の口から零れた。


「もぅ本当…好き…愛してる…♡」


 イヅナに気付いていないのか、お花畑な発言をしているフィーナの視線は弓弦で固定されている。

 本来の彼女ならば、イヅナにそんな自分を見られることを良くは思わないのだが、そのことを気にしていない程に彼女は夢中だったのだ。つまりその彼女の驚きようといったら相当であるのは間違い無い。


「…え? い、イヅナっ?!?!」


 飛び上がるようにして起き上がったフィーナは大急ぎで身形を整えると、咳払いを一つ。少女の視界から弓弦を隠すようにして立つと、誤魔化すかのように再び咳払いをした。


「と、途中で居なくなっちゃったからつい…じゃないわ、ど、どうしたの?」


 上擦った声を何度も咳払いで直そうとしているのだが、それよりも動揺の方が勝っていた。

 子供眼に見ても様子がおかしい弓弦の姿を見ようと、彼女越しにベッドを見ようとするイヅナであったが、毎回フィーナが視界に被ってくるので見ることが出来ない。


「…何でもない」


 どうやっても見れそうにないので結局諦めることに。背中を向けると背後から安堵の息を吐く気配があったので、


「っ!?」


 振り返る。

 するとここでようやく再び弓弦の姿が見えた。

 身体は起こされているものの、表情から明らかに放心状態であることが分かった。一体何をやったらそんな状態になるであろうか、少女イヅナには理解出来なかった。

 いや、正確には理解されでもすればそれは、フィーナが弓弦に延々と言葉攻めーーーもとい、説教をされることを意味していた。どちらが彼女の望むところであるのかは最早明確にも程があることだが、この時ばかりは本心から少女が理解していないことに安堵したのだ。


「少し眼を離した刹那に…娘、お前は何をしている?」


 まだ何かをしようと思うイヅナだったが、呆れた様子のヴェアルが頭に乗ったので、否応が無く退室を余儀無くされた。


「…何もしていない」


「…ふむ。我が云いたいのは、お前が此処に居ること自体が、既に如何していることに因む。…余り見てやるな」


「…コク、見ちゃいけない…そんな気がした」


 説教染みた言葉にもしっかりと耳を傾ける辺り、イヅナは聞き分けが良い。しかしそれでも好奇心の方が勝ってしまうのは、偏に幼さがあるからであろう。

 一体何をしていたのか。その疑問と格闘しながら彼女が待つこと数分。扉が開いて弓弦とフィーナが出て来た。


「…ごめんなイヅナ、待たせちゃったな。じゃあ朝飯に行くか」


 朝だというのに弓弦は疲労困憊の様子を見せている。しかしイヅナに気遣わせないようにするためか、いかにも元気そうに振舞っていた。

 なので少女は頷くと、二人と一緒に朝食に赴く。

 館内を歩いている最中に漂う雰囲気は心なしか重い。外に出ようとせがむ子どもが居たり、興味本位であろうか、窓を隠すようにして掛けられているカーテンからその先を窺おうとする旅人が居たが、彼等も動作を途中で止めていた。どうやら自分達が見た以上の何かがありそうだと、内心で思う弓弦とフィーナであったが、イヅナはただ首を傾げるだけであった。

 朝食を食べている際もその影響からか、会話が中々弾みを持たない。誰かが会話をすれば誰か続けようとするが、二言三言交わすもそれ以上は続かない。しかし食事に集中しているかというとそうではなく、どこか上の空といったところか。

 食事の味も良く分からない。

 考え事をしているためであろうか、自分が何を運び、何を食べているかまでに思考がいかないのだ。

 もっともそれは弓弦とフィーナ限定の話であり、イヅナは内心の呟きで一人あれやこれやと感想を述べていたが、表面上は非常に重い雰囲気であった。


「…どうして皆暗い表情をしてるの?」


 食事も終わりに差し掛かったところで、一通り感想を述べ終えたイヅナが話を切り出す。側からでは、重い空気に堪え兼ねて口を開いたかのように見えるが、実際には違う。

 当人達とそれ以外の人物達では、一つの物事に対しての受け取り方に違いが生じてくる典型的な例である。


「…あぁそれは…ん?」


 その問いに弓弦が回答しようとしたその時、三人の耳に聞こえてくるものがあった。


「…でよ…なんだ」


「…お…成る程な」


「すまないそこの二人。その話、詳しく教えてくれないか?」


 近くを通り掛かった男性二人組に声を掛け、会話内容の詳細を訊く。


「ん? 兄さん知らねぇのか? 今そこら中この話題で持ち切りなんだが」


「この話題?」


「閉鎖令だよ閉鎖令。今朝発令された市街閉鎖令。突然お上が出しやがったもんだから今日以降のスケジュールが、パーになっていけねぇ」


「凶悪な魔獣が街の中に入って来たのなら分かる。しかし実際は武装してまでの人探しと来たもんだからお蔭様で、朝からてんやわんやの大騒ぎだよ…ったく、何を考えているのやら」


 言葉を鸚鵡返しで訊き返すと、疲れと呆れの混じった面持ちと共に言葉が返ってくる。

 顔立ちと服装からして行商人と分かる二人の男は、今日には付近の街へと旅立つつもりだったようだ。しかし今朝、「何人足りとも街の外へ出ることなかれ」と閉鎖令が出されてしまったので、現在足踏みをしているところであるとのこと。

 弓弦は今訊いた話を忘れないように反芻してから、話の焦点を深い部分に当てていく。


「武装までしての人探しとは随分と物騒な話だ。その上での探し人と言うのには何か、相当な訳でもあるのか?」


「さぁな。市井の人間なんざには分からねぇ話よ。だが…いや、場所を移しても良いか?」


「そうだな。フィー、イヅナを連れて先に戻っててくれ」


「…分かったわ。後で話、訊かせてもらうわね」


 食事は終わっていたので席を立ち上がり、ホールを後にする。扉を出た所で女性陣と別れると、弓弦は二人の男と共にホテル内のラウンジまで移動した。


「この辺りで良いな。‘ここだけの話なんだけどな?’」


 ラウンジでは人々が談笑しており、その表情は実に様々であった。が、困ったような表情が多いのは、閉鎖令とやらによるものか。暇潰しだろうか、一人読書している者や、物思いに耽っている者も居た。

 弓弦と二人の男はソファーに座ると、潜められた声に耳を寄せる。

 潜める前に周囲を視線で確認したあたり、どうも人の耳に入ると危険な話のようだ。


「‘さっきの話と時を同じくしてかどうかは知らねぇが、やたら高貴そうな顔立ちをした男が一人、街の至る所で見掛けられている。んで、国兵共の狙いはそいつかもしれないって専らの噂だ。商売一つ取ったって生活が掛かっている奴は多いからな、奴等に突き出してやろうって奴も居るらしいが…そう言やあいつらどうなったんだろうな……?’」


「‘高貴そうな顔立ち…か。他に特徴は?’」


「‘特徴…と言うよりは又聞きのはなしでしかないんだが、北国の冬に外出するには信じられない程の薄着をしているとか、凍えないように時々スクワットをしているとか、頰に十字の傷があるとか、背中に大きな剣を所持しているとか…様々な話があるが一番多く耳にしたのは、高貴そうな顔立ちをした金髪の男って情報だ’…だったよな?」


「そんなところだろ。分かったかい兄さん?」


 話を訊いている内に弓弦の中で、とある一人の人物が浮かび上がるが、それ以上考えてはいけないような気がしてすぐに、その考えをすぐに打ち消した。


「あぁ、金髪で高貴な顔立ちの男か……」


 先程窓から外を見ていた時に、そのような人物は見当たらなかった。一度でも眼にしていたら記憶に残るとは思うのだが、記憶に無い以上見ていないということに違い無いと確信する。

 ひとまず、特徴を元に大体の人相を浮かべてみるーーーが、何故かディオを金髪にしたような男しか思い浮かばず、自分の想像力の欠如に溜息を吐いた。


「しかし高貴そうな顔立ちをした金髪の人物と言やぁ、兄さんの奥さんも当てはまるな。金髪の人物なんてそうそう居たりしないもんだが…若いのに綺麗所を射止めて子どもまで作るってるとは、兄さんもやる男だねぇ」


「勝組人生絶賛謳歌中か。まったく、羨ましい限りだ」


 フィーナのことを羨む言葉をもう何度聞いたことであろうか。彼女の美貌を改めて実感する弓弦だ。


「はは…良い情報ありがとう。じゃあこれ、情報料だ」


「良いって良いって! こんなの情報料を取るまでもねぇことだ! 俺等も丁度暇してたし、兄さんの懐に戻しくれ」


「…あ、あぁ…すまない」


 懐から取り出した財布を戻させてから、二人の男はどこかへ行ってしまった。

 商人は基本的に、価値がある情報に情報料を設けるものなので、その態度に驚かされた彼は、出費の必要性が無くなったことを安心しつつも、悪い気がして妙に落ち着かなかった。なので部屋に戻ることに。


「…?」


 しかし部屋に戻ろうと向けられていた足は、その途中で別の方向へと向けられる。

 その方向にある物ーーーラウンジの隅に設置してある本棚の前に立つと、彼はそこから一冊の本を手に取った。

 ゴシップ誌であろうか。ありそうな情報や、普通に考えて馬鹿馬鹿しいにも程がある情報が書かれている。情報を訊いている最中に居なくなっていた人物が読んでいた雑誌だ。あまりに熱心に読んでいた様子であったので、どんな内容か気になりページを捲っていく。

 ーーーすると謎の折り目があるページを発見した。

 折り目の感じが新しいので、先程の人物が付けていったものであろうか、気になって内容に眼を通してみて、


「…は?」


 思わず声が出てしまった。

 慌てて周囲を気にするも、気に留めた人物は居なかったようなので安心しつつ、再度眼を通していく。


「(…南大陸のとある港町を救った二人の人物と、『二人の賢人』の類似点ーーー)」


 そんなタイトルの特集記事であった。

 雑誌を手に取った一般人ならば、数ある真偽の定かではない誇張された記事の一つでしかないが、記事にされた当人である彼にとっては、無視し難い記事。その内容を確認していると、


「っ!?」


 自分が居る場所の上方。つまり、上階から二つの魔力マナの内片方が、外に向かって移動したのを知覚し顔を上げる。すると一瞬だが、降る雪に紛れて屋根を跳んでいく人物の後姿が見えた。

 何を思ってそうしたのかは謎だ。しかし、外に行ったのが分かった以上読書に没頭することは不可能。彼は自分達が借りている部屋へと急ぐのであった。


* * *


 その頃、豪奢な衣装に身を包んだ人物達の視線に晒される中、熱弁を振るっている者が居た。

 変凛とした佇まいから行われる挙措の一つ一つは力強く、その者の断固とした意志を、訴えを空間内で震わせていた。


「つまり容疑を掛けられていたレオン・ハーウェル少将は論外のこと、八嵩 セイシュウ大佐は他でもない大元帥自らの手によって、脱出用かつ一方通行限定の転移魔法陣で洞窟の外に出ている! そして!!」


 映像と、それに関して詳細に記入されている記録の数々。言葉通り誰の眼に見ても明らかな真実の容易さに、彼女ーーージャンヌベルゼ・アンナ・クアシエトールは内心の激昂を抑えつつ、しかし飄々としていた表情から一変、狼狽を見せている人物達を睨み付けて言葉を続けた。


「映像にある通り、致命傷と思われる傷を与えた銃弾を放つためには、上記の角度しか不可能。更に、閣下の障壁を貫通するには相当の魔力マナと、勢いが必要。念動魔法での追尾弾以外の跳弾では、最初の反射時にほぼ全ての魔力マナが解放され、必要量には遠く満たなくなる。直線上での射撃でしか条件を満たすことは出来ない! …分かるな? この場を知る存在、正確な射撃を撃てる存在、データに表示されている鋼属性(魔法の属性)、全ての条件を満たすことの出来る人物…それは、一人だ。その者の名は」


 敢えて言葉を切る。呼ぼうとした名の者はこの場を訪れていない。それどころか、現在行方不明だ。

 どの世界に居るのかも分からない人物にら届けと言わんばかりに、萎縮しつつある下劣で、臆病で、何故この場に居るのかも分からないような名ばかりの少将以上の者に怒りを解放せんと、彼女は良く通る声で摘発対象の名を壇上で告げた。


「カザイ・アルスィー元帥ただ一人だッ!! …以上だ。公平な判決を期待する」


 彼女が降壇して行くと、その背後で槌が持ち上げられる。しかし、その動きは緩やかそのものであり、どこか躊躇いすら窺えた。

 不満に眉を顰める者や、怯えから今度は嘲笑を浮かべんとする者も居た、が、


「どうしたッ!! 公正かつ公平を信条とする法の主が、厳粛な場においてこんな児戯にも等しい判決を下せないのかッ!? 迷うことは無いだろうッ!! さぁ振り降ろし、判決を言い渡すが良いッ!!」


 背中越しのその声に、騒めく場内。中には彼女を罵る声もあったが、意に介さず言葉を言い切る。すると急かされるかの如く、ようやく彼女が待ち望んだ槌の音が、静寂をもたらした。


「…レオン・ハーウェル少将…及び、かの者の部隊に掛けられた全容疑を撤回すると…共に……」


「…っ」「どこに行くつもりだ? 退室は未だ認められていないが」


 空間の隅で行われている遣り取りでは、退室しようとした数人の隊員達が二人の人物によって道を阻まれていた。


「こ、こんな茶番を認める程我々は暇では無いからな! 艦に戻るだけだ!!」


(な〜に)、も〜う終わるからちょっと待つだけなんだな。ほ〜ら戻った〜戻った」


 そんな中、アンナは足を止めることなく、一歩、また一歩と踏み締めるようにして階段を降りて行く。その彼女の背後で、


「カザイ・アルスィー元帥に、大元帥殺害容疑を掛けるものとする!!」


 彼女の、延いては保守派の勝利を告げる敗北者の宣言がなされるのであった。


「(…ようやくケリが付いた。これであの男に、表立って手を出そうとする者は形を潜めるはず。…取り敢えずは一段落…と言ったところか……)」


 勝者の凱旋の終了地点を目指すため、自身が個人的に所有する小型飛空艇の下へと向かう。

 身に纏うプレートの音を鳴らし、右手で左腰に結び付けた鞘から覗く剣の柄に触れながら、一人満足に表情を緩ませる。

 通路を抜け、『ピュセル』に乗り込んだ彼女の髪の一部が陽光を反射したのは、恐らく髪が艶やかであるだけではないだろうーーー

「…はぁ…はぁっ、フィーナ…狡いけど…狡いけどナイスだよ…はぁん…っ♡」


「…キ、キシャア…っ!?」


「…おろ? アデスどうしたの?」


「キシャ、キシャキシャキシャっっ!!!!」


「…破廉恥だ、あれは破廉恥過ぎて破廉恥過ぎてヤバい? …ありゃー」


「…っ!? キシャァァァァァァっっ!?!?!? 」


「良いよ良いよ、そんなに謝らなくても。不可抗力だもん」


「キシャ? キシャァ……」


「不可抗力ではあるけど、だからって男の子が女の子のあられもない姿を見ることは、褒められた行為じゃないね」


「キシャァっ!?」


「と言うことで、予告お願いしても良いかな?」


「キシャっ! キシャシャキシャシャシャシャ!」


「はーい、じゃあ私は許します。…今は夢中になってるみたいだから良いけど、知影ちゃんに気付かれないようにね」


「キシャ。…キシャ! 『…さ、寒い…寒過ぎるわ…流石にこんな状態で出て行ったのは失敗だったかも。…だけど…あそこまで似られてたら気になっちゃうじゃない。…兎に角…追い掛けてみなくちゃーーー次回、その面持ちに雪化粧をホドコシテ』…やだ、眼覚めが悪くなりそう…キシャ(宜しくだ)!」


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