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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
動乱の北王国編 前編
200/411

孤独のイヅナ

「ふぁ…ぁ」


 イヅナが身体を起こすと、丁度前日セットしていたアラームが鳴った。

 空かさずアラームを止めた彼女が両隣を見ると、大人二人は熟睡しているのか、小さく寝言を言っているのが聞こえた。


「…グっ♪」


 あらぬ方向に向けて親指を立てるイヅナ。どうやら彼女が何かしたようだ。


「…“スリープウィンド”を使った。…今頃ぐっすり夢の旅」


 ーーーどうも二人の熟睡の原因は彼女の魔法にあるようだが、何故二人を眠らせたのかが謎である。

 予定では二日目ということで、朝から街の観光に行く予定だったのだが彼女はどうも、その予定を変更させたいようだ。


「「……zzZ」」


 ベッドの上に立ち上がると、寝ている二人を行いように飛び降りて着地する。着地の瞬間に身体を丸めて前転したのは、恐らく勢いを殺すためだろう。何を思ってそうしたのかは謎だ。


「っ!?」


 ゴンと大きな音。机に頭を打つけたのだ。

 不意の一撃程痛いものも無く、またもともと音を殺そうとしていたのに元も子も無い。イヅナは小さな声で唸りながら頭を押さえつつ、眦に薄く滲む涙を擦りながら立ち上がった。

 チラリとベッドを窺うーーー音を立ててしまったが、今ので二人が起きることはなかった。


「…危なかった」


 謎の抜き足差し足で部屋の中を歩き、ある物を探す。机の上や台の上など、いかにもその物品がありそうな場所を探していくと、それはあった。

 彼女はそれを手に取り、「水性」と中に入っている成分について書かれていることを確認すると、キャップを素早く外す。外したキャップは反対側に付けて失くさないようにするーーーこれで、準備完了だ。

 それを握り、対象に向ける。


「♪」


 最初は弓弦だ。黒光りするその先が彼の頬を、キュッキュッと音を立てて動かされる。通過した跡に残るのは、黒のライン。それが左の頬に三本。

 続いて右にも三本書いて、その出来栄えを確認する。

 長さも感覚も均等に書かれた黒い筆跡は計六本。


「……!」


 何かを思い付いたらしいイヅナは、自身の鞄の中を漁る。そして、


「♪」


 それを弓弦の頭に装着した。犬耳が上手い具合に隠れるように作られているそれは、綺麗に弓弦の頭に収まるーーー猫耳弓弦の完成だ。


「…グっ♪」


 あらぬ方向に親指を立てるイヅナ。ペンでの悪戯書きをしたその表情は満足そうだ。

 そして、次に狙いをフィーナへ。弓弦と同じように髭を書こうと彼女の皮膚に筆先を触れさせる。


「ん…」「あっ…」


 すると丁度フィーナが、身動ぎをしてしまったので線が曲がってしまった。これで綺麗な猫の髭を書くことが出来なくなってしまった。

 頬を膨らませるイヅナ。が、少し考えてみるとインクは水性なので、消せば書き直すことが可能ということに気付いた。

 部屋にあるウェットティッシュを数枚手に取り、失敗してしまった線を消していく。ここでフィーナに起きられては台無しになってしまうので、拭く際には細心の注意を払う。

 消し終わってからは再度、挑戦する。そっとペン先を添えて鋭ーーー


「ッ!?」


 く放す。再びの身動ぎだ。

 同じ失態を繰り返さないよう、イヅナによる咄嗟の判断が功を奏したのか、何とか対処することが出来た。

 中々に手強そうな相手に生唾を飲んだ少女は、再度ペン先を鋭ーーー


「ッ!!」


 く身体毎切り返す。今度は際どいところで身動ぎされてしまった。

 悔しさに歯噛みした彼女は別の手を講じることにする。フィーナの身体を横向きに傾けたのだ。弓弦の方に向けられた彼女は寝惚けながら、彼の腕を豊かな胸の間に挟むようにして、身を寄せた。

 それはフィーナが寝ている時に無意識にやってしまう癖だ。知影は寝惚けながら弓弦を襲ったり、口付けをひたすらしたりするのだが、彼女や風音の場合は横を向いた先に弓弦が居ると必ずそっと、求めるように彼に身を寄せるのだ。安心し切ったその表情は、弓弦以外の人物にとって信じられないものである。

 そんなフィーナの無意識を利用したイヅナは、今度こそ筆先を彼女の肌理細やかな頬にペンを鋭ーーー


「ッッッ!!」


 く走らせた!

 彼女が音速と評されるような速度で筆先を走らせた次の瞬間、フィーナの肌に髭となる三本の線が美しく走っていた。


「グっ♪」


 また親指を立てるイヅナ。今度はオプションとして片眼を閉じ、ウィンクをしている。その姿は大変愛らしく、もしこの状態の彼女を弓弦かフィーナが見ていたのなら、頬を綻ばせていただろう。

 さて、次だ。


「……すぅ…」「……zzZ」


 フィーナは弓弦の腕を抱くようにして熟睡している。ちょっとやそっとでは起きそうにない彼女を前に、イヅナの目的は達成されたかに見えたが、彼女は膝を付いて床を見詰める。

 確かにちょっとやそっとでは起きそうにないのだが、それは同時にちょっとやそっとでは身体を動かせなくなってしまったことを意味していた。

 半分の髭は書けたのだが、もう半分の髭は書けそうになかったのだ。

 シーツに反対側の顔を埋めているフィーナを動かすためには、反対側に寝返りを打たせないといけないので、体勢的に現状不可能となってしまった。再びウェットテイッシュで、努力の成果を消していく少女は肩を落とし、意気消沈気味だ。


「……」


 悔しいのでフィーナの鼻からちょび髭だけを書くと、ペンをしまう。イヅナからすれば苦渋の判断であったのだが、それなりにフィーナの美顔は保たれた。

 悲しきは弓弦。犬系イケメンから猫系イケメンへと姿を変えた彼を見ようとクロが顕現したのだが、


「ぷ…ぅくくくっ! ぶぁっはっははははははははっっ!! は、腹がっ、腹が痛いのにゃっ!! よ、捩れるにゃはははははぁっ!!!!」


 大爆笑である。

 イヅナが眉を顰めたが彼は気にしない。ゴロンゴロンと床を転がって笑い続ける彼は、暫くして息を整えてから再び彼を見て、


「ぷ…っくくぁはっ! にゃははははははっっっ!!!!」


 堪え切れずに大爆笑した。

 部屋に彼の笑い声が響く中、二人の大人はまだ熟睡中。こうも効き目が良いと、魔法を掛けた価値があると実感するイヅナだ。


「ひぃ…っ、ひぃぃっ、はぁっ、い、息が苦しい…? あ、待っーーー」


 一頻り笑うとクロは弓弦の中に連れ戻される。

 今頃精神世界の苛烈な制裁が行われているにも拘らず、猫耳弓弦は寝ている。

 イヅナはフィーナの鞄から何かを取り出すと、それを弓弦に向ける。

 パシャリという音。


「…中々良い」


 暫く間を置いて写真が出されるーーー彼女が取り出したのはカメラだ。鮮やかに取れた写真を見詰めてコクリと頷くと、いそいそ自分の鞄から大きなアルバムを取り出し中にしまった。

 かなり大きなそのアルバムは、彼女個人の所有物だ。中には写真という名の彼女の宝物の数々が詰められており、未だ誰にも見せたことのない秘密のアルバム。それを自分の鞄の中へ戻すと、ある物が視界に入った。


「……食事券」


 それは、このホテルの宿泊者に配られる食事券だった。日付の後に朝、昼、夜と書かれた食事券が二十一枚。ここから宿泊日数が七日であることが察せられるが、彼女が注視したのはそこではない。

 弓弦とフィーナは相変わらずの熟睡中。ならばと、彼女は今日の日付の「朝」と書かれた食事券と、カードキーを手に部屋を後にする。


「…孤独の食事……」


 部屋を出た館内の通路では、食事帰りの宿泊客の姿がちらほら見掛けられる。

 人の賑わう声、そして腹の虫が騒ぐ音。

 少女イヅナ十二歳。胃袋は既に悲鳴を上げている。

 時間も問題だ。既に下のレストランが朝食として店を開いている時間の制限が迫っている。だが、


「…(人が多い)」


 上下階移動手段の一つである階段は人もまた人で溢れており、彼女はここで道を閉ざされてしまった。


「(…参った…どこに迷い込んでしまった…の?)」


 更に、他の道を探そうと通路を走り回った結果、道にも迷ってしまった。

 よく予約が取れたと思う程に宿泊客の多いホテルの通路で、再び彼女の腹が鳴った。周りに聞かれていないだろうかと、顔がほんのりと熱を持ったように思えたが、きっとそれは恥ずかしさによるものだけではない。

 我慢していたのだ。夕食も食べるには食べたのだが、成長期の子ども胃袋は元気だ。起きたその瞬間に空腹を感じていた。あの時は空腹感よりも、写真も撮ろうという一種の義務感の方が強かったので耐えるーーー否、忘れることが出来たのだが現状はそうもいかない。

 可能ならば人混みを魔法で無理に退かせてまでレストランに向かいたかったが、人前での魔法使用は禁止されているので出来ない。しかし、早く行かねばと、彼女の本能が生理的欲求の達成を求めていた。

 そして、思考が袋小路に行き詰った。


「(…道を遮る人が多い。多くて…通れない…けど…焦るの…駄目。…私は…お腹が減っているだけなんだ。…お腹が減って…死にそうなんだ……)」


 冷静になって周囲を注意深く見てみると、外への非常階段があった。

 急いで側まで行ってみると、どうやら中からしか開くことの出来ない形式の扉であったので、迷わず開き外へ。

 雪が降る中螺旋型構造の階段を滑るように降りて、下へ。そしてホテルの中へ入り、レストランの中に入った。

 食事は自分が食べたい物を、好きなだけ自身で取り分けて戴くというビュッフェ形式だった。


「……」


 時間は迫っている。普通ならば急いで食物を選ばなければならないのだが、彼女は敢えて吟味の上で食物を選びつつ、同時に周りの客の声にも耳を傾けた。


「あ、ママ! これ取って!」「この焼き加減が良いんじゃのぅ」「これが無くっちゃ始まらねぇよな!」「デザートデザート♪」「〆はサラダに決まり!」「んじゃ俺もサラダ〜っと♪」「え…じゃあ俺も「「どうぞどうぞ」」って、俺野菜食えねぇからっ!! どわ野菜乗せるなぁっ!?」


 賑やかだ。

 あまりの賑やかさに眉を顰める彼女であったが、そんな中一人の少年の声が聞こえた。


「まだ牛乳欲〜し〜い〜っっ!!」


「(…牛乳! …そう言うのもあったんだ)」


 周りの声に耳を傾ける理由それは、今のように自分では気付かない料理の情報を入手出来るからだ。

 盛り盛りと料理が盛られた盆の端に牛乳を注いだコップを乗せて、一番隅の席へと持って行く。

 持って来た料理の一部に彼女の感想を交えて書くと、こうだ。

 ライス(多量)、ベーコンとウィンナー(脂が乗っておりご飯が進みそう)、スクランブルエッグ(今にも蕩けてしまいそうな卵に塩胡椒が少々掛かっている)、サラダ(瑞々しい野菜が一杯、和風ドレッシングたっぷり)、ヨーグルト(白濁とした表面に真赤な苺ソース)、牛乳だ。


「…いただきます。(…うん…ご飯がどう考えても落選確実…それに牛乳とヨーグルトで乳がダブってしまった…どうしてこんな…初歩的なミスに気付かけなかったの……)」


 ご飯とおかずの割合は三と七。もう少しご飯を足そうかと考える彼女だったが、それは次以降の機会にして食べ始める。


「ハフ…ハフ(あ、でも…うん…このスクランブルエッグは当たり。…胡椒のジャブが鋭い一撃を見舞ってKOしてくる。…サラダも良い。…ウィンナーやベーコン等の肉の、憎々しい程に濃厚な脂を流してくれる…とても爽やかな存在)」


 食べる度に思ったことを心の中で呟く彼女は、一人で食べる時のみグルメになるという少々変わった趣味の持ち主ーーーという訳ではないのだが、今日は何故か、孤独な食事をしたくなってしまったのである。

 あまりの大食い振りに視線が集まったが、彼女は眉を顰めただけで気に留めなかった。


「ハフ…(無糖ヨーグルトの酸っぱさに苺の甘酸っぱさが月と団子のように合う…デザートとして異議無しの風味。…これは…良い)」


 料理は綺麗に平らげられていき、彼女は最後に牛乳の入ったグラスを手に取り、一気に飲み干した。


「ごちそうさま。(…牛乳の円やかさがも〜、堪らない。…良い食事をした♪ …次も…楽しみだ)」


 席を立ったイヅナは静かに、悠然とレストランを後にする。


「…次以降は絶対…大盛りで食べよう…」


 その背中にはどこか、少女のものであるのにも拘らず、中年の独身男の哀愁が漂っているのだった。











 暫く館内を迷ったが、宿泊している部屋の前に立った彼女はカードキーを挿し込み、中に入る。


「にゃ〜♪」


 回れ右。外へ出た。

 明らかに見てはいけないものを見てしまったことに、思考が追い付かない。

 彼なのか、いや、彼でないのか。魔力マナだけを視てしまえば彼だ。が、明らかに彼ではない。酒臭い息ではなく、彼女が良く知る(?)彼の息の香りがしたからだ。

 こう述べてしまうと彼の口臭があまり、宜しくないもののように思えてしまうが、清潔感のある彼の口から香ってくるのは主に爽やかなハーブ系の香りだーーーこれはイヅナの感想なのだが。

 つまり、ハーブ系の香りがしたからこそ彼女は、先程見てしまった人物を“弓弦”としたのだが、どうにも違和感が拭い切れない。なので取り敢えず再度入室を試みることに。


「……」


「……」


 見詰め合う両者。しかしイヅナの瞳は疑惑の色から呆れの色へと変化していた。

 彼女の視界に映る弓弦の瞳の色は、琥珀色。


「…クロ…それ良くない」


 彼女にすっかり浸透してしまった自身の愛称に「にゃはは」と、笑って返す。

 そう、彼女の前に立っていた弓弦は、正確にはクロに身体の支配権を奪われている弓弦であった。

 取り敢えず、何かしらの悪戯をする気であるのは間違い無いので彼女が彼を咎めるが、どうやら暫くそのままで居たいのか、首を左右に振られた。


「…フィーナは?」


「まだ寝ているのにゃ。起こすのかにゃ?」


「…別に良い。…ショックを受けると思うから」


「にゃはは、面白いそうにゃんだけどにゃぁ?」


「……弓弦もショックを受ける。…だから絶対に駄目」


 最悪また眠らせようかと思案するイヅナであったが、


「ふぁ…騒がしいわねぇ…」


 既に時遅しであった。


「あら、あなたも起きてたの? もぅ…起こしてくれれば良かっ…?」


「…ん? どうかしたかフィー?」


 弓弦のフリをし始めたクロが彼女に訊き返すが、まるで時が止まってしまったのように彼女は、彼の瞳を覗き込んでいた。


「…イヅナ、ねぇイヅナ。弓弦がおかしくなっちゃったみたいなの。私の見間違いかしら…っ?」


「っ!?」


 口だけを動かして、困ったような響きが込められたフィーナの声。

 イヅナが驚きに眼を見開いたのは、彼女のそんな発言に驚いたからであろうか。


「おいおい…おかしいも(にゃに)も、俺は俺だぞ? どこもおかしくにゃいと思うが……」


「……え? あなたそれ、本気で言ってるの? おかしくないと…本気で?」


「…? 本気で言っているつもりだが……どこかおかしいのかにゃ?」


 猫耳に猫髭に猫語という主人の変貌がおかしくないはずなどない。

 あまりの様子が流石におかしいと思ったのか、彼女が眼を細めると弓弦の身体を流れる魔力マナが視えた。


「…えぇ、そうね」


 そして気付く。眼の前の弓弦の中で意地の悪い笑みを浮かべる悪魔猫の存在に。


「…イヅナ、少し部屋を出てくれる?」


「…コク…分かった」


 凄味を帯びたフィーナから放たれる、静かなオーラに頷くしかなかったイヅナは、テクテクと部屋の外に出て行った。


「…さて、と。気分は悪魔祓いかしら? その人の身体返してもらいたいのだけど…良いかしら? 泥棒猫」


 身体から溢れた魔力マナが空気を震わせ、小さな部屋の備品に音を立てさせた。


「…謝るのなら今の内よ。乗っ取られているとは言え、主人の身体に危害を加えるのは不本意なの」


「…にゃはは…はいはい、分かったのにゃ……」


 クロとしては物足りないものがあったのだが、フィーナの細められた翡翠色の瞳から発せられる、剣呑な光に引き下がる。

 瞳の色が元に戻り、崩れ落ちた弓弦の身体を支え、頭を自分の膝に乗せた彼女は暫くの思案の後に、風の魔力マナに働き掛けて小さな風を吹かせた。すると、彼女の鞄が風に押されて横に倒れた。


「…あら? 丁度、一番上に入っていたわね。ふふ…♪」


 自分のカメラを手に取り、静かに眠っている弓弦に向けて徐にシャッターを切る。


「ふふ…本当、カッコ良くて…可愛いわね…♪」


 フィーナは陽溜まりのように微笑みながら、熟睡する弓弦の髪を優しく撫でる。


「…まだ朝だけど。ちょっとぐらい、良いわよね? ふふ…♡」


 二人の影が一つに重なる様子を最後に、イヅナは静かに扉を閉めた。


「…二人共仲良し……♪ …凄く嬉しい」


 因みにこの後、昼を回るまで弓弦が熟睡してしまったので、二人は今日行おうとしていたスケジュールを変更せざるを得なくなるのであった。

「クス…イヅナ、楽しそうですね。楽しい旅行をされている様で何よりです。弓弦様のあの姿も……はぁ、願わくば私もあの場で戯れたかった……」


「おろ……そうだね。うん、私も直接見たかったなぁ」


「…レイアさん」


「フ~ちゃんも…皆、楽しそう。本当に、家族の旅行してる……。そんな姿はやっぱり、直接見るに限るから」


「…少し、驚きです」


「おろ、何が?」


「レイアさんもその様な表情をされるのですね」


「…。えっと…えへへ、どんな表情かな」


「いえ…何でも御座いません。戯言に御座います」


「…うん、そうだね。やっぱり羨ましいって思っちゃうかな! ユ~君の楽しそうな姿は全部、側で見ていたいって思うもの。風音ちゃんもそうでしょ?」


「…その呼び方で呼ばれたのは初めてです。ですが…そうですね。私も…同じ思いです」


「よしっ、じゃあユ~君との馴れ初め、訊かせてもらおっかな!」


「…あらあら、御話しなければならないのですか? 斯様な場で、私が…ですか?」


「勿論だよ? 皆も気になっていると思うな~」


「…。クス、私めの御話なぞ、そう面白いのものでは御座いません。皆様の御耳汚しになるだけですよ。はい、予告を御願いします、レイアさん」


「ありゃ…逃げられちゃった。風音ちゃんみたいな和服美人が、 どうやってユ~君のことを好きになったのか気になっただけなんだけどなぁ。…私事は後回しだね、この場に居る以上やらないと……『流れる時。無限なる時。我は常に、静寂と共に在った。全てが刹那だった。世界の寿命、生命の寿命…その全ては、我の瞬き一つで始まり、そして終わりの螺旋を繰り広げていたのだ。…然し…いや、今はまだ、尚早かーーー次回、見上げる月、霊にミチテ』…やはり…不可思議だ。…そうだね。私もまだ…時期が早いと思うな」

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