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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第四異世界
186/411

朝に響く

 揚物パーティを終えた次の日、夜明けと共にオルレアは眼を覚ます。

 朝(もや)に包まれている『シリュエージュ城』は、新たな一日の訪れを今か今かと待ち焦がれているようであり、人は未だ夢に浸っているのか、歩いている人影はまばらだ。


「…っと…凄いことになってるっすね」


「……すぴー…すぴー……」


「……弓弦…様ぁ…」


 ぐるりと周囲を見て自分の状況を確認すると、何とも百合の花が咲いているような状況であった。

 寝顔から鑑みるに全員幸せそうな夢を見ているようであり、オルレアはほっこりとする。


「……ぁ、だ…駄目弓弦…幾ら私でもそんなの…どうにか…なっちゃう……」


 一瞬にしてジト眼になる。


「‘まったく…どんな夢を見ているのやら…知影は平常運転過ぎるっすね’」


 “テレポート”で一人、眠れる美女達の拘束から脱け出すと頭の中に、『例の件をそろそろ、頼まれてくれるだろうか』と明朗な声が聞こえてきたのでそれに従うことにする。


「んん…っ、はぁ…」


 深呼吸すると清々しい空気が身体の中に入ってくる。

 喉に感じられる微かな水気と、魔力マナの感覚に犬耳がピクリと動く。いつの間にか“イリュージョン”が解除され、露わになっていたようだ。

 再度“イリュージョン”で犬耳を他者の眼に触れないようにすると共に、“パーマネンティ”で魔法の効果を延長させると街に繰り出した。

 『シリュエージュ城』が静寂に包まれているのなら当然、城下町である『エージュ街』も静寂に包まれている。家々の窓からカーテンが閉められているのが確認出来た。

 微かに香ってくるのはレストランが仕込みでもしているのだろうか。胃袋を刺激するような香りだ。

 オルレアはそんな街路を歩いて目的地に向かった。大通りを外れ、路地を歩く。

 かつて彼女ではない彼が『カリエンテ』と呼ばれる城下街を訪れた時は、平和な喧騒に紛れて、悪意とも呼べる人間の負の感情を感じることが出来たのだが、この街からそれは感じない。感じるのは平和の息吹そのものだ。

 ヴェアルに回収を依頼された『路地裏の星屑』は赤提灯が目印だ。

 店先に立ったオルレアは、幻魔法“ミラージュ”を発動させて、彼女を中心として一定の距離を人眼から隠した。


「ほぅ…手慣れているな」


 店から出て来た狼ーーーヴェアルはそんな彼女の手際を褒めてから中の片付けが終わっていることを伝え、「君は穴を開いておいてくれ」と自らの魔法で店を持ち上げることを申し出た。


「その前に」


 オルレアは自らの中に魔力マナが流れ込んでくるのを知覚した。

 ヴェアルが彼女に掛けた魔法が、彼女の魔法によって体内に吸収されたのだ。

 “サイネス”、“サイコネス”、“サイコキシス”、“サイコム”、“リフレクティングサイコ”、“サイコブラスト”と、彼女の頭の中に次々と魔法の名称が浮かんでいく。


「私の魔法の一部を君にも使えるようにした。役立ててほしい」


「ありがとっす。じゃあ…開くっすよ?」


「お願いしよう」


 身体から彼女が魔力マナが吸われるような感覚を覚えた瞬間、眼の前の建築物が微かに持ち上がる。

 念動属性もまた、作用させる物質によって魔力マナの消費量が増減するので、家一軒を持ち上げる程の魔力マナとなると、相当なものである。


「『真なる幻、其は理を捻じ曲げ我が身を化せん』…そして、『出でよ不可視の箱』…良いっすよ!」


 魔法によって持ち上がった店が、魔法によってその大きさを小さくされると、続いて地面の間に黒い穴が出現し、店を吸い込んでいった。

 「これで良いっすか?」とオルレアがヴェアルに確認すると、狼悪魔は頷いてその姿を粒子化させ、彼女の中に戻って行った。


「ふぅ…っ! 一仕事終わったっす〜♪」


 大きく伸びをしてそのまま頭上を見上げると、青空に白雲が点在している。太陽はいよいよ地平線の彼方からハッキリと顔を覗かせ街の一日が始まろうとしていた。

 そんな時だった。


『弓弦』


 悪魔猫クロの警告に彼女は緩んでいた気を引き締める。

 背後に、誰かが立っている。

 勿論彼女にとってそれが誰であるのかは明確にも程がある答が用意されている問いだが、彼女は敢えて「誰?」と誰何の声を上げた。

 もしここが戦場ならば、こうして声を上げることは自らの居場所を相手に教えているようなものだ。

 もしここにアンナが居れば彼女の行動を咎めたであろう。が、この場に彼女は居ない。

 沈黙が訪れる。相手が応えないのだ。

 

「答えて」


 再度促す。しかし、やはり返事は無い。

 「何のつもり?」と、彼女は相手がどう出ても対処出来るように思考を巡らせながら、口の中で言葉を発する。

 すると突然、現れたのと同じように気配が消えたので背後を振り返る。すると、振り返る途中の視界で

キラリと光る何かが映ったので視線を落とすとそこに、一枚の紙が落ちていた。


「04771…?」


 飛ばないように一発の銃弾で押さえ付けられていた紙を拾い、その文字を読む。何かの記号か、暗号かと最初は考えたが、すぐに答えに至る。

 念のため紙の裏も見てみるが、それ以外には何も書かれていない。

 これを渡してきた主、そしてこの五つの番号。何かしらの意図を感じずにはいられないものだが、彼女はそれを半分に折り、銃弾共々メイド服のエプロン裏に縫い付けられたポケットにしまった。

 そして、来た道を引き返して『シリュエージュ城』に向かう。

 先程に比べると道行く人の数が増えたであろうか。

 露天の商人が商品を台の上に置いており、八百屋のシャッターが上がっていく。そこが偶然馴染みの店であったので彼女は足を向けることにした。


「おはようございますっす」


「おはよう! 今日も早いねオルレアちゃん! 良い野菜入ってるけど買ってくか?」


 白髪混じりの男が両手に野菜を持って彼女の眼の高さまで上げる。瑞々しさ溢れるそれを見て、「美味しそうな野菜っす」と内心彼女は呟いた。


「いえその…今日は、お別れの挨拶に来ただけっす」


 だが、訪れた理由は食材の購入ではない。別れを告げるためだ。


「…そうかい。お別れなのか……」


 以前この八百屋は特売時に、野菜の数種類が『エージュ街』最安値になることをジェシカから教えてもらい、特売日の度に買いに来ていたオルレア。当然この男性とは親しくしていたのだ。

 なので、寂しそうな表情をした男性の見て、心苦しい感覚を覚えた彼女に「また来るっすよ」と自然と言葉を紡がせた。


「おぅし! ならこれ、持ってけ!」


 感極まったのか眼を赤くした男が、持っていた野菜とその他、様々の質の良さそうな野菜を袋に詰めて少女の前に差し出す。


「え、あ、あの!? そんな勿体無い、要らないっすよ!!」


「良いってこと! 四の五の言わずに持ってけ!!」


 全力で断っていた彼女だが、やがて折れてそれを受け取り、帰路に。


「弓弦…どこ行ってたの…?」


 暫くして城の門に差し掛かると、幽鬼のような足取りの知影が現れた。


「ねぇ…どこ行ってたの。ねぇ弓弦、ねぇねぇねぇねぇっ!!!!」


「ちょっと…知影? 何するっすか…」


「んしょっと……」


 詰め寄って来る彼女によって壁際に追い詰められると、『…弓弦。知影のストレスが凄く溜まってるのにゃ』とクロの声が聞こえる。

 視線だけを左右に動かすと、丁度そこには彼女の手がある。さらには足の間に足を入れられ、身動きを封じられた。


「…なぁ、俺様の物になれよ」


 知影が低い声で囁くように、男言葉を使う。

 どうやら普段自分がやってもらえないことを、代わりにしてやろうとしているようである。


「お前からは、他の女共とは違うものを感じる…そう、群がる女狐とは違う、俺様にピッタリな女の…な」


「あ〜…そうっすか」


 真面に取り合うつもりはないオルレアの台詞は棒読みだ。理由としては、一度味を占められたらヒートアップするためだ。


「拗ねんなよ。分かるぜ、『他の女狐』と訊いて嫉妬をするお前の気持ちがな。オルレア」


「はいはい…んっ!?」


 唇への突然の感触に抵抗を試みるが、強く壁に押し付けられ、口の中に何かが差し入れられる。

 口の中が乱暴に掻き乱されるような感覚に思わず、差し入れられたもの――知影の舌を噛んでやろうと言う気分になるが、流石にそれは、良心の呵責に堪え兼ねるものがあったので止める。

 しかし、やられ放題は好きではないのでお返しといわんばかりにやり返す。

 流石に周りの通行人の眼汚しになるといけないので、“ミラージュ”の魔法を使用して自分達の姿を隠している。だが恥ずかしいものは恥ずかしいので、顔が赤くなる感覚をオルレアは覚える。また身体に力が入らなくなっていくような感覚も覚えたが、そちらは気の所為と全力で見做した。


「はぁ…っ♪ 最っっっ高…っ♡」


 彼女の唇が離れたのは、体感時間にして十数分後であろうか。軽い酸素不足に陥りかけるオルレアである。

 恍惚とした面持ちの知影は名残惜しそうに、互いの間を伝う透明な架け橋見つめると、


「第二ラウンド……♪」


 再度それを渡って唇を重ねさせてくる。

 彼女も彼女で呼吸を整えていたようだが、またしても不意打ちとして喰らったオルレアは、ロクに呼吸が整えられずにもがく。

 それは、側から見ると完全に襲われている図ではあるのだが、彼女の魔法により気に留める人間は居ない。


「あらあら♪ 姿が見られないと思ったら、買物に行ってらしたんですか?」


 否、居た。


「…地面に直接置かれているのかと思いましたが、どうやら微かに浮遊させているようですね。流石オルレア様に御座います」


 知影の背後に現れた存在ーーー風音はニコニコと笑っているように、見せている笑顔でオルレアの救助要請の視線を受け止める。


「誠に、僭越ながら私が先に、御運びさせて頂きますね」


 その瞳は語っている。「直ちに御止め下さいませ」と。


「……(フルフルフル)」


 しかしオルレアとて、逃げられるのならばすぐに逃げ果せている。だがここまで知影と密着していると、仮に“テレポート”で逃げようとしても必然的に彼女も着いて来てしまうので結果、再び押さえ付けられてしまうのだ。

 だからそのため、どうしようもなくなってしまっているのだ。


「第三ラウンド…っ♡」


「んふぁっ!? ど、どこに手を入れてるっすひゃあっ!?」


 オルレアの両手を弓で押さえ、空いた手で彼女の服の中に手を入れる知影。相変わらず口は塞いだままであり、オルレアは若干気が遠くなるのを感じ始める。

 真赤に紅潮した彼女の頬を涙が伝い落ちる。

 その表情を見ていると風音は、背筋にゾクゾクっと何かが駆け巡るのを感じた。


「ん…! んっ! あっ! ひゃあぁっ!?」


 身体が熱く甘く、疼くあまり艶のある声を発する少女は、もう耐え兼ねたのか、とうとう反撃に出た。堪忍袋の尾が断ち切られたのだ。なので、


「痛っっっ!?!?」


 舌を噛み、


「こんのッ!!」


 足を踏み、


「馬鹿ぁぁぁぁッ!!」


 全力の平手打ちをお見舞いした。

 手首のスナップが効いた一撃は彼女の頬に立派な紅葉を形成し、その身体を空中で錐揉み回転させる。


「しっかり狙ってぇッ!!」


 召喚される、ハリセン。

 振りかぶったオルレアは一本足打法を用いて知影を、ジャストミートさせる。


「ハリセンホォォムランッッ!!」


 低空飛行で宙を飛ぶ彼女が向かう先には、風音が立っている。

 空いている片手で薙刀を踊らせた彼女もまた、タイミング良く得物の柄を突き出す。

 「あらあら」と微笑んだのは、柄が知影の腹に減り込んだのを確認してからだ。小さく呻いた知影は地面に落ちて物言わぬ状態となるのだった。


「可愛らしゅう御座いますね。私…御恥ずかしながら胸の高鳴りが抑えられません」


「はいはい、それは良かったっすね」


「クス…怒って居られますか?」


「怒ってないっす。別に、助けてほしかったのに助けてくれないから怒っている訳じゃないから安心するっすよ」


 知影を放置して城内を歩いている風音の隣でオルレアは頬を膨らませている。

 明らかに怒っているに違いない姿なのだが、本人は認めるつもりがないようだ。


「…申し訳御座いませんでした。つい……」


 無論風音とて、最初は止めに入ろうと思ったのだ。しかし、ぐしゃぐしゃになった少女の姿を見ている内に、もっと見たいという衝動に襲われ、完全敗北してしまったのだ。故に、謝罪をする彼女であった。


「あ、謝らなくても良いっす! 別に怒ってないっすから!」


「…本当で御座いますか?」


「本当っすよ。どうやったら信用してくれるのか教えてほしいっす」


 荷物は風音が渡してくれないので彼女が持ったままだ。

 手が空いているオルレアが城庭への扉に手を掛けようとしたところで、それを風音が阻んだ。

 何も言わず腕を小さく広げてみせた風音の要求に少女は、即応えることに。

 二つの人影が一つに重なる。

 普段は自分が相手の胸で鼓動を感じている分、相手に自らの鼓動を聞かれるのが恥ずかしくなって、小さく咳払いをした風音は腕の中に収まる少女の容姿を見る。

 亜麻色の髪から優しい香りがする。使っているシャンプーやリンスが違うので、いつも彼女がふとした時に鼻腔に覚える“彼”の香りはしないものの、今の彼女の、彼女らしい香りが一呼吸毎に香ってくる。

 思わず、女性としての有りっ丈の悦びが込められた溜息を零してしまうと少女が小さく震えた。

 どうやら眼に見えない犬耳に吐息が掛かってしまったようだ。


「……♪」「……♡」


 再び小さな溜息。それはどちらの感情がどちらに込められていたのだろうか。

 身体を預けられるという感覚に慣れていない風音の思考は、白いもやが掛かり始めている。

 オルレアの口から吐かれる吐息が前身頃の間から着物の中に入り、肌を撫でていく。

 「御慕い申し上げています」と、出そうになる言葉をすんでのところで飲み込む。だが、どうして飲み込んでしまったのかが分からなくなる。

 それは、発してしまったところでどうせ届かないという諦めによるものであろうか。それとも、発してしまうことで腕の中の少女が心苦しく思ってしまわないようにするためかーーーいや、ただ単に気分というのが正しいであろう。

 それにもしかしたら、そういった類の言葉をオルレアが発してくれることを期待してもいたのだからだ。

 ーーー突然鼻腔に、別の香りが香ってくるようになった。心臓が締め付けられたかのように苦しくなり、自然と息が荒くなる。視界の焦点が少女の一部分を捉え、それ以外の部分を映さなくなる。


「‘…風音? どうかしたっすか?’」


 そんな彼女の様子に、流石に違和感を感じたのか少女が、下から見上げてくる。

 淡い桃色の中で映る彼女の瞳は、紅く染まっている。

 薄く眼を見開き、動揺の姿勢を見せた少女は、次の瞬間そっと瞼を閉じる。


 ーーー弓弦様。


 衝動を抑えられずに、抗い切れずに風音は、少女のものと、自分のものを重ねる。

 永遠とも刹那とも取れる時間を支配する静寂。まるで世界に二人だけしか居ないような、二人の意識が重なって溶け合っていくようなそんな、甘く切ない感覚が全てを満たしていく。

 視界が光で溢れ、それが収まった時そこには抱き合う二人の女性ではなく、一人の女性が立っていた。

 自分の身体を抱くようにして両肩を両手で掴み、身体を揺らした女性は次の瞬間、元の二人に戻っていた。

 抱き合い、見つめ合う二人は、余韻に浸っているかのように暫くお互いの顔を凝視する。

 やがて片方がゆっくりと顔を離すともう片方が求めるようにしてそれを追い、重なった。


「あっ!!」「「ッ!?」」


 だが知影の声が聞こえた瞬間、今度こそ二人は身体ごと離れた。


「風音さん、弓弦! 今何してたの!?」


「クス…オルレア様の髪に付いていた埃を取っただけで御座いますよ? そうですよねオルレア様」


 即座に助け舟を出したのは風音だ。


「…風音の言う通りっす。ほら、先輩達が待ってるから行くっすよ」


 風音の瞳が赤く染まる時。それは彼女のストレスが最大限に溜まってしまった時とオルレアは解釈している。

 なので先程の抱擁を始めとした一連の行動は、彼女のストレスを発散させることを目的として行ったのだ。行ったはずなのだ。

 だがオルレアは、それとは別の理由が自身の中にあるような感覚に囚われた。そう、彼女自身自覚していない何かがあるような気がして、内に住む悪魔達に問い掛けた。

 しかし、帰って来たのは否定の言葉。クロ曰く、『分からにゃいにゃ』だ。


「遅いぞオルレア。その野菜は…街の人から貰ったのか?」


「そうっすよ〜。持って帰るっす」


「そうか。良かったな」


 アンナの家の前ではシテロがオルレアの中に戻ったのかアンナ、ジェシカ、ヨハン、ディーの四人が三人を待っていた。特にヨハンとディーの見送りではない様子にオルレアが首を傾げると、「僕ぁヨハンと一緒(い〜っしょ)に君達の部隊に用事があるんだな」と、ディーが理由を教えた。


「先輩、出発の準備は出来てるっすか?」


「馬鹿にするな。もう終わっているから行くぞ」


「あ、先輩っ」


 『アークドラグノフ』に向かうため、小型飛空挺『ピュセル』の下に向かったアンナをオルレアが追い掛ける。

 当然知影も追うので、風音も彼女に続こうと踵を返すと、ヨハンに呼び止められた。


「後で僕達も、ノア…『アークノア』って言う旗艦で『アークドラグノフ』に向〜かうから、向こうに着いたら(さ〜き)にレオン坊やに、僕達が行くことを(つ〜た)えておいてくれると(う〜れ)しいんだな。(よ〜ろ)しく頼まれてくれるか?」


「はい、畏まりました」


 伝言を頼まれた彼女は頷くと、今は姿を変えている主の下へと急いだ。

「ジングルベール、ジングルベール…鈴がなる。鈴のリズムに光が…眩しい」


「イヅナー? 用意出来てる? 今日は早く寝るわよ」


「…うん。明日…凄い楽しみ」


「ふふ…そうね。私も凄い楽しみよ♪ ほら、手が止まってるわ」


「……」


「イヅナ…?」


「……」


「もしかして…寝ちゃったのかしら?」


「…起き…てる」


「あら…説得力が皆無ね。ふふ…なら後は私がやっておくからもう寝なさい」


「……コク」


「…本当に……可愛いわ。愛おしくて堪らないわ…そうですよね? ご主人様…♪ …。ん゛んっ…『時が少し遡ること暫く前、二人の妖精がある街を訪れていた。並んで歩く二人の姉妹は何のためにその街を訪れていたのだろうかーーー次回、クリスマス短編2 “妖精乙女のクリスマス”』…聖夜に響く鈴の音に、耳を傾けなさい」


「…すぅ…ん……」


「ふふ…いつ見てもあの人みたいな天使の寝顔ね…♪」

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