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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第四異世界
183/411

街に繰り出す

 炬燵に入ってそれぞれくつろいでいる三悪魔は、ようやく感じられるようになった二つの気配がする方向を見遣る。

 既に食べる物も無くなり、することと言えば飲物を飲みながら一息吐くこと。それか電源が入ったテレビで外の光景を流れる他無く、時間を持て余しているところであった。


「戻ったの〜」


 耳触りの良いソプラノボイスと共に戻ったシテロは、同じく戻って来た弓弦の頭の上に子龍形態で乗っている。

 今は、弓弦がここに来てから七時間程が経過しているであろうか。どこかに行ったアンナ達は戻って来ることなく、相変わらず一人で二階の部屋で眠るオルレアの警護のためにに、蟷螂かまきり悪魔アデウスが外に出ている。

 なのでこの空間に居るのは系一人と四悪魔だ。

 ヴェアルが魔法によって動かし、紅茶が淹れられた湯呑みが、並んで炬燵に入った一人と人型になった一悪魔の前に置く。


「これで一息吐くと良い」


「あぁ、すまんな」「ありがとなの」


 同時に啜り、同時に深く息を吐いた一組の男女の内、シテロはニコニコと柔らかな笑みを浮かべているが、弓弦は少しだけ苦笑していた。

 同時な行動が気になるのは当然な残され組の内、クロは琥珀色の双眸を面白そうに細めながらそれを見詰める。


「…変な視線を向けないでほしいの」


「にゃはは、別に向けてにゃいにゃ〜?」


「向けているから言ってるの。そろそろ自覚持った方が良いと思うのだけど…ね、ク〜ロ?」


「にゃ…?」


 居なくなる前より若干冷然とした声音にクロは眼を瞬かせながら、内心で「はは〜ん?」と呟く。どうやら彼は勝手に勘違いをしているようだ。


「もう少ししたら戻らないといけないな……」


 画面に映っているアデウスが、ツッコミの練習なのか夕陽に照らされハリセンを振っている。


「ぐはっ!? い、いつの間にこんなに時間が経っていたんだ!?」


 その光景を見た弓弦が炬燵に突っ伏した。休憩のために滞在しているが、そろそろ夕飯の支度をしなければならない時間であったのだ。


「植え付けられた者の性か…お見逸れ入る」


「自己で用意するであろう、子どもではなかろうに…貴様は甘やかし過ぎだ」


「バアゼルの言う通りなの。ユールは甘やかし過ぎなの。皆だって大人なんだから料理ぐらい用意するし、自分から、進んで何も用意しないぐ〜たらな嫁を作っちゃ駄目なの!」


「シテロの嫉妬は言えてるにゃ。甘やかし過ぎは人を駄目にするのにゃ」


 しかし「夕飯を支度したい」という彼の考えは、彼以外の全員によって却下され、彼は紅茶を口に含みながら低く唸った。


「…?」


 もう一悪魔、訝し気に低く唸ったのはクロであった。が、尻尾でクエスチョンマークを形作りながら黙考した後、首を左右に振る。浮かんだ考えを振り切ったようだ。

 しかし、それであっても、やはり弓弦は主夫の衝動に駆られるのである。

 実は、今朝カツを揚げた時に使用した油が鍋に張ってあるのだ。もう帰還するので、最後の食事には揚げ物パーティーをと思っていた彼は不満に気分を落としていた。

 何故であろうか。何もしないということが無性に、生理的な作用を及ぼすとまではいかないのだが、嫌悪感を抱いてしまうのだ。


「…炊爨すいさんし、馳走を振舞うことが出来ぬだけでこれか。女か此奴……」


「調教され切ってるのにゃ。本当に…おんにゃの子からしたら優良物件以外のにゃに者でもにゃいのにゃ……」


「人に熱を与えるために生を受けた存在か。見事なものだ…が、それ故に恐ろしくもある。その結果、いつか自身の熱を無くしてしまうように思えてな。人は、全能の存在ではない。君は、与えてばかりで見返りを求めないのが問題だ。聖人君子は結構なことではある、がな」


「ユールがお陽様じゃなくなるのは嫌なの。お陽様は皆を照らさないといけないけど、無くなるのは絶対に嫌なの」


「うぐ……っ」


 純粋な心遣いからくる言葉に、思わず溜息を吐く。為になる言葉は得てして、耳に痛いものなのだ。


「キシャ!!」「どわぁっ!?」


 さらに弓弦は、突然炬燵の中から出て来たアデウスによってハリセンを打つけられた。衝撃の元凶にジト眼を向ける彼だが、蟷螂は知らん顔だ。


「戻ったか『空間の断ち手』」


「キシャッシャシャシャシャ」


 「帰って来たからな」とハリセンで示したテレビの画面では、アンナの姿があった。

 「にゃ」とクロがリモコンを操作するとそれが二分割され、部屋の外で扉に耳を当てている知影の姿が映った。風音の姿は無い。


『寝ている時はずっと、変わらずの間抜け顏だな。まったく……』


「ん?」


「消音を解除したのにゃ」


 聞こえてきたアンナの声に弓弦が悪魔猫に視線を遣ると、彼はリモコンを操作していた。色々と謎なテレビである。


「いやわざわざ別に、解除する必要は無いんだが……」


「にゃっはっは。こう言う独り言…気ににゃらにゃいかにゃ?」


 悪魔の笑みを浮かべる悪魔猫は実に楽し気だ。


『実は起きてたり…は、ないか。あの男じゃあるまいし、こいつは素直だからな…こんな、こんな顔をしていると言うことはつまり、熟睡している証だ……』


 ベッドの端に腰を下ろした彼女は、そこで眠る美少女の髪を掬い、そっと手櫛をする。

 手入れが行き届いた亜麻色の髪は、彼女の指の間を通り抜けてハラリと元に戻る。背中を向けているので表情は見えないが、彼女は暫くそれを繰り返していた。


『そう言えば…鍋に油が張ってあったな。最後は残った食材で揚げ物パーティーでもするつもりだった…そのつもりで朝にカツを揚げたのだったら、何と言うか…お前らしいな。あのハリセンと言い、用意周到で結構なことだ。…誰に』


 その声音は、弓弦がかつて聞いたことがない程に柔らかなものであったのだが、


「……何のつもりだ?」


「駄目なの」


 シテロに耳を塞がれた弓弦の耳には届いていない。

 実は彼がされるがままになっているのは彼なりの配慮ーーーいや、それとも、そうされなければバアゼルかヴェアルによる、何かをされるのかもしれないと予期していたのだろうか。

 もっともいずれにせよ、彼の犬耳にその言葉が届かないのだけは確かである。

 声が聞こえないので、そんなアンナの様子を見ているしかなかった弓弦だが、ふと、姉から一時的に託された刀が消えていることに気付いた。


「ユールの犬耳…可愛いの…♪」


『…夕飯は外で食べに行く。だから、今日は私達の食事なんて一切気にせずに、ゆっくり休むと良い。…本当にお前は世話焼きだからな。こうでも言わないと、今にも食事を作ろうとして眼を覚ましそうで、面倒でいかん。…フ、ではな』


 最後にくしゃりと髪を撫でてから、アンナが部屋を後にしようとすると、別画面に映る知影が一階に移動した。

 立ち上がる際の微かな床の軋みを聞いたのであろうか。アンナが部屋の扉を開ける頃には彼女は、椅子に座っていた。一階にも風音の姿は無い。


「ふむ…瓢箪から駒か。『凍劔の儘猫』の蛮行には鼻持ちならんものがあるが、此れで夕餉ゆうげの用意をせぬとも良いな。良かったではないか」


 クロからリモコンを奪ってテレビを消したバアゼルはそのまま、それを炬燵の上に置く。が、


「ん〜♪」「ふぁ…や、止めろぉ…っ」


 こちらはどうも、お楽しみ中のようであり、弓弦はシテロに犬耳を弄ばれている。涙眼になりかけている彼の息は荒い。


「然龍、止めておけ。避けられても我は知らんぞ」


 そんな彼に助け舟を出すバアゼルだ。

 無事に解放された弓弦が安堵の息を吐く中、渋面を作っているシテロは頬を微かに膨らませていた。あまり面白くないのであろうか。

 彼女としては、このままいつまでも、特に理由も無く弓弦の犬耳を触っていたいと思っていた。ハイエルフの繊細な部分である犬耳を触られ、恍惚としている弓弦を見ていると、幸せな気分になれるのだ。

 当然彼からしたら迷惑以外の何物でもない。が、日頃彼自身が夜、フィーナにしている分、それが跳ね返ってくるといったところか。

 自業自得である彼だが、シテロは徐々に熱を持っていくお陽様を、さながら湯湯婆ゆたんぽのように抱きしめたくて仕方が無いのだ。炬燵に湯湯婆。暖を取るには快適な装備である。


「……そう言う訳でもあるけどそう言う訳じゃないの」


 兎に角、シテロは弓弦を離したくなかった。

 幼稚な心意気とも取れるが、敢えて表するとすれば、独占欲が働いたと表せようか。

 実をいうと彼女、先程のアンナの言葉があるまで外に戻ろうとする弓弦の足を拘束していたのだ。彼は何気無い素振りを装っていたが、その視線は時々炬燵に注がれ、挙動も若干怪しかったのである。

 故に彼女は彼の行動を許すまじと、炬燵の中で彼の左足に自らの右足を絡めた。いざという時は関節を極めてまでの拘束を試みようとしていたのだ。

 勿論今もまだ、足は絡められている。


「なぁシテロその…この足外してくれないか?」


「駄目なの。まだユールが外に出て行かないって保証がどこにも無いの。何かで繋ぎ止めてないと、外に出て行っちゃうかもしれないの。だから、駄目なの」


「いや…あのなぁ? 行かないから。今行く理由無いから。だから行かない、取り敢えず、離してくれ」


 絡み、直に触れ合うその感触に焦るものを感じるのは何も、弓弦に限ったことではないだろう。

 柔らかく、温かなそれは世の男を魅了する魔性の美を醸している。炬燵の中は正に、戦場と呼べようか。

 弓弦は悪意の無い悪意ーーー言葉にすると明らかに矛盾している彼女の意思ーーー否、いうなれば男の意思と戦っていた。

 彼の認識の中でシテロという女性は天然だ。事ある毎に居眠りをし、いつも眠たそうな雰囲気を放っている存在だ。

 やはり長きに渡る時を生きている悪魔らしく、その知識は深いはずなのだが、彼女と知的というイメージを結び付けることは中々に難しいものである。知的というよりは、能天気なのだから。

 しかし今はどうだろうか。

 弓弦が身の危険を感じずには居られない、そんな鋭い眼光を彼女は見せているのだ。

 ヴェアルが呟く。「プレッシャーに呑まれるか、弓弦」と。

 ーーーそう、弓弦はシテロの存在に気圧されていたのだ。


「…バ、バアゼル」


「我に構うな。我は存在せぬものとして扱え。故に知らん」


「いや…その…」


 自分の左に感じるシテロを極力意識しないようにしながら、弓弦は救助をバアゼルに求める。ついでにヴェアルにも。


「服って用意出来ない…ものなのか?」


 シテロを離すのはこの際諦めることにした弓弦だが、一番の問題は何としても解決せねばならなかった。

 一番の問題とは即ち、所謂「生まれたままの姿」だ。

 弓弦の精神世界であるこの『炬燵空間』は、現実世界における物質の存在を可能としないーーーと、それが彼のこれまでの認識であった。


「…さて、此処は我の世界ではない。仔細には解せぬが…そもそも存在の理が異なっているが故に、並の方法では不可能であろう」


 しかし深く考えてみると、その認識には明らかな矛盾点があったのだ。

 今更になって気付いた弓弦を見るバアゼルの眼差しは穏やかそのものだ。


「が、既に異なる理の具現化をやっているだろう。失念したか?」


 その言葉に思案の様子を見せる弓弦であったが、やがて何かに思い至ったのか眼を、驚愕に彩らせた。


「ーーー!!!!」


 何故気付かなかったのか。

 バアゼルの言葉通り、弓弦はこれまでにやっているのだ。そして、つい先程、似たようなものを見たのだ。


「……は、ははははは」


 蜜柑に茶葉だ。


「…。馬鹿か」


「…これは迂闊だったな。活路を拓いたのは私か」


 弓弦はもう、笑うしかなかった。

 そう、既に出来ていたのであり、これは「馬鹿」とされても仕方の無いことである。クロに至っては大爆笑だ。


「……」


 『炬燵空間』その主は、弓弦だ。つまり弓弦が望みさえすれば、幾らでも道具など用意出来たのである。

 それは、今更にも程が過ぎる程のことではあるのだが、彼からしたら世紀の大発見にも相応しく、思わず即座に実行に移さなければならないことであった。


「‘無理なの’」


 しかし彼の考えを否定したのはまたしてシテロであった。

 その言葉は何故か、弓弦の耳元で囁かれ、彼の思考を一瞬にして止める。機械が軋んでいるような音を立てるかのように視線を動かした弓弦の前の炬燵机は、かつて彼が『カリエンテ』で購入した布や、風音のために作った着物に使用した反物の余りがあったーーーあっただけであった。


「この空間に持ち込めるのは、“アカシックボックス”でしまってかつ、ユールがそれをハッキリと認識している物だけなの。だから、直接服を出そうとしても、その服の一定の基準となるイメージや服自体が無かったりすると、出せないの」


「な…なら!」


 それを聞かされた弓弦はすぐに別の案の実行を試みる。“アカシックボックス”の中に彼が入れたのは、「もしもの時」に対応出来るようにするため。そして今はその、「もしもの時」だ。

 布の上に、幾つかの新たな物質が現れる。それも以前弓弦が購入し、必要時に取り出している物の数々だ。


「シテロ、退いてくれ」


 その瞳は確固たる意志を宿らせている。

 それは先程まで薄々と放っていたオーラだ。


「用意されてないのなら、用意するまでだよな」


 そう、主夫力だ。

 シテロのプレッシャーを遥かに上回る、女子力の力。


「女子力…ねぇ。まぁ間違ってはいにゃいだろうけど…男に言うのは…にゃあ?」


「…分かったの」


 そしてシテロが折れ、拘束を解除した次の瞬間に弓弦の姿が消えた。

 そんな様子に一同は眼を瞬かせていたのだがやがて、


「あ、こらっ、ユール待つの〜〜っ!!!!」


 シテロがその後を追うのであった。


「ふむ…急かしいな」


「確かに。若いな」


「にゃはは、二人共そこまで若くはにゃいのにゃ」


 そんな二人の姿を眺め終えた三悪魔は、それぞれがポツリと言葉を零す。


「暇だし、二人が戻って来るまでテレビ点けても良いかにゃ?」


 テレビが点けられ、外の光景が画面に映る。

 相変わらずアデウスがハリセンを振るっている絵面ではつまらないと考えたのか、クロがボタンを押す。

 すると映し出されたのはーーー


* * *


 喫茶店で食事を済ませることにしたアンナ達が座ったのは、何とも偶然なことに数日前オルレア達が座った椅子であった。

 円形テーブルの周りに置かれた三脚の椅子には、アンナ、風音、知影の順でそれぞれ時計回りに腰掛けている。

 因みに、以前オルレアが座っていた席に座っているのは知影だ。


「ん〜っ! 弓弦の味覚を通しての味も最高だったけど、このケーキ悪くないなぁっ」


「あらあら…左様で御座いますか、宜しゅう御座いました。うふふ」


 微笑む風音はグリーンティーを口に傾けており、アンナは一口食べる毎に大袈裟な反応を見せる知影を悟りの表情で眺めていた。

 その理由としては、このケーキのレシピ考案者がオルレアであること。それだけで理由としては十分である。

 既に夕食のメインは終わり、今はデザートタイムとなっているが知影の胃袋は収まりを見せない。曰く、「弓弦でしょ? 食べられない訳ないもん」だそうだ。これだけ抜き出すと意味不明かつ、怪奇極まりないものだ。


「…本当に、貴殿の胃袋はブラックホールか。よくもまぁ、太らないものだ…私では到底完食出来ん」


「別に? ちゃんと運動さえ怠らなきゃ太りようがないでしょ? ほら、夜の運動を沢山…ね…♪」


 知影には構わず風音にアンナが視線を向けると、言葉が返ってくる。


「クス…愚考致しますに暫く食事を戴いてませんので。其方の反動かと」


「そうか…そう言えばそうだったな。姿を変えている間、空腹感は大丈夫だったのか?」


「…。そうですね、全くと言ってしまえば嘘になってしまいます。ですが恐らく、私も知影さんも元の身体に戻ってからの空腹分の方が多いとは思います」


 悟り。

 それは知影の発言をある程度無視するという、かつて弓弦も辿り着いた境地だ。

 困ると複雑そうな視線を向ける姿は彼に似ており、その度に彼とアンナ、両者が似た者同士であるという証拠に風音は微笑ましくなる。


「しかしヨハンの所でも十分に食べたはずだが…それでも足りなかったのか?」


 『エージュ街』に繰り出す前に三人は、『シリュエージュ城』の城主部屋にてジェシカの料理を食べていたりする。

 全体の実に、六割程は某愛妻家に平らげられてしまったが、それぞれ一割程度を完食している。

 一割と表してしまえば少ないように思えるが、少なくとも、レストランのセットメニュー程度のボリュームはあった。その六倍を食べるあの男が相当なものであるというだけだ。

 その時の光景を思い出したアンナの頬は自然と引き攣っているが、彼女とて、彼女自身に思い当たる節がある訳でーーー


「あらあら…うふふ」


 風音の笑みは、それを彼女に報せようとしているような笑みであった。


「そう言えばこれ…クリームが出来た時に弓弦、指で舐めてたなぁ…あ〜〜っ、可愛いよぉっ♪」


「別腹と「可愛い」言う「可愛い」言葉が御座い「可愛い可愛い」ます。気にされては「可愛い可愛い可愛い」負けだと思いますよ?」


「あぁ…確かにそうだが「可愛い」…別腹にしては「可愛い可愛い」量が多「可愛い可愛い可愛い可愛い」…おい、これは何か言えば良いのか? それとも…こっちか?」


「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い……」


 「可愛い」を連呼している知影の耳にアンナの言葉は届かず、瞳にハートマークを浮かべてケーキを食べている彼女の姿には、ドン引きせざるを得ない。

 再び困ったような視線を向けられている風音が首を小さく左右に振ると、振り上げたハリセンを下げたアンナの口から大きく溜息が零れた。


「何とかならんのかこれは…」


「なりませんね。これが変態ちかげさんです」


 意識しているのかどうかは分からないが、風音も「これ」呼ばわりしてしまう存在。それが神ヶ崎 知影なのだ。


「…すまない。今の言葉今一度繰り返してもらえないか」


 さらに、アンナは風音の発言の中に違和感を感じた。それは微妙なイントネーションの違いであったが、確かに感じたのだ。


「これが知影さんです」


「…名前の呼び方に差異があるんだが、気の所為か?」


「これが影さ「ワザと変えなくても良い」…左様で御座いますか」


 確認すると確信犯であることが確定したので、アンナは額に手を当て再び、深く息を吐いたのであった。

「【リスクX】…か」


「お~? どうしたんだセイシュウ?」


「いや、これを見てるとね…色々考えてしまうものがあるんだよ。ほら、今回の物語とかさ」


「…。あ~、確かにな~。弓弦の中に居る悪魔達はこんなことをしてるんだな~と、思うことはあるな~」


「だよね。と言っても、僕達がこのことを本編で知ることは今のところ無いんだけど、随分と個性的だと思わないかい?」


「そうだな~、個性があって良いもんだな~」


「…聞き流してないかい?」


「そりゃ~本編ではまだ知らないことだからな~。あまり関心を持っている素振り見せると、ネタバレになっちまうだろ~? ネタバレなんてつまらないのは好きじゃないからな~」


「まぁ結果が見えていることをするのはね、無駄だと思ってしまうことはあるよ。だけど、気になるものは気になるんだよね。だから、折角だし、この場を借りて語っていかないかい?」


「そんなこと言ってもな~。あまりこの場を長くしてしまうと、本当に書くのに困っている時障害になってしまうだろ~? 負担を増やすのは嫌だぞ俺は~」


「負担が増えるのは君じゃないでしょ? それにど~せ負担が増えても、今の僕達出番無しだし、それを良いことに君は寝っ放しだし…リィル君が嘆いてたよ?」


「いやそれは多分、別の理由だからな~?」


「ん? 別の理由って何だい?」


「それ位自分で考えて答えを出してみろ~。頭脳派だろ~?」


「…はいはい。じゃあ頭脳派の僕は考え事するために、退散させてもらいますよっと」


「お~お~そうしろ~…って、あいつこの紙置いて行きやがったな~? …まさか俺…あいつの口車に乗せられたのか~? …。ま、良いか~…『シテロのため、延いては自身のために衣類を製作することにした弓弦は無事に、衣類を完成させることが出来るのだろうか。そして、ようやく彼女が眼を覚ました時、波乱の幕が切って落とされるーーー次回、波乱に仰天す』…ま~、波乱を起こすのは決まってあの子だな~…あいつも色々と大変なもんだ~」

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