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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第四異世界
179/411

仇に牙剥く

 扉を見上げたまま、微動だにしない白髪の老人が立っていた。纏うローブには金色の九芒星が輝き、老人とは思えない程の圧倒的な威圧感と体躯から、見る者にとってその人物の名は、誰かが語らずとも容易に理解することが出来るであろう。

 老人が見上げる扉には幾何学模様のレリーフが彫られており、その中で最も眼を引くのは、まるで太陽を思わせるような円状彫刻に向かわんと、その真下部分で持ち上げられるような人を模ったらしき紋様。そして、その更に下の十字塚だ。厳粛な雰囲気を放つ扉は静かに時を過ごしているかの如く、そこに存在していた。


「…やはり、来たか」


 その空間に、新たな人物が現れる。所々破れ、汚れた白衣を翻し、幽鬼のような足取りで現れたその人物は、手に強く握り締めた得物を構え、老人を鋭く凝視する。


「やれやれ…お主はもっと利口だと思っていたんじゃが…のぅセイシュウや」


 老人にとってその名は、もう一人の孫にも等しい人物を指す名前であった。故に、発された声音は彼の悲しみに強く彩られていた。


「…利口で居た僕はもう、あの時に死んでいる。それにあなたの言うことを訊くこと、それを利口と言うのならば僕はらそんなもの絶対に要らない。僕が要るのはただ一つ…その扉の先にあるもの…あなたが守っている奇跡だ。僕はそれをずっと、あの時から探していたんだから……」


 片方が罅割れた眼鏡を掛け直すと、その身体に電撃が落ちる。

 つんざく爆音の中心地に立つ男は、迸る電流を身体に纏いながら、


「はははっ、待ってたんだ…待っていたんだよこの時をッ! この先に進んで…贖うのさ、僕の命を使ってレオンにッ! …通らせてもらうよ、クロウリー・ハーウェルッ!!」


 雷の如く、大元帥『クロウリー・ハーウェル』に迫る『八嵩 セイシュウ』はしかし、


「ぬぅんッ!!」


 大気まで振動するクロウリーの拳、一撃で強く石壁に叩き付けられ地面を舐めることとなった。


「ほっほ…まだまだ青二才が。儂と対等にやり合うなんぞ…千年早いわッ!!」


「ふざ…けるな…ッ!!」


 過去への悔恨が彼の意識を苛む。

 自分の未熟さ、あらゆる面への至らなさ。ただの一撃ですら届かない実力の差に歯噛みする。が、幾ら立とうとしても身体は命令を聞かず、辛うじて声を絞り出すしかない彼の姿は無様なものであろう。

 ようやく掴んだ明日への切っ掛け。

 忌々しい過去を振り返り、“彼女”と言う過去を取り戻すための、彼の全てを石とした上での投石は、大元帥という名の圧倒的な力の前に砕かれようとしている。

 ーーーそう、彼の存在は正に石なのかもしれない。棒ですらなくただの、石。石は当たり前のように地べたを転がり、当たり前のように地面に在り、ありふれそして、幾らでも替えが利く。

 押し留められた彼の感情は、押し留められた分だけ、熾烈に跳ね返ろうと、爆発するのだ。


「ふざけるなぁぁぁぁぁッ!!!!」


 感情の爆発に魔力マナもまた、爆発した。電流が、走る、走る。

 クロウリーに向かうその全ては、途中でことごとく輝きを失うのだが、それでもなお放電は止まらない。駄々のような電撃はやがて再びセイシュウの下に集まり、


「うわぁぁぁぁぁッ!!!!!!」


 絶望への慟哭と共に立ち上がる力を与える。

 雷光を纏うその身体は、触れた者を炭へと焦がす雷帝の鎧。彼が使う武術『雷帝技』の奥義が一つ、“トールアーマー”だ。

 その名の通り本来ならば、“ブリッツオブトール”を身に纏って発動するのだが、怒りの感情が彼に、体内魔力(マナ)から直接の『雷帝技』発動を起こさせたのだった。


「あぁぁぁぁぁあああッ!!!!」


 しかし身に余る力には代償が生じてしまう。

 衝撃と直接発動の負荷に耐え切れず混迷の状態となったセイシュウは、獣のようにクロウリーにトンファーでの殴打を見舞おうとする。

 その一撃一撃にも“プラズマスパイク”、“プラズマストライク”と、彼が使用する『雷帝技』の技の数々が組み込まれていた。


「……」


 感情任せの激しくも、幼稚な攻撃を受け止めながら、その様子を寂しい瞳で見ていたクロウリーはやがて「惜しいのぅ」と、溜息と共に拳を繰り出した。

 そして、再び繰り出された拳は最も簡単に雷帝の鎧を砕け散らせ、その装着者の意識を一瞬にして刈り取るのであった。

 今度こそ動かなくなったセイシュウをクロウリーはその空間の壁隅まで担ぐと、その身体を地に寝かせる。するとその身体が光に包まれ、消えるーーー出口への転移の一方通行型魔法陣だろうか。

 それを見送り、一息吐いた大元帥の胸に、


「……」


 突然として赤黒い染みが広がり始めている。それは、彼が持つ病気によるものでも、セイシュウによって傷付けられものでもない。

 視線を壁に向けると、罅割れ、凹んだ土の中央に煙を上げる黒く、小さな球状の鉛。

 静かにそれを見つめる魔法を統べる者、その身体が横に傾いたーーー


* * *


「「……」」


 映し出されたデータを前に、アンナ、ディーは息を飲んでいた。

 信じられなかった光景だが、これが現実にあった映像であり、サルベージされたその映像のバックアップを取ったアンナの表情は、晴れやかでなかった。

 しかし、これで『レオン・ハーウェル』の無実が証明される以上、それはアンナにとって『革新派』と『保守派』を分断させるために必要な材料として、十分な成果ではある。目的は正しくそれであるのだから。が、やはり暗雲が立ち込めるような鬱屈とした気分となった。

 大元帥『クロウリー・ハーウェル』が凶弾に倒れたことはこの映像から明らかになった。

 次の問題は、誰が彼を殺害したかになり、それは凶弾を発射した銃の主を捜さねばならない。

 だが銃弾の形状、大元帥の身を守る防御魔法を貫通しての一撃を放てる存在は、確実に限られてくる。

 そして、アンナはその存在に対しての特定が一瞬にして完了していた。否、完了出来ないはずがないのだ。


「……逃げられた」


 それを肯定するかのように、バツの悪そうな面持ちのヨハンが現れた。

 オルレアの意識が一度、完全に断たれてしまった以上当然その者に掛けた魔法も解除されてしまっていたのだ。横槍を入れられなかった分はまだマシであるのだが、素直に喜べない感覚を覚えたアンナは、苛立ちを覚えたのか不満気に鼻を鳴らした。


「…これ以上ここに居ても意味は無いな。転移陣を起動させたからこのまま戻るぞ。疲れた後輩をしっかりとした寝床で休ませてやりたいからな」


 言葉の途中で端末を操作した彼女が顎をしゃくった方向には、いつの間にか魔法陣が展開されていた。

 意見に同意した一行はその上へと歩みを進め、転移する。

 一瞬にして景色は、ヨハンが守っていた大扉の前だ。

 そのままアンナは自身の家へと足を運ぶ。


「…さ〜て僕達ぁ、(し〜つ)務室へ行こうかヨハン」


 地下から一階への階段を上り終えるとディーが足を、上の階へと向けようとする。


「あぁ構わん。元帥はこのまま戻るのか」


「あぁ。オルレアが眼を覚ましたらそちらへ向かう。早くとも明日になるはずだ」


「了解した」


 そのまま二人と分かれ、四人はアンナの家へと戻った。

 未だ静かに眠っているオルレアは、家の主人によって二階の寝室まで運ばており、現在一階のリビングには知影と風音が椅子に腰掛けていた。

 家に一つしかないベッドがある寝室に後輩を運ぼうとしたアンナに当初、「弓弦は私が運ぶ」と中々知影が折れなかったのだが、突然どこから入手したのか、丸眼鏡を装着して「三分間待ってやる」と謎の心変わりをしたので、今の状況となった訳である。


「‘ねぇ風音さん’」


「どうされました?」


 アンナが上へと消えたことを確認すると、すぐに知影は顔を寄せ潜めた声を出した。腹黒全開である。


「‘前々から思ってたけどあの女…本当一体何? 弓弦が女の子になった途端ガラッと態度を変えてさ。おかしいと思わない?’」


 見事なブーメランスローであり、その言葉が自身に戻って来た際に喰らう彼女の、ヒット数は計り知れない。


「…そのような設定だからでは御座いませんか? オルレア様はアンナさんの後輩と言う扱い。それも剣術の同門であり、またただ一人の直属部下。優しいように振舞われるのは当たり前だとは思いますが…」


「‘だって初対面の時にやけに突っ掛かってきたからさ。その時からまさかと思ってたけど…やっぱり、そうなのかな?’」


 知影にとって、『ジャンヌベルゼ・アンナ・クアシエトール』という人間は、「弓弦を敵視してくれるモテない面倒な女」という印象だ。酷いものである。

 天才である彼女でなくても、「とあること」は容易く想像出来てしまうもので、確認のために彼女に意見を求めたのだ。


「そう…とは?」


「‘弓弦を狙ってるってことだよ。弓弦をあのまま自分好みの従順な女の子に調教して、私達から取り上げようって魂胆なんだよきっと。私でも実行しなかったようなことを思い付いた挙句、実行して成功させるなんて、恐ろしい女だよねぇ……」


 以前「パートナーを見つけろ」と言ったのは彼女であり、正直いってしまえばアドバイスを施した人物がそれに従い、女性としての幸せを掴んでくれるのは弓弦LOVEな彼女にとってすら歓迎すべきことだ。

 しかし、それは“相手が弓弦以外の男”であることが大前提だ。

 自分の愛する未来の、旦那様に突っ掛かってくる羽虫が消えくれると思ってやったことがまさか、虫寄せの香を焚くことになってしまうとは不覚であり、ただでさえ弓弦を狙う邪魔者が多いのに彼女にとって、それが増えることなど絶許なのである。


「調教…で御座いますか。アンナさんが百合を好まれる女性であるとは思えないのですが…」


 因みに風音はいつものトーンだ。

勿論ワザとである。


「‘でも現実そうだと思うんだ。そりゃ人に部屋を見られたくない気持ちも分かるけど…う〜ん、やっぱり四十秒の方が良かったかな? ちょっと目立ち過ぎだと思うんだよ。明らかにヒロイン昇格しているしさ’」


「ヒロウエン昇格はされていないと思いますよ? オルレア様は…尊敬の感情を抱かれているだけですし結婚とまでは…」


「‘結婚なんてされたら堪ったものじゃないよ。そりゃあ今は同性婚も認められつつあるし、ここは異世界なんだからそう言うのあっても当然かもしれないよ? でもさ、フィーナでさえどう離婚させるか悩んでいるのに更に重婚って…流石の私でも穏便な方法で済ませられなくなるなるじゃん’」


 知影の背後に影が現れる。


「穏便な方法とは…一体どのようなものですか?」


「暗殺っ!?」


 突然頭部を襲った衝撃に言葉を中断された彼女が、嬉々として背後を振り返ると、久々に知影の頭を叩いた得物を握っているその人物は深々と息を吐いた。


「…どこが穏便だまったく」


 しかしその人物を認めるや否や、一気に落胆のものに変わる。

 視線を受けてか「渡された」と言外の問いに答えたアンナは、暫しの逡巡の後に風音の隣の席に座った。知影の隣は色々と危険な香りがする以上仕方が無い。


「何を思ったかは知らんが人の頭にこれを落としてな。悪魔共の話だと、やはり今日一日はせめて、寝かせてやってほしいそうだ」


「今日一日!? …弓弦、まだ結構危ないの?」


「回復魔法を使えるとは言え、私は医学の知識が無いからな。「つまり脳筋あうっ!?」…不承不承だが、奴等の意見を信じる他無いだろう。不承不承だがな」


 「不承不承」を強調しながら頬杖をする様子がどこか、拗ねているように見えて知影が一瞬黒い顔をする。


「早々に革新派の連中の首を締め上げようと思ったんだがまぁ良い。暫くしてからピースハートの下に向かうが貴殿等はどうする?」


 今日中にオルレアが眼を覚まさない以上、先程予め伝えてあるとはいえ、待っている三人にそれを伝えに行かなければならないのだが、ここに知影を残しておくのは色々と危険が生じるような気がするアンナ。

 風音もあまり頼りに出来るものではないので、ヨハン達の下で腰を落ち着けて話すことが出来なくなってしまう。生命の危機に対しては悪魔達が対応してくれるはずだが、それ以外はどうなのか謎であるので、可能ならば二人共連れて行きたいのだ。最悪無理矢理にでも。


「御邪魔になるといけませんので、私は此方に残らせて頂きます」


「私もここに居るよ。どこも行かずに待ってるよ。弓弦が心配だから」


 案の定「残る」と言った二人の瞳は対照的だ。しかし特に片方は猛禽類の瞳をしており、より残られると心配になる。分かり切っていた返答であったが、これでは到底家を後に出来るものではなくもう一度溜息を吐いてしまう。


「クス…御邪魔でないのでしたら御一緒致しますよ?」


 そこで助け舟が風音から出された。困らせるだけ困らせて、最後の最後で手を差し伸べる辺り何とも彼女らしいと表せるだろうか。


「あぁ、そうしてくれ。…貴殿にも当然来てもらうからな?」


「ちぇ…風音さんの裏切り者」


 凄みを帯びた視線に負けた訳ではないが、風音が付いて行く以上残る理由が無いと理解している知影も渋々、折れることになる。

 そんなジト眼の彼女に対して風音は、クスリと穏やかな笑みを浮かべるのだった。


* * *


 星、一度天より堕するも、まで堕すること能わず仰天す。

 星は廻る。堕しようと、廻り、再び昇る。

 その瞳に宿るは、輝く意味即ち、覇道への野望。


「取り敢えず魔石だけは持ち帰らせてもらった。契約完遂だよ」


「ほぅ…破ったか」


 しかしそれは虚構。

 昇りし輝きさえも幻夢。

 見上げる空の、静かに輝くものが偽りであると誰が気付こうか。


「幻像とは言えよもや破るとは…賞賛に値しよう。元帥…懐刀であるだけはあるか。大人しくこの場は敗北を認めようではないか」


「はいはい。じゃあ僕は帰らせてもらうよ。…行くよ『黒闇の虐者』」


【……】


 気付かれぬそれを知るのは、人ならざるモノか。


「…解析は進んでいるか」


「ヒィッヒ! もっちのロン! あれだけのサンプルから何も得られないってことはないね! それより、生き残りが居たんだって? 隈無く探して捕まえたはずなんだけどね…流石に世界は広かったですか」


「フハハハハ、完成する“アレ”の相手としては申し分無い。この身と同じ力と言い、まったく丁度良い獲物よ。それで進展はどうだ」


「まっだまだ時間は掛かるね。こんなの初めてで文字通り“禁忌”の一種だから。んでそれで、もう確認は? サンプルは多い方が良いけどね。そうでなくても洗うの欲しいね」


「護られている故に諦めろ。確認に関しては既に済ませた。見ろ」


「…これは仕方が無いね。裁きがあった世界だね…諦めるかね、ヒィッヒ」


 かつて星を堕とし、堕とされた世界。神と呼ばれた存在の加護があったとされる世界。

 その界座標(ワールドポイント)を見て納得した存在は、姿を闇に紛れさせる。

 星は、凶つ星は、静かに闇に輝く。

 いつか全てを翳らさんとするためにーーー


* * *


 ーーーテト村。


 床に崩れ落ちているルフェルを見つけて、外から帰って来たモアンは箒を取り出した。


「ぐふ…っ」


「ボロボロだが…今度は何をされた」


「バッサリ斬られた…ぉぁ世界が回る…」


「そうか。この後村民と会議があるからな。定位置で篭ってると良い。話はその後で訊く。…あれもな」


 言いながら押入れの中にまでルフェルは転がされ、翅を撒き散らしながらその姿を、厳重に閉じ込められる。

 すると勝手に別の部屋の扉も開かれ、独りでに閉じられた。

 外から鍵を掛けたモアンはドアノブを捻り、扉が開かないことを確認する。もう片方は内側の鍵が掛けられたためか、こちらも扉が開かないことを確認してから取り出した塵取りと箒で、漆黒の翅を集め、袋の中に入れた。

 因みにこれで、これまでにルフェルから抜けた翅全部と合わせて袋が一杯になるのであった。


* * *


 激しい頭痛に耐えながら剣を振るったのが祟ったのかそれとも、何か魔法にでも掛けられたのか。

 俺の意識は二時間程振りに『炬燵空間』へと飛ばされていた。やっぱり得られる力が多い分悪魔吸収のバックファイアは大きく、意識を失ってなかったらと思うと恐ろしいものがあった。

 俺の意識をこちら側に留めておくためなのか、現在ここを出ることは出来ず、暫く炬燵に足を突っ込める悠々自適な時間が発生しているということだ。下半身が温かい分上半身に冷えるものを感じるのだが、まぁ気にする程ではない。どうせ俺の精神空間なのだから。

 寧ろ気になってしまうのは……


「きゃっほ〜♪」


 いや、気にしない方が良いだろう。うん、そうしよう。


「…にゃはは。意識しても別に良いと思うのにゃ」


「ふむ…捉え方を変せば酷となる云い方だ。後幾許か遠回しが良い」


「しかし言語とは伝わることが大前提だ。自分の世界に酔い痴れていてはな……」


「おい、言ってないから。考えただけだからな」


「ん? ユ〜ル、何か言ったの?」


「別に何も? ボーッとしていただけだから」


 四方向から足を入れられる炬燵。

 四方はそれぞれクロ、バアゼル、ヴェアル、俺とシテロが陣取っている。シテロは人間体だ。

 ん? そう言えば。


「そう言えばアデウスはどうしたんだ? 姿が見えないんだが」


 少なくともこの空間内には居ないのか気配が無い。 バアゼルが居るのにアデウスが居ないと言うのは珍しいことだ。


「ちょっと外に出ているのにゃ。もっと言えば、眠っている弓弦の警護にゃ」


「そうか…それは後でお礼を言っておかないといけないな」


 今日はよく、悪魔達の世話になる日だな。生命救われるわ再会の手伝いをしてくれるわで……

 ヴェアルは戦いの露払いもしてくれたから助かった。なるべく消耗は避けたかったし…まぁ結局サウザーには逃げられてしまったんだが、一太刀浴びせられただけでも何も出来ないよりは満足だ。


「礼を云う程ではないだろう」


「僕達の闇も結構ダメージを与えただろうからにゃ…にゃはは。それに、あのまま放置しておいたら僕達も死んでたのにゃ。ギブアンドテイクみたいにゃものだにゃ」


 だが一番闇が大きかったのは……


「…二人共悩んでいるんだな」


 あまり心を覗いていないし、どの道余程のことが無い限りそうしようとも思わないんだがまさか、あぁも深いとな。 考えてしまうものがある。

 「女の子はいつも不安」…分かっちゃいると思ってたけどな。


「…一人いちにんの悩みを一つ一つ背負おうとするな。我等が悪魔である様に、お前はヒトだ。全知全能の存在は存在し得ないのだからな」


「まぁ、な。色々分かっているとは思っているつもりだ」


 …そう、何事も頭では分かっているんだ。


「…人の業。数多の先導者がかつて背負ってきた。如何に叡智を授けても廃らせるのが時の流れ…何も君だけではない。私達とてそうなのだからな……」


「なの。頭では分かっていてもどうにも出来ないのが衝動なの……」


 まだ会ってからそれ程時間が経っていないが、どうもヴェアルは言葉に余韻を残す口調のようだ。だがシテロ、どうしてお前まで変に余韻を残すんだ? 横からチラチラと俺を見ている視線を感じるしな。…しかし、デカ…ん``んっ!! 変態か俺は。

 もう良い…こう言う時は…と言うよりかは純粋にこの衝動に負けそうだ……


「ふぁ…ぁ、少し横になっていても良いか? 何故か無性に眠たくてな」


 見回すと、全員が頷いてくれた。

 だが炬燵で寝ると風邪引きそうな印象が強いんだよな…どうしたものか。


「布団とか無いのか?」


「にゃはは。気にしにゃくて良いのにゃ…にゃ?」


 …。よく分からんが、兎に角眠たいから今は寝るとするか。

 あ、そう言えば帰ったら、フィーの奴と魔力マナを交ぜないと…地味に頭痛がキツい。その内この痛みにも慣れていくと思うが、今後土壇場で意識が逸れることによって隙を生じさせるなんて馬鹿なことやりたくないからな。それで誰かを傷付けてしまったとしたらそれはもう、最悪だ。

 力が俺にあるのなら俺は…俺が信じるもののために、守る力として力を振るいたい。

 そう、俺が必要とされている内はずっと……

「ディオか~。入って来て良いぞ~」


「失礼します。…隊長、商業区の商品補充が粗方終了したそうです」


「お~、相変わらずあそこの連中は仕入れが早いな~。不足している物品は無いんだな~?」


「はい、博士が『大丈夫だよ』と、そう言ってました」


「よ~し。これで暫くは保つな~…おし、んじゃ今からまた雲隠れと行くか~…報告お疲れさん。もう下がって良いぞ~」


「はい、失礼しまし「あ~ちょっと待ってくれ」…はい」


「そう言やセイシュウの奴は今どこに居るんだ~? お前さん何か聞いていないか~?」


「え~と……確か機関室に向かうとかどうとか言ってたような気がします」


「そうか~。転移前のエンジンチェックだな~…おっし、んじゃ今度こそ下がって良いぞ~」


「はい、失礼しました」


「…この生活も、始まってそろそろ一月が経つが弓弦の奴はどうしとるんだろうな~…ほい、予告だな~。『突然の睡魔に教われ、深い眠りに就いた弓弦の側で葛藤する存在が居た。自由気ままな彼等は何を思い、どのような日々を過ごしているのであろうか。さらに、暫く振りにあのゲームブックが登場ーーー次回、本に遊ぶ』…暫く振りって言えば確かにそうだな~。んじゃ、ビールとつまみ片手に楽しめよ~」

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