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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第四異世界
174/411

在りし場にて

 選択肢は三つ。

 差し伸ばされた手を前にヨハンは、頭二つ低い少女の顔を静かに見つめる。

 既に思考する必要も無い選択肢だ。自分ならばそれを選ぶ。そんな、予測めいた他人事の感覚が彼を支配している。

 少女ーーーオルレアの瞳はまっすぐとヨハンを中央に捉えている。

 淡い桜色の瞳に映っている彼の瞳もまた、迷いの無い静かな色を讃えていた。


「構わん」


 そう、答えなどとうに出ていたのだ。

 本当に守るべきものが何であるのか、それは若き日から何一つ変わっていないのだから。

 握り合う手が示す、互いの想い。

 ーーー思えば彼女はこの時のために現れたのかもしれないと、自らの行為を省みながらヨハンは内心苦笑した。


「元帥を追い掛けるのか」


 開かれた扉の前に並び立ちながら、彼は軽く眼を見張る。

 暫く見なかったからだろうか、その先はまるで、初めて見た場所のように思えたのだ。


「勿論っす。でもその前に…出て来たらどうっすかー?」


 背後を振り返りながらそう呼び掛けたオルレアにつられ、ヨハンも振り返ると、「や〜れやれ」と意外な人物の姿がそこにあった。


「や〜っぱりオルレア嬢ちゃんには見つかってたか。(あ〜ぶ)なくなったら止〜めに入ろうと思ってたんだけどね」


「…ディーか」


「? 知り合いっすか?」


「そ〜んなところだね。さ、積〜もる話は(あ〜と)回しにして、元帥嬢ちゃんを追い掛けるよ」


 オルレアがディーの存在があることに気付いたのは、ここでヨハンと対峙する直前だ。

 自分と先輩の足音に混じろうとしている訳ではないが、潜めるようにして背後に続く足音を、彼女の隠されし犬耳はしっかりとキャッチしていたのだ。

 ディーは言葉通り、危険な状態になったのならば即、戦闘に介入しようとしていたので、実をいうと、姿を変えて彼女と共に行動を共にしている女性陣二人と話し合っていたのだ。因みに、会話内容は作戦という程でもないが、いざとなればこの場をディーに任せてしまおうというものだ。

 また彼女はディーとヨハンの関係性について一切知らず、こうして一度は袂を分かった二人を引き合わせれたのは偶然の産物である。

 故に男二人が彼女に抱いている感想は、「不思議な少女」になっていたりする。本人がそれを知る由はないがーーー


「改めて、行くっすよ!」


 オルレアの号令の下、ヨハンとディーが続く。

 負っていた傷は彼女の魔法で治してあり、それぞれが万全の状態であった。


『嫌な気配が立ち込めていますね…分かっているとは思いますが、注意した方が宜しいかと』


『だね。さっきのがタウンだったら、あの扉の先はダンジョンだよ。突然BGMが変わったら注意しないとね? どうせ潜水艦で回り込まないとその奥行けないし、ウロウロしてても石像が出て来るだけで面倒臭いから』


 脳内では有用な情報と非常に不有用な情報な交互に告げられる。

 つまずいてしまいそうになる身体を奮い立たせて先を急ぐと、遠方の通路の端に蠢く“何か”が見えた。

 これまで強い衝撃による破壊痕は所々で窺えたものの、動くものを見たのは初めてだ。


「どう言うことだこれは…?」


 “何か”を焼き尽くしながら、困惑を隠せないヨハンの声音が炎が爆ぜる音に混ざる。


「何故『装置』への道に魔物が…」


「『革新派』はど〜うやら【リスクX】の悪魔と結託(け〜ったく)しているみたいでね。手〜勢をこうして配置している。そ〜の口振りだとどうやら知〜らなかったみたいだね」


「っ、何と言うことだ…! 既に人の道を外れていると言うのか!!」


「そ〜もそも、『革新派』の理念は非〜人道的だよ。外れてるも何も、そもそも人としての道を歩んでい〜ないんだな」


 強さにして【リスクD】程度の魔物を二人、息の合った連携で討ち倒していく。しかし無限に、染み出るようにして現れる魔物達は幾ら倒しても止まるところを知らず、通路を埋め尽くして依然、そのままだ。


「このまま突破したいっすけど…後どれぐらい余裕あるっすか?」


「気にするな。伊達や酔狂で中将大将の立場に居る訳ではない」


「そ〜う言うことだね。寧ろ僕ぁオルレア嬢ちゃんの消耗の方が心配だ。(わ〜か)さがあると言っても、大立ち回りの(あ〜と)は疲労があるものなんだな」


「ボクもまだ、行けるっすよ。不肖オルレア、先輩に鍛えられてるっすから」


 ディーもヨハンも、互いにまだ余力を多く残している状態で戦闘を行っている。それは当然オルレアもなのだが、二人の眼にはそう映っていないようだ。

 しかし彼女には微かな焦りがあった。アンナの魔力マナが遠去かりつつある。上階である『シリュエージュ城』とは根本的に構造が違う大扉からの通路は、一体どこまで続いているのか予想も出来ない程にただまっすぐ続いている。時々広場にも出るが、既にアンナが何かしたのか、破壊痕が残るのみで特に何も無く、また現れなかった。

 そして広場を抜けたらまた魔物だらけの通路へ。

 一体アンナは、罠を解除しながらどのようにしてこの道を突き進んで行ったのだろうかと、疑問に思ってしまう程、進行に対する妨害は激しかった。


「埒が明かないっす。だから取り敢えず、ちょっとだけお掃除をするからその間に駆け抜けたいと思うっす」


 やる気に満ち溢れた瞳に、両手でグッと握り拳を作ったオルレアの姿に頬を綻ばせながらも、二人は互いに目配せし合う。


「…そうか、以前も見て思ったが、あの元帥直属の部下だから当然、光属性魔法の使い手か。確かに“奴”の眷属相手にやり易いだろう」


(た〜し)かに、“奴”の眷属相手にはや〜り易いね」


「奴…っすか?」


 闇を司る【リスクX】『黒闇の虐者』と呼ばれるその悪魔の名前をオルレアは二人から訊かされる。


「『ハルス』…って言う名前の悪魔っすね。だから丁度、ボクとは相性が良いっすね」


『闇かぁ…手強そうな敵だよね。 確かに相性は良さそうだけど…あ、一番相性が良いのは私との夜の相性だよね、ね?』


『あらあら…女性同士で夜の相性が宜しいとは何とも怪しいものですよ? クスッ』


『別に私は百合でも構わないもん。最悪玩具使えば…フフフフフ』


「じゃあ消し飛ばせる所までやってみるっす。雑魚散らしは宜しくっす」


 怪しい会話内容が繰り広げられているのを極力スルーしたい彼女は、通路の中央に立ち微かに身体を力ませる。


「【リスクB】を雑魚呼ばわりか。 頼もしい言葉だ」


「それだけお二人を頼りにしてるってことっすよ」


(う〜れ)しい言葉だ」


 三人を囲むように前後から湧き続ける魔物達はそれぞれ、前をヨハン、背後をディーに蹴散らされていく。

 歴戦の男性隊員の見せる戦技の数々に魅せられつつも、自らの身体を流れる魔力マナの内一つに意識を集中させていく。

 それは普段はあまり意識していない行程なのだが、現在犬耳を隠すために“イリュージョン”を、『神ヶ崎 知影』と『天部(あまのべ) 風音』に“エヒトハルツィナツィオン”を掛けており常時三つの魔法を発動させているので、間違って余計な魔力マナを放ってしまわないようにするためには欠かせない行程である。


魔力マナを調節しないといけないね。声の響き方からしてかなり奥があるみたいだけど、全力で放ったら何かボロが出ちゃうかも』


 使用する魔法は光属性上級魔法“ジャッジメントレイ”だ。“プルガシオンドラグニール”でも良かったが、威力的にこれで十分だと判断したからである。


『審判の光、其は悪心抱く者を裁く聖なる裁き也』


 オルレアの正面に魔法陣が展開する。そして、展開して間も無く光を放ち始めた魔法陣の背後で剣を鞘に収めた彼女は、「下がるっす!」とヨハンに言うと共に右手を正面に突き出した。


「消し飛ぶっすッ!!」


 溢れんばかりの光の奔流が前方を覆い尽くす。


「突破するっす!!」


 視界を光で満たされながら、その中を三人は走り抜ける。互いの姿ですら捉えるのがやっとな中、やがて世界が元の色を取り戻していく。


「ヨハンさんディーさん、無事っすか? …って、ここは…?」


 オルレアが左右を見ると、そこにはヨハン、ディーの二人共立っていたのだが、同時に見えた周囲の風景に思わず息を飲んだ。


「ここは…?」


 整備された黒い道。

 まるで色褪せたフィルムのように赤褐色に染められた周囲には三人にとって見慣れない、そして二人にとって見慣れて“いた”物体が、時を止められたかのように幾つも静止している。ヨハンが眼の前に立つ鉄棒を見上げると、彫られた三つの円形物質が特徴的な、楕円形の物質がそこから繋がっていた。

 そしてその内一つ、彼女達から見て右側の円形物質は、他の二つに比べて僅かに光を放っているように見えるが、色褪せた景色の所為でよく分からなかった。


「『幻憶(げんおく)の導き手』…こ〜れで二体目の【リスクX】の存在が(か〜く)定されたね」


「いや、三体目だ。先日『紅念の賢狼』とも会敵して撃退している。『革新派』の闇は相当に深そうだ」


「いつの間に…な〜ら、これで三体は(と〜く)定出来たことになるね」


 話し合う二人はそこで、オルレアに視線を向ける。


『ここって…でも…』


 彼女の視線は二人の背後に向けられており、促された訳ではないが同じように背後を振り返り、息を飲む。

 そこに在ったのは、これまで見たことがない異形の建築物だ。見上げる程に高く、一見塔のように思えるが、それにしてはやけにガラス面が多い。入口の扉でさえもガラスであり、その上に不思議な形をした彫刻物が等間隔で並んでいた。

 ーーーそれが文字だと気付くのには時間を要しなかったのだが、どのような意味なのかは見当が付かない。


「春日野…コーポレーション。どうしてこんな所に…」


 内心の動揺を必死に抑え込みながら呟かれたのは、その文字列を正確に読み取れたからこそ口に出せるその場所の名前であった。


『国内どころか世界にその名を轟かせる大企業…どうしてその前に? 確か弓弦のお姉さんが勤めている会社…だよね?』


 脳内に聞こえる知影の言葉に小さく頷く。


「…オルレア嬢ちゃんはこの場所のこと、知っているんだね。と〜なるとここは、オルレア嬢ちゃんの記憶を基に作られた幻覚だ」


 「…ボクの記憶を基に…っすか?」と、そんな様子を見ていたディーに訊き返すと、「多分(た〜ぶん)間違い無いね」と微妙な断定の言葉が返ってきた。


「『幻憶の導き手』の魔法には対象の記憶を幻の空間として実体化させるものがある。おそらくこれは、その魔法によるものと見て間違いは無いだろう」


 幻の空間として実体化させる。 矛盾しているように思えるが要するに、記憶の中を再現した空間を作り出すものだ。あくまで空間なので、入って来た道を戻れば元の場所ーーーこの場合装置への通路に引き返すことは出来る。

 もっとも、この空間の入口とは別の、出口を見つけなければ先に進めないのは変わりないのだが。


「ボクの記憶が…再現されたもの」


「こ〜の魔法の厄介な点は記憶の再現なのだから、当然か〜つて戦った敵とかも再現されちゃうんだな」


「オルレア、以前この場所で何か、魔物と戦ったことはあるか?」


「あ、それは無いっす。この世界だと魔物なんて想像上の存在だったっすから」


 『平和な世界だもんね。昔は戦争とかあったらしいしあの時も、他所の国でゲリラがあることぐらいしか大きな争い事無かったし』と知影。


「それはまた、珍しい世界だ。しかしそんな世界を飛び出してまで剣を握る…いや失言だ、忘れてくれ」


「気にしなくて良いっすよ。もう過ぎたことっすから」


 言葉の途中でその理由に気付いたヨハンは気丈な態度の彼女に対して罪悪感を覚える。平和な世界を飛び出す要因などさして、数は無いのだ。だが、まだ誤魔化しが利いたのを、断定してしまったようなものであり、気不味い空気が立ち込みつつあった。

 このまま立ち止まっていても意味が無いので、一行は周辺を探索してみることにした。

 その空間はやはり、オルレアの記憶にある場所と同一のものであるので、行けども行けども広がるのは見知った光景であった。

 ーーーしかしどの場所にも、居るはずの存在が見受けられない。まるで、その存在は再現の際、零れ落ちてしまったかのように見事に居ないのだ。

 それを疑問に思いながらも徐々に『春日野コーポレーション』から離れて行く。比喩的ではあるがまるで、天を突かんばかりの建築物は離れて行っても明確にその存在感を発揮し、主張してくる。

 様々な建物が並ぶ道や、街路樹の木の葉が不自然に宙に停止している様子ーーーそれも違和感を放っている。


「っと〜、ちょ〜っと高い所から探してみるよ」


「頼む」


 「ほ〜いほい」と言ったディーは、風属性上級魔法“ベントゥスアニマ”を発動させて飛翔した。


『まさかこの魔法を使用することが出来るとは…流石で御座いますね』


 暫くして戻って来たディーによると、この道を左に曲がってそのまま直進をすれば良いらしく、その通りに進むことに。


「ふぅ、この魔法、便利なのは、便利だけど、ひぃ、消耗、激しいんだな、あぁっ」


 しかしやはり、魔力マナの消費量が多いのか、その顔は微かに青い。この魔法は驚く程に消耗が激しいのである。

 当然それを知っているオルレアは気休めではあるが“ヒール”を掛けて消耗を緩和した。


「…ふぅ、あ〜りがとうね。僕ぁこの魔法はやっぱり、慣〜れないな」


『…こう言うの見てるとやっぱ、弓弦とフィーナの魔力マナって圧倒的なんだよね。チートだよチート。『ハイエルフ』チートだよ。何でもかんでも主人公補正付けちゃえば強くなるとか…まぁ弓弦は主人公だけど、最近死にかける場面少ないし…』


『努力の賜物だと思います。剣の腕も、魔法の扱い方も、最初から上手であったとは言えないのですから』


『ちっ…またフィーナか』


「でも飛行魔法が使えるなんて凄くないっすか? 制御が難しい部類の魔法だと聞いたことがあるっす」


 オルレアは少し遠い眼をする。

 “ベントゥスアニマ”による疲労感はここまでだったのかとふと思案したくなったからだ。

 ディーが空中に居た時間は十数分程。彼女が初めてその魔法を使った時は一時間程飛行したのだから両者の魔力容量(マナキャパシティ)は眼に見えて差がある。分かってはいたがここまでハッキリとさせられてしまうと、思うところがあるのだ。


「風魔法の使い手で“ベントゥスアニマ”を使うことが出来るのならば、それは第一線で活躍出来ると言っても過言ではないだろう。空を飛べると言うのは色々と利便性が高いからな」


(じょ〜う)級の(こ〜う)撃魔法は使えても、この魔法を使える人は(す〜く)ないからね。 何分、ただ練った魔力マナを打つけるだけじゃ〜なくて、ひ〜たすら調整しないと待ってるのは大惨事だ〜から」


『私だって出来るけど…どうせ風魔法使えないしなぁ…っ』


『そう言えば知影さんはベントウアニマルに掛けられたことがありませんでしたね』


『空を自由に、飛びたいな♪ ううん、飛べるはず! …いつか掛けてよね弓弦』


 今は光属性魔法以外は使わないようにしているので、仮に使いたくても使うことが出来ない。

 人間は二属性以上の魔法を使用することが出来ないので、怪しまれてしまうのだ。『魔法具』を媒介とすれば、自属性以外の魔法を発動させることは出来るのだが、当然そんな便利なものを彼女は持ち合わせていない。


「あ…この道」


 少し進むとオルレアが足を止めた。


「この先には確か、駅があったはずっす」


「駅…?」


 聞き慣れない単語を聞いた二人が眉をひそめたのを見て、「港みたいなものっす」と言葉を改める。

 その説明に頷いた二人は歩きながら周囲の店々を物色する。

 販売されているらしい物品は彼らが知る物と似ている物もあったが、見たことがない物もあった。

 特に、頭上に伸びている謎の線は他の異世界でもあまり見掛けないらしく、初見の時、この世界の文明レベルが高いことに驚かされたものである。

 しかし「駅」というものは完全似初耳であった。 そして、


「「おぉ……」」


 「電車」という名称の物を見た瞬間、二人の口から同時に感嘆の息が漏れた。


「ふふ…男の子の人っすね♪」


『…飛空挺とか戦艦とかある時点で他の世界のほうが文明レベル高いと思うけど』


『魔法の後押しも御座いますからね。ですがその引き換えに魔物と言う化生けしょうの存在がありますので。平和と文明の大きな発展が等しくないのが何とも皮肉なものですね。それに、機械類で興奮されるのはやはり、歳を重ねても男性と言うことですね♪』


『いつになっても少年の心を忘れていない人達かぁ…良いかも。まぁ私は弓弦が全てなんだけど…って、どうして弓弦は微笑まし気に二人を見ているの。弓弦だって男の子なのに…』


『あらあら…今はオルレア様です。 立派な、麗しい女性の一員に御座います』


 例外無く時間は止まっているので動いている「電車」の姿を見ることは出来ないのだが、開いている電車の扉をなぞるようにして光のアーチがあった。二人曰くこれが出口へと続く道の証であるので、一行はその中へ入り先を急いだ。











 抜けた先は同じく、電車の出入口であったのだが、先程まで居た駅のホームとは構造こそ似ているものの細部が違う別のホームに一行は移動していた。


「ぁ…」


『ここ…』


 ーーーそこは、先程の場所よりも懐かしい場所であった。

 電車の案内板、時刻表、階段、エレベーター、改札口、発券機。そのどれもが懐かしい。


「地元の駅っす…」


 呟かれた言葉は懐古の念が込められていた。

 夢では存在出来て当たり前だった日常の世界。そこにいざ現実のもの(語弊があるが)として、非日常のものとして立つと、不思議な感覚があった。


「こ〜こが…オルレア嬢ちゃんの」


「…出口は概ね特定出来たか」


 ここがオルレアの記憶から作り出された幻の世界であり、かつ、こうして彼女の地元に移動したということで、一行の中で出口の特定が完了した。

 視線を受け「案内するっす」と、感傷に彩られた顔を隠すよう似背けながら、オルレアは先頭に立った。

 そのまま駅を後にして、店が並ぶ商店街へ。

 離れた場所に臨める学校の名前は忘れるはずもない、『神代高校』だ。

 生きる者の姿は見受けられないが、それでも「帰って来た」という奇妙な感覚がオルレアと、彼女が穿いている下着に姿を変えている知影を満たす。


『いつか…一緒に帰った道だよね』


 右を見れば、馴染みのケーキ屋。

 暫く歩けば、知人の家。

 並ぶように建つ、数々の商店。

 それらは全て、日常の抜殻だ。


『いつか…帰りたい?』


 非日常に存在を委ね、今や染められてしまったオルレアや知影は、武器を手に取り、魔法というファンタジー世界の産物を手にしている。 それは日常では考えられないことだ。


『…弓弦の隣だけが私の居場所だよ。だから私はどこにでも付いて行くからね』


 ーーーそう、日常ならば。


『…何か聞こえましたね』


 遠くで何か、重いものが倒れたような音と地の揺れを微かに感じたオルレアは地を蹴った。


「お、お〜い!?」「待てオルレア!」


 魔力マナの残滓を感じたのだ。

 少女のものとは思えない速さで駆ける彼女に対して、二人は姿を見失わないようにするのがやっとであり、何とか彼女に追い付くとそこには、


「…これは…」


 巨大な魔物が倒れているのであった。

「キシャ」


「ふむ…戻ったか『空間の断ち手』」


「お帰りにゃ。プチ旅行、どうだったかにゃ?」


「キシャ、シャキキキシッシ」


「それにゃりに満足いったようで安心したにゃ。『アークドラグノフ』のみんにゃに会って、誰が一番相性良さそうだったのにゃ?」


「…キシャ」


儘猫じんびょう。下世話だ」


「にゃはは、にゃら止めておくのにゃ」


「キシャ、キシャシャシャシャ?」


「弓弦はちょっと立て込み中にゃ。ただ今絶賛冒険中にゃのにゃ」


「…本編について我等が此処で話すのは止めた方が良い。我等は我等にしか出来ぬ話をしておれば良いのだ」


「言えてるにゃ。じゃあ、おんにゃの子になった弓弦を見て思っていることをはにゃすのにゃ。最初は僕から…夜にアンニャの枕とベッドに潜り込むのはどうかと思うのにゃ。知影も風音もあまり良い顔していにゃいのにゃ」


「キシャ!? キシャシャシャ、シャシャキシャキシャァ……」


「そう思うにゃ? 本当にその通りだと思うのにゃ。暗示を掛けている所為だと言っても、『先輩の匂い…きゃ♡』はにゃいと思うのにゃ」


「キシャ、キシャシャシャシャ。キシャ…キシャシシキシキ」


「…ふむ、理がある」


「シャシャシャシャ、キシャ! キシャシャシャシシャ」


おんにゃの子だがそれが良いって…まぁ可愛いとは思うけどにゃ? それは…色々と駄目にゃのにゃ。それで、バアゼルはどう思うのにゃ?」


「…別に何も思わん。下らぬ話は終え、予告を告げるぞ」


「任せたにゃ」


「キシャシャ、キシャシ」


「…まぁ良かろう。『先行する元帥と呼ばれる女は対峙する。対峙するのは双銃を構える、男。語らぬ男はその時、何を語るのかーーー次回、散らす火花』…男を揺らすのは、何か」


「久々の予告、決まっているのにゃ。流石にゃ」


「キシャシャ!!」


「…永遠の彼方に映えゆる虹を、貴様は見たか」


「次回も宜しくにゃ!」「キシャ!」

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