戦に臨む
清々しい程に爽やかな風が私達を送ろうとしていた。
昨晩にカーペンタールとベルナルドがここを後にしているのは確認している…情報に間違いは無い。
「…忘れ物は無いな?」
時は早朝。
この『シリュエージュ城』の人々はまだ、宵闇の夢に意識を預けているはずだ。
「…ふぁ…ぁっす」
…そしてどうやらそれは、私の後輩も同じようだ。まったくこいつは…緊張感を台無しにしてくれるな。
「ほら眼を覚ませ。戦だ」
「…戦…やるっす」
しかし、ある程度のリラックスも必要だと言うことを考慮すると、ある種良い塩梅と言えるか。
戦士の気概。それをいつか、こいつ…いや、あいつにも教えてやらないといけない日が来るのだろうか……いや、栓無き事と言うものか。
決行に際して、私の鞘には『轟雷放つ剣』と『神滅の焔刃』が収まっている。 取り出す時間が惜しいからな……
「シャキッとしろシャキッと!」
「あうっ」
「…寝惚けて動きを捉えられるなど洒落にならんぞまったく…」
だらしない後輩のために前に回り込んで、その肩を両手で強く叩く。…どうしてそんな驚いた顔をする。
「…似合わんか?」
「…ドキッとしたっす。けど、やる気MAXっすよ!」
「っ、大声を出すな馬鹿者。まだ早朝だぞ…!」
「ぅ…ごめんっす」
…似合わないことはするものではないな。変に気恥ずかしい……
「フン…気力があるのならまぁ良い。だがくれぐれも静かにな」
頷くのを確認してから中庭を抜けて城内通路を歩く。
衛兵の姿は認められるが奴らは『組織』に関わっていない者達だ。適当に挨拶を済ませて先を急ぐ。
オルレアも開いた薄桃色の瞳に気合を漲らせて歩いている。右手右足、左手左足と、手と足が同じタイミングで出ているのはご愛嬌と言うものか。と言うか、まだ緊張しているのか。人に恥を掻かせておいてまったく、しょうのない奴め。
こいつ…徹夜で食事なぞ作っているから朝から眠たくなっていると言うのに…美味いには美味かったが、何もそんなところで張り切らずとも良いのだ。下から音がすると思って覗いてみたらまさか、朝からカツを揚げるとは思わなかった。お前は試験前の子どもを持つ母親かと、言いそうになってしまう程には驚かされてしまった。…いや美味かったが。
まぁこれで当分腹は保つ…別に食わなくとも保つには保っていただろうが…まったく。
「あ、ジェシカさんっす」
階段を降りて行く地下への入口。
オルレアの言う通りそこには、何かとオルレアの世話を焼いていたジェシカの姿があった。変わらずの佇まいだが、表情は重い。リーシュワの言葉を信じるのならば、彼女もまた、協力者の一人なのでここに居ることに何ら不思議は無いのだが……
「おはようございます。やはり…行かれるのですね」
「あぁ。成すべきことは、成さねばならないからな。それで奴は?」
「地下三階の大扉の前を守護しております。今朝は大変落ち着きがなくて…あの人もきっと、戦いが起こると言う武士としての予感を感じていたのでしょう」
…カーペンタールとベルナルドが抜けた穴をピースハートが埋めさせられている訳か。あれ程の傑物が一番槍に甘んじるとはな…やはり『装置』への道はかなり危険が伴いそうだ。
「分かった。…お前はもう戻っておけ」
「分かりました。…オルレアちゃん」
踵を返そうとしたジェシカだが、何かを思い付いたのかオルレアの下に歩み寄り、
「ぁ…」
「無事に帰って来てくださいね」
そのまま抱擁。
ジェシカの眼尻に光るものが見えたのはおそらく、私の見間違いか。
呼吸の音が静かに響く。
照れたように頬を赤らめたオルレアが小さく「行って来るっす」と呟くと二人は離れ、今度こそジェシカは踵を返して場を去って行った。
短い間だったが、母娘の絆のようなものが見えたような気がする。
「…さ、先輩行くっすよ」
一度だけ肩を大きく上下させた後輩は、決意を滲ませる声音で私を促してきた。
「フン…誰に向かって言っている? 私はジャンヌベルゼ・アンナ・クアシエトール。お前の先輩だぞ?」
十年早い。…だが、どうやら緊張は抜けたようだ。私の喝が効果無く、ジェシカに抱擁されて落ち着いたことには小言でも言いたい気分だがまぁ、こいつが全力を出せる状況になったのは喜ばしい…と、そう思いたいものだ。
* * *
一人の男が屋根の上に座っている。先程二人並んで歩いていた女性は今きっと、地下に入りつつあるだろう。
その少し前には、男が良く知る男が地下への階段を降りて行ったのを遠眼に窺えている。
「さ〜てさて」
肩に掛けるようにして持っている己の得物へ視線を遣る。
直後、朝風に吹かれて梢より離れた木葉が数枚渦を巻くように空に飛ぶ。
ーーー次の瞬間、そこには誰の姿も認められなかった。
* * *
「待て」
大扉の奥へと去ろうとしていた背中に、扉の隣に立つ男が声を掛けた。
その背が振り返ることはないのだが、足は止まったので話を訊く気はあるようだ。
「この先には何がある」
「どうして訊く」
「前々から気に掛かっていた。お前達がこの『シリュエージュ城』に滞在するようになってから俺は、装置に寄れていないからな」
「……」
「答えろアルスィー元帥。城の城主が居城の全てを知らぬとは、おかしな話だ」
無言の背中に対して、男は先程よりも強い語気で言葉を重ねる。
「この扉より先は『シリュエージュ城』ではない」
しかしその返答は、何とも掴みかねる内容のものであった。
「良く城の見取図を見ることだ。城主とあろう者がまさか、城の見取図を見間違えるとは思っていない」
言葉に詰まらせられる。
当然城の見取図は男の頭の中に入っており、そこによると、確かにここから先は何も書いていないのだ。扉の存在すらそこにはない。
つまり、空白。
普段ここから先へと足を進めているのならば気付かないのだが、それは本来おかしなものだ。
だがそれでも、書かれていないの事実であり、見取図に無い以上、捉えようによっては“城外”とするのも可能であろう。
そこを突かれたから男は、言葉に窮したのだ。
「知らずと良いことも世にはある。ピースハート、無用意な詮索は身を滅ぼすこととなる」
「…っ」
その言葉を最後に大扉は音を立てて閉められる。
扉の隙間から一瞬“何か”が見えたような気がしたが、刹那であるので、男の眼にはよく映らなかった。
その代わり、別の足音が空間内に響く。「二人か…」と経験から瞬時に理解した男は静かに得物を地に突き立てる。
足音が近付いて来る。
アルスィー元帥ーーーカザイの言葉に対して抱いた疑問を捨て去り、瞑目する。
すると何故か、二人の女性の姿が浮かんで消えた。
一人は男の愛妻。そしてもう一人はある日突然彼の前に現れた不思議な少女だ。
足音が近付いて来る。
同属性故に辛うじて感じることが出来る大きな火の魔力。 ここまでに強大な火魔力を持つ存在を、ここに居る人物で男は一人しか知らない。
足音が近付いて来る。
そしてそれを感じるということは必ず、ただ事ではないことを示している。
元より感じていた不確かな予感が確信に変じる。
足音が、止まる。
瞼を開けるとそこに、男の予想通りの人物ともう一人、
「っ?!」
予想外にも程がある人物が立っていた。
「え…ハン…さん…?」
「オルレア…お前がどうして…」
困惑の空気が流れる。
オルレアーーー先程の男の脳裏に浮かんだ少女の名前だ。
薄桃または、淡い桜色の瞳は男を捉え、亜麻色の髪が驚きに動いた身体に合わせて揺れる。
女性特有の曲線が見え隠れし始めている身体で光るのは、指にはめた指輪と服の上からでは分からないが、おそらくペンダント。整った顔立ちは彼女の持つ雰囲気と合わせ、とても人懐こそうな印象を与える。腰に帯びている剣も記憶の中にある彼女が持つ物と同じだ。その全てが、彼女がオルレアという、ここ数日間男、いや、彼ら夫婦の日常に笑いを届けてくれた不思議な少女であることを示していた。
「そこを通してもらえるか、ヨハン・ピースハート」
口火を切ったのは男が予想していた方の人物であるもう一人の元帥ーーージャンヌベルゼ・アンナ・クアシエトールだ。
「無「え、え、えぇぇぇっ!?!? ヨハン・ピースハートって…え、まさか…っ」」
それに対して素頓狂な声を上げたオルレアは男のーーーヨハンの言葉を遮り、二人の顔を何度も往復する。これには二人共、揃って気を抜かれてしまった。
ヨハンは、自分達を何かの罠に嵌めるために接近したのかと思案したのだが、口振りからするとそうでもないらしい。確かに「ヨハン」と名乗ったのにも拘らず彼女は「ハン」と呼んでいたが、まさか名前を聞き間違えられているとは思わなかっのだ。
対するアンナはアンナで、それとなく察しは付いていたのだがまさか、聞き間違いによってそれがもたらされたものであるとは思っていなかったのだ。
「…そんな…あ、でも…っ、ヨハンさん!」
暫く悩んでいた彼女であったがやがて、決心が付いたように一歩進み出ると、「そこを通してほしいっす」と言葉を続けた。
「それは無理な話だ」
「通してやったらどうだ」という気持ちはあった。だがそれを実行してしまうと、オルレアの生命が危険に晒されてしまうのだ。
先程奥に入って行った元帥、『ジェフ・サウザー』その二人が、彼女を殺さない道理など無いのだ。
今なら、今ならまだ、彼女に引き返してもらえればその危険性は無くなる。それに、まだ歯止めを掛けることが出来るのだから。
「そうっすか…なら」
迷わず剣を抜き放った彼女の姿にヨハンは内心舌を巻く。
「無理矢理にでも通らせてもらうっす!!」
迷いの無い踏み込みに彼の身体は反射的に槍を操る。
とても少女とは思えない一撃の重さと速さだ。その実力、並の兵士を凌駕している。
ここでヨハンはようやく、オルレアが元帥直属の部下であることに考えが至った。
少女と大人の男。単純な力比べではヨハンに軍配が上がるものの、オルレアは巧みに力を受け流してくる。時折攻撃に魔法を混ぜて対応してくるのだ。
加えて、
「遅いッ!」
彼の相手はオルレア一人ではない。
同時にアンナも相手取っているので、上手く斬り崩すことが出来ない。
さらに、オルレアに対してヨハンは得物に込める力を緩めてしまうのだ。それが甘い一撃となって隙を作る。
そこを突かれる。
「せやぁぁぁぁ!!」「たぁぁぁぁ!!」
「ぐぅぅぅ…!!」
前後からの息の合った同時斬撃を防ぎ切ったヨハンは、素早く魔法陣を展開する。
二人の真上に展開された魔法陣から炎弾が現れ、それは彼の手首を下げる動きに合わせて落下する。
間一髪避け反撃に転じようとしたオルレアとアンナが、再び距離を取ったのと時を同じくして地面より起こる轟炎。
火属性上級魔法“エクスプロージョン”ーーーそれは、ヨハンが大将の立場にある所以ともいえる彼の愛用魔法だ。
その最たる特徴は、“無詠唱”。
上級魔法を無詠唱で使用出来るというのは、人からすれば神、いや、悪魔の所業といえるか。
魔法を用い、それを極めたものはその魔法を無詠唱で使用することが可能となる。無論威力は減少し、発動に必要な魔力も通常発動と比較して著しく増加するが、戦闘において魔法を無詠唱で発動出来るという大きな強みは、おそらく述べるまでもないであろう。
魔法と人には相性がある。それは曰く、使用出来る属性であったり、そもそもの威力であったりするものだが、威力に限っては、その魔法を使い慣れていくことにより向上させることが可能だ。
詠唱も同じだ。魔法とはいわば、「イメージ」の具現化であるものだから、最も自身が魔法という名の絵を描き易いように言葉を紡げば良いのだ。個々人による同一魔法の詠唱の差異はこの部分に極まるといっていいだろう。
故に初級魔法程度であれば、上級魔法を発動させられるだけの魔力があれば誰でも使うことが出来るという可能性がある。
中級魔法はそこから人を選ぶ。 魔法に意思があるのならば、性格が気難しくなると表したところか。
気難しければ、打ち解けることは自然と難しくなる。故に、人を選ぶのだ。例外はあるが、人がここまで至るには相応の時間と使用を要する。例えるならば、これは少将の階級へ至るための試験課題とされる程だ。
上級魔法はさらに篩にかけられるーーー否、使える者はほぼ、居ないとしても間違いはないであろう。境地に達したとして、歴戦の勇士と賛辞を贈られる程だからだ。
しかし彼はこの境地に、若くして至っていたのだ。才能だけではない、努力で、だ。
それらは弛まぬ努力の成果ともいえるか。ヨハンの実力を目の当たりにしたオルレアは剣を握る手に力を込める。
「これが大将の実力だオルレア。怖気付いたか?」
「凄いっす…けど、負けられないっす!! 突破するっすよ先輩!!」
「その意気だ!」
自分の身を守ることは当然だが、ヨハンは後方にある大扉も守護しなければならない。今は魔法を使用せず、剣による一撃しか行ってこないアンナとオルレアだが、それもいつまでかは分からない。
槍の穂先がアンナの剣に挟まれる。
「ハァッ!!」
力任せに引き戻し、態勢が崩れたアンナに柄で打撃を見舞い、反対側のオルレアには刺突を見舞う。
『来れ炎蛇焼け、焦がせ!』
そのまま一回転させると、衝撃に炎が巻き起こる。
生じた炎より現れた無数の炎の蛇が一斉に二人へと身をくねらせて襲い掛かる。
「先輩っ!!」
「何だ!!」
「でぇぇぇぇいっす!!!!」「ぬっ」
それを掻い潜ったオルレアの袈裟斬りの勢いに、ヨハンの身体が仰け反る。
「今の内に先に行くっす!!」
「…っ、分かった!」
「させる「こっちの台詞っすッ!!」ぐ…っ!」
離された距離が詰められない。
槍の届かない位置を擦り抜けたアンナの手が大扉に伸び、触れる。
押し切ろうと踏み込む彼によって、正面に肉薄したオルレアの顔が苦悶に歪んでいく。
「行かせないっす…!!」
押される。
その背後で扉は徐々に音を立てて開いていくが、オルレアはまだ、ここで討たんとせんと瞳を戦意に彩らせて一歩踏み込む。
「何を…ッ!!」
「行かせれないっす!」
「少女の身体にここまでの力が…ッ!」と驚きに眉を顰めながら、ヨハンは背後に視線を遣る。
しかしその一瞬だけで押し返されかけてしまう。気を抜くことなど絶対に許されない戦いだと自覚しつつも、やはり彼は少女に対して全力を発揮し切れなかった。
「悪いけどボク、どうしても先輩をこの扉の先に行かせないといけないっす。だから…勝つっすよハ…ヨハンさん」
「…っ、何故そうまでして、この先を目指す!! この先に進むことは…死地に向かうようなものだ、オルレア!!」
「助けたい人が居るってだけっす。 その人を助けるためにはこの先に、行く必要があるっす…!!」
その人物で一人、ヨハンは思い当たる人物が居たのだが、「まさかな」と一蹴して開いた扉へと視線を遣るーーーどうやら先に進ままれたようだ。
「だから、通してもらえないっすか。ボクとしては出来れば、ヨハンさんとこれ以上戦いたくないっす。 ヨハンさんだってボクへの攻撃が、先輩に繰り出した攻撃より鈍っているじゃないっすか! お互いに戦いたくなかったらそれで…それで武器を下げ合えば良いじゃないっすか!! なのにどうして…っ」
「通せるはずが…ないだろうッ!!」
オルレアの目的は足止めだ。ヨハンが引くまで彼女がここを立ち去ることはあり得なく、またヨハンに引く選択肢は無い。
先に進まなければならないオルレアと、彼女を先に進むことを良しとしないヨハンーーーそこに両者の衝突は必至だ。
「この先で待っているのはお前の命など、どうとでも良いと思っているかつ、俺よりも強い輩だ。…死地に喜んで飛び込むような相手を止めない者は居ない。まして」
言葉を切ったヨハンは次の攻撃で勝利を極めんと、振り上げた槍に渾身の力を込める。
「ーーーッ!!!!」
叩き付けられた火の魔力が膨れ上がり、大きく空気を巻き込んで弾け飛ぶ。
吹き飛ばされたオルレアは何とか態勢を整えるが、その額に薄ら汗が滲んでいる。
「なら…!!」
ヨハンの言おうとしていた言葉の意味が分かったのか。剣を鞘に収めて柄に手を添える、抜刀術の構えを取ったオルレアの姿が途中で消える。
「ヨハンさんも一緒に来れば良いじゃないっすかッ!!」
眼で捉え切れない程の高速で接近する気配を感じた彼が、その方向に振るった槍と今までにない、遥かに重い一撃が衝突しそのまま、彼の身体を押しやった。
言葉によって動揺してしまったことによる防御の遅れが、一時的に彼の力を鈍らせ、力負けする結果に誘ったのだ。
そしてそこからの追撃は無く、ただ、剣を鞘に収めたオルレアが手を差し出した。
「一緒に来てほしいっす。ボクと、先輩と…だからどうか、この手を取ってほしいっす」
それは、彼にとって盲点ともいえる選択肢の提示だ。
ーーー内心では分かっていた。 自分の行動は、悪戯に不幸しか生まないと。それが、自身の妻の頬に雫を伝わせるだけの行為だと。
だがそれでも、成したかったのだ。仇討という蛮行と蔑まれて然るべしな行為を、ひとえに妻のためと信じて。
しかしそう信じて動いた彼の思考に、闖入者の存在が生じるようになった。
逡巡を見せる彼に一歩、また一歩と彼女は近付いて行く。そして、
「お願いっす」
いよいよ彼の眼の前に彼女が立った時、彼はーーー
* * *
あいつをあそこに残して来て本当に良かったのだろうか。
確かにヨハンの様子を見る限りでは、オルレアが生命を落とす可能性は零に等しい。寧ろ生命を落とす可能性があるのは……
…。
……。
………いや、考えまい。今は先に進むのみだ。
この先に装置はある。無論長い道程ではあるし、『組織』での最重要防衛拠点に定められている以上、その防衛設備も凄まじい。後程オルレアが追い掛けて来る時のために、罠もある程度解除しなければならないしな。
…それに、この先には広場と大扉が数カ所あるはずだ。魔物共が跋扈している様子を見るに、ピースハートを入口に配置したのはまず、この先のことを見られたくなかったからと見て間違い無いだろう。
…あの男はいつ、私の前に姿を現わすのだろうか。
「ッ!?」
…っ、囲まれたか。
「邪魔をするな!!」
突き進まなければならない。
私は何としても真相を、突き止めなければならない。そしてそれは、大元帥の真の死因よりも優先順位が高いものだ。
大元帥が殺められたとされる場所…あそこの奥には『禁忌』が封印されている。もし封印を破り、その何者かがその奥のものを知り得てしまったのなら…『禁忌』に触れた者を野に放置しておくとそれは…取り返しの付かない地獄の幕開けとなってしまう。
…人は神になれないのだ。かつてそれを見誤った者の末路は……
…。あの男は何を知り、何の目的で動いているのだ。
この先に居るのだろうカザイ?
思惑、その全てをその口から洗いざらい、吐かせてやるから待ってるが良い……!!
「はぁ…博士ったらまたこんな物を作って…仕方ありませんわね。少しは整理する私の身にもなってほしいものですわ。…それに材料もどこから調達してくるのやら……あら?」
「キシャ」
「蟷螂…!?」
「キシャ? …っ!?!?!?」
「む、む、むむむ…虫ですわ…虫ですわっ!!」
「キ…キ…キィっ!?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!! 虫ですわ虫ですわ虫ですわ虫ですわ虫ですわっ!! 気持ち悪いですわぁぁぁあっ!!!! どうしてこんな所に居ますの!? もう博士ぇっ!! 酷いですわ、酷いですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっっっ!!!!!!!!」
「キ…キシャシャア……」
「ひぃぃっ!! 喋りましたわぁっ!? あぁぁ早くどこかに処分しないと…窓窓、窓はどこにありますのぉっ!? ありましたわぁっ!!」
「キシャ…っ!?」
「…消えてしまえば良いのでしてよぉぉぉぉっ!! ぶっ飛んでぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「キシャァーーーーーーーーァアアアッッ!?!?!?」
「ふぅ…汚物は消毒ですわ。さて、それでは次回の予告の説明ですわね。『差し伸ばされた手。男の脳裏に過ぎるのは数々の思惑であった。一つのことを信じて疑わない男の心の奥底にあるのは常に、一人の笑顔。彼女を泣かせることは絶対に、許してはおけない。それが男の矜持なのだから。そして、それは男の前に立つ少女に対しても適応されてしまうものだ。今の男には守りたいものが二つある。故に、その全てを守る、そのためにはーーー次回、在りし場にて』…それは、夢か幻はたまた、現実か。次回も、見ないと暴れましてよ?」