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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第四異世界
172/411

求め苦しむ

 どことも知れぬ闇の中、静かに腰を下ろす存在が在った。

 毛繕いをしているその存在は、焼け焦げてしまった毛を抜いて、舌で舐める。


【慢心のつもりは無かったのだが…想像以上に代償は痛いものとなったか。私もまだ若いな……】


 どこか悟ったような声音で呟くと、その傷が癒えていく。程無くして、先程まであったはずの傷は消えていった。

 すると歩き始める。

 目指す場所に光は無い。ただ暗澹あんたんと闇が広がっている空間がその存在を迎えている。闇の存在である故、それは当然といえることか。これを心地良いと思うか、そうでないかは正に、それぞれであるがその存在に至ってはその、どちらでもない。

 あるがままの状況を受け入れるだけ。それがどのような状況であろうとだ。

 明確な意思が無い訳ではない。存在は自由な存在なのだ。もっとも、迎える闇を拒否した存在も在る。

 暫く振りだろうか。その存在は久しくその存在とは別の存在、とは別の存在の気配を感じた。二度目の接近となったので、当然向こうも感じているのは確かだ。

 穏やかであった。暫く見ない内に変わったように思えた。

 そう、変わることーーーそれを望んだのだと理解は出来た。いや、その存在の場合は「ようやく」が付くか。


【役目は終えた。ならば】


 闇が晴れると、その存在の姿は別なものへと変わる。

 闇に遠吠えが、響いていた。


* * *


「明日決行するぞ」


 それは突然、アンナの口からもたらされた。その言葉にこの日も夕飯の片付けをしていたオルレアは、息を飲む。


「いよいよ…っすか」


「あぁ。今日の深夜、カーペンタールとベルナルドが蜂起した『保守派』のある部隊に攻撃を仕掛けるために、この『シリュエージュ城』を離れる。そのタイミングで動こうと考えている」


 実はこの日、前々から決まっていたのだ。デマの可能性を考慮してはいたのだが、どうも確からしい。これはつい先日、彼女達の味方をすると確約した『ディー・リーシュワ』が情報源であるのだが、彼女は彼女でしっかりと裏を取っている。

 だからこうして踏み切るまでに至れたのである。


「取り敢えずは風呂に入る。話はそれからだ」


「分かったっす。だけどその前に、剣を磨いても良いっすか?」


「フッ、そうだな。己が命を預ける大切な相棒だ、しっかりと磨いておけ」


「分かったっす!」


 嬉々として奥の部屋に入って行ったオルレアを優し気な眼差し見送とアンナはすぐ、溜息を吐く。

 あれからも時々オルレアは『エージュ街』に赴いており、街や城内の人間にも親しくされているそうだ。

 同時に城の雑事も快く引き受け、あらゆるところでその技術を振るっているのだとか。つまり、この家で過ごす時間が減っていた。

 多忙気味でもアンナの食事を朝昼晩と用意し、自らも食卓を共にするので所謂、“やることだけはやっている”状態だ。

 別に本人の自由にさせれば良いとは、思っているのだが、どうしても溜息を吐きたい気分になる。独占欲が現れているのかもしれないと、ふと思った。「“彼女は”自分の後輩なのだから…」と。


「…私も剣を研ぐか」


 思考から逃げる訳ではないが、どの道備えなければならないので、『封剣紙(アルマメモリア)』から剣を取り出す。

 研ぐ。

 石に刃が滑り、鋭い音が静寂の中、耳に届く。彼女がオルレアに言った言葉だが、この剣に命を預けるのだ。故に、最も信頼し、最も想いを込める。彼女にとって、得物は家族同然なのだから。

 どの剣も、場合によっては使う可能性が出てくる。なのでそれを、一つ一つ丁寧に研いでいく。

 魔法剣は種類によって手入れをしなくてもその斬れ味が鈍る訳ではないが、心を落ち着ける時を始めとして、暇潰しには丁度良いのだ。


「こんなところか。…ん?」


 気配を感じた。外からだ。

 殺意は感じられないのだが、こんな時間に訪ねて来る人物などそうそう居ない。まして彼女の立場ならなおさらだ。

 しかし訪ねて来たーーー「一体誰が?」という問いに、すぐに答えが出る。

 反射的にオルレアが入った奥の部屋を覗き込む。


「ふふふふふんふん♪ ふ〜ふ〜ふ〜ふ〜♪」


 扉を少しだけ開けて中を窺ってみると、鼻歌交じりに剣を研いでいる彼女が居た。時折剣を掲げてはうっとりと見つめているので、暫くはあのままであろうと判断した彼女は、外に出る。


「……」


 “それ”は、すぐ眼の前に立っていた。月と闇、そして死を背負って、相変わらずの無表情で彼女を見つめてきた。負けじと睨み返そうとして、思わずむせてしまう。見事なまでの失態に取り乱し掛ける彼女だが、すんでのところで踏み止まって、再び睨む。

 視線が交わる。


「何か私に用か」


 何も感じさせないその瞳がアンナを映す。


「……」


「答えろ」


 そう、彼女の前に立っている無言の男は『カザイ・アルスィー』

 今は敵対しているもう一人の元帥の立場にある男だ。一瞥すると武装の類は見られない。つまり丸腰状態のカザイがおもむろに瞑目すると「確認だ」と答えた。


「攻めるのか」


「何…」


 まさか会話を聞かれていたのかと冷や汗が流れるのを覚えながら、緊張に早まる鼓動を抑え努めて冷静な態度を装う。

 しかし、それ以上カザイが言葉を続ける様子は見受けられなかった。ただ瞑目して彼女の前に立っているだけーーーそれは彼女の言葉を待っているかのようだ。


「だとしたら、どうする。私を止めに来たとでも言うのか」


 鞘に手を添える。

 遅かれ早かれ、事を交えるのならば、今ここで斬り捨ててしまえば憂いを断つこととなる。丸腰状態の相手を斬ることには幾許かの抵抗があるが、背に腹は代えられない。敵としての脅威度は、眼の前の男の方が悪魔に比べて高いのだから。敵の数をここで減らせるというのは大きい。そこに一切の情など込めず、斬り捨てる覚悟を決めることなど彼女にとって、容易だ。


「……」


 しかしカザイは、再び彼女に背中を向けた。まるで斬れといわんばかりに。


「待てカザイ。何故私に背を向ける。おい、訊いているのか!」


 カザイが振り返ることはない。

 去り行く背中に剣を振ることを躊躇っている内に機会もまた去り、アンナはまたしても、彼を斬り逃したのだった。

 苛々させられる。何故こうも腹立たしい行動を取るのか、彼女は男というものが理解出来なかった。

 そしてそれは、「今度こそ、今度こそ」と戦場を共に歩いたもう一人の元帥に対する情が自分にあることを悟る理由になっており、そんな自分にも腹立たしいのだ。

 甘えは死を呼ぶ。もしここであの男を去らせてしまったことにより自分達の身に何か、災いが降り掛かってしまったとしたら。

 ーーーそれは、なんと不幸なことなのだろうか。否、不幸どころではない。不幸である以前にそれはもう、きっと、取り返しの付かないことなのだ。

 自分が果てるのも、協力者であるディーが果てようとも、彼女としては一向に構わない。それで目的が達せられるのならば喜びを持って事を成す心算はある。

 だがオルレアーーー万が一彼女の後輩が凶刃に果てるようなことがあれば。“彼女達”のように彼女もまた、復讐者と化してしまうようなーーーそんな予感があったのだ。

 それは、仮に『橘 弓弦』が倒れたとしたのなら起こらない出来事だ。

 もし彼が果てることがあれば彼女は、女の敵が消えたことで清々しい気分になれたであろうはず。


ーーーふふふん♪ ふふふん♪ ふふっふふふふふ〜ん♪


 扉の奥から聞こえる楽しそうな鼻歌。それをBGMに彼女も剣研ぎを再開する。

 念入りに、念入りに研いでいくと、少しばかり鬱憤が晴れたような気がした。

 最後の一振りまで研ぎ終えると、ふと視線を感じた。見ると、オルレアが扉から顔を半分ばかし覗かせている。一頻り剣を磨き終わったのか、その顔は満足気だ。


「風呂に行くか?」


「行くっす!」


 もし彼女に尻尾が生えていたのなら、ブンブンと振っていそうなのが分かり易い程の笑顔で扉から出て来た彼女はその手に、着替えを持っていた。寝間着だが見慣れない服だ。


「ハ…ジェシカさんに買ってもらったっす。日頃のお礼だとかで…」


 疑惑の視線にそう答え、はにかんだオルレアにアンナは内心苦笑を浮かべた。勿論彼女に対してではなく、それを買った人物に対してだが。


「…まぁ良い。さっさと行くぞ」


「行くっす!」


 アンナも準備を終えると二人、浴場へ。

 いつものように服を脱ぎ扉に手を掛けたところで、アンナはふと、違和感を感じた。籠の中に入れられたものに視線を遣ると、それは一番上に置いてあった。

 ペンダントだろうか。何かの形状をしたその中央に、小さな深紅の宝石が輝いており、それは何かの意思が宿っているかのように優しく光った。

 いつの間にかオルレアは中に入ったのか、横開きの扉はしまっているのでこっそりとそれに手を伸ばす。


「…っ」


 指先が触れる。

 宝石は熱を帯びており、微かに温かな感覚を覚える。しかし同時に感じたのは、冷たい感覚だ。温と冷、二つの感覚を同時に覚えて思わず、気味が悪くなってしまう。

 「気味が悪い」ーーー中に宿っている人物には悪いのだが、それが率直な彼女の感想だ。底知れぬものを感じるがしかし、オルレアが着けている時は然程、それを感じなかった。

 中に居るーーー否、これに姿を変えている人物の意思が、そうさせているのであろうか。触れている限りではよく分からないのだが、取り敢えずよく分からない内で、一番謎なのは、“オルレアがどうやって姿を変えた彼女達と話しているか”だ。

 『ハイエルフ』というのもあるのだろうが、メカニズムが気になる彼女なのだ。

 彼女が時々眉をしかめるのはつまり、彼女達との会話が行われていることを表しているのであろうが、一体どうやって会話をしているのであろうか。触れてみても意思が伝わるのを感じないので、そっと魔力マナを込めてみると、


『あらあら…如何されましたかアンナさん?』


「っと」


 ペンダントに姿を変えている『天部(あまのべ) 風音』の声が聞こえた。突然聞こえるものだから少々驚いてしまったが、どうやら魔力マナを込めることにより、その人物との会話が出来るようになると結論付けてから会話を試みた。


「いや、少しばかり会話をしようと思ってだな。いつチョーカーからペンダントなんて、洒落たものに姿を変えた」


『気分…と言うもので御座いましょうか。オルレア様に御願いしましたら、了承して下さいましたので』


「…勝手に光魔法以外の魔法を使ったのか。仕方の無い奴め」


 『オルレア・ダルク』という、人間に変装する以上、その姿で複数属性の魔法を用いてもらうのは避けるよう事前に伝えたはずが、まさか使っているとは思えなくて苦い顔をする。しかしどちらかというと、「やっぱりか」といった感想だ。


「ならば『神ヶ崎 知影』も新しい姿に変わっているのか?」


『いえ、私だけで御座います。知影さんはずっと下着ですよ』


 彼女も彼女でオルレアが、知影が変身した下着を着用していることに少しだけ危機感を覚えていたので、期待したのだがどうも、やはり? 彼女は変態であった。


ーーーせんぱ〜い?


「フ…せっかちか。困ったものだな」


 扉越しにオルレアの声が聞こえたので、そこで会話を打ち切ったアンナも浴場の中へと入って行った。


『……』


 風音は夢見心地な意識に身を委ね、熱の失せた自らの背中を丸める。

 オルレアが着用している時はずっと彼女の温もりを背中に感じるので、とても安心出来るのだ。だからその分、感じられなくなると寂しさを覚える。

 何気無く作った笑みは、人からは寂しく見えるのだと思った。彼女にとって一日の中で、最も辛い時間はこの時間なのだ。

 出来ることならばお風呂ぐらい、女同士ということで一緒に入りたいものなのだが、どうも許してくれそうな雰囲気ではない。ペンダントへの変身はせめてもの妥協点といったところであり、気分転換としてはそれなりに、丁度良いものであった。

 明日攻めるということはもう、目的の達成までのカウントダウンが始まったということであり、それが終わればオルレアは弓弦に戻るので、それまで待てば彼女が待ち望んでいる想い人が戻ってくるのだが、それは同時に、他の女性陣の下にも戻るということだ。

 『アークドラグノフ』を離れる際に、置いて行かれるよりは数十倍もマシではあるのだが、一つの欲が叶えばまた別の欲を作り出し、求めてしまうのが人間の心というもの。そして、乙女心だ。

 一緒に居られるという欲求が叶ったものの、そうすれば次の欲求が生まれてしまうのだ。それが彼女の場合は、ちゃんとした自分の身体で側に居たいということになる。

 間接的であるとはいえ、両親からの許しがあった以上、もう彼女としては、何としても彼を自分のものにするしかないのだが、状況がそれを許してくれない。

 またなんとなく予感があるのだ。

 きっとこれが終わったら、置いて行ってしまった分彼の注意は居残り組へ集中してしまう。第三者的立場から見れば、それが妥当なのだから。

 もっともそれは、第三者的立場から見ればのことであり、当人からすれば妥当でもなんでもない。決して頷くことなんて不可能な、単なる理不尽だ。

 ーーーそういった点を踏まえれば、彼女ーーー否、彼女達の目下の敵は『フィリアーナ・エル・オープスト・タチバナ』になる。彼との関係が一番進んでいるのは彼女なのだから。

 彼がどう思っているのか、その真意全てを察することは出来ない以上、行動から察していくしかない。

 だから指輪を贈ったことが大きいのだ。フィーナが以前にも増して、余裕があるように見えるのはそれがあるのだ。

 ーーー指輪がもし、風音に贈られていたのならきっと、フィーナと風音の立場は逆転していたであろう。フィーナが今の風音のように彼と行動を共にし、風音が今のフィーナのように、『アークドラグノフ』で彼の愛を感じながら待つこととなったであろう。そして、彼が戻って来てからは一つだけ、我儘わがままを訊いてもらえるーーーそんな立場に。

 確かに置いて行かれるよりはマシだ。マシなのだが、姿を女性のものとし、暗示を掛けることで性格を変えているとはいえ、想いを寄せている人が自分ではない他の女性と仲良くしているというのは、快く思えない。逆に嫉妬を覚えてしまいそうだった。

 見せ付けられているように思えるのだ。自分に出来ないことを平然とやってのけれるアンナに対して、嫉妬という黒い感情を。

 彼女が一歩踏み出せばそれまでのことかもしれない。だが、それが良い方向へ動くかどうかを、どうして知ることが出来ようか。寧ろ悪い方向へと悪化させてしまうかもしれない。

 焦らしいかもしれないが、それが駆け引きというもの。進めば進むだけ向こうも進んでくれるかもしれないが、進めば進む程向こうが退いてしまえば天を仰ぐしかない。一度得た信頼を失うことが最も容易いように、一度進んだ心の距離を離すこともまた、最も容易いのだ。

 そして、失ってしまったものを取り戻すのは途方も無く難しい。そして彼との心の距離を失ってしまうということは、彼女が平常心を失ってしまうことに等しいかもしれない。

 ーーー喉が渇きを覚えた。

 愛しく思える彼の顔を浮かぶ。


『…っ! はぁ…っ、はぁっ…!』


 普段は不思議と、空腹感を覚えないのにこの状態になると何故か、それを覚えてしまう。 

 今日も始まったのだ。襲いくるそれに耐えなければならない時間が。


『っ…くぅ…っ!! 弓弦…さ…まぁ…っ! くぁ…ぁ…っ』


 意識が現実に引き戻されるどころか、さらにその遥か彼方に引っ張られるような感覚に痛みを覚える。

 このような姿は決して人には見せられないものだ。 

 痛い、イタイ、居たいと、彼女の中の何かが必死に求めている。

 それは抗えない本能の叫び声。これに耐えなければならないのかも思うと、身体が震えるーーー否、疼く。

 疼き、うずくまる。

 早く、早く戻って来てほしい。しかし、こんな自分を知られるようなことだけは避けたい。そう、絶対にだ。


『ぁ…っ、ぐ…っ…!!』


 だが、


「ふ〜…気持ち良かったっす〜♪」


「フッ…そうだな。これも今日で入り納めだ。ゆっくり堪能出来たのならば、良いが…」


「また入れるっすよ。入れるじゃないっすか。入り納めじゃないっすよ」


『…。クス…ッ♪』


 (彼女)の姿を見た瞬間それは、すぐに収まった。

 風音の真似をしてなのか、言葉の三段活用を使ってそう言ったオルレアに微笑む。

 依存。このままで自分は良いのだろうかという悩みがあった。底知れない自分の内の、何かへの恐怖がそれを助長する。

 両親とその友人が知っている、“何か”。それが何かは謎に包まれているが、それは、今彼女を着けた人物のみが、何とかすることが可能なものらしい。そう、託されているのだから。


「……」


 背中越しに伝わる鼓動と熱に、自らの鼓動が速まっている感覚を覚えると同時に、アンナからの探るような視線を感じた。


『遅いよ弓弦! 長風呂し過ぎ!』


『あらあら…』


 そしてオルレアに穿かれた下着に姿を変えている知影による、早速の苦情に彼女は苦笑した。

 いっそのこと、彼女のように自分の欲望に対して素直に、成り切れればどれだけ楽なことだろうか。


『‘…叶わないから叶えと願うのでしょうね’』


『? 風音さん何か言った?』


『いえ、何でも御座いませんよ』


「‘…そうかもしれないっすね’」


『……!!!!』


『ん? 弓弦…?』「オルレア…?」


 声が出ているのかも怪しい、あまりに小さかったので知影とアンナは首を捻ったが、まさか返ってくるとは思わなかった呟きがハッキリと聞こえたような気がした風音は、どこか気恥ずかしくて、驚きに見開いた瞳を静かに細め、眼尻を下げるのだった。


* * *


 ユ〜君元気にしてるかな?

 もうそれなりに日にちが経ってるけど…音沙汰無しだからちょっとお姉ちゃん寂しいなぁ…って。

 う〜ん…ちゃんとご飯食べてるかな? 熱中すると食べ忘れてる時あるし…お腹が空いてるってことも頭から抜けちゃう時があるし…可愛いんだけど…ちょっとね。


「……てるか」


 可愛い…愛おしい? うん、愛おしい。

 向こうで何してるんだろ…多分ちゃんと生活は…してるんだよね。 どんなもの食べてるかな…食生活は気にしてるかな…? 昔野菜食べなかった時もあるから…変に楽さだけを求めて野菜食べてないなんてことは…ないかな。多分アンナちゃんの生活の面倒を見てるんかな。世話焼きだものねユ〜君は…ぅぅ、可愛いなぁ。


「レ、レイア殿…」


 おっと、忘れ掛けてた。


「ごめんごめん。ちょっとボーっとしちゃった」


「思案していたのか。いやそれよりも、その手に持っているものは…」


「あ、これ? ユ〜君のお人形」


 ユリちゃんの部屋に居る私は知らず知らずの内に、そこにあった折紙を使ってユ〜君人形を作ったちゃってたみたい。

 初めは本当にどうやれば似るかなって試行錯誤を繰り返していたけど、今は折紙に触っていると気が付いたら折ってるんだよね。反復するのって大事だと分からされるよ。


「そ、それは分かってるぞ、うむ。どうやってそれを折ったのだ? 私もその…折ってみたいのだ」


「ん? じゃあまずは一回、見せてあげるね。結構簡単だからすぐに出来ると思うよ」


「うむ。よろしく頼む」


 え〜と、まずは折紙をこれだけ用意して…ここを、こう折って。


「ここはこう、折って…」


 ここで重ねて…折って、ひっくり返して…折って、折って戻して。


「…む、む?」


「そしたら…こう、こう、こう!」


「む!?」


「ユ〜君人形完成だよ♪」


 う〜ん、中々の出来栄え♪

 ちゃんと意識して作ってた方が出来が良いね、そっくりだよ。


「どう? 出来そう?」


「……隊長殿ではないが、さっぱり分からんぞ。すまぬがここからもう一度作って見せてくれ。まだ形すら出来ていないが、ここまでは合っているの…だな?」


「ん、合ってるよ。後は…」


 指先の感覚が大事なんだよね。

 こう…陶芸の職人技…みたいな。流石に一回は無理だもんね、よし。


「ここを…こう、こう、こう!」


「むっ!?!?」


「はい、二人目完成! 分かった?」


「……」


 …もう一回見せた方が良いかな?


「ここから…こう、こう、こう! …どうかな?」


「う、うむ…れ、レイア殿は職人か? 私の眼にはまるで、阿修羅のように腕が分身したように見えたのだが…」


「腕に注目してちゃ分からないよ。ちゃんと折紙と指先を見なきゃ」


「う、うむ…よし、やってみよう。少しだけ時間をくれ」


 良いねその、やる気のある瞳。そう言うの、大好きなんだ♪ どこまで出来るかな…?


「うん、多分そろそろ、完成に近付いたものが出来ると思うよ。頑張って」


「う、うむ」


 よ〜し、じゃあユリちゃんの作品が出来るまで私も、ちょっと、色々練習しちゃおっかな。折紙は一杯あるみたいだし…あれ? あそこの机の端から出ているのは…枕…かな? あ、ベッドの上の棚に置いてあるの、ユ〜君が行く前ユリちゃんに預けた隊員証だ。あんな大切そうに飾っちゃって…えへへ、私まで嬉しくなってくる。まぁ…後は乙女のデリケートな話になっちゃうからそっとしとこ。

 さ〜て♪


「最初は…こう」


 ふふふん♪ ふふふん♪ ふふっふふふふふ〜ん♪


「そして…ここで」


 ふふふんふん♪ ふふふんふん♪ ふふふふふふふふふ〜ん♪


「ぬぅ…ここでひっくり返して、ここ、を、折…って」


 ふふふ〜ん♪ ふふふ〜ふふふ〜ふふふ〜ふん♪


「そしたらここで戻して、重ねて…と、そうそう、この形だったな、うむ」


 ふふふん♪ ふふふん♪ ふふっふふふふふ〜ん♪


「うむ、ここまでは出来たぞ。だがここからだ…!」


 ふふふんふん♪ ふふふんふん♪ ふふふふふふふふふ〜ん♪


「よし! だがここから…レイぁ…ど…の?」


「ん? どうかしたの?  …っと、完成っと」


 うん、中々の出来♪

 ユリちゃんも後少しみたいだね。


「そ、それは…?」


「これ? ありゃ」


 今気が付いたけど…作り過ぎちゃったかも。


「これがお料理をしているユ〜君で、こっちがお風呂に入ってるユ〜君。それでこれが寝ているユ〜君で今出来たこれが食べら「ま、待ってくれ!!」」


 …ありゃ、腕落ちたかも。四人しか出来てない。


「そ、それも全部折紙で?」


「うん。最後のこれは難しいけどね。特にユ〜君の身体との対比と形がね…工夫しないと」


「いや工夫と言ってもな、ベッドと弓弦殿とこの女性、全て綺麗に絡まっているように見えるのだが…これもなのか?」


「そうだよ。最高傑作に限りなく近いかな」


「む…むぅ…」


 これはちょっとね、驚かれないと困る代物だものね…ユリちゃんの反応は分かるけど。


「ほら、こう言うの作るのにも、まずは基本からだよ。後少し、頑張ろう!」


「…この女性が誰かに似ている気がするのだが…気の所為だろうか」


 よしじゃあまた、待ってる間に何か作ろうかな。…ここは一つ、最高傑作でも…っと。

 そう言えば、ユ〜君の身体夢の中でしか見れてないな…今度見せてもらおっと。お姉ちゃんとしての勘が、ユ〜君がそろそろ帰って来るって言ってるし。

 …よし。帰って来たら腕を振るってご飯作っちゃおっと♪ あの子も作るだろうからそこも考えないといけないけど。

 …後はここをこうして、よし。

 これで、蹂躙されるユ〜君の完成だよ♡

「いらっしゃい…っと、これはまた珍しい客だな。弓弦のしもべか何かか?」


「キシャ」


「…肯定…と取って良いんだな」


「キシャ」


「おし。まぁここに来たということは…何か飲みに来たと取るぞ? 何を飲む」


「キシャ! キシャァ…シャ」


「おっと…ハリセンを取り出すとは流石はあいつの下僕だな。…と、こいつか? それともこいつか?」


「キシャ!」


「こいつで良いんだな?」


「キシャ!!」


「『最低野郎』を選ぶとは…アルスィーと同じで通だな。まぁロックでもいけるか…待たせたな」


「キシャ、キシャキシャ…キシャ」


「礼…を言ってるんだな。気にするな、誰にだって浮世の憂さを晴らしたい時はある。飲みたい時に飲みたいだけ飲むが基本だ。人に迷惑を掛けない程度にな。それじゃゆっくりしていってくれ」


「キシャ! …ック」


「んじゃ、俺が当番だな。『訪れたその日の朝。二人の女剣士は隠匿された真実を暴き出すために行動を開始する。今の生活で出来た友人に見送られ歩みを進めるオルレアの前に立ち塞がった人物とはーーー次回、戦に臨む』…その剣が示す、選択とは」


「キシャック……ャック…」


「次回も良い酒用意して、待ってるぜ…っと、そんな一度に飲むと回ってくるぞ?」

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