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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
“非日常”という“日常”
17/411

Battle of “ADEUS”

 ぷかり、ぷかり。

 そんな擬音が聞こえてくる身体の感覚。辺り一面に広がるのは、様々な色が混じり合ったような不気味なもや


「死んだな」


 と言ってみたが、どうにも実感が湧かない。

 おかしいな。死ぬ時って昇っていくような感じがするとか聞いたことがあるんだが、これは上と言うより横の移動だ。


「とすると…ここは良く分からない空間…か?」


 宇宙を漂うってこんな感じなのだろうか。

 周りには何も無い、空間を流されているような感覚だ。


「俺は…」


 そうそう、穴に吸い込まれたんだ。知影さん「避けて」って言っていたが、自力で空を飛べない人間があの状態から回避出来たらそれどんな主人公補正だ?

 …ま、そんなご大層なものがあるはずもないから、俺はこうしてどこかに流されて行っている訳だ。


「しかしどこに繋がっているんだろうなぁ…」


 AD600? あぁありそうだ、魔法だって実在したんだしな。異世界に飛ばされてまた異世界へ…ってどこのファンタジー小説だか。

 しかし現実だしなぁ…。いや、現実だよな。うん、現実の…はず。


「…ははっ」


 何か訳が分からなくなってきた。

 取り敢えず流されておこう。気分は流れるプールを泳いでいる気分だ。

 …等と考えていると。


『おかしな奴だな、何を笑っているんだ?』


 突然声が聞こえた。


「…は?」


『何があるのか分からないのに、よくもまぁ…。そう暢気で居られるなって言っているんだよ』


 しかし姿は見えない。

 聞き間違え…じゃないよな。

 何だこの声…聞き覚えのあるような…ないような。

 だが…何か生意気に聞こえる。とてもムカつく。


『はははっ、あぁいや、知らなくても良いさ。寧ろ知られたら色々と面倒なことになる』


 なら言うなと言いたい。


「…誰だ」


『さぁて、な? まぁそうだな、通りすがりの救世主だと思ってくれれば十分だ』


 何だそれ。勝手に通りすがってろ。

 …は、流石に口が悪いか。


「ご大層なことだ、胡散臭さが果てしなーく匂ってくるんだが」


 アレか…どこか遠くから話しかけているのか、そんな感じか。

 魔法の一種だろうか、だとしたら便利なものだ。

 …いや、何か良く分からないことって何だか全て魔法と言う言葉で完結してしまいそうだ。魔法、便利。正に魔法の言葉だ。


「それで、その救世主様が何の用だ? 人の宇宙遊泳を邪魔しないでくれ」


『流されているだけなように見えるのは気の所為か?』


 気の所為じゃないな、うん。


『ははっ! 我ながら面白い奴だ…っと、時間が無かったな』


「時間が無い?」


『あぁ。良いか良く聞け良く良く聴け。お前に今から魔法の使い方を手解きしてやる』


「はぁ?」


『この窮地の、打開策を教えようって話だよ。そう何度も言わせるな』


 それはまた性急だな。

 その前の言葉も気になるが…聞いておいて損は無いか。

 

『…と言っても、まぁそう難しいことじゃない。特に考えずに、言われたことだけを実践してみろ。大丈夫、お前なら完璧にこなせるはずだ』


「…はぁ」


 考えるな、感じろ…的なジャッキー理論か…まぁ嫌いじゃないな。

 それに、やっぱり力が欲しい。

 アデウスとか言ったか。あの敵を倒さないことには、最悪戦艦大爆発だ。


「で、どうすれば良いんだ?」


『簡単だ、行きたい場所を頭に思い描け』


「頭に…」


 取り敢えず、アークドラグノフの甲板を思い描く。

 初めて見た戦艦の甲板…。つまり男心を揺さ振る浪漫の塊。

 当然のように、思いっ切り脳裏に焼き付いている。


『良いか。必要なのは確かなイメージと、そこに行きたい、跳びたいって言う想いの力だ』


 強く、強く思い描く。

 思い、思いを強め、想っていく。

 やがて思いは想いとなり、思い描くは「想い描く」となる。

 イメージが、より鮮明に変化していった。


「…っ」


 何だ? 身体の中を何かが駆け巡っている…?

 こんな感覚初めてだ…。例えるならそう、自分の中で新しい力が生まれるような──。


「(──そんな中二臭い感覚だ…っ!!)」


『良し。今からお前は、元の場所に転移する』


「転移…? ジャンプするってことか?」


『はは、そんなところだ。んで、もう一つ』


 視界の右端に、光が集まる。

 見ると、右手に握った剣が光り輝いていた。


「これは?」


過ぎた力(チート)だ。一撃分、力を貸してやる』


 偉そうなことを言っているが、それも頷ける程の神々しい輝きが剣に満ちている。

 コイツは一体何者なんだ。

 だがこの力があれば、もしかしたら──勝てるのかもしれない。


『さて俺が手伝ってやれるのはここまでだ…良いな、何があっても諦めるなよ? 勝ち取ってみせろ』


 進行方向上に幾何学模様の紋章──魔法陣が現れ、光を放つ。


「待て、諦めるって何をだ!! 何を勝ち取れば良いんだ!!!!」


『さぁ、全ての始まりだ!! お前の物語の始まりだ! 今はひたすら突き進め、橘 弓弦!!』


 っ、聞いちゃいない!


「…って、お前何で俺の名前を知っているんだ?」


 良く分からない存在に、良く分からないことを言われ、良く分からない力を託され、送り出される。

 奴の目的は何だ。何故そうも俺に肩入れするのだろうか。

 そんなことを考えている間に、


「おわぁぁぁぁぁっ!?!?」


 俺の身体は、魔法陣から発生した穴に吸い込まれていった。

 

* * *


 魔法が、知影に降り注いでいる。

 しかし巻き起こる煙の中で、彼女は元気そうに攻撃を避けていた。


「読み通り♪ 分かり易いよその攻撃、も!」


 天才少女、神ヶ崎 知影。

 彼女の持てる力の全てを活用し、己が身一つで戦場を駆け回っていた。

 時折甲板を狙う攻撃が放たれるも、彼女が弓で射抜いていく。


「(負けられない。私が弓弦を助け出すんだから…っ!)」


 知影がアデウスを引き付けている間にユリとレオンは詠唱を始めていた。


『…紡ぎし言葉は其のこん呼び覚まし…紡ぎし声音は其のぱく呼び寄せん…我が呼び声に応え万象一切浄化すべてをめっせよ…』


 ユリは、自らが使える最高の魔法を。


『風が〜ヒュッと吹き荒ぶならば嵐はビュッと吹き飛ばす…さてさて呼びしは滅びの竜巻、仇為す有象無象ものを切り刻め…』


 レオンもまた、詠唱こそ謎だが最大の魔法で。

 二人分の詠唱が周囲に響き渡り、展開された魔法陣が明滅を強くする。


「知影殿!」「知影ちゃん!!」


 そして、二人分の詠唱が完成した。

 己の名を呼ぶ声に応じ、知影は身を翻した。

 アデウス背を向け、地を蹴ること数秒。二人の下へ到着した。


──キジャァァァァァッッ!!!!


 咆哮。

 風が止み、空間が裂け、その中の歪んだような空間から何かが這い擦り出る。

 巨大な人間のような陰だ。右手が、左手が、ゆっくりと出て来る。

 ここにきて、妨害のための眷属を召喚しようとしているのか。

 こちらに攻撃を加えられても、盾になられても面倒な存在だ。

 

「どうする知影ちゃんッ!?」


「ッ、射線が空かない…ッ!」


 フルパワーなら、完全命中ならば勝算も出てくるはず。

 だが果たして、妨害がある中でも盾ごと貫いて射抜けるのだろうか。

 風も止んでしまっている。

 そのため風を活用した曲射も出来ない。


「(このままじゃ…)」


「私か隊長殿…いずれかの魔法で奴を退かすかッ!?」


 知影は思考をフル回転させる。

 この状況、何か活かせるものはないだろうか。周囲を探るも、利用出来そうなものは──ない。


「(何か…何か無い!? せめてあの陰を退かせれば…ッ!)」


 果てに見えた光明が、どんどんかげっていく。

 掴めたかもしれない勝利が遠去かる中、


『知影ちゃんっ、放ってッ!!』


 インカムから、セイシュウの声が聞こえた。

 どこからか作動音が聞こえ、白煙が立つ。


「──!!」


 鼻腔の先を、火薬臭が衝いた。

 知影の思考が、一瞬にして臭気の答えを弾き出す。

 セイシュウからの援護──『アークドラグノフ』のミサイルが、盾として出現した陰を消し飛ばす。


「セイシュウお前、いつの間にそんな装備をっ!?」


『こんなこともあろうかと、だよ!』


 陰がミサイルの爆発に呑まれ、消えた。


「(射線が開いた! これなら…ッ!)


 一瞬にして空気が張り詰める。

 言葉にするまでもない。最後の好機だ。それが分かっているからこそ、ユリとレオンは詠唱待機させた魔法の発動体勢に入った。


「二人共…っ、いきますッ!!」


 知影も大切な人(弓弦)を助ける(?)ためにユリとレオンの前に立ち、全力で弦を引く。

 二発の魔法と一発の矢。

 二人の立ち位置から交わる一点から続く直線上に、悪魔を捕捉した。


「(弓弦、今助けるよ…!)」


 キリリと音を立てる弦。

 外せない。必ず、決める。

 勝利する。生き延びる。

 三人の想いが一つになったかのように、やじりに魔力が凝縮されていく──!


『…消し(ぶっ)飛べ! プルガシオン(アンベネボランス)ドラグニール!!(テンペスト!!)』


「出来るはず…弓弦は私に、嘘を吐かないんだからぁぁぁぁぁぁッッ!!」


 弦が切れると同時に放たれた矢は、進む。

 ユリとレオンそれぞれの最強魔法を纏い、一直線に進む。

 アデウスに向かい、そして。


「届けぇぇぇぇッ!!」


──ビキーンッ!!


 衝突。矢は鮮やかな軌跡を描きアデウスの少し前で障壁とせめぎ合う。

 眼に見えない“何か”が激しくその威力を、その効果を打ち消し合っていることが分かる、轟音。

 

「届かない…か?」


 レオンが呟いた。

 それはユリと知影も思っていた。

 互いに効果を相殺している矢と障壁。しかし良く見ると──矢の勢いが削がれていきているようにも見える。

 後一押し、足りないのだ。

 だが、各々が全力を発揮したために問題が生じていた。

 衝撃の余波か弦の引き過ぎか──知影の弓は壊れ、レオンとユリの魔力も枯渇気味。

 全員が満身創痍の状態だった。


「ここまでやって…私達は勝てないのか…?」


 ユリも呟く。

 崩れ落ちそうな身体を気力で支えている彼女。だが、その気力さえも尽かせる程に状況は悪い。


「…ううん」


 知影が呟いた。

 一人だけ、この場を切り開くヒーローを知っていた。

 ──彼が来るような、予感を覚えていた。


「大丈夫。この予感は…きっと、そう。こんな美味しい展開君が逃すはずがないもんね…?」


 それは、あまりにも願望混じりで。

 けれども、確かな確証があった。


「だって私の未来の旦那様なんだもん。ここ一番の出番で決めて…ね? 決められるよね? …そうでしょ?」


 知影は届くとも分からない言葉を届けようと大きく息を吸い込み、“ヒーロー”の名前を呼んだ。


「弓弦──ッ!!」


 鋭い音が響き渡る。

 知影の叫びを掻き消す程の大きさだ。レオンが、ユリが、弾かれたように音の元を辿った。

 ──障壁と、矢。矢の背後の空間が、まるで切断されたかのように裂ける。


「──ッ!! とっとと…ッ!」


 中から出て来た人物は、右手に持つ光剣を縦に振るった。

 すると、どうしたことか。まるで薄い皮を切るように障壁が左右に裂けた。


「な」「うぉ、マジかっ」


 途端に矢がアデウスの腹を穿ち、込められた魔法を解放させる。


──!!


 荒れ狂う二つの魔力が、そこに居る全員の思いを乗せて微かな光明を生んだ。

 アデウスの身体から、光が溢れ出す。

 知影の呼び声に応えたかのように姿を現した弓弦が、眩い輝きを帯びた刃を下に向ける。

 そう、三人の想いを乗せた矢が埋まったばかりの箇所だ。

 狙いを澄ました落下は、見事に光の源泉を──貫いた。


「倒れろォッ!!」


 光が、溢れ出す──!!











 光がかげると、空が元の青い色を取り戻していた。

 澄み渡る空の下に、アデウスの姿はどこにもなかった。


「よっと」


 代わりとばかりに、甲板の上に着地した弓弦。

 光の消えた刃を一瞥した後に鞘へと戻した彼を見るなり、大急ぎで駆け寄る者が居た。


「弓弦君!!」


 知影だ。歓声を上げながら弓弦に抱き付くと、頬を擦り寄せる。

 その瞳からは雫が数滴溢れていた。


「弓弦君〜弓弦君!! ゆ・づ~る君〜♪」


「おい…止めてくれ」


「……ぬぅ。‘そう言うアレは、他所でやってもらいたいものだ……’」


 猫のようにじゃれついてくる知影に対し、困ったように言う弓弦の表情は緩んでいた。

 声音も心なしか弾んでおり、嬉しそうなのが丸分りであった。

 その様子を何故か睨み付けているユリの姿を見ながら、レオンはふと息を吐こうとして吐けないことに気付く。

 胸の内が、何ともいえない危機感に駆られていた。


『目標の消滅を確認。やったじゃないかレオン、大金星だよ』


 隊長であるレオンのインカムにだけ声が聞こえるようにした親友も、どうやらそれを感じ取っているらしい。

 

「…そ〜だな。だが…‘嫌な予感がするな…’」


 【リスクX】の討伐記録は、殆ど存在しない。

 脅威については知られているものの、それ以外の情報も乏しい。

 だが脅威の一点について考え始めた時点で、今回の一件における違和感に気付ける。

 それは知識に基づく──というより、勘のようなもの。

 曰く、アデウスの姿は確かに消滅したが──こうも呆気無いものなのか。そんな疑問が、喉の奥でつっかえていた。


『…僕もだよ。向こうの三人に伝えるのは悪い知らせだけど、たかだか数発の上級魔法程度で消滅する程…【リスクX】は甘くない。それだったら、もっと多くの悪魔を討伐出来ているはずだ』


 セイシュウも同意したことで、レオンの疑念は強くなる。


『一つあるとするなら…弓弦君だ』


「‘弓弦?’」


『直接視認した訳じゃないけど、一時消えた弓弦君の反応か再確認された際…計器が異常な数値を示した。それこそ…【リスクX】か、それ以上のエネルギー値だ。君は何か気付かなかったかい?』


 問われ、先程の光景を思い浮かべる。

 ──一つ、気になったことがあった。


「‘そう言や〜…空間の穴から飛び出て来た時のアイツの剣…ピカピカしていたな’」


『それだ』


「‘それだ〜って。ありゃお前さんの作った武器だろ〜?’」


 「ガンエッジ」と「セレイズボウ」。

 どちらも製作者はセイシュウである。

 発光は、彼が何らかの意図を持って組み込んだ機構だと思っていたが──どうやら違うようだった。


『わざわざ発光する機能なんか付けないよ。誘導灯じゃあるまいし…。それよりも、その光こそがエネルギーの大元だ。残滓が残っていないか確認するから、取り敢えず帰って来てくれるかい?』


 分からないことだらけだ。

 弓弦の剣に宿った光も、呆気無さ過ぎる激闘の結末も。

 しかし、これから何かが起こる。起こってしまうような予感はずっと感じていた。


「‘了〜解だ。…ど〜うにも嫌な予感が消えない’」


 起こるも何も、それはレオンの予感だ。

 起こらないに越したことはないのだが。


「‘兎に角この場は離れた方が良策…だな’」


 そう結論付けて、レオンは声を張り上げた。


「お〜い! そこな青い春満喫状態の若人わこうど三人組! 他の奴等もそろそろ帰艦するはずだから、戻るぞ〜!!」


「…これのどこが青い春なんだ?」


「隊長さんが新婚さんみたいだって! そんな当たり前(?)の事言わなくても良いのにね? もう結婚しちゃおっか、弓弦君!!」


「知影さん、レオンはそんなこと言ってないぞ…」


 先程の聡明さはどこへやら。脳内花畑全開で花開く笑顔を浮かべる知影と、彼女に身体を引っ張られている弓弦。

 彼は疲れているようで、ツッコミにもキレが無い。


「わ、私は別に…彼に懸想など…」


 変に吃り、俯くユリ。

 所在無さ気に視線を彷徨わせた結果、足下を見たっ切り髪を弄り始める。


「後~弓弦。戻ったら今の一撃と~…飛ばされた先での出来事について少し話を聞かせてもらう。剣も一旦預かるからな~?」


 動揺しているユリの姿など、他の隊員が見るとあまりの珍しさに眼を丸くしそうだ。

 この通りいつもの調子で戯けて言った言葉に、それぞれ三者三様の反応をした。

 平和なその様子にレオンが艦内に戻ろうと振り返った時、


「?」


 振り返る視界の隅に、“何か”が光った。

 正確にはアデウスが居た場所で。


「…何だ~?」


 怪しんだレオンが再びそれを見た時、光は穴となった。


「…ッ!? 三人共! 全力で艦の中まで走れ! 今すぐだッ!!」


 小さな、本当に小さなゲートだ。

 アデウスの置き土産だろうか。ゲートは、まるでレオンに認識されるのを待っていたかのように起動。たちまち四人を吸い込み始めた。

 甲板端の柵に掴まろうと、それぞれが急ぐ。


「しまっ…!?」


「嘘っ!?」「ユリちゃんっ!?」


 柵に掴まろうとした寸前で、ユリがつまずいた。

 床を離れたユリの足が、凄まじい勢いで引っ張られる。


「掴まれッ!!」


 柵を掴みかねた指を、一回り大きな手が掴む。

 体勢を崩しかけたユリを、弓弦が引っ張り何とか繋ぎ止めた。


「…たっ、助かる……」


 力強い手に、ユリは両手で掴まった。


「…こんな時に言うのもどうかと思うのだが…橘殿の手「あ〜ッ!」は…大きい「あ〜ッ!!」のだな……って、橘殿!?」


「え、何? 今何か聞こえたけど!」


「お前等掴まることに集中しろ〜ッ!!」


 賑やかな遣り取りの間にも、ゲートの吸い込む力は徐々に強くなっていく。

 更に、不幸が起こった。


「いってッ!?」


 どこからか飛んできた空き缶が、


「いってッッ!?」


 弓弦に向かって飛来し、


「いってぇッッ!?!?」


 見事額にクリーンヒット。その数、三本。


「ぅぅ…っ」


 痛みに耐える弓弦。

 他三人の間を、異様な緊張感が駆け巡った。


「ゆ…弓弦君?」「橘殿?」「弓弦?」


「…ご」


「「「ご?」」」


 手が、離れる。


「ゴミはゴミ箱に捨てろぉぉぉぉぉぉぉぉおおッ!!」


「え、嘘…た、橘殿──ッ!?」


 そのまま社会問題にツッコミを入れながら、彼の姿はゲートの輝きに吸い込まれていった。


「たちばなどのぉぉぉぉぉぉおおおッ!!!!」

 

 当然、ユリも。


「弓弦君!? 隊長さん!!」


「…っ、だ~っ!! 死なばもろこしだ〜〜っ!!」


 そのまま二人も吸い込まれ、甲板には静寂が訪れた。

 そう、誰も居ない静寂が訪れたのであった──。

「はい! ここで登場説明お姉さんことリィル・フレージュですわ!!」


「リィル君…本編…一応それなりにシリアスだからタイミングを弁えてほしいのだけど…って痛い! 折角腕治したのに!」


「流石は博士。自分で腕を治すなんて見上げた根性ですわ」


「…一旦止めてよ。この章最後の予告なのに」


「…それもそうですわね。こほん、失礼しました。さて、今回は【セイシュウスペシャル】について説明しますわ!!」


「あ、あの~。それ名前の通り、僕が作ったやつだから僕に説明させてほしい…なぁ…あ、はい。申し訳ありませんでした!! でも位相差次元層や亜空間障壁についてもした方が「ッ!?」…はい何も言ってません」


「…これも愛情の裏返しと言ったりするのかな…「ルクセント少尉は綺麗な川を見たいのですわね?」…は、ははは…」


「さて、この『セイシュウスペシャル』は、そこで居眠りしている八嵩はちがさセイシュウ博士が、自らの雷魔法を液体に沢山織り混ぜた着付け薬…。所謂、飲んだら凄くビリビリする飲み物ですね」


「本来はちょっとしたドッキリのために僕の首があらぬほうごふっ!?」


「意識不明の…」


「でもそれで気絶している隊長を起こせるなんて、どこまで強いっ!?」


「…人を起こせる程の電気が込められているのかどうかは謎ですが。今回はこれで危機を脱することが出来たので、流石は博士…と言ったところでしょう。はい、ルクセント少尉…折角ここに来ているのですから予告を、お願いしますわ」


「…は、はい。やります。え~と…あ、キャラクター紹介挟んだ後に新章なんだね。…『アデウスに跳ばされた弓弦の姿は、たった一人で草原の中にあった。どこか違う空。風の香りもどこか違う。元の世界にも、ようやく慣れ始めた世界も違う、見知らぬ場所。彼の傍らに姿を見せる者が居た。どこか普通ではない雰囲気を纏った、一人の女性が──次回、新たなる世界、新たなる出会い』…ん、追記がある。どれどれ…。『次の話から新しい世界です。なので飛ばされた四名と、一名を除くアークドラグノフ組は出番が思いっきり減ります』…だって」


「……はい?」


「…凄まじい身の危険ッ!? ルクセント少尉! 逃げるぞ! すぐにだ!」


「は、はい! では!!」

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