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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第四異世界
168/411

草で覗く

 まったく…何を考えているんだあの子は……っ!

 確かに他人と打ち解け易いと言う才能があることは暫く前に知ったが……


「こ〜いつは美味いね! 真心(ま〜ごころ)が籠っているとはこ〜のことだな」


 今度はこの男だと…!?

 ここに来た初日に知り合ったのだとは聞いたばかりの話だがまさか、


「ふふっ、お褒めに預かり光栄っす、ディーさん」


「…っ」


 それがディー・リーシュワだとは…!

 最近は外出することも結構あるが…狙っているのか? 

 いやそんなはずはないな。 まだオルレアには『ヨハン・ピースハート』のこと以外大して話していない。 そんな、狙い澄ました奴と親交を深めているだなんて馬鹿な話は、無いな。

 だがこの男…何故リーシュワはこのタイミングでここを訪れた? …会話の内容を聞いている限りでは二人は親し気だ。

 何か世話になったのか?

 …。 そうか、以前リーシュワを含めた連合艦隊が『アークドラグノフ』を襲撃したからな。 その時に面識が出来たのだと考えるのならば、一応の納得がいくのだが…しかし初日に知り合ったと訊いた。 ふむ…この前悪魔討伐に向かったピースハートが帰って来た翌日にこの来訪か…これは、何かがあると見て間違い無いのだが……


「良〜い嫁さんになりそうだね。 そ〜れともなっているのかい?」


「う〜ん…そうっすね。 ボク一応既婚者になるっす。 今は先輩のお嫁さん気分っすけど」


 何? 嫁だと…って、あぁ、フィーナか。

 オルレアとして行動している今もその心持ちを忘れていないと言うのは、流石と言うべきかやはり? 馬鹿と言うべきか。 そう言えば指輪を外しているところも風呂以外で見たことがないからな。

 …しかし中々の指輪だ。 絢爛さにのみ拘る異世界の豚…もとい、貴族連中が着けている指輪の中でも、群を抜き出て逸品と言える物だろう。 さらに相互転移の魔法具であるときた。

 …愛されているな、フン。


「は〜既婚者! (わ〜か)いのに今時の子は早いね。 そ〜うかそうか…進んでるね。 そ〜の立派な指輪もてっきりファッションの一環だとばかり思ってた」


「まさか。 正真正銘の結婚指輪っす。 ボクと…あの人の」


 惚気かっ!

 変に乙女な顔を…っ。 私をおちょくって…ではない、か。


「…良〜い婿さんが居るんだね」


「分かるっす?」


「僕ぁ元教師だよ。 人を見る眼はあるつもりさ。 その人の背後に居〜る人でもね、(な〜に)となくは分かるさ」


「ふふ…素敵な人っすよ」


 ? 今微かに右眼が細まった。 予想するに発言に神ヶ崎 知影と天部あまのべ 風音が何か文句を言っていると見た。

 …少しは女心と言うものを考えれば良いものを、相変わらず学習しないな。

 笑い方もフィーナを意識しているか。 …って、私は何を観察している?


「…と、片付けてくるっす」


 そうこうしている内に、食事が終わったリーシュワの食器をオルレアはカチャカチャと洗い始めた。


「ふんふふ〜ん♪」


「…元帥嬢ちゃん」


 そんな彼女の背中を見ながらリーシュワが口を開く。

 この男がこのタイミングで来訪したことにはやはり、訳がある。  勿論オルレアの作る食事を食べに来たのもあるのだろう。 いや寧ろ、こちらの方が本命のはすだ。


「ん? 来客か?」


 扉が叩かれた。

 千客万来…二人目とはまったく、よくもまぁ今日に限って来客があるものだ。


「あ、ボクが出るっす」


 パパッと洗い物を終えたオルレアが扉を開けると……


「な…っ」


 そこに立っていたのはメイド服…ではなく、落ち着いた私服姿の……


「あ、ジェシカさん! わぁ…綺麗です!!」


 ジェシカ…だと?

 待て、おい、待て! 何故私服姿なんだ!? 私ですら一度も見たことがないんだぞ!?!? まさか、まさかまさか……!?


「ありがとう。 オルレアちゃん、今からお散歩に行きませんか?」


「え!? ボクとしては良いっすけど……」


 ……。


「先輩が…凄く怖い顔になってるっしディーさんが…」


「良〜いよ。 (ぼ〜く)のことは気にしないで」


 リーシュワ…っ!!


「あの、先輩っ!!」


「…な、何だ?」


 行かせることに問題は無いはず。 仮に『革新派』の連中と言えども、ジェシカを使ってまでわざわざ私のオルレアを拉致などしない。

 そう、行かせることに問題は無いはずだ。 寧ろリーシュワとの会話内容は出来れば彼女に聞かせたくない以上、私としても好都合だ。 それに最近は剣術稽古にも付き合わせたからな…ジェシカとの散歩で気分転換が出来るのならさせた方が良いだろう。

 っ、そうっ…行かせることに問題は…無いッ!!


「お散歩…行って来て良いっすか?」


 く…っ、何故そんなお預けを食らっている子犬のような顔をする…!?

 …。


 ……。


 ………はぁ。


「好きにしろ「先輩っ」…なっ」


 いきなり抱き着くとは…私の後輩は大胆なことを。


「大好きっす♪」


「早く行け…っ」


 っ、落ち着け私。 これは…良く出来た演技だ。 あの男は全力で『オルレア・ダルク』を演じているだけ…別に他意は無いはずだ。

 それに、何のつもりだ…演技とは言え、私に抱き着くとは…っ!! とっとと行けば良いものを何を人の耳に口元を近付ける…ッ!?


「‘今日のお夕飯は、いつもよりちゃんとしたお料理にするから、楽しみに待つっす♡’ …じゃあ行ってくるっす!!」


 突然のジェシカの来訪と言う嵐に巻き込まれ、オルレアは彼女と散歩に向かってしまった。

 色々言いたいことがあったが…まぁ良い。


大事(だ〜いじ)な大事な部下が連れて行かれちゃったね」


「フン。 どの道私の下に戻って来る。 …さて、ここに来たと言うことは、“その意志”があると言うことだな?」


 何が大事な部下だ、誰が……っ。


「…初めに訊く。 どう言う風の吹き回しだ。 【リスクX】…『フェゴル』との戦闘で何があった」


 …向こうのペースに持ってかれては面倒だ。 主導権、握らせてもらうぞリーシュワ。


「…アレは、一番悪魔に遠くて、一番悪魔に近しい悪魔だね」


「謎掛けなど私は訊いていない。 何があった。 私の下を訪ねたのも、それに寄るところだろう」


 帰還時二人は無傷だったと聞く。

 …臆したか?


「…ヨハン・ピースハートを『革新派』から離したい。 今の彼にはもう、あの派に居る理由は無い」


 ピースハートを…?


「どう言うことだ」


「…ハーウェル坊やと話し合いの場を作りたいんだ、僕ぁ」


「…そうしたいとして、それが何の意味になる。 和解など私の知らない所で勝手にすれば良い。 それに、それはお前と…ジェシカの勝手な望みだろう」


 『革新派』とは勝手に決別すれば良い。 勝手に決別してくれれば私の作戦も成功し易くなると言うものだからだ。

 私を頼る理由…頼らざるを得ない理由…それがある…? いやまさか、


「そのために僕ぁ、『革新派』を潰したい」


「ほぅ…?」


 やはり、そうか。

 利害の一致を軸とした協力関係の要請…リーシュワの目的はそんなところだろうか。

 確かに双方からして、戦力面ではこれ以上に無い増強となる。 リーシュワの実力は私も買っているからだ。

 理由を訊いた私に「驚かないでくれ元帥嬢ちゃん」と前置きしたリーシュワは、私にとった衝撃とも取れる言葉を言った。


「…『革新派』の中に、【リスクX】が紛れ込んでいる。 少なくとも、六体」


「っ、何だと…!?」


 六体の【リスクX】? …怪し気な研究をしているとは聞いた話だが、サウザーめ、何を考えている。


「…ピースハートはそのことを?」


 「個人的な情報筋だね」と私の問いに否定すると、溜息を吐く。


「…僕ぁ元々『革新派』を『装置』の下から、遠去けようとこの地に来てヨハンを味方に付けたかった。 結局失敗。 袂を分かったヨハンと僕ぁ、今や敵対関係だ」


 っ、まぁ仕方が無いか。

 そう簡単に事が進んでは困ると言うものであり、この発言から考えると、少なくともリーシュワはこちらの味方として行動していたようだ。

 しかし“情報筋”…か。 いや、今はそのことに関して触れないでいた方が良いな。


「この地に居る【リスクX】は何体だ?」


「…二体か三体みたいだね」


 …苦戦は必至と言う訳か。

 しかし後に退く選択肢は無いし、私とオルレアならば十分に突破出来ると踏んでいる。 そこにリーシュワが加わるのは鬼に金棒と言ったところか。


「だから何としても、僕ぁヨハンと『革新派』を離したい」


「算段はあるのか」


 あのピースハートを動かすだけの札を握っているのか…だがそれが本当ならば、鬼に“エクスカリバー”か。 …自滅しそうだが。


「あ〜る。 …さて、見に行こうか」


「見に行く?」


 …いかん、果てしない程に凄まじく嫌な予感がする。 私の杞憂か?

 …いや、これは杞憂なんて優しいものじゃないな。 確実なまでに確定された予感だ。

 だが、だがどうか、それでもっ、杞憂であってほしい……












 家を出て、『エージュ街』に赴いた私とリーシュワは、草垣の裏に居る。

 ハッキリ言おう、信じられないと。 …何故か空を仰ぎたい気分にならされる。


「この人、お城では紅茶なんて洒落た物を飲むけど、こう言うのは飲めないんです。 変に気取られるからそうなるんですよ?」


「あ、あはは…大丈夫っすか?」


「…面目無い」


 ま た お 前 か!!

 …お前なのか、オルレア。 お前と言う後輩はどこまで……

 何故だ。 何故そう私の作戦の要としてこれ以上にない助っ人ばかりを選んで仲良くなれるんだ…!?

 和やかに談笑しているオルレアと、ジェシカと、ピースハート…特にピースハートに至っては我が眼を疑う程の謎さだ。

 あいつはいつから私の後輩からピースハート家の養女に鞍替えしたんだ…って違う! これを素でやっているのか!? それともまさか、そこまでして私の下を離れようと…!? あぁもう、思考が斜めになっていく!!

 …結局お前は、“お前”なのか?

 いや、“お前”だから、お前なんだろうな…そうやって見境無く。

 そうか…だから今晩の夕食で私の機嫌を取ろうとしたんだな。 こうやって後ろめたいことがあるから…以前何かで見たことがある。 たかだか料理一つで私の機嫌を取ろうと思うな馬鹿者め。


「っ!?」


「? ‘お〜腹空いたのかい?’」


「‘空いてなどいない’」


「‘買〜って来て、良〜いよ。 僕が見ている内に’」


「‘別に空いてなどいない、断じてな’」


 しかしリーシュワもデリカシーが無いな。 それだから還暦を過ぎたその歳になっても嫁一人来ないのだ。 見ろ、同い年のピースハートとは大違いだ。


「‘…元帥嬢ちゃん、酷〜いこと考えてない?’」


 これだから男と言うものはいつまで経っても成長出来んのだ。

 『橘 弓弦』は十八で嫁を貰っているのだぞ。 以降二百年仲は円満なのだから見習えば…って、あんな男を見習わせてどうする!?!?

 そうだ、眼の前の私の後輩、『オルレア・ダルク』を見習わせれば良い。

 見ろ、十五であるにも拘らず、肌肉玉雪、閉月羞花…雪月花だ。 さらに気立ても良いわで良妻賢母の素養大…正に良い妻となるために生を受けたようなあの、オルレアを。 そう、夫が出来ないはずあるまいに…当然良い妻には、良い夫が現れ易いと言うものなのだから……


「砂糖入れますね?」


「…これで構わん」


「…あ、でもこう言うのは好き嫌いあると聞くっす。 別に飲めないからって恥ずかしくないっすよ? ボクのお兄ちゃんも下戸でしたから」


「お兄ちゃん? お兄さんが居るのですか?「入れてくれ」…あら、はい」


 ピースハートめ、聞き分けが良い…それにしてもお兄ちゃん…か。


「居るっすよ。 仕事は出来るのに一筋過ぎて、良い歳なのにお嫁さんを貰わない人が…ふふ」


 その場合は、貰えないの間違いだと私は思うのだが…まるで嫁の貰い手を自分から断っているような言い方だな。


「お歳は?」


「二十九っす。 もう三十路手前なのに…はぁ」


 そこで人懐っこい笑みを浮かべたオルレアは愛らしい仕草で手を合わせると、「お二人はいつ結婚したっすか?」と訊いた。

 …そう言えばリーシュワとピースハートは元同部隊に所属していたな。 …リーシュワが遠い眼をしている。


「「三十七年前だ(です)」」


「うわぁ…っ、凄いっす!! 後三年でルビー婚式っすね!!」


「ルビー婚式?」


「ルビー…紅玉か。 婚式は分かるが…?」


 っ、馬鹿、それはお前の世界の言葉だ。 通じるはずがないだろうが。


「あれ、知らないっすか? …あ、ボクの生まれた地域では、決められた結婚の周年で贈り物をする風習があるっす。 例えば結婚二十五周年は銀婚式、三十周年が真珠婚式と、どんどん価値が高くて硬い物に変わっていくっす。 因みにルビーの次は、四十五周年のサファイア婚式っす!」


 『神ヶ崎 知影』にアドバイスされたか。 彼女の知識はハイエルフのそれと並ぶらしいが…どんな脳内構造をしているのやら。


「…蒼玉か。 面白い風習もあるものだ」


「私達はどこまでいくことが出来るのでしょうね? わざわざ説明してもらってごめんなさいね」


「構わん…っす」


 っ、何を突然ピースハートの真似などし出す…っ! しかもまったく似ていない。


「あ、真似されてしまいましたね」


「ふふっ、真似しちゃったっす。 …駄目っすか?」


「…構わん」


 上目遣いから視線を外してコーヒーを飲もうとしたピースハートだが、どうやらもう無いようだ。 分かり易いものを見せてくれる。

 …だが、何たる家族然とした光景だ。 まるで本物だと思ってしまう…訳ではないが、腹立たしいのは間違い無い。


「同じのをお願いします。 オルレアちゃんは?」


「ぁ…ボクもそれでお願いするっす」


 ッ!?


「‘げ、元帥嬢ちゃんっ、気〜付かれるから抑えて!’」


 貴様に言われずとも分かっている!!

 っ、くっ、何故そうも照れた顔をする!? 私の前ではあまり見せることがないだろうに…って、私は何を考えている?

 …。


 ……。


 ………フン。


「? どうされました?」


「‘ほ〜らそんな気を張っているから気付かれた!!’」


 別に私は気を張っていない…!!


「そこの草垣。 …風が吹いていないはずだが動いた気がしてな」


「…場所を移しましょうか?」


「いや、気の所為だ。 今は…」


「…?」


「そうですか。 分かりました」


 そうか。 成る程な……


「‘私は戻るが貴様はどうする、リーシュワ’」


 視線を隣のリーシュワに移すと、帰還肯定の頷きが帰って来たのでその場を離れる。


「貴様の話、信じよう」


「…ほ〜いほい」


 …まぁリーシュワを信用すると言うより、意図せぬところで私の手となり足となってくれている後輩を信用するだけだがな。

 …さて、戻って私は、素振りでもしておくか。

 リーシュワがこれからどう動くつもりなのかは私の知るところではないが、まずは悔いの無いよう動くまでだ……


* * *


 …先輩は帰ったみたいっすね。 ちょっとお出掛けしているだけなのに心配性っすね。


『…あの女、一体何のつもりだろ。 私の弓弦をストーキングするなんて……っ! んっ、いきなり座り直しなんてされたら擦れて…広げられるぅっ♡』


『クス…揺さ振りをされるとは、オルレア様は悪女で御座います♪』


 変態な知影には困ったものっす。

 さっきみたいに助けてくれることも多いけど…ちょっと激しい運動とか今みたいに座り直し、足を組み替えるだけでも変な声を出すから馬鹿馬鹿しいっす。


『え? 馬鹿馬鹿しいっておかしくない!? そこは可愛いとか鬱陶しいとか言うところじゃない!?』


『違いますよ知影さん。 何がどうなのか、言うのですら馬鹿馬鹿と言うことを省略されただけだと思います。 つまり「それぐらい察しろよこの馬鹿者」と…後輩らしくアンナさんの真似をされていると言うことで御座いますね…クスクス』


『…いやそれ言わなくて良いし分かってたよ。 もうここに居るのは私の知ってる弓弦じゃないって…私の王子様はあの腐れ女狐に調教されちゃったんだって分かってるから! だから! 私は私の私だけの私しか必要としない私が愛して止まない私の希望を全て叶える私可愛いよ私みたいな私だけが居ればそれで十分なそんな弓弦を取り戻したいッ!!!!』


『あらあら…「私」がゲシュタルト崩壊してしまいそうなマジンガイザートークですね』


 …ゲシュタルトが言えてマシンガントークを間違えるのはどうしてっすか…はぁ。


「「オルレア(ちゃん)?」」


「ふぇ?」


 …っと、意識集中させ過ぎて惚けちゃったみたいっす。


「美味し過ぎてボーッとしちゃったっす」


「あらそんなに? 注文して良かったですね」


 ふぅ、何とか誤魔化せたみたいっす。

 ここのケーキが美味しいのも一役買ってくれたっすね……


「……」


「? どうされました?」


「…いや、気にするな」


 …それにそもそもボク、知影の馬鹿みたいな話を聞くために惚けた訳じゃないっす。 別の要件があるっす。

 どうやらハンさんは気付いているみたいっすけど……


『ぅぅっ、私弓弦に構ってほしいだけなのに馬鹿みたいな話って…酷いよ弓弦…っく、ふぇぇ…んっ』


『…知影さん。 少々静かにして頂けますか』


『…風音さんまで…っ、ねぇ弓弦、風音さんが虐めてくる……ふふふ、ぶっ殺す許可頂戴♡』


 …やっぱりどうやら、ストーキングしていたのは先輩とディーさんだけではなかったみたいっすね。 嫌な魔力マナっすね…穢れてるっす。


『穢れている…悪しき心が魔力マナとして表れているのですね』


 何が狙いなのかは分からないっすけど、注意は怠らない方が良いっすね。 出来ればジェシカさん、ハンさんとの食事を気兼ね無く楽しみたかったけど…まぁ予想出来ていたこと。 予定調和の内っす……


『ね〜ぇ、ゆ〜づ〜るぅ♡』


『…そうですね、可能ならばオルレア様の楽しまれている御姿を長く見とう御座いました』


 ふふ、毎日が楽しいっすよ私は。

 先輩と一緒に居られる…そんな毎日がとても。


『あらあら…御上手ですね♪』


 ハンさんをチラリと見てみると、かなり警戒している様子。 多分いつでもジェシカさんとボクを庇えるようにしているみたいっす…もっとも、闘気と言えるものを抑え込んでいるから、半端者には分からない程度っすけど。

 …だけどジェシカさんは薄々気付いているみたいっすね…顔が少しだけ強張っているっす。 それをハンさんが気付いていないのが幸いだけど、このままだと時間の問題っすね。


「…。 少し席を外しても良いですか?」


「…「ついでにボクも行くっす」…。 構わん」


 大胆にも、いぶり出すために席を外そうとしたジェシカさんにボクも付いて行くことに。

 ハンさんが訝し気に顔を持ち上げたけど、私が片眼を瞑って合図を送るとお決まりの言葉を言ってくれた。 …その信頼、応えてみせるっすよ。


「‘切っ掛け作りありがとうっす’」


「‘ごめんなさいね’」


「‘当然の義務っす’」


 向かうのは勿論お花を摘みに。

 …。 ハンさんはハンさんで何とかしてくれるはずだから、ちょっとの間時間を稼ごうかなと思ったけど…どうやら狙いはボクかジェシカさんでもあるみたいっすね。


『指示は御任せ下さい。 もっともその必要性は無いかもしれませんけど』


『…ちぇ。 最悪、危なくなったら私に掛けた魔法を解除して戦線に加えてね。 一撃で仕留めてあげる♪』


『クス…元気ですね』


 いつもみたいに、ハイエルフの魔力マナを思うように振るえないのは面倒だけど、先輩と剣を合わせた毎日がボクを強くしてくれているはず。


「ジェシカさんはボクの後ろに」


 魔力マナを感じる…これは、人払の促しみたいっすね。 ここにきて強くなったってことは、襲う気満々っすか。

 そして、現れる。

 数は三…女性二人に向けられる刺客としては十分っすかね。 剣を握る顔に生気は無くて、まるで死人っすね気味の悪い。

 護身用に先輩から持たされている剣を鞘から抜き放つ、前に刺客が得物を振りかざす。

 ジェシカさんが思わず顔を背けた。

 それはきっと、女性の本能的な行動っす。 そして、ボクには出来ないことっす。

 刺客の剣は先輩の剣に比べて、稚拙にも程がある……


「だから」


 先輩に何度も叩きのめされ敗北してきた今の後輩(ボク)には、止まっている光景のように見える。

 ……斬った。

 既に刃は、鞘へと戻った。

 全ては、刹那の内に終わった。 終わらせた。

 景色に擦れが生じる。

 チン。

 鞘から音が鳴ると、クリアになる景色。


「弱過ぎる。 これで、成敗っす」


 愚敵には刃すら見せぬアンナ先輩の技…には遥かに劣るけど、確かな高みを見据えた一閃…それがボク、『オルレア・ダルク』の技。

 …先輩。 ボク、先輩に少しでも近付けたかな?


『御見事で御座います♪』


『…ヤバい、超絶的に嫉妬心覚えてるんだけど…ッ!! 何? そんなに私に殺されたいのかな…!?』


 少しでも近付けてると嬉しいっす…だってボクは、先輩のたった一人の部下っすから!!

「…行ってきます」


「あら、遅くならないようにね」


「…コク」


「…。 それで、どうしてあなたがここに居るのか、教えてもらおうかしら」


「キシャシャシャシャ」


「…暇潰し? そんなことで元【リスクX】が堂々と歩いていて良いものとは到底思えないのだけど…」


「キシキシキシャ、シシキシャキシャ」


「…前々から艦内を自由に歩いてみたかった。 えぇと…あの人の感覚を通して歩いてはいるはずなのだけど、不満でも?」


「キシシシキシャキシャ、キシャ、キシャ」


「あら、元々そのために最初はこの艦に近付いた…と? それはまた…理由を訊いても?」


「キシシシキシャ。 キシャン、キシャキシャシキシャ、キシシ」


「何か感じるものがあったから…今思えばそれは、あの人のツッコミオーラ…? そう、そのために…」


「キシャシャ!!」


「えぇ。 あなたのお陰であの人は色々と助かっていると思うわ。 これからもお願いね? それと、一応顕現している以上はあの人の魔力マナが相当に消耗しているはずだから、程々にすること。 分かった?」


「キシャ!」


「…突然現れて突然消えたわね。 それにしても自由なものね…もぅ。 それで、今回は私ね。 『それぞれの思惑に、それぞれの想い。 人は誰もが心の内に何かを抱いている。 それは悩みか、望みか。 …少年の心に居る存在はまだ、笑わないーーー次回、揺れて悩む』…あ、そう言えばイヅナ。 今日は少し挙動が違ったわね…何かあるのかしら?」

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