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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第四異世界
165/411

愛に困る

 夜もすっかり更けた頃、街灯に照らされた夜道をスーツ姿の女性が一人、歩いていた。

 仕事帰りなのか、鞄を持ってない方の肩を回しながら「肩凝ったぁ…っ」とボヤいている彼女はある程度歩いた所で、突然何を思ったのか速度を上げる。

 すると彼女の足音の他にもう一つ、夜の街に別の足音が静かに確かに、響き始める。


「‘っ…またこのタイプの輩…勘弁してほしいんだけど’」


 そう呟きながら嘆息する彼女は所謂、美女の枠組みの上位に余裕で食い込む程に美しく、スーツの上からでも分かるスタイルはここ、日の本の国の一般女性の平均を上回っている。

 加えて長い足だ。 ストッキングというベールに包まれているその足は長く、しなやかでやはり、美しい。 街中を歩けば芸能プロダクションにスカウトされること、間違い無しのビジュアルを持っている彼女だ。 当然一人で夜道を歩けば、無粋な輩が現れる可能性も高まるというものだ。


「っ!!」


 変に絡まれるのも面倒であり彼女は、早く帰宅したくて走り出した。

 昔取った杵柄か日々の役得の積み重ねか彼女は、マラソン選手並みに体力があり、運動神経も抜群であるので、これまでずっとこうして足に物を言わせて逃げの一手を打っていたのだ。

 しかし珍しいことに、相手は彼女の速度に遅れを取っていなかったのか、暫く走った先でもまだ自らの下を目指す足音は聞こえた。

 そこで彼女は振り返った。

 周りに人通りは無く、いかにもなスポット。 するとそこの雰囲気に見事合ったーーー否、合い過ぎて最早違和感レベルの目出し帽の人物が立っていた。

 手に持つ鈍い輝きに彼女は、眼を鋭く細めると薄く笑うーーー不審者との認識が彼女の中で成立したのだ。


「!!!!!!」


 それを強がりと見たのか、不審者が一気に距離を詰めて来たのに合わせて彼女も、鞄を地面に置こうとしてーーー止めた。


「…素人。 構えも勢いもッ!」


 女性は、そのまま突っ込んでくる不審者の得物を避けると同時に手首を掴み、足を引っ掛けると、護身術を用いて体勢を崩させる。

 「ガッ」と小さく呻いた不審者の目出し帽越しの瞳が驚愕に彩られるが、彼女は構うことなく背後から片手と片足を器用に使って、素早く不審者の肩関節を片方外す。 それは鮮やかといえる手際の良さだ。


「ぎゃぁぁぁっ」


 悲鳴を上げる声の太さから男と断定した彼女は、鋭い手刀で男の意識を断ち切ると、もう片方の肩関節も外した。


「甘い。 …っと」


 力の抜けた手から落ちたナイフを足で踏み付けながら彼女は、スマホを取り出して通話ボタンを押した。


『俺だ』


 110番ではない電話番号が表示された画面、数回のコール音の後に聞こえてきたのは男の声だ。


「三丁目の十番地。 害人駆除したから」


 そう言い通話終了ボタンを押して一方的に切った彼女は、ゴミを見るような眼で気絶した目出し帽の男を睨み付け、「これだから男は…」と吐き捨てた。

 そうして待つこと数分。 遠くからでもハッキリと分かるサイレン音が聞こえた。


「遅い」


 それを聞いた女性は瞑目しながらそう呟くと、角から現れた私服姿の男性が「スクランブルだ」とその愚痴に返してくる。


「知らない。 あたしからすれば遅かっただけよ」


「相変わらず勝手だな。 しかしこの男、美郷に手を出したのが運の尽きか」


 仕事モードの、家とは打って変わりほぼ正反対の様子で不審者の様子を窺う男に対し、「美郷」と呼ばれた女性ーーー橘 美郷は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、その場を離れて行く。


「っ、手が汚れた。 後で綺麗にしてもらわないと」


 眉をひそめた彼女は今、自宅への帰路に着いている。

 とある企業に勤めているOLな彼女は珍しくあった残業のお陰で、乗れた電車は終電だ。 もしこれに間に合わなかったかもしれないと思うとゾッとするものがあるが、その時はその時で、ネカフェに行くだけである。

 しかし彼女には、どうしても家に帰らなければならない理由があった。 それは、人が必ず生理的欲求に基づいた生活をしているのと同じように、社会という一つの枠組みで群れをなす社会的動物と評されたのと同じように、必然性がある理由なのだ。


「ただいまー」


 必然性ーーーそう、必然性だ。

 彼女にとってそれは、一日の生活サイクルの中で無くてはならないものであり、増えれば増える程彼女にとってなお良くなる。 それは彼女が社会人になる前、具体的に、十五年近く前から続いている日課なのだ。

 故に彼女は、日課をこなすために戸締りをしてすぐに階段を上って行く。 時間帯としては既に日付が変わる頃でもあるので、運の良いことに彼女の行動を阻む俗物は眠りに就いていると、返事が無かったことから判断してほくそ笑む。

 取り敢えずまずは、自室に入って鞄を机に置き、次に窓からベランダに移動した。

 彼女が目指しているのは、二階にある六つの部屋の中の一つ。 カーテンが閉まってないのか、外から中が丸見えだ。


「…間抜け面」


 中の部屋で熟睡している人物を見て、しめしめと言わんばかりに鼻を鳴らすと、部屋に戻って椅子の上に乗って天井の電気を外した。

 丁度人一人通れる穴を器用にくぐって天井裏に移動した彼女は、音を忍ばせてある程度進むとそこにあった 取っ手を握り横に引っ張った。

 すると隠し扉のように下への穴が姿を現したーーー静かに飛び降りて痕跡を消し、侵入完了である。


「…すぅ…すぅ…」


 天使のような寝顔で寝ているのは彼女の弟、橘 弓弦だ。

 彼女はまず、その柔らかそうな唇に自らのを触れさせてゆっくり感触を堪能する。


「…ん…すぅ…」


「♪」


 堪らないといわんばかりに顔を上気させた美郷は彼の側に腰を下ろすと、先程男に触れてしまった右手をおもむろに彼の口元へともっていくと、人差し指をピンと立てた。

 これから彼女がしようとしていること、お分かり頂けるであろうかーーー否、普通の感性を持ってしてならば決して理解が出来ない追い付かない行動だ。


「〜っ!」


 立てた指をゆっくり唇に当て押し込んでいくと、指が中に入っていく。 生温かい不思議な感覚に彼女が身体を微かに振るわせると、今度は抜いていく。

 絡み付くように付着した弟の唾液を恍惚の表情で見つめる彼女はそう、超絶的なまでのブラコンなのだ。 彼女が平均とは一線を画した存在であるにも拘らず、彼氏を持とうとしないのは、既に未来の夫を決めているからなのだ。 法律? 知ったこっちゃない。

 そして中指を挿れていくと「ぬぷ…」と淫らな音を立てる。


「フ…ッ」


 この笑みだ。 どこか気取っているようだが、実際はそれとは正反対の表情であり、これこそ間抜け面といえるような表情を彼女は浮かべる。


「…ん…はぁ…っ…すぅ…」「…フ」


 その後も指を交互に弟の口に、抜いては挿れて抜いては挿れてを繰り返してから、彼女は満足そうに弟の唾液で濡れた自分の手を天井にかざす。 どうだろうかこの変態、救いようがない人間とはまさにこの存在のことといえるのではないかと、近所ではもっぱらの噂だ(※某被害弟談)


「…ん…ぅん…」


「…。 また後で…よ」


 小さく寝言を言った弟に後ろ髪引かれる思いをしつつも、美郷はシャワーを浴びるために彼の部屋を後にした。












* * *


 私は…「少しだけ」と考えて寝てしまった浅はかな先程の自分を殴りたい!

 身体を起こすと外は空と橙、二つの色が雲が浮かぶ空を染めており、どう考えても時間は夕方だ。

 なんということだ…私が、元帥とあろうものがこのような時間まで惰眠を貪ることとなるとは…あぁ情けない!!


「すぅ…むにゃ…」


 私を深い眠りに誘った存在であるオルレアは、未だ熟睡している。 この様子だと当分は起きそうにない…どうしたものか。 叩き起こす…と言うのも悪くはないが……


「……ん…すぅ…」


「…カメラはあったか?」


 確か…以前大元帥に渡されてそのままどこかに置いた記憶が無きにしも非ずと言ったところだが…どこだったか?

 少なくともこの部屋の眼に見える所には見当たらないが……ん?


「あるじゃないか…フッ」


 折角だ。 この間抜け面顏をこのカメラに収め、起きてからからかってやるとしよう。

 フィーナに見せてやるのも悪くないか。 あの気に食えん女の、悔しがる顔が眼に浮かぶ…たまには私の手で一杯食わせてやるというのも良いだろう。

 フ…眠っている間に見せるみっともない姿を、たんとレンズで撮らせてもらおうか…!!


「…すぅ…」


「……」


 …何をやろうとしているのだ私は…時間を無駄にした直後にさらに時間を無駄にする行動を取ってしまうとは…くっ!! 私の馬鹿者ッ! 大体オルレアをカメラに収めたところで私にどう楽しめと言うのだ!? フィーナに見せるまで大切に保管しなくてはならないのか!? それに現像もしなくてはならない…大元帥はどうやって写真を現像…錬金か、つくづく便利なものだな魔法とは……

 …。 いつまで寝ているのだオルレアは…昨晩はしっかり身体を休めていたが…まさか早朝に起床してからずっと身体を動かしていたのか? 掃除や洗濯で?

 …。 …私が見ていないところで頑張っているのかお前は? だから…今は寝かせて欲しいのか…?


 …。


 ……。


 ………本当に良く寝ている。 …少しぐらいなら、悪戯しても大丈夫…だろうか。

 っ、いやいやいや! 落ち着け私、こいつはオルレアだ。 オルレア…だが、橘 弓弦だ! あの男に悪戯を仕掛けようとしているのだぞ、理解出来ているのか!?

 …し、しかし、オルレアだ、女だ、オルレアだ…今のこいつは男を示す物は何一つ付けていない。 自分の眼で確認したではないか…っ!!


「…さ……ん」


 そうだオルレアだ! 部下だ! 私の!

 断じてあの不埒な男ではない! 何を迷っているのだ私は…別に先輩が部下である後輩にちょっとした悪戯を仕掛けることぐらい普通ではないか! 余計なことは考えなくて良いのだ! ただ少し…私に惰眠を貪らせた代償を支払ってもらうだけ…そうだ、少しだけ……っ、いかんいかん! 先程「少しだけ」の罠に引っ掛かったではないか!! 少しどころか一日の四分の一は浪費してしまったのだ! この少しだけに流されれば、一体全体どれだけ代償が高くあろうか…っ!!


「…ね……ぇ…」


 …? 先程から何か譫言うわごとを呟いているとは思ったが、何を言っている? 何かのゆ……っ?

 そうか…確かに、おかしくはないだろう。 もし同一関係のものを見ていたのなら今オルレアは…っ!?

 …そうなのか? そうだと言うのかっ!? また一段と間抜け面をして…っ、人が悶々と悩んでいる間に生意気な…っ!!


 パシャッ。


「っと」


 力んだ拍子にシャッターを押してしまったか…まぁ良い。 オルレアの天使の顔が撮れてようとなかろうと私にとっては非常にどうでも良いことだからな。

 …しかし、こうしている間も時間は過ぎていくな…このまま放っておいて少しの間城内で情報収集に赴くのも悪くはない。 どうも最近サウザー共の動きがキナ臭い…こちらを警戒してのことだろうが、何らかの手を打ってくるか? リーシュワも良く見掛けると聞く…これは何かの前兆…と見て間違い無い。 問題はそれが「何か」についてだが…今は見守るしかないと判断すべきか? しかし看過し過ぎるのも些か危険要因だが……

 カザイも行方が知れん。 この城に居ることは間違い無いが……あの男、何を目的として動いている? 読めん……


「…ん…んん…っ」


「ーーーッッッ!?!?!?」


 熊模様ッ!? っ、じゃない!! どうして寝返りで上手い具合に捲れる!? 私に見せたくてわざと寝返りを打ったと言うのか…い、いや今は寝ているはずだ。 っ、はしたないぞっ!


「もう良い、どっと疲れた…」


 このまま放っておいて城を散歩するか…あぁ、そうしよう……












 取り敢えずは家を出てから適当に、城内を散歩し始める。

 今は何かと不自由な身だが私とて元帥、城内での自由は保証されているはず…表立って向こうも手を出してくる必要性は無いはずだ。


「あ、こんにちはクアシエトール元帥」


「あぁ」


 メイド達に手を振り返してやると、黄色い声を上げて彼女達ははしゃぐ。

 後は「聖女」と呼ばれたこともあったな。 あれは参った…私の柄じゃないからな。 周りからは「剣聖の乙女」の二つ名で呼ばれるが、略したのかは分からないが、「聖女」は本職に失礼だからな。

 『装置』がある地下階層への道へと向かってみる。 するとメイドや衛兵の姿が消え、『革新派』の隊員の姿が見られるようになった。 気に食わない眼だが、実力が無いことを弁えずに横暴な態度を振るう、下衆と同じ土俵の上に立つ必要も無いので無視だ。 妙に忙しないところを見るに…そうか。


「待て元帥」


 背越しに男の低い声が聞こえた。 不快なこの声は…ザングス・ベルナルド大将か。


「分かっていよう、この先へ進むことの意味をな」


 …革新派の柱の一人か…いずれ剣を交える日が来るかもしれんな。


「フン、通り掛かっただけだ」


「何を起こそうと、盤は帰らぬ。 まして、それが貴様のような女ならば…夢のまた夢、よ」


 もう一人…ゼザ・カーペンタール大将も居るか。 成る程流石はサウザーだ。 今は下手に『装置』への警護まではピースハートに任せんか。 チッ、下手に実力のある輩ばかりが居る……


「部下が戻って来たそうだな。 それも同派の者とは…」


「元帥が唯一認めた部下…是非一度、お目通り願いたいものよ」


 背を向けて去る私の背中にそう、声が掛けられる。


「公の場、ならば姿を表わすだろう、気紛れな奴だからな」


 皮肉を込めて言葉を返した。

 奴らの中では、従わない反乱分子の主導として認識されているであろう今の私を、組織の公の場に出すことは絶対に出来ないからだ。

 …しかし、この様子だと正面きっての突破は少し面倒だ。 何分道が長い。

 私とあいつならば十分に突破出来るとは思いたいが…だが、どうも戦力を集中させ過ぎている感があるな。 これは…やはりあるか。

 サウザー、ベルナルド、カーペンタール、ピースハート…大将四人にカザイ……余裕の勝利は難しい。 いやそれどころか、私も腕一本は覚悟すべきだろうな。 何分相手が相手だ。 いかなる策を弄したところで、最終目的であるバックアップデータの入手には敵を全て無力化しなければならない。 殺せるか…いや、生命を取らせてはくれないだろうな。

 …。


 ……。


 ………いかんな、正面からしか道が見出せない。 元々『装置』に繋がる道は無駄に長い一本道だ。 当然、罠だらけで、警備も非常にし易い…どうすれば?

 …まだ、ここで生活をしながら様子を窺うべきだろうな。

 そう、まだ雌伏の時だ。 雌雄を決する時にはまだ、程遠い…アレがあるからな。


* * *


 美郷姉さんの夢を見た。 あれは…姉さんが仕事帰りから突然発情し出したんだっけ…そりゃあふと熱を感じて起きたら姉さん人の隣で「はぁはぁ」言ってるんだからもう困ったものだったっす……


『え? 何の夢を見たって?』


「‘何でもないっすよ’」


 布団の中に顔を埋めていたら、流石に見られていたとしても怪しく思われないだろうと思って、知影の言葉に返す。


『絶対にエッチな夢だよね。 だって弓弦、少し濡れてるし…んっ♡』


 …そろそろ知影を下着以外のものに変えたいかなって思うことがあるっす。 慣れも入ってきたけどいい加減もう、恥…っ、面倒っす。


『…アンナさんが見当たりませんね。 何処かに御出掛けになったのでしょうか?』


「‘そうっすね。 まぁ先輩は忙しい人っすから’」


 チョーカーに姿を変えている風音が笑う。


『ぐっすり御眠りになっていましたね。 隣で寝られて安心だったので御座いますか』


「‘そんなところっす。 なんたってボクは、先輩大好きなオルレアっすから。 大分疲れも取れた気がするし…暗示って凄いっすね’」


『暗示ですか…‘本当に、それだけですか?’』


『弓弦の匂いぃぃ…っ、最高ぅぅ…っ! ドパミン大量だよ! あぁ興奮するぅぅっ♡』


 誰かこの馬鹿を何とかしてほしいっすっ!! 手が付けられないっすけど!!

 …まさかユリもいつかこうなるのか? もう勘弁してくれ…変態は少ない方が…はぁっす。


「‘はぁ…風音、何か言ったっすか?’」


『あらあら…いえ、何も…うふふ♪』


 …不気味だな。 しまったな、ちゃんと聞いておけば良かったっす。

 それに知影の変態行動もそろそろ止めてやりたいっすけど…どうすれば良いっすか?


『孕ませれば良いんだよ』


 ほら、またこんな馬鹿みたいな発言っす。 そんなことしたら取り返しが付かなくなるだろうに。 それにボク女の子っす。


『そうですね、御子を作られれば良いと思います』


 ほら、また…ん、風音ぇっ!?


「‘な、何を言ってるんすか風音まで…’」


『…。 知影さんの後になりますが、私、絶対に元気が御子を産みますのでどうか…』


 っ、そうか! 知影の協力を得ようとして…確実策を取るなんて姑息な真似をするっすね!

 確かにいつかは作らないといけないのかもしれないとは思っているけどそれは、少なくとも今じゃない…と、思いたいっすけど……


『風音さん…っ、ありがとうっ!! さぁ弓弦、子作り子作り♪ 大丈夫、もう痛くないから♡ 突っ込んで、出すだけだからね♡』


「‘…はしたないっすよ’」


 って、待て、「もう痛くない?」ってどう言うことっす!? つまり、既に痛い思いをしたってことっすか!?

 …。


 ……。


 ………はい? いや、あれ、ん? んん? いかん…駄目っす、理解出来ないっす。 待て…え? 待て待て待って…?

 …はいぃ?


『え? あ、そっか…弓弦は覚えてなくて当然だよ、眠姦したんだから♡』


 眠…姦…?


「‘…い、いつ…っすか?’」


『ほら、以前湖の神殿に潜った時あるじゃん? あの前夜だよ…♡』


 あぁ…あのバケツプリンで二人が勘違いした時か…確か「疲れたから寝る」と言って寝たのは覚えているが……


『うふふ♡ フィーナ様も珍しく熟睡されてましたし…クス』


『一応すぐ…に寝ようとしたんだけどね。 けど、あれは嘘。 実は…ね?』


 …。 変態だ。


「‘変態だぁぁぁぁっ!!’」


 おい…何やってるっすかこいつらっ!!


『クス…私はまだで御座いますよ。 ただ見ていただけに御座います。 後今は暗示が解けていますから弓弦様ですよね? 弓弦様」


 止めてくれっす!!

 …それにボクはオルレアっす。


『でも出来なかったんだよね…結構頑張ったのに…はぁ』


「‘それは本当に良かったっす。 それだけが救いっす…’」


 …健全なハイエルフで居たかったっさけど…はぁ。

 恐ろしいな本当に…姉さん達と変わらないっす…!


『その時は良かったんだけど朝フィーナに匂いで勘付かれて、こっ酷く怒られたっけ』


「‘それはそうっすよ。 あの日はフィーがボクと一緒の布団で寝る日だったんだから、当然っす’」


 あの日最後に起きたのはボクだったけど、どうもフィーが“スリープウィンド”を掛けて、風音が俺の犬耳を塞いでいたのがその理由らしいっす。 ケロっとしていたっすけど…知影。


『しかもあれからフィーナのガードがキツくなっちゃって…全然出来ないんだよね。 自分は二百年の間ずっとズコバコやってただろうにさぁ…嫌だなぁ、不公平だよ』


「‘やってないけどな…っす’」


 多分……もう自信が無いっす。 気付いたってことは、フィーも経験があるかもしれないってことだから…何と言うか、独占欲強いっすねいつも。 ま、別に悪い気はしないと言うか……帰った時のために留守番のご褒美考えとかないと駄目っすね。

 …何か…はぁ、色々複雑っす……

 それにこの生活も、いつまで続くのやら……


「はぁ…っす」


 まだそれ程経ってはいないっすけど、元気しているっすか…?

「前々からどこか、ヒロインっぽくないなぁって思ってたけど、これはちょっとグレーゾーンな気がするよリィルさん」


「ルクセント中尉…えぇそうですわね。 これは流石に、どうかと思いましてよ。 …まだ二十歳にも達していませんのに」


「これって、ヒロイン失格なんじゃないですか。 何となく…ですけど」


「…そのようなものかもしれませんわね」


「…弓弦…襲われて奪われているだなんて…羨ましいけど哀れな奴」 


「‘…ですがこの積極性は見習わないといけませんわね…’」


「…『…先輩と後輩、築かれた二人の関係は日に日に色濃いものへと移り変わっていく。 時間が経てば、意識していた感覚も麻痺してしまうのかもしれないーーー次回、蜜に香る』…リィルさんブツブツとどこかに行っちゃった」

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