夜に歩く
ジュルルルッ!!
職人が丹精を込めて作り上げた芸術品を、勢い良く啜る音が店内に響く。
絶妙な風味を醸し出す神秘の液体は麺と絡まり、一層芸術として大成させる。
見ることで分かった。
香りを嗅いで悟った。
啜ってみて確信した。
そう、これは逸品なのだと。
「美味いっす…!」
まさかこのような場所で食べられるはずがないと思っていたオルレアは、舌鼓を打ちながら感嘆した。
上気した頬は彼女の興奮の度合いを示しており今は正に、最高潮といったところであろうか。
「フ…今は味を堪能し、スープも残さず飲み干せ。 それが相手への礼儀だ」
「はいっす!」
さも自分が作ったかのようなしたり顔で言ったのはアンナ。 彼女の先輩であり、後輩たる彼女は彼女の言葉に首を縦に振った。
ーーーあの後アンナが彼女を連れて行ったのは、『シリュエージュ城』から橋で繋がっている『エージュ街』の、『路地裏の星屑』という名前の店だ。
彼女曰く、「忘れられない日々を思い出す味」らしいこの店の料理は、オルレアや、彼女が穿いている下着に姿を変えている知影が元居た世界の「ラーメン」という名前の料理に非常に酷似ーーー否、瓜二つであった。
濃厚で、それでいてくど過ぎず、主張をし過ぎない魚介の風味とそれに絡む、程良い固さの麺は立ち所に、オルレアを虜にした。
食事中に会話は無く、店内に響くのはただ麺を啜る音と、何とも不釣り合いな柱時計内の振り子がカチカチと揺れる音だ。
『…そう言えば風音さんはお腹空かないの? 私今にも鳴りそうな感じなんだけど…』
『クス…そうですね、空腹感を感じることはあまり無いでしょうか。 私は問題無いですよ』
『えぇ…ぅぅ、弓弦がいつまで経ってもお漏らししないから…』
変態チックなことを言っている知影の言葉に、風音が『あらあら』と困ったように笑った。
それらの会話はオルレアにのみ聞こえるのだが、彼女は余程のことや、必要性が無い限りは聞き流すことにしている。 いつどこに、どのような存在に監視されているのか分からないのでそうしている彼女だが、答えてやれないというのはもどかしく感じた。
もっとも、今回の会話(特に知影)は無視して然るべしであり、そのような会話など聞いていなかったと言わんばかりにスープを飲み干すと、二人揃って手を合わせた。
「美味しくて懐かしかったっす!!!! もうなんか! もうっ、最高だったっす!!!!」
アンナの部屋に行く道すがら、未だ興奮が冷めない様子のオルレアは開口一番にそう言った。
すると、
「そうか…っ、お前なら分かってくれると思っていた…!! ラーメンは好みが分かれてしまう、例えどれ程美味であったとしてもだ…っ」
分かってもらえたのが余程嬉しかったのか、アンナが理解の良い彼女の頭をクシャクシャと撫でた。
「大丈夫っす…ボクは、オルレア・ダルクはずっと先輩の味方っす」
見上げる可愛らしい顔には満面の笑みが浮かんでおり、並んで歩く美少女二人に視線を向けていた存在が男女問わずそれを釘付けにされる。
それに気付いたアンナは気不味そうに周囲を一瞥し、咳払いすると、歩行速度を若干上げて彼女の前を行った。
それを追い掛けるオルレアだが、ある者が視界に入った瞬間、その足を止めた。
先輩か、その人物かーーー交互に姿を見ていた彼女は、唇を噛むとその人物の下に向かった。
あまりに浮かない顔をしているものだから見ていられなかったのだ。 少し話しただけではあるが悪い人には思えず、初めて会った時は何かの意思を瞳に宿らせていたのだが、今その輝きは翳っている。 だからといって別に、自殺しそうな雰囲気ではなく、例えるならばテストの点数が微妙で、姉達からの“お仕置き”に怯えている某弟や、テストの点数が良くて、姉達からの“ご褒美”に怯えている某弟のような雰囲気だ。
「何かあったっすか?」
昇りきった月が照らす、街にある公園でベンチに腰掛けていた男性隊員に彼女は声を掛けた。
男性隊員は彼女の姿に驚いたのか、眼を軽く見張ったのだが、深く息を吐いて「こ〜んな夜更けに知〜らない人に話し掛〜けるのは、い〜けないことだ〜よ、部下のお嬢ちゃん」と彼女を咎めた。
「ボクにはオルレアって言う名前があるっす。 それに一度会ってお話ししているのだから、知らない人でもないっす」
「…面白いことを言〜う子だね。 じゃ〜オルレア嬢ちゃん、僕に何の用だい?」
『なんか…隊長さんみたいな人だね』と知影が言うが、彼女はもう一つ気付いたことがある。 それは、彼が数学教師という立場にあった姉のことを、よく知っているからだ。
「浮かない顔をしていたから、つい追い掛けて来ただけっす。 …何かあったっすか?」
「…な〜に、ちょ〜っとした決意をす〜るための下準備さ」
眼の前の少女の無垢さがそうさせたのか。 彼は答えていた。
「準備…っすか」と、何かが引っ掛かっているかのように首を捻ったオルレアに対して眼を細めながら「そ〜うだよ』と笑う。
ベンチの真隣にある電灯が二人の足下から影を伸ばす。 虫の囁きが聞こえてくる草むらは風に凪ぎ、今は見えなくなっているオルレアの犬耳に篭った声が聞こえてきたーーーおそらく家の中で子どもが遊んでいるのだろうか。 思わず口元を緩めてしまった彼女に対して、今度は男が首を捻る。
「ここの街は、平和っすね」
ベンチに腰を下ろしながら呟く。
争いを好まない彼女は、皆が笑っていられる平和が好きなのだ。
「…そ〜うだね。 街、は、平和だ」
彼女は、意図せずして言葉に皮肉を込めてしまっていた。 「この街以外は平和じゃない」と、今の組織のことを皮肉ったのだ。
勿論それが分かっている彼は苦笑した。 既に風前の灯火となっている保守派にはもう、革新派をどうにか出来る力は残されていないであろう。
彼はどちらの派閥にも属していない『中立派』だーーーその中立派も殆どが革新派に摂取されてしまった。 しかしそれは仕方無いと割り切る他ない。 『因果歪曲者』の二つ名を持つ『カザイ・アルスィー』が居るからだ。
元帥とは大義の象徴でもある。
彼に従い保守派中立派を離れていった隊員も数多く居るのだ。
本人が望もうとそうでなかろうと、付いて行く隊員は存在する。
そう、本人が望まずともだ。
「…オルレア嬢ちゃんは、クアシエトール元帥直属だね? つ〜まり、保守派?」
「う〜ん、分かんないっす。 だけどボクはいつも大好きな先輩の味方っす。 派閥とかは関係無いっすよ」
「君は拗ら〜せちゃった女の子かい? そ〜ういう子は多〜いけど」
『百合を疑われちゃってるよ弓弦。 大事件だよ…そしてなんで濡れないの…』
知影の謎発言の方が女性として大事件である。
「そうっすね…叶うのならば先輩のお世話をずっとしたいっす」
『『ッ!?!?!?』』
「ご飯を作って、部屋を掃除して、先輩が勤め先から帰って来るのを待つっす。 そして、先輩の文句を言いながらも夢中でご飯を食べてる姿がボクの原動力っす」
『弓弦…そんな…』
『…最早そこまでアンナさんに調教されてしまったのですか…』
『オルレア』としての回答ではあったのだが、強ち間違ってはいない。 『弓弦』も、一番の原動力は大切な人達の笑顔なのだから。
「男の子が喜〜びそうな言葉だけど、そ〜こまでいっていると逆に凄い」
「褒めても何も出ないっすよ! …あ、そうだ。 その内ご飯でも食べに来てほしいっす。 口に合うかは分からないっすけど、一生懸命作るっすよ!」
褒めたら美少女の手料理を食べる権利を入手したことに、彼は頬を緩ませる。 幾つになっても手料理というのは嬉しいものだ。
ーーーレアーッ!!
遠くの方から途切れてはいるが、彼女の名前を呼ぶ女性の声が聞こえた。
「あ、先輩の声だ」
『近所迷惑だね、うん』
『あらあら…きっと…うふふ』
その方角を見て嬉しそうにはにかんだオルレアは、彼女の下に戻る前に男性隊員の名前を訊いた。
「僕かい? ディー。 し〜がない軍人だな」
「ディーさん…っすか。 良い名前っすね」
「そ〜言うことを言〜われたのは、初めてだな〜。 ほ〜れほれ、上司が探してるぞ」
ディーと名乗った男性隊員に背中を押されて、オルレアはアンナの下へ向かった。
「ぅ…先輩怒ってるかな」
『別にどうでも…んっ♡ 今の感覚幸せ…♪ 弓弦のパンツになるって…ぁぁ、キュンッてしちゃうよぉ♡ あぁぁ…私の形が弓弦ピッタシになっていく…やっぱり一つになるって良いなぁ♪』
「先輩ーっ!」
聞こえてくる彼女の声を頼りに走って行くと、離れた所にその姿が見えた。
手を振りながら彼女の下に急いだオルレアが軽く息を整えてから謝ると、アンナは鼻を鳴らして背を向けた。
「まったく…手間を取らせるな。 行くぞ」
彼女もまた軽く息切れしており、オルレアを探して駆け回っていたのが分かった。
想像以上に焦っていたらしいその姿を見てもう一度謝ると、彼女の隣に並んで歩き、暫くして城内にあるアンナの家の到着した。
「いつどこに、どのような輩が居るか分からん。 単独行動には細心の払うように、分かったな?」
「はい…分かったっす」
「やはり直属の部下と言う立場上、可能な限り私と行動を共にしてもらう方が望ましく、自然だ。 もっとも現状私に重要案件を持ってくるかは分からんが、基本ここで過ごすことになるだろう」
「分かってるっす…」
「だから…その、な」
「分かってるっす。 だからボク何も言わないっす」
気不味そうに頬を掻いたアンナの言葉に、オルレアは鼻歌を歌いながら籠を運んでいる。
その中にはグチャグチャに詰め込まれた薄い布地が積み重なっており、歯切れの悪いと彼女の言葉はそれを理由とするものだ。
似たような性格のユリが得意な分、そんな彼女の一面には知影と風音が驚かされた。
「わ、私がやる!!」
伸ばされたアンナの手をヒラリと、軽やかな動きで躱したオルレアは幸せそうに扉の取っ手に手を掛けた。
「良いっすよ、ボクこう言うの大好きっすから♪」
「お、おい! それ」
パタンと静かに閉められる直前の扉から覗けたアンナは、大きく肩を落としていた。
「さて、お洗濯お洗濯っと♪」
オルレアがここまで上機嫌なのは理由がある。
基本的に彼女は、家事が大好きな人種なのだが、洗濯に限っては今は『アークドラグノフ』で留守番をしている彼の、ハイエルフとしての妻フィリアーナが許さなかったのだ。 本人としては構わなかったのだが、どうも自分以外の女性下着を洗うという行為が許せなかったそうなのだ。 当然知影も許してくれないので、ずっと自分で洗濯が出来なかったのだ。
だから、実に一年振りの洗濯作業ーーー嬉しくない訳がない。
しかしそこで困ったことが。
アンナが“片付けられない女”という事実が判明したので、掃除をしている中可能性として考えていたことが現実のものとなった。
『…何も道具が御座いませんね』
『うわ…洗い場は使っていないとして、洗濯物は散らかってるし、家事の道具すら用意してない…アレだよ、典型的な仕事しか出来ない駄目な女だよ。 それで弓弦、さっきの仕草もう一度やって』
「もぅ…仕方が無い先輩っす♪ 借りてこよっと」
彼女が探しているのは、石鹸と桶と洗濯板だ。 ベランダに物干し竿があるのでそちらは要らないのだが、この三つは誰かから貰わなければならないものの、元帥の名前と隊員証を出せば貸してもらえるはずである。
ーーー最初にアンナの家の中を見た時、「やっぱり」と思った彼女は自分の予想が当たったことにグッと握り拳を作った。
世話されることより世話する方が好きであり、姉達の教育の賜物である彼女の性格は女性として、理想的であるその仕草に萌えた女性が脳内に二人居るのだが、片方は何事も無かったかのように元の調子に戻っている。 やはりもう片方は「もう一度」と騒がしい。
しかしそれまでは彼女の衣服に二人は萌えていたのだ。
亜麻色の髪はヘッドドレスで飾られており、彼女の動きに合わせて長いフリルがフワリと風を孕んで重力に逆らっているーーー要するにメイド姿だ。
普段ならば絶対に着たがらない類の衣服なのだが、城に仕えるメイドの服を見た瞬間、「着たい」という衝動に駆り立てられてしまったのだ。 これも彼女が上機嫌な理由の一つだ。
『はぁ…直接眼の前で見れないのが悔しいよ。 そりゃあ今のパンツも興奮するから良いんだけど、どうせなら毎晩夜の奉仕をしてほしいなぁ。 ふふふ…夜の奉仕…フフフフフ…♪』
もう夜遅いので城内を歩いているのは衛兵と夜番のメイドぐらいだ。 折角なので、探検も兼ねることしたオルレアは城内のありとあらゆる場所を歩いている。
未だちゃんとお城というものを見てこれなかった彼女からすれば、ゆっくりと城内を見て回れる今は良い機会なので、あっちこっちを見て回っている。
『あの…オルレア様、気付いておられます?』
当初の目的は忘れてはいないが、初めて訪れた場所なので結局、夢中になるあまり迷ってしまった。 大しても構造も覚えていないので右も左も分からずキョロキョロと辺りを見回している間に時間ばかりが過ぎていく。
『あぁ困っておられるオルレア様…なんて愛らしいのでしょうか! 安心して下さい、私は、風音は此方に居ますよ!!』
『ふぇへへ…フフフフフ…はぁ、はぁ…弓弦、一時間だけ元の姿に戻りたい。 こんなの生殺しだぁ…っ』
こちらはヒートアップしている二人。 確かに恐る恐るとキョロキョロしているメイド美少女の姿はかなりの破壊力があり、衛兵達がその姿に眼を奪われていた。
「あ、あの…っす」
「はいっ!?」
このままでは埒が開かないので、一番近くに居る衛兵に話し掛けたところ、変に驚かれた。
「洗濯板と桶と石鹸って…どこにあるか分かるっすか?」
「せ、せせせっ!?」「案内しましょうか?」
答えたのは、挙動不審になる衛兵の背後から歩いて来たいかにも上の立場に居そうなベテランの風格漂うメイドだった。
「それでは参りましょうか」
「あ、はいっす!!」
赤髪のベテランメイドは軽く一礼をしてから、オルレアに背中を向けて歩き始める。
「はい、これで宜しいでしょうか」
「ありがとうっす!」
オルレアが三つの洗濯用道具を受け取り頭を下げると、「いえいえ」と柔らかな笑みを浮かべる。
「しかしこのような夜更けにお洗濯とは…クアシエトール元帥の後輩さんですね?」
「はい、オルレア・ダルク少将っす!」
「元気が良いですね。 ところでその服は?」
「先輩の趣味っす」
あっけらかんとした表情で言い切った彼女の脳内に、知影の笑い声が聞こえた。 ちょっとだけ演技が崩れたのである。
「趣味…これはまた。 そうですか…大変ですね」
「苦じゃないっすよ。 ボク人のお世話をすること、大好きですから」
「あぁ…確かにそうですね。 あなたの内に、『メイド魂』を感じます」
「メイド…え?」
「『剣聖の乙女』が唯一部下として認めているだけはあります。 まさかこれ程のポテンシャルを秘められているとは…」
『剣聖の乙女』を二つ名として持っているということを、ここに来るまでにアンナから訊かされていたオルレアだが、自分の存在が既に広まっているーーーと言うより、浸透しきっていることに疑問を覚えた。
偽造隊員証どうこう以前に、元帥唯一の部下という存在がいつ作られたものなのか、後で訊いてみようと考えを打ち切る。
しかしツッコミを入れなければならない箇所はもう一つある。
「ポテンシャル…?」
「はい。 見たところ…メイドとして必要な技術を全て持ち合わせておられるように思えます」
『炊事洗濯何でもござれ! それが私の未来の旦那様♪ よっ、旦那様っ!』
『クス…家庭的な殿方、大変素晴らしいと思います』
「はぁ…それはありがとっす。 でも本当に凄いのはボクに技術を教えてくれた人達であって、ボク自身はそんなこと誇ることでも何でもないっす」
謙遜しながらも、嬉しいのかオルレアは頬を赤らめて俯く。 それがまた、あざと過ぎずで愛らしいもので、知影と風音の心を鷲掴みにする。
これを無意識にやっているものだから、恐ろしいものである。 それはもう、非常に。
『弓弦わざと、わざとやってるの? そうまでして私を萌えさせたいのは別に、嬉し過ぎるんだけど、絶対楽しんでるよね!?』
「えーと…じゃあこの辺りからはもう分かっているので大丈夫っす」
「分かりました。 それでは、良い夢を」
通路をある程度進んで行ったところでその女性と別れると、大急ぎで洗濯に取り掛かる。
怒られるということはないがせめて今、籠に入っている分だけでも干しておきたく、かといって急ぎたくても“クイック”を使って自身の速度を倍速にすることなど出来ないので、ひたすら手だけを動かすしかない。
家の電気が点いているので中でアンナが起きて待っているはずなのだが、外に出てくる気配は見受けられない。 だが、例え出てこようともどのみち手伝わせるつもりはない。
彼女からはどことなく家事をやらせてはいけない雰囲気を感じるのだ。 例えば力が強すぎて洗濯板を折ったり、服をボロボロにしてしまいそうで任せられない。
「せめて任せる時はボクの眼が届くところで」と、内心考えながら、ゴシゴシと洗う。
「ふふふふふんふん♪ ふ〜ふ〜ふ〜ふ〜ん♪」
『ユ〜君子守唄』を鼻歌しながら次々と洗っていき、干していくと夜空を見上げるグラデーションが形成される。
一列、二列、三列と並べられたグラデーションは彼女に達成感を味わわせる。
『弓弦…』
『あらあら…オルレア様は分かっておられるのでしょうか…?』
『弓弦は悪くないよ。 悪いのは洗わせてるあの女狐なんだから…っ!!』
『クス…ですがどこか嬉しそうな声音ですね?』
『そりゃあね。 弓弦がウキウキしながら身体動かしてるものだから、動きに合わせて私が広げられたり擦り付けられたり…もう何度意識が飛びそうになったことか…あぁん♡』
「なっ!?」
知影の色っぽい言葉によるものなのか、単に躓いただけなのかは分からないが、オルレアの身体が斜めに傾いた。
バシャァァァァンッ!!
そして頭から洗濯桶の水を被ることになった。
「ぅぅ…冷たいっす…」
「何事だ!?」
突然の物音で外に飛び出したアンナは、尻餅を突いているオルレアの姿を見て、思わず息を飲んだ。
濡れた髪や服は肌に張り付き、服の内側からはまた違った形のものが主張されている。
「…びしょ濡れだな」
「ぅぅ…少し…躓いたっす」
「っ、取り敢えず風邪を引く前に中に入って暖を取れ。 大至急にな」
「え、わっ!?」
周りを素早く窺ってからオルレアを抱え上げると、アンナは家の中にある謎の装置の前で下ろし、自分は装置に埋め込まれた赤い宝珠の前で手を重ねた。
「はぁぁぁ…ッ!!」
すると、彼女が左大腿部に着用しているレッグホルダーから封剣紙が一枚独りでに宙に浮かび、装置の頂点にある窪みに差し込んだ。
装置が輝き始め、やがて火魔力が二つ長方形の形を装置に描くと、それは扉となり横にスライドした。
そして扉の先にある、赤く燃える炎がオルレアの冷えた身体を温め始めた。
「ひゃっ!?」
「フン…そこで休んでおけ」
どのような技術を使ったのか、一瞬にしてオルレアの衣服を脱がせると、その上に布団を掛けた。
「えっと…先輩? ボク知影以外何も…着てないっす」
「…フン」
謎の悟り顔を見せたアンナはそのまま二階への階段を登って行ってしまった。
「え…ちょっと…先輩? え、ボク…え? 先輩、先輩…アンナせんぱ〜い!!」
『あ♡ 弓弦ちょっと濡れてる…♪』
「さっき被った水がまだ乾いてないだけだから…! 変なことを言わないでほしいっす…!!」
あまりの言葉にツッコミを入れてしまったオルレアだが、これ以上相手をしていても自分の睡眠時間が減るだけなので、毛布に包まって瞳を閉じる。
ふと、首元が熱いような気がしたが、風音も寝ているのか、無言なのでオルレアも、意識を微睡みの中に沈めていった。
「…ラーメンが好きだそうだぜ」
「確かに好きそうだな。 なぁキール「作れない」…ロイ」
「…分かんねぇな。 だが似たような奴なら…どこかで見たような」
「それはどこだ?」
「さぁな……」
「…。 なら、これから文献でも漁るか?」
「お、それ妙案だ!」
「端末で調べたら足で探すぞ!」
「おっしゃ! そうと決まったら早速!」
「続けぇぇっ!!」
「おぉぉっ!!」
「……。 都合の良い馬鹿なキャラだね。 さてと…『朝の光、素振りの音に混じるのは楽しそうな僕っ娘の声。 人懐こい犬のようにじゃれてくる美少女に動揺を隠せない元帥。 しかし彼女は彼女でーーー次回、誘いに惑う』…『ヌードル』って携帯食料だったら以前見たけど…あれのことだろうね、どうせ」