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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第四異世界
162/411

闇に蠢く

 異世界間転移が終了した『ピュセル』は分厚い雲を切り裂きながら、大空を高速で飛行していた。


「…ここは界座標(ワールドポイント)【00005】だ。 組織のメインシステムが設置されている『シリュエージュ城』がある」


 操作を自動操縦に切り替えたアンナは世界の簡単な説明をしてからシートにもたれる。


「革新派を抑え込むためには何としても、大元帥の孫である『レオン・ハーウェル』の冤罪を晴らさなければならない。 そのために証拠のデータを押さえておきたいんだが…分かるか?」


「分かるっす。 要はレオンの無実を証明するために、メインシステム内にある改竄かいざんされたデータをどうにかすれば良いっすよね?」


「そうだ。 あの男の無実を証明出来れば革新派の人間が台頭する大義は無くなり、抑え込まれていた保守派の隊員も動き易くなるだろう」


 「もっとも、今でも散発的に動いている奴らは居るが」と彼女は続ける。


「…だけどどうして大元帥って恨まれてたっすか? 悪い人ではないっすよね?」


「…本来は私が語るべき話ではないが…まぁ良い」


 事の問題は、保守派の主導者である『クロウリー・ハーウェル』大元帥が、その孫である『レオン・ハーウェル』によって殺されたということだ。 しかしそれだけならば、こうも保守派は押さえ込まれなかっただろう。

 決め手となったのは今から十四年前に起こった、『豪雪の悲劇』と呼称される【リスクX】悪魔、『フェゴル』襲撃事件における、とある隊員の生死。

 ーーー革新派重鎮『ヨハン・ピースハート』大将の一人娘、『オルナ・ピースハート』だ。

 当時、多くの任務ミッションを達成して新進気鋭の若手部隊に所属していた彼女だが、落城した『コーレリア城』からの退避の際に、一人残って敵を一身に引き受けた。

 「何か方法は無いのか」と指示を仰いだ隊員にクロウリーは「オルナを見捨てて撤退しろ」と命じたのだ。

 一見非人道的なように見えるが、この判断は正しい。 何故ならばそのお陰で他の隊員三人は無事に生還出来たのだから。

 元はといえばシステムのミスだ。 彼らが受けた任務ミッションのランクはJ。 少佐一人で事足りてしまう程度のものであったのだから、普通ならば心配する必要は無く、一日中以内の帰還が見込まれていたのだ。

 しかし実際はどうか。 現れる魔物の強さは大佐クラスの実力があって初めて一人で相対出来る【リスクH】ばかり。 【リスクJ】と比較するとその強さは圧倒的だ。

 普通ならばその違いに気付いて連絡をするであろう。 普通ならば。

 彼らは、普通に比べて強過ぎたのだ。 だから違いに気付けず、少々の苦戦を交えつつも『コーレリア城防衛隊への協力』という任務ミッションを遂行した。

 ーーー最初に違いに気付いたのは、一人の隊員だった。


「だが慢心があった。 『自分達ならば勝てる』…とな」


 そこでアンナは言葉を切って、首を傾げている後輩を待つ。


「それって…まさか」


 内容から話の登場人物を理解したオルレアは確認の問いを投げ掛けると、肯定の頷きが帰ってきた。


『…やけに甘いよね、オルレアになってからさ…ふぅ』


『クス…良いでは御座いませんか』


『…なんか風音さんも甘いよね。 何かあったの? …ぁ、擦れた♪』


『クス、私はいつも通りですよ』


 どうやら相互に会話が出来るらしい二人が言葉を交わしているが、そっとしておくことに。


「…若さ故の過ち、いや、実力の過信だな」


 確かにその部隊は強く、かつ味方も数多く居た。

 ーーーしかし、相手は【リスクX】だった。

 魔法陣と共に突然の閃光が一行の視界を埋め尽くした。

 『失われし属性』の『失われし魔法』の一つ、殲滅魔法“イレーサー”。 範囲内における発動者より強さが、圧倒的に劣る存在を跡形も無く消し飛ばす魔法だ。

 ーーー跡に残ったのは、四人だけだった。

 そしてその時になって全員が、自分達の愚かさと、眼前の敵の恐ろしさを悟った。

 指示の下、撤退策を取ることにした一行だが、周りを魔物に囲まれ既に時遅く、誰かが血路を切り開かねば脱出不可能であった。 そして、四人の中で最も実力があった人物、それがオルナ・ピースハートだった。

 迷う三人に一喝して撤退を促した彼女は、自分に背を向けた一行を背に庇いその大剣を振るったーーー


「そして彼女は帰らぬ人となった。 …つまり、そう言うことだ」


「恨み…っすか。 悲しいっす…」


 しゅんと犬耳を垂れさせたオルレアは俯いてそう呟いたが、彼女の中に疑問があった。


「…どうしてシステムにミスが起きたっす? それが分からないっすけど」


「理由は分かっていない。 不運が重なった…としか言えん。 ただその時はまだしも今は、向こうにシステムを掌握されている状態だ。 それをどうにかしなければどうにも出来ん。 来る日まで努めて普通に振舞いながら機を窺い、奥に潜入する。 分かるな?」


「勿論っす。 また、先輩のお世話を出来てボク、凄く嬉しいっす♪」


『『また…?』』


「…私の記憶が確かなものならば、世話を焼かれたことはないはずだ」


 自動から手動操縦に切り替え、ハンドルを握ったアンナは記憶を手繰る。


「ははっ、先輩ボクの味噌汁を美味しそうに飲んでたじゃないっすか」


 そして思い至り、「あぁ…」とどこか投げやりに呟く。

 以前毒味と称して結局、彼女の味噌汁を殆ど飲み干してしまったのは彼女にとって何とも言えない記憶だ。


『クス…弓弦様の御味噌汁は、所謂母の味で御座いますから…虜になるのも仕方がありませんね…私も飲みたいです…♡』


『だね。 幾ら真似しようとしても出来ないし…リィルさんも弓弦のが美味しいって言ってたしなぁ。 どうしてあんなに美味しいんだろ?』


『クス…きっと、心が込められているのですよ。 愚考しますに、弓弦様は恥ずかしがり屋さんですから、日頃の想いを料理に込められているのだと思います』


『そっか…なんかロマンチズムに溢れるね。 でも、夫に料理で負けちゃうのはなぁ。 フィーナに負けるのも悔しいし』


『それこそ仕方がありませんよ。 年季が入ったオープスト家の味なのですから…私達は私達の味を探求し、じっくりと完成させれば良いと思います』


『そうだよね…二百年はね…ズルいよね…』


 実際は氷漬けのまま二百年の時を過ごしただけなので微妙なところではあるが、以前フィーナこと『フィリアーナ・エル・オープスト・タチバナ』は、「それでも二百年ずっとあの人の側で、あの人を感じながら眠りに就いていたのだから、一緒に生活していたという意味合いとしては変わらないし、その経験が今の私の基になっているのは確かなのよ。 ふふ♡」と、幸せそうに訂正していたので、年季が入っているのは事実だ。


「不謹慎かもしれないっすけど、楽しみっす♪」


「…フン」


 こちらはこちらで話をしていたオルレアとアンナだが、人懐っこい笑みを向けてくる後輩に対して先輩はただ、鼻を鳴らしてピュセルを降下させた。










 ピュセルを降りたオルレアは「待っていろ」と言い残して去ったアンナを待って、手持ち無沙汰に木にもたれていた。

 降りる直前に幻属性上級魔法、“イリュージョン”を自らの犬耳に掛け、人の眼に映らないよう隠したので、城前広場を歩く通行人からは、美少女が誰かと待ち合わせをしているようにしか見えなく、結果、


「…えぇっと、どちら様っすか?」


 偶然通りすがった年配の男性隊員に声を掛けられた。


「い〜や別嬪(べ〜っぴん)さんだ〜なっと(お〜も)ってね」


 最初はナンパかと思ったがその考えをすぐに捨て去るーーー実力者だ。


(き〜み)ど〜この所属? 見〜ない顔だね〜」


「所属は元帥直属っす。 ここ最近は実家に帰省してたので見たことがないと言うのは仕方が無いっす」


 棍を背中に結び付けたその人物の問いに即答すると、得心がいったようにその人物は頷いた。


「そ〜言えばそ〜んな人が居るって聞〜いたことあるね。 そうか君が…」


 男性は、少し困惑した表情を浮かべたオルレアのことを察してか、それとも何かを思い出したのか「じゃ〜また、会〜えると(う〜れ)しいね」と足早に去って行った。


『隙の無い身のこなしで御座いました』


 「そうっすね」と心の中で同意して、空を見上げる。 木葉の間から窺える太陽は眩しく、視線を青い城壁に向けるとその光を反射して、爽やかな印象を彼女に届けた。


『あれだよね、なんか恋人を待ってる女の子みたいだよ』


『クス…女性ですよ今のオルレア様は』


『私今、男の子になりたいなぁ。 弓弦を犯して…フフフ♪』


『あらあら…合意の上で行って下さいね。 フィーナ様が御怒りになりますよ』


『他人の許可なんて関係無いよ。 私が弓弦を愛してる。 その事実さえあれば…フフフ、弓弦が私を求める姿が浮かぶよ……子どもは二人だからね…♡』


 そう、脳内でこのような会話が行われていたとしても、爽やかな気分にさせられるのだ。


「…全然ならないっす」


 盛大な溜息を吐いたオルレアは再び空を見上げようとして、自分の腹部を見つめる。

 すると、ぐ〜…と勝手に音を立ててしまったものだから思わず、周囲を見回して誰も居ないか確かめる。


「ぁ…」


「……」


 思いっきり眼の前に別の男性隊員が居た。


「あ、あのっ、違うっす!! その、これは…その、あのっ、あ、〜っ!!」


 まさか眼の前に居るとは思わなかったオルレアは面食らい、必死に誤魔化そうと言い訳を考えるのだが、何も思い浮かばず、顔を真っ赤にして俯く。

 恥ずかしいのだ。 いつも別の自分が女性陣に「はしたない」と言っている手前、兎に角恥ずかしかった。


「腹が減っているのか?」


「い、いえ、そんなことはな、ないわけ…でも、ないような! ある…ような…ぁ、でも…あ、違、あぅ、ぁ…〜っ!!」


「頭が痛いのか?」


 しどろもどろなり動揺する彼女の頭には、魔法の効果が切れ露わになった犬耳があり、それに気付いた彼女はしゃがみ込むと同時に手でそれを男の眼から隠す。 その瞳は涙眼だ。


『か、可愛い…っ! お持ち帰りしたいよぉ…っ、ハァ、ハァ…っ!』


「…ぅぅっ!!」


 そして、息が荒い知影の言葉が切っ掛けとなったのか、オルレアは脇目も振らずその場から逃げ出してしまった。


『あらあら…本当に可愛いですね♡』


「オルレア!!」


「先ぱぁぁぁうっ!?!?」


 偶然にもその先に現れたアンナに抱き着こうとした彼女になんと、拳骨が落ち、「耳をしまわんか馬鹿者っ」と怒りの言葉がぶつけられた。


「ごめんっす…」


 先程の喜色満面はどこへやら、一気に意気消沈してしまったオルレアが自分に再び、“イリュージョン”を掛けると現れていた犬耳が消えた。

 元気が無いのを優に表していた犬耳が消えた後でも、分かり易い程に地面にへたり込んで落ち込む彼女は、チョーカーに姿を変えている風音、下着に姿を変えて「ハァハァ」言っている知影が知っている男の姿とは似ても似つかない。


「…っ」


 彼女の腹が空腹を知らせて、その気分を一段と落とす。

 今にも地面に沈み込むか、溶けてしまいそうな彼女の頭にポンと、柔らかい手が乗せられた。

 キョトンと見上げたオルレアから視線を外したアンナは、


「良い店がある」


 どこか照れ臭そうに市街部へと足を向けた。


* * *


 男性隊員は去る二人の背中を見送っていたが、ふと提げていた袋を眼の高さまで持ち上げるて、「これか」と先程の彼女の腹を鳴らした原因である中身を見つめる。

 ーーーこれから会う古い友人のために部下に薦められて購入してきた物だが、勝手が分からず時間を要してしまった。 幼少期より事務と剣術の稽古に明け暮れたその男は、そういった世俗めいた物事に疎かったのだ。


ーーーほ〜い。


 扉を叩くと案の定、彼の友人は先に来ていたようだ。 一拍置いて入室したその部屋はシリュエージュ城内にある彼の私室。 執務に当たることの多い彼は就寝時を除いてあまり利用しない部屋なのだが、こうして古くからの友人が会いに訪問した場合には、相手に気を使わせないように利用することを部下に薦められているのだ。


「久〜しぶり。 (げ〜ん)気だったかい?」


「健在だ。 この通り」


 それが最初の会話だ。

 彼を、珍獣を見るような眼で見る旧友の名前は『ディー・リーシュワ』 反乱艦『アークドラグノフ』の拿捕または撃沈を目的とする攻撃隊に“加えられ”たものの、敵艦の激しい抵抗に遭い無理矢理、旗艦『アークノア』を転移させられた艦長兼実行部隊隊長兼、『ティンリエッタ学園』名誉教授だ。

 彼と同じ六十二歳であり、かつて同じ軍隊で育った人物だ。


(め〜ずら)し〜い物を持ってるね。 『部下』さ〜んかい?」


 男が袋から取り出したパックに収まった、串に刺さった団子を一瞥して訊いたディーに、男は頷いた。


「うん…ん、良〜いね! こ〜りゃ美味い!! ありがとうって〜(つ〜た)えてくれ」


 もう一本手に取ったディーに、「それで」と男は話を切り出す。


「やはり本当の話か」


他人(た〜にん)空似(そ〜らに)じゃないか? ノ〜イズ酷くてね。 (だ〜ん)定は無理だね」


「そうか…が、藁があるだけ重畳だ。 信じたいのだ俺は…」


 メインシステムにあった一つの反応ーーー彼にとって因縁がある存在。


「『フェゴル』…あの悪魔を倒すためなら俺は、全を尽くす」


 そう、男はそのために生き恥を晒しているのだ。

 「娘を奪った者達を討つため」に。

 それは、全てが対象だ。


(き〜み)の理念は分〜かっているつもりだ。 だ〜から、悪魔(あ〜くま)討伐ま〜では手〜を貸そう。 他でもない、教え子の仇だからね」


「お前が力を貸してくれること、それは喜ばしい。 だが、それでも俺は許せん。 あの娘を奪ったことも、あいつを泣かせたことを」


 ディーは軍人である前に、一人の教師として教え子の未来を奪った悪魔が許せない。


「そ〜れで君が(た〜お)ようなことがあ〜れば、意味(い〜み)が無い。 …ただでさえ娘さんを失って、十数年経った今も引きずっている人だ。 君まで失うことがあれば…彼女はもう、普通の人では居られなくなるよ」


 そしてその男は軍人である前に、一人の男であり、親だ。 故に娘を奪い、妻を泣かせた悪魔を許せないのだ。

 閉口した男に苦笑しつつ、声のトーンを落としたディーは続けた。


「今回の、ハーウェル…いや、レオン坊やの件に君が関わっていることは知っている。 軍人の仕事だから僕ぁ一度は従ってみたけど、どうにも納得がいかない。 無事に帰ってくれたから良かったけどね。 …復讐のためにこれ以上、革新派に属することで手を汚さないでくれ。 革新派が間違っていることぐらい君も分かるだろう」


「元々生き恥を晒している身。 これ以上いかに汚れようとも変わらん」


「…そ〜かい。 じゃ〜僕ぁ帰らせてもらうよ。 団子、美味しかったよ」


 席を立ったディーはそのまま扉の取手に手を掛けて、振り返る。


「綺麗に全てが片付いたら、皆で食べよう」


 言い残した言葉の意味を、男は理解出来なかった。

 確認だった。 そこまでに考えが至っているのかどうか。

 残念な結果に嘆息しながらディーが扉を後ろ手に閉じると、その隣に女性が立っているのに気付いた。

 給仕の服装を着用しているその女性は美しく、彼女を見る度にディーは、「母親似だな」と思うのだ。 そして同時に「何故ああも…」と、どちらにも似ていない部分に苦笑するのだ。


「…変えられなかったよ。 さらに自分が生きて帰ることを考えていない。 刺し違えるつもりだね」


 場所を移してから口を開いたディーの言葉には、憤りの感情が込められていた。


「…そうですか。 あの人の瞳にもう、私は映って居ないのですね」


「それは違う。 映っているからこそ、その先のビジョンが見えていないんだ。 堅いんだ、そして、人の想いに疎いんだよ。 それはあなたも知っているはずだよ」


「…ありがとうございました」


 頭を深々と下げた女性に手で応えると、ディーはその場を離れた。


「…ど〜して女を(た〜い)切にする男って〜のは皆、自分を(だ〜い)事にし〜ないのかね…」


 溜息を吐きながら呟いた彼の目的である、『ヨハン・ピースハート』の説得は失敗に終わり、彼は次の目的へ向けて行動を始めようと決意するのだった。


* * *


「良くやった」


 手を叩く音に男は、瞑目していた瞳を開く。

 男が死神となってから数日が経過している。 よもや戦場で下されるとは思っていなかったのでその点に対しては思うことがあったが、それを表に出すことはない。

 出すのは死の気配。 触れるだけで死の予感を覚えさせる気配だ。


「次の司令があるまでは待機だ、良いな」


 返事は無い。

 ただその存在に背を向けて男は立つだけだ。

 離れる足音に男は瞑目した。

 瞼の裏にはどのような感情が込められているのか、それは男にしか分からない。 いや、男にも分からないのかもしれない。

 何かを整理しているのだろうかーーー否、整理するとして、何をだ。

 男には二丁の銃を除いて何も無い。

 空虚かーーー否、男は死に満たされているのだ。 そして、そこに人間の感情は見受けられない。

 そもそもこの男は人間と呼べるものなのかーーーそう疑問にさえ思えてくる程に男は、人らしくない。 機械と評するのがようやく、正しいか否かの審議を行えるボーダーラインといえるものであろう。

 男は眼の前にある、冷めてしまったコーヒーを口に含んだーーー苦いと思った。


「……」


 何も語らず修羅道を歩む男に光は未だ、差し込まない。

 故に先が見えぬ地獄の道を今日も、男は一人で歩き続けるのだ。

 ただ、一人でーーー


* * *


「事は順調か」


 暗闇の中、椅子に腰掛けた男が言葉を発した。


「何を確認する必要がある。 既に周知の事ぞ」


 言葉を返したのは、その反対側に座る男だ。


「こうも善事が続くとかえって恐ろしくなると言うもの。 しかし、杞憂ではある」


 その隣に座る男が言葉を発する。


「大願の成就とは得てして、何かしらの横槍が入るもの。 いかに思慮を巡らせたとて、理解出来ぬものはある。 …私は恐れているのだよ」


 最後の存在が言葉を発する。

 この空間内に居る存在は四つ。 ある目的に関する報告のために集まった者達である。


「暗躍する者が現れた。 『剣聖の乙女』だ。 暫く滞在するとの話を聞いているが、我らにくみする意思は皆無と見える」


「生娘一人に何が出来る。 元帥と言えども恐れるに足らず。 邪魔立てするならば捻り潰すだけよ」


「生娘と言えども元帥だ。 信を置く隊員も少なからず居よう」


「左様。 故に我らは基盤を盤石のものとする必要がある。 気に食わぬ女だ。 後に地獄の責め苦を与えるのも一興と言えよう」


「それはさぞ愉快であろう。 ならば、研究のためにあの男の下に送り込むことを提案しよう」


「あの男か…確か強い魔力マナを持った存在を求めると言っておったな」


「存外我らの戦力となるやもしれん。 以前のようにすることも良かろう」


「それは良い。 女を従えると言うのは正に愉悦よ」


 嗤い声が闇に溶けていくと、会話をする中沈黙していた存在が再び口を開いた。


「水を差すようで悪いが、窮鼠が猫をも噛むことを忘れないでもらいたい。 制した毒でさえ、いつ盛り返すのか分からない。 一度制したとしても、やはり毒だからな……」


「留めておこう。 杯を取れ」


 傍らに置いてあった杯を取るよう促した男ーーー革新派主導者、『ジェフ・サウザー』が、野望の炎を宿らせま瞳で面々を睥睨する。


「我らが覇道に、乾杯」


 振動で揺れる杯内の液体はまるで、巻き込まれる者達を嘲笑うかの如く、妖しい光沢を放っていた。

「…新キャラクター登場した。 …悪い人達ばかり…弓弦とアンナ…大丈夫…? …今はオルレア…女の子。 …男も女もイケる口の万能型主人公。 …一家に一人の居れば…家事は問題無し。 …さてこのオルレア…本来◯◯(まるまる)円のところをなんと、□□(しかくしかく)円で今回販売する…送料手数料は全て…負担。 …どう? …あなたの人生のお供に、オルレアを…? …忘れてた。 『…始まるいつもとは違う日常。 …アンナ以外知らない人達ばかりの空間で困るかと思いきや…普通に生活を送ります。 …そしてその生活の中、オルレアの中でくすぶっていたものが、爆発するーーー次回、夜に歩く』…その音が、彼女を唸らせる。 …翔べ、オルレア」

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