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浸る思い友と共に

 鮮明に思い出せたあの月夜の記憶。

 麗しい肌色の桃源郷への夢を僕はあいつに…レオンに託した。

 意識を失う直前にあいつに笑いかけてやったんだ。

 「後を頼む」…って。

 あいつは頷いてくれた…僕達の絆はあの夜からさらに強くなったんだ。

 頬を伝った思いの欠片を僕は忘れない。

 意志を継いでくれたあいつの決意の表情を僕は忘れない。

 …そう言えばあいつ…あの後戻って来なかったな。

 僕は、僕とあいつに割り当てられた布団で寝かされていたけど…あいつは…あの後暫く帰って来なかったな。

 どこに行ってたのだろうか……


* * *


「…ん〜あの時か〜」


 セイシュウに訊かれてその時のことを思い出していたレオンは居心地の悪そうな視線をリィルに向ける。


「忘れるはずもありませんわ。 あんなことをしておいて堂々と熱血劇をやっているんですもの。 酷いものでしたわ」


「…まぁそう言うことだ〜」


 その会話で大体のことを察したセイシュウは、遅れること十数年となる哀れみの視線をレオンに向けた。

 「酷いもんだったな〜」とレオンがグラスに残りを注いでいくと、半分程度で中身が無くなった。


「じゃ〜俺だな〜。 ちょっくら行って来るか〜」


 それを一気に煽って立ち上がったレオンは退室して、商業区に足を向ける。

 この時間は食堂が閉まっているので酒を買うのなら選択肢は一つしか無く、彼含め五人しか知らない居酒屋に入る。


「お〜トウガ。 ビール…あ〜、六本頼む」


「何だ、今日はこっちで飲まないのか?」


 「リィルちゃん居るからな〜」と、隊員証を機械にかざして会計を済ませたレオンは店の主人ーーートウガからビールが詰められたカラーボックスを受け取る。


「成る程な。 そら、キンキンに冷えた冷たいやつだ」


「お! そりゃ良いな〜! 楽しませてもらうわ」


 笑いながら背を向けたレオンに向かってトウガは「まだ、買いに来るか?」と声を掛ける。


「ま〜結構飲んでるし、程々にしておかないとな〜」


「そうか…橘も居ないし…じゃあ閉めるか」


 部隊長の背中を見送り、顎に手を当てて思案していたトウガはそう結論を出すと、店仕舞いの準備を始めた。


* * *


 狭い空間の中に飄々(ひょうひょう)と響く声が良い子守唄となって、その者の意識を遠ざけるのだが、膝に感じる強烈な重みがその者の意識を戻そうとする。

 苦行だ。 何のためにこんなことをされなければならないのか。  こんなことが何のためになるのかーーーと言う程の思考力は持ち合わせていないその者だが、彼は静かな達成感に打ち震えつつ、瞳の裏の桃源郷にただ、涙を流していた。


(な〜に)をやっとるかね」


 そんな彼に気付いてか、飄々と説教をしている人物が面倒臭そうな声を発する。

 スラックスに鯉の絵がプリントされたTシャツという何とも言えない格好をしている中年の男はその者の教師に当たる人物で、名を『ディー・リーシュワ』という。

 彼は、修学旅行で若いエナジーを爆発させ過ぎてしまった生徒の指導員として、眼の前で膝に瓦を乗せられ、正座させられている少年を指導していた。


「僕としてはま、(わ〜か)い内にや〜れることはやっておけとか、折角(せ〜っかく)の一度きりの修学旅行なんだから、青春(せ〜いしゅん)の一ページとして(わ〜る)くはないと(お〜も)うんだけどね。 教師(きょ〜うし)としては駄目(だ〜め)なんだな、これが」


「なら青春の一ページで良いじゃねぇか。 速く解放してくれよディー先生」


「…規則(き〜そく)だから駄目(だ〜め)だ。 ほい、反省反省」


「うぉ…っ」


 そしてディーによって、乗せられている瓦の数を増やされた少年の名は『レオン・ハーウェル』だ。

 彼は額に「変態」と書かれた紙を貼られ、手を後手に縛られていて、顔に真赤な紅葉型の跡があった。


「なぁこれって、後どれぐらいしなきゃいけないんだ?」


「朝〜なんだけど〜。 そ〜れはや〜り過ぎだと思うから、こ〜のまま日〜が変〜わるまでだな。 そ〜の後も部〜屋には帰せないけど」


「お、じゃあ後一時間程度だな。 それに今日はディー先生と一緒か。 ま、たまには良い」


(な〜に)を暢気に。 ほい、反省反省」


「ぐ重っ…!?」


「し〜かし、な〜んでそんなこ〜とをし〜たんだ? 覗き」


 何故レオンが指導される羽目になっているか、そう、覗きである。

 今から二時間前。 女子の露天風呂を覗いていたレオンと、他一名ことセイシュウが繰り広げてしまった熱血劇は大声量を持って入浴中の女子の耳に届けられた。

 その結果二人は発見され、レオンはボコボコにされた後にこの指導室へ。

 顔面血塗れで倒れていたセイシュウは、レオンの悪行を止めるために犠牲になったと解釈され、保健教師の下に運ばれた後に自室へと戻されたのだった。 因みに覗きの発案はセイシュウであるので、彼が裁かれないのは理屈として通っていないが、そこは日頃の行いである。

 学年首席で、他生徒から見れば優等生なセイシュウと、学年一の馬鹿で他生徒から見れば落ちこぼれーーー劣等生のレオン、状況から見てしまえばそうなってしまうのだ。

 それで実際、桃源郷をどこまで見たのかというと、そこはレオンの方が比率的に多くなってしまう。

 もっともレオンの場合視線は一人にしか向けられていなかったりしたものだが。


「…男は夢、楽園を追い掛ける生き物だ。 だから俺もそれに倣って夢を追い掛けてみただけだ。 別にそれ以外の意味は無いな」


「そ〜れはあ〜ると言ってるようなも〜のなんだけどね。 お〜目当の子〜でも居たんだな」


「なっ、そりゃオルナの胸は大きかったし日頃揺れるだけあるなとは思っていたがまさかあれ程だとは思わなかったんだよ!!」


「は〜いはい、オルナ嬢ちゃんか。 あ〜のナ〜イスバディを見るとは中々や〜るな。 はい反省反省」


 瓦がレオンの膝で追加される。


「う…っ! こ、これ以上増やされるとヤバいんだが…!!」


(お〜とこ)ならこ〜れぐらい耐えないとな〜。 も〜うちょ〜っと、追加するか」


 さらに追加しようというディーに、半ば涙眼になりながら必死にレオンは訴え、どうにか追加を阻止した。

 再開された説教の最中、後瓦がぐれぐらいあるのか視線を左右に動かして探すが、見つからなく、眼の前の教師がどうやって瓦を取り出しているのかふと気になった。

 ーーーまた追加されたが、どうやら背後に隠しているようだ。 だが、馬鹿にとってはもう、思考するだけの余裕は無い。

 そう、レオンは馬鹿なのだ。

 「あの、『クロウリー・ハーウェル』の孫なのに」と影で嘲笑われる程に馬鹿なのだ。

 因みにクロウリー・ハーウェルとは、とある組織の最高地位に君臨する、その武術に打ち砕けぬものはなく、その頭脳はあらゆる叡智が込められているという最強の名を欲しいがままにしている魔法闘士だ。

 別に祖父は祖父で自分は自分なのだからと気にしていないレオンだが、どうも周りはそう思ってくれないようで何かと比較してくるのだ。

 だからといって煩わしく思うことはないのだが、それによって周りの人間に迷惑を掛けてしまうことが彼としては嫌なのだ。

 つまりその点に関して今回の件は彼にとって本意ではある。

 二人で繰り広げてしまった熱血劇ではあるが、大声を出して盛り上げてしまったのはレオンだ。 なのでセイシュウが巻き込まれることは筋違いと彼は考えていたのだ。

 この彼の心情は彼の祖父によるものであり、それは、『小を捨て大を取るのではなく、小を捨てずして大を取ってみせること』だ。

 つまり、それ故の本意である。 もっとも、実際は彼が意識的にそこまで考えているはずはなく、ただ感覚的にだったりする。


「はぁ…今頃セイシュウの奴、何をしているのか…」


就寝(しゅ〜しん)時間だ〜から普通(ふ〜つう)は寝〜ているな。 ま、青春の若者(わ〜かもの)達がこ〜んな時間に寝〜るはずもないけど」


「暇だ…」


「レポートで〜も、やるか?」


「絶対にご免こうむりたい」


 即答する。

 指導といっても、折角の修学旅行を台無しにしてしまうような反省レポートの類は一切無い。

 これは単に教師の負担を減らすことを主な目的としているのだが、それが出来るのは、ティンリエットの学生が基本的に優秀で遵法性があるお陰なのだ。

 時々レオンのような生徒も居るが、そこまで羽目を外し過ぎることはなく、精々授業を抜け出す程度であり、学校の権威を揺るがしてしまうような大事件を起こすことはない。

 教師の立場からすればつまり、微笑ましい程度の事件ならそれまでということだ。

 因みに瓦を乗せるのも本来はやらなくて良いことだ。 これはディーの趣味であり、これを罰とされているレオンは騙されていることになるが、どうでも良いことだ。

 つまり、要するにレオンが馬鹿なことが悪い。


「おっしゃ! 日にち変わった!」


 時計の鳩が知らせてくれた日付変更の合図で彼が立ち上がると、瓦が音を立てて床に落ちる。


「お〜疲れさん。 (が〜ん)張ったな…と〜言っても、明日の朝礼までは(ぼ〜く)と一緒だ〜から、女子(じょ〜し)の部屋に忍び込むことは出〜来ないよ」


「別にオルナが居る部屋に忍び込まないから大丈夫だ」


「オルナ嬢ちゃんが居〜る部屋に忍〜び込も〜うと考《|か〜んが》えていたのか」


「な、なんで分かったんだ!?」


 馬鹿である。 これは心からの疑問なので、その馬鹿さ加減は驚くしかない。


「分〜からない(ほ〜う)がおか〜しい。 さ〜て」


 言いながら部屋の隅に移動したディーは、そこに置いてある長年使われていたのか色が褪せた鞄の中からビニール袋を取り出す。 それを見たレオンも、いつの間にか指導室に運ばれていた自身の鞄を自分の下に寄せて、ビニール袋を取り出す。

 次に襖を開いたディーは中にあるものを一式、レオンに渡す。


「ま〜だ僕入っていないから、貸〜し切り風呂行くよ〜」


「ディー先生」


 腕に着替え用の浴衣を掛けて立ち止まったディーが深く息を吐く。


「向こうに荷物置〜いてからだ」


「よっしゃ!」


 そうして、指導室を後にする二人の荷物が少しだけ増えた。










 旅館の裏手にはちょっとした広場がある。

 立場上堂々と人眼に付く場所でやる訳にもいかないのでこの場所を選んだ二人は互いの得物を交錯させていた。

 衝突の刹那に打ち込む、打ち込まれる連撃の数が激しさを物語り、風に揺れる木の幹が衝撃で木の葉を散らせる。

 しかし傷付いているのはレオンだけだ。 対峙しているディーは傷一つ追っていなく、常に脱力しているかのようにその動きには余裕を見せている。

 レオンは全力でぶつかっている。 持てる、あらゆる体術を駆使して翻弄しようと努めるのだが、どのような一撃も軽々と防がれてカウンターを決められる。 反応速度が違うのだ。

 レオンが一撃入れる間にディーは十撃入れることが容易に出来てしまう、それだけの実力差があるのだ。

 しかしそれは当然といえよう。

 悠々と棍を振り回している眼の前のディー・リーシュワは、祖父の組織で少将の階級を持っている。

 大人と子ども、それを抜きにしても格が違い過ぎて例え、レオンが逆立ちしても勝てないのである。

 もっとも、レオンは同年代の生徒と比較して武術の才に秀でているとディーは判断している。

 軽い手合わせではあるが、レオンの反応速度が先程と比べて上がっているのだ。

 必死に本人が追い縋ろうとしているのもあるのだろう。 時々仕掛けてくる、フェイントからの切り返しに眼元を綻ばせながら彼の脳天に一撃を見舞おうとして、


「そいつを待ってた!!」


 突然その姿が消えたレオンを、見失ってしまった。


活心衝(かつしんしょう)()ノ型、“吼猛こうもう”ッ!!」


 声がした方向に棍を振るも、空を薙ぐだけだ。 感心したように小さく声を出したディーの棍に微かな重みが加わる。

 引き戻されようとしていた彼の得物が突如として動かなくなったかと思うと、反対側の先端をレオンが掴んでいた。


「活心衝散ノ型、“掌爆(しょうばく)”!!!!」


 棍を掴まれた手の内側に光が集い、空気が吸い込まれていきそして、


「ぐうぉっ!?」


 発動者を巻き込んで爆発を起こし、彼を吹き飛ばした。

 プスプスと煙を立ち上らせながら眼を回している馬鹿の頭を、無傷の棍で軽く叩いて気付かせてると彼は「な、なんだ今の!?」と頭を掻いた。


「“吼猛”の〜後に“掌爆”を使っての(ぼ〜う)発自爆、そ〜れ何度目だレオン坊や」


 活心衝獅ノ型“吼猛”で身体能力を一時的に向上させると共に、次に放つ活心衝の効果を引き上げてからの、活心衝散ノ型“掌爆”による強力な一撃がレオンの狙いだったのだが彼はまだ、増加した気を扱い切れる程の技術が無く、無理に使おうとすると暴発させてしまうのだ。

 既に何度同じ失敗を繰り返したのか分からなくなっているほどにやらかしている彼を、困ったように見つめるディーの視線は呆れの感情が込められている。

 学習しない馬鹿は救いようがないのである。


「???」


「風〜呂行〜くよ、レオン坊や」


「…その坊やっての、止めてほしいんだがな」


(な〜に)を言〜っとる。 坊やは、坊や。 (す〜く)なくても(さ〜け)を飲めない内はまず坊やだ」


 押し黙った彼はまだ、酒を飲める年齢ではない。

 どこかの世界のルールだという、「お酒は二十歳から」というルールは他世界でも科学、人間学面でその正当性が証明されており、それはここ界座標(ワールドポイント)【05735】でも例外ではない。


「こ〜れで二日目終了。 (は〜や)いもんだね」


 湯船に浸かりながら月を眺めているディーの反対側でレオンも浸かりながら、同じように月を眺めていた。


「授業はやたら長く感じるのにな、不公平だ」


「ま〜だ四日三晩あるから始まったば〜かりだ。 (な〜が)いぞ」


「すぐ終わるだろ? あっちこっち行くんだからな」


「そ〜れは、(き〜み)次第だね。 も〜う覗きはするなよ」


「ば…っ、そんなこともうしないっ! どうせ見れる…あ」


 レオンがいきり立って言い放とうとした言葉は教師の立場に居る人間としては、聞き捨てならないものだ。


「お〜いおい、(た〜の)むから、何をするかさ分からないが止〜めてくれ。 洒〜落にならんよ」


「別に向こうの許可があるしな。 良いだろ」


 その時だった。


「‘お〜!’」


 聞こえてはならない声が小さく、二人の耳に届いた。

 あり得ないという表情のまま固まった二人を他所に、その聞き心地の良い声の主の影が湯煙の先に見えた。


「‘一度入ってみたかったんだよね〜! 待った甲斐あったよ〜!’」


 ピタピタと、湯船から溢れて薄く床に広がっている湯で音を立てながら歩いて来るその人物は、今正に話題に上っていた人物だ。

 「まさかお前」という表情で見つめてくる担任教師に、全力で首を左右に振って否定の意思を示したレオンに対して、教師として流石にマズく、本気で焦り始めたディーは視線を彷徨わせて見つけた岩の背後に隠れた。


「ふんふんふ〜ん♪ あ、でも〜ちょ〜っとマズいかな〜?」


 ちょっと恥じらいらしきものを見せているその人物は、五秒程度悩む素振りを見せてから、


「ん〜、寒いから入ろ」


 入りやがった。


「ま、良いよね〜? レオンも覗いたんだからトントンだよね〜! …ん〜? 誰か〜居るの?」


 男風呂に入っている反応として明らかに呑気なその人物の、美しい赤毛の髪が湯の上に浮かんで広がる。


「‘……で、デカいっ’」


 もう二つ、湯に浮かんでいる丘をさり気なく見ているレオンも呑気なものである。

 既にディーは退避し終え、風呂場にはレオンとその人物の二人きりとなった。

 幸い、どこぞの修正クラスの湯煙によってその人物の視界にレオンの姿は映っていなく、このままなら無事に事無きを得そうであった。


「レオ〜ン! …って居るわけな「何だ?」」


 事無きを得そうだったのだっ!!!!


「「…あ、どうも〜」」


 そう、その人物ーーーオルナもまた、馬鹿だったのだ!!

 出会っていけない場所で出会ってしまった二人はーーー


「す、すまぁぁぁぁぁんっ!!」


 というよりこれまた流石に、耐えられなくなったレオンは大慌てでその場から逃げて行った。


* * *


「お〜い、もう潰れたんかい?」


 ボーッと夢見心地だったレオンの意識を引き戻したのは、酔ったセイシュウの声だった。

 「まだまだだ〜!」と、呂律が若干回っていなくも力強い声を返したレオンに、「そうれすわ〜!」と、こちらな完全に出来上がったリィルが便乗する。

 既に空いたビール瓶は十に差し掛かろうとしており、二日酔い、最悪三日酔いは避けられない状態となっている。


「やっぱ良いね〜皆で飲むのって!!」


「だな〜!! 最っ高に美味いっ!!」


「ですわ〜♪ んふふ〜セ〜イシュ〜く〜ん♪」


「何だいリィル。 胸が無いクセにそ〜んな、色っぽい声を出しちゃって」


「い、色っぽいだなんて…そんなこと言わないでくださいまし。 恥ずかしいですわ」


 都合の良い箇所のみを聞き取ったらしいリィルと、照れ隠しのチョップが炸裂して床に伏すセイシュウを見ながらレオンは、眼を細めてみた。

 重なる昔の記憶で映った人物は瞬き一つで姿を消す。

 一瞬ではあったが、酒のお陰でそんな幻を見ることが出来たような気がしたレオンは、黄金色の液体を一気に飲み干すのであった。

「…大分好きにやっているそうね? 風音?」


「あらあらフィーナ様、御機嫌麗しゅう御座います」


「…あ、うー」


「…あ、御腹が空かれたようです♪ 御飯をあげないと」


「…風音。 少し、色々? 話したいことがあるのだけど…特にその、あなたが大切そうに抱いている赤ん坊についてなのだけど…」


「うー?」


「…私の見間違いじゃなければ…あの人に見えるのだけど」


「クス、細かいことはこの際無しで御座います。 ほ~ら、御飯ですよ~?」


「うー♪」


「ん…っ。 うふふ♡」


「…『打ち消せ、ディスペル』」


「あ、あー?」「きゃ…っ」


「…ふぅ、これで良しと。 『秘されし記憶は彼方で窺い知れる。 曰く、それは知らない物語、知らないはずの物語。 彼と彼女はそこで、何を見たのかーーー次回、再会は突然、やってくる』…良かったわね風音」


「…ん? なっ、うわぁぁぁっ!?!?」


「え? あ、はい♡」


「お、おい! ひ、人になんてことさせるんだっ!!」


「…どう? 実際の感覚は?」


「…何故でしょうか。 至極当然の光景として見ていたはずですが…酷く淫らなものに思えます」


「…そうね。 相手がこの人だもの、否定はしないわ」


「…フィーナ様もしや」


「あら。 至極当然のことよ?」


「…無視かよ。 しかし…なぁ? っ…はぁ」


「…成る程、より先に進まれているのですから当然ではありますか」


「さぁて、ね?」


「っ、まさか…ぐ。 ~~~っ!!!!」


「クス…どうやらしっかりと記憶に焼き付けられたようですね」


「あなた、悪女ね。 …それにこの人は…もぅ、仕方の無い人。 別にあなたが望んでくれれば私はいつだって…」


「…。 それでは、たっぷり堪能出来ましたし、以上で御開きと致しましょうか」


「…そうね、好きにして」

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