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やっぱり?

 埃が覆う懐かしい場所。

 埃に埋もれた懐かしい記憶。

 願った再会は、思いも寄らぬ最悪の邂逅となってしまった。

 僕のやったことに意味は無かったただ、人を殺めただけ。

 僕はそのことを、彼女に話したことと同じようにあいつに話した。

 ……あいつは僕を、咎めなかった。

 「お前さんが直接手を下した訳でないのなら気にするな、俺が許す」と、笑顔で僕の肩を軽く叩いたんだ。

 …レオン、君は大物だよ。

 その器の大きさは間違い無く、『クロウリー・ハーウェル』の孫だ。

 付いて行くよレオン、どこまでも。

 もう一度誓わせてくれ。

 僕は君の頭脳となろう。

 君は僕の肉体となってくれ。

 僕は迷わない。 君の側でこの頭脳を活かしていく。

 彼女の想いにも、糖分でからかうんじゃなくていい加減、答え始めようと思う。

 でも、告げるのは全てが終わってからだ。

 運命(さだめ)の糸はきっと繋がっている。

 取り返そう、三人で、あの日守れなかった彼女を。

 今は無理だ。

 だけど、いつか、いつか絶対に。

 頭脳派と肉体派、四人で任務(ミッション)に行こう。

 そう、戯れに暮れたその場所で僕は、思ったんだ……


* * *


「え!? また…どこかに行っちゃうの?」


 “シグテレポ”を使用してアークドラグノフ甲板に転移した弓弦は、戻って来たばかりの陽動隊一行に、暫く艦を離れる旨を伝えていた。

 当然当分一緒に生活出来ると思っていた知影が泣きそうな面持ちで彼に問い掛ける。


「あの女狐に頼まれたんだよね!? ちょっと私今から八つ裂きしに行ってくるよ! …許せない」


「はは…今回は二人だけのやつじゃないから安心しろ。 何分危険だから二人、“エヒトハルツィナツィオン”で変身させてから連れて行くつもりだ」


 知影の瞳から光が消えた。


「うんじゃあその二人も殺す「武器を取り出すな」…だってどーせ私「一人はお前だからな」うんありがと大好きっ♡」


 満面の笑顔で抱き付いてきた知影を受け止め、背中をポンポンと叩いてから、赤子をあやすかのように「よしよーし」と視界を塞ぐ彼女の顔を肩に乗せると、嬉しそうに甘える彼女によって、周囲に桃色空間が形成される。


「ふぇへへ…弓弦…弓弦大好き! 弓弦と一緒なら地獄の果てまで付いてくよ…♡」


 「はいはい」とそんな彼女に苦笑しながら弓弦は、もう一人の同行人物に視線を向ける。

 彼女は最初驚いたように、おずおずと自分を指差したが弓弦が微笑みながら頷くと、クスリと笑みを零して彼の側に立った。


「宜しいのですか?」


「風音だから連れて行くんだ。 またサポート頼む」


 その言葉で彼の言いたいことを察した女性ーーー風音は、「畏まりました」と丁寧に一礼をする。

 二人の了承が得られたので、彼は“テレパス”を発動してから「そろそろ良いか? 戻って来てくれ」と相手の人物に伝えてから魔法を解除する。

 すると程無くして彼が薬指にはめた指輪が淡く光を放ち、この場に居る三人の女性が何とも言えない表情を浮かばせながら彼の隣に魔法陣を形成した。

 光が収まるとそこに、先程の会話相手であるフィーナが現れた。


「よし、じゃあ今から跳ぶから、ちゃんと二人は…掴まっているよな」


 前から身体を押し付けてくる知影と、後ろから背中を預けてくる風音の様子を見て途中で言葉を打ち切ると、横に立つフィーナ視線を向けた。


「行ってくる。 後は任せた」


「任せてください。 ふふ、行ってらっしゃいませ…」


 静かに瞼を閉じてあることを要求してくる彼女から、遠ざけようと知影が彼の身体を引っ張るので彼は参ったように、小さく首を左右に動かす。


「…ご主人様」


 不意に頬に触れた柔らかい感触に眼を瞬かせると、拗ねたように顔を背けた彼女は「もぅ…馬鹿」と、弓弦にだけ聞こえる音量で苦情を言い残してその場を離れて行った。


「はは…じゃあ…」


 様子を見守っているかのように静かに微笑んでいる姉代わりーーーレイアやユリ、その前に立っているトウガとディオに視線を向けた。


「うん、行ってらっしゃいユ〜君」


「……」


「無事で帰って来いよ、隊長代理」


「左に同じ「真似するな」ぐふっ。 …体調管理は大切…だ…よ…ガク」


 床に沈んだ彼に対して、ディオを除くその場の人間が同じ考えに至ったのは言うまでもあるまい。


「そうそう。 ユリに預かってもらいたい物がある」


「む、何だ?」


 一人沈んだ表情をしていたユリを呼び寄せると、弓弦は隊員服のポケットから、自分の隊員証を取り出して彼女の手に握らせた。


「今回これ必要無いから、戻るまで預かっていくれると嬉しい。 頼めるか?」


「うむ…分かった、預かろう」


 受け取った隊員証を大事そうに胸に抱いたユリから視線を戻すと、向こうを待たせる訳にもいかないと“シグテレポ”を発動した弓弦は疲れているのか、どこか眠そうに欠伸をすると、知影と風音を伴って光に消えた。


* * *


 フィーナが消えてから二分程経過した頃、アンナは立ち上げた端末を叩きながら、作り上げたデータに不備が無いかどうかじっくりと見直していた。

 外から微かに人の声が聞こえるということは、ここーーー『ヴァルハラ城』の異変を察知した革新派の隊員が調査に来たのだろう。

 この部屋は彼女個人に与えられた部屋なので、彼女の隊員証を使うことでしか入ることが出来ないが、革新派に身を置いている男の存在が気掛かりであった。

 カザイ・アルスィー。

 彼女と同じ元帥の立場に君臨し、絶対に殺せない男。

 あの男の真意を探らねばならないが、敵対している以上あの男を程危険な相手は居ない。

 おそらくアンナとカザイが全力で殺し合えば、決着が着くより先にその世界が崩壊してしまう。

 もっともそれは彼女が、一番頼りにしている男でも可能な訳だがーーー


「すまん、待たせたな」


 そうこの男、橘 弓弦の力でも、世界を壊すことは可能だ。


「フン…謝るのならばそもそも遅れるな。 それで」


 彼と共に来た女性を二人を鋭く睨み付けながら、「どうするんだ」と挑発的に彼女は訊く。

 用意したのは一人分の潜入工作。 二人ならまだしも三人など、彼女を馬鹿にしているとしか思えない愚業だ。


「さぁて、な?」


「斬り殺す」


 アンナは情けない男が嫌いだ。

 さらに言うのなら、だらしない弓弦が嫌いだ。

 顔を見るだけで、性根を叩き直してやりたくて仕方が無くなる程に、彼女は彼が嫌いなのだ。


「…何弓弦を殺そうとしてるの、アンナこそ死にたい? 死にたいんだへぇ、そっか…ふふふ」


「あらあら…うふふ…」


 柄に手を添えたアンナの言葉に反応した知影と風音は反射的に、一種の防衛反応と言わんばかりに彼女に刃を向け、一触即発の空気が空間を支配する。


「あー…本当にすまん。 冗談抜きでやる」


 その雰囲気は、当然作り出した原因が壊すべきものである。 


「…フン、最初からそうしろ」


「あぁ。 すまん」


「謝るな。 情けなさが割増になるぞ馬鹿者」


 アンナは真面目な人間が好きなのだ。 だから、真面目な面持ちをしている者を見るとどうしても頰が緩んでしまうものがあり、それが時に、


「今弓弦に色眼使った。 ねぇ、その誘惑紛い、いい加減にしてほしいんだけど…!!」


「…クスクス」


 嫉妬心を刺激してしまうのだ。


「…どう考えても人選を間違えたとしか思えないんだが」


 苛立ちを隠せない声音で睨んでくるアンナが二人を煽るので、思わず空を仰ぎたくなるが、身体の内に住み彼の一部となっている悪魔の一体である悪魔猫クロがそんな彼に、とあるアドバイスをした。


「知影、お前はいい加減に落ち着いてくれ。 風音も、意味深な笑いはしないようにな。 …フィーとユリの方が良かったか? …って冗談だ、すまんな」


 後半の台詞がアドバイスの内容であり、その覿面(てきめん)な効果により涙眼になった知影と、寂しそうに俯いた風音に謝ってから頭を掻く。


「んで、えーと、これが潜入の服装だ…ん?」


 机の上に置かれた隊員服を手に取って弓弦は首を傾げた。


「女物だが?」


「あぁ女物だ」


 隊員服に挟まれていた、女物の下着がハラリと机の上に落ちた。


「……」


「そしてこれが私が偽造した隊員証で、お前が変装する人物だ」


 抗議の視線を無視してアンナが彼に見せた端末の画面には、彼女が偽造したらしい隊員のデータが表示されていた。


『オルレア・ダルク。 15歳、女。

 使用武器、剣。 魔法属性、光。

 クアシエトール元帥唯一の直属部下であり彼女に心酔している。 辺境の出身であり、田舎育ちで培われた身体能力は高い』


「これならば疑われる余地は無いはず。 元帥直属の部下ならば、あまり人に名前や顔を知られていなくとも問題無いからな」


 一人自分の作業結果に満足している様子のアンナが、固まった弓弦を見て眉を(ひそ)める。


「…マジか?」


「私は真面目だ。 さぁ、分かったらとっとと着替えろ」


 容赦無い言葉を告げてから彼女は奥の部屋に入ってしまい、微妙な表情を浮かべた三人が残される。


「…まぁ良いか」


「良いの? あの女の言いなりになるんだよ?」


 「頼まれたんだし仕方が無いだろ」と愚痴のように告げると弓弦は、隊員服と下着のサイズを確認してから“エヒトハルツィナツィオン”発動させた。

 知影と風音が見つめる中でその姿が変わっていく。

 魔力マナの光に包まれた身長は低くなり、首元まで伸びていた後髪が細くなった腰の辺りまで伸び、代わりに横髪が首元まで伸びた。

 緩むズボンを掴んだ、短くなりつつも細くスラリと伸びた腕を軽く押し退けるように胸部が服の内側から押し上げ、臀部が引き締まり、全体的に身体の肉付きが柔らかくなる。

 吐いた溜息に混じった声音が歳若い少女のものに変わったかと思うと、光が霧散し、アホ毛混じりの亜麻色の髪が(なび)く。


「こんなところか」


 身体の感覚を確かめるかのように跳んでみたりクルリとターンを決めたりしながら、弓弦は呟く。


「うわぁ…っ! 可愛いっ!」


「クス、御召し物を交換しましょうか♡」

 

「え、わっ!?」


 すると、眼を輝かせた二人によって弓弦はあっという間に服を脱がされ、産まれたままの姿にされる。


「う、うぅ…そんないきなり脱がさないくれ…」


 思いっきり視姦してくる二人に背中を向けて部屋の隅に退避すると、


「…ゴクリ」


「え?」


「…クス」


「あの…二人共」


 当然追い詰められた。


「ねぇ弓弦…」


「ひゃ…っ」


 背後から胸を鷲掴みされて変な声を出してしまう。


「ふふふ…上は感度良好だね…♪」


「でしたら下は如何でしょうか…♪」


「ちょ…二人共止め…んっ」


 振り返らされ、されるがままになった弓弦の身体を知影が、遠慮無く触り、風音が若干遠慮がちに触る。 自然と互いの頰が上気し呼吸が荒くなり、百合の花が花開く。


「お願いだから服をくれ…ぇぇっ!?!? お、おいっ、何やってる…何やって、るぅぅっ!?」


「じゅるり…ふぇへへ、ごちそうさま♡」


「あらあら…力が抜けてしまいましたね、うふふ♪」


 腰が砕けてへたり込んでしまった彼に目線の高さを合わせた二人の瞳は、獲物を前にした獣のそれだ。

 抵抗したくても力が入らなくてどうにも出来ない弓弦は「止めて…止めてぇ…っ!!」と、動揺のあまり口調を崩し、ただ首を左右に振っている。 その姿は正しく、襲われている女性そのものであり、それが二人の嗜虐心を著しく刺激したのは言うまでもない。


「そしてもう一度…いただきま〜す♡」


「御楽しみはこれからで御座います…大丈夫です、力を抜いて…私達を受け入れれば天国に参れますよ…♪」


「っーーー!?!?」


 叫んで助けを呼ぼうとした口を知影に無理矢理塞がれ、そのまま強く押し付けられる。 息すら出来ない程の激しい攻めに堪えようと弓弦は、眼をキュッと閉じるが、その怯えた姿ですらも彼女達のテンションを上げる要因でしかない訳であり、弓弦の意識は遠退いていった。


* * *


「…そろそろか?」


 顎に手を当て思案しつつアンナは、静かに剣を研いでいる最中だ。

 封剣紙(アルマメモリア)から出した四本の宝剣と普段持ち歩いている無銘剣、元帥として行動する際に追加で所持する無銘剣その二を暇潰しに研いでいるのだが、いつまで経っても弓弦が呼びに来ないので、妙な不安感に駆られていたのだ。

 あまり強く当たり過ぎるのもアレなので、「冗談抜きでやる」と言った以上、呼びに来るまでは弓弦の好きにさせているのだがいい加減気になっている。

 彼女が所有する小型飛空挺『ピュセル』には、弓弦の魔法を使えばという目処が立っているのでいつでもここから脱出出来るのだから、それ程気に留めてはいないのだが時折聞こえる物音が気になるのだ。

 しかしこれから共に行動をする身、信頼関係は何よりも大切だ。

 なので信頼関係のためにも、一度真面目にやると言った彼を信じなければならない。 見ざる聞かざる言わざるーーー彼が呼びに来るのをひたすら、彼女は待つだけだ。

 ーーーというものの、既にかなりの時間が経過している。

 念入りに研いでいたものの、『不滅の刃(デュランダル)』、『轟雷放つ剣(カラドボルグ)』、『神滅の焔刃(レーヴァテイン)』そして無銘剣二振りは研ぎ終わっているのだ。


「…っ、まだなのか。 一体いつまで人を待たせるつもりなのだ、馬鹿者め…」


 最後の一振りを研ぎ始める前にどうしても気になったアンナは、手動にした扉を少しだけ動かして様子を窺うことにした。

 静かに、静かに扉に手を掛けて、少しだけ動かして隙間から覗く。 中々微妙な絵面になってしまうが、それはこの際気にしてはいられない。


「……」


 そう、その光景を見てしまったら気にしていられなかった。

 扉を完全に開いた彼女は唖然としながら、歩みを進めて、止まる。


「……」


 開いた口を塞がらせてくれない、混沌とも言える部屋の隅まで移動した彼女は俯いて、静かに拳を震わせた。

 彼女の視線の先では、一人の美少女が流涎と、眼尻に涙を溜めながら全裸の上に毛布を掛けられて気絶しており、それを二人の女性が幸せそうに両側から挟んで眠っていた。


「ふんっ!!」


 彼女の拳は両側挟む女性に向けて振り下ろされた。


「あうっ」


 片方には止められたが、もう片方には何とか拳骨を見舞うことに成功した彼女は、別々の形であれ起きた二人を、鬼の形相で睨み付ける。


「…何をしていた」


 抑えた声ながらも、怒りが確かに伝わってくる声音だ。

 流石にこの状況だ。 彼女とて二人を制裁対象と見做すしかなく、気絶した彼女のあられもない姿を何とかするように言い残すと元の部屋に移動して剣をしまい、戻る。

 すると、


「…柔らかいなぁ」


「なっ、何をやっているのだ貴殿はッ!!」


 眼を離した一瞬で、恐ろしい事案が発生していたため、彼女は美少女を女性ーーー知影から奪い、抱え上げると椅子に座らせて下着を着用させた。


「…手慣れていらっしゃいますね」


 そして一瞬の間に少女に隊員服を着させたその手際の良さに風音がさり気なく好奇の視線を向ける。

 知影も何かを探るかのようにジト眼を向けているが、アンナは気にせず別の毛布を彼女に掛け、その正面に端末を置いて自らも椅子に腰掛けると、キーボードを叩き始めた。










 ーーー二時間経過。


「ん…」


 美少女が身動ぎしたことにより落ちかけた毛布を側に控えていた風音がそっと掛け直すと、長い睫毛が特徴的な彼女の瞼が微かに開く。


「風音…おは…よー」


「? …御早う御座います」


 大きな淡い桜色の瞳に見つめられた風音は胸の高鳴りを覚えて視線を逸らす。


「…あ、知影もおはよ」


「お、おは…よ?」


 美少女は人懐っこい笑みを浮かべて周囲を見渡し、次に視界に入った知影にも挨拶をした。

 最後が疑問形になりながらも何とか彼女が挨拶を返すと、その視線はアンナに注がれた。


「…!!」


 その瞳が大きく見開かれたかと思うと彼女は立ち上がると彼女に、抱き着いた。

 

「アンナ先輩……逢いたかったっす!!」


「な…貴様、何のつもりだ!!」


 突然の行動に何とか反応してみせたアンナは、「ん〜っ♪」と甘い声を出しながら身体を押し付けてくる美少女に対して声を荒げる。

 知影も風音も、何が何だか理解が追いつかず、その様子を見送っている。


「お、おいふざけるな!!」


「ボクのこと…忘れてしまったっすか?」


 何とか身体から離したアンナの眼と鼻の先で、寂しそうに呟いた美少女の頭に犬耳が現れた。


「ボクですっ! 先輩唯一の直属部下の、オルレアっす!!」


「な…何だとぉっ!?」


 その名乗りは、眼の前の美少女が、弓弦が女装した姿だと思っていたアンナにとって青天の霹靂とも言えるものであった。

 思わず声を裏返らせてしまった彼女は動揺が収まらないようで、何度も首を振りながら椅子から転げ落ちてしまった。


「お、オルレア…オルレア・ダルクだと言うのか…?」


「先輩…!! 思い出してくれたっすね!! そうっす! 後輩のオルレア・ダルクです!!」


「え、えぇーーっ!? 弓弦どうしちゃったの!?」


「スイッチが入っちゃったんだにゃ」


 “弓弦”としてはあり得ない言動に詰め寄ろうとした知影の前に、オルレアの身体から溢れた魔力マナが集まり、銀毛の猫が顕現した。


「うわっ、何か現れた!?」


「説明しよう! にゃ。 にゃはは。 今の弓弦は、全力で『オルレア・ダルク』と言う、美少女を演じているのにゃ。 だから今の彼女は弓弦だと思わない方が良いと思うにゃ」


 「は、はぁ…」と間の抜けた返事をした知影の足下で、後ろ足でクロは耳の後ろを掻く。


「っ、演じているだと…!? 馬鹿にしているのか…この男は…っ!!」


「クス…良いではありませんか。 弓弦様は約束を守られているのですよ? 決して冗談や御戯れでこのようなことをなさらないと思います」


 風音の諭すような言葉と、先程弓弦が話した「冗談抜きでやる」が彼女の脳内で同時に響いた。


「…確かに、そうだな」


 腑に落ちた様子で頷いたアンナは泣きそうな顔をした、弓弦ーーーではなくオルレアを手招きで呼ぶと、その髪を撫でた。


「…もう一度、私のこと呼んでみてくれないか」


「え…は、はいっす。 …せ〜んぱいっ♡」


「…ねーねー弓弦、私も呼んでよ」


「…知影、ボクの先輩は、敬愛するアンナ先輩だけだから悪いけど呼べないっす。 別の呼び方なら良いっすよ」


「でしたら私は如何ですか?」


 知影を撃沈させたオルレアはアホ毛を揺らしながら、風音に笑いかける。


「風音も、先輩なんて呼べないっす。 …だって二人共ボクの大事な家族っすから♪」


「「「……」」」


 小さな部屋が静寂に包まれる。

 固まった三人に対してオルレアは人懐っこい笑みを浮かべたままアホ毛を動かす。


「にゃはは…普段は恥ずかしくて言えにゃいことが、素直なおんにゃの子に性格を切り替えちゃったお陰でこれは、嵐の到来かもしれにゃいのにゃ」


「? どういうことっすかクロ?」


 一匹、冷静に状況の説明を呟いたクロが琥珀色の瞳で眺める先で三人はまだ、固まっていた。

「オルレア…か」


「可愛いなぁ…楓さんとは違った可愛さがしやがる……」


「何、別の女性に乗り換える気? ロイ、メライ」


「…やべぇ、あの子に先輩と呼ばれて奉仕されたい衝動が…!!」


「分かる! いつもピッタリ寄り添って甘えてくれる犬みたいな子…タイプだ」


「しかもあの子…楓さんでもあるんだよな…」


「そうだ。 楓さんが潜入のために変装した姿があのオルレアだ」


「‘…正確には、隊長だけどね’」


「……。 やべぇ、ムラムラしてきた」


「あぁ…凄い結婚したい。 結婚して…一緒に暮らしたい」


「毎日毎日奉仕される毎日…冥利に尽きるじゃねぇか!! しかも、超美少女なんだからよ」


「ムラムラする…」


「ムラムラしやがる…」


「…この二人のギャグ化が止まらない。 はぁ…『回る歯車が刻む音は過去を描く。 動き出した三人の関係はまた一つ、過去に戻る。 少しずつ回想が入るかもねーーー次回、白泡に想いを映して』…僕としては二人のハイエルフが気になるけど、これ以上伸ばしてそこのホモがおかしくなる前にはい、終了」

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