狼煙を上げろ!
桜舞い踊る道。
お揃いの制服に身を包んだ僕達“四人”はそれぞれの武器を持って、校門の前に並んだ。
シャッター音。
今の光景が思い出になった音。
…思い出は続くはずだった。
僕達の身体が老いるまでずっと、そう僕は思っていた。
ずっと思っていたんだ。
でも、それはすぐに終わりを迎えたんだ。
信頼していた人の裏切りという最悪の形、迫る陰の大軍勢の前に得物を煌めかせ、手を伸ばした僕達に背を向けた彼女の、寂し気な覚悟の表情。
その時から僕の、僕達の時間は止まっているんだ……
* * *
「起きた? ユ〜君」
頭上から聞こえたレイアの声から弓弦は、感触から自分が膝枕されていることを知る。
どうやら転移の衝撃で気絶していたようだ。
しかし両手に、誰かを抱き寄せているような感覚を覚えるのは奇妙に思い、顔を動かす。
「すぅ……」
「…パ……ん…」
なんというおかしな状態であろうか、彼は頭をレイアの膝に乗せ、両手でフィーナとセティを抱き寄せていたのだ。
少し視線を遠くにやってみると、まだ他の面々が気絶しているのが見える…どうやら気が付いた人間は、俺が二人目のようだ。
「こうしてみると、川の字で寝ている三人家族みたいだね…ユ〜君がお父さん、フ〜ちゃんがお母さん、セティちゃんが娘で…おろ?」
「姉さん?」
怪訝そうに顎に手を当てた姉代わりの女性に視線を戻すと、「なんでもないなんでもない」と首を振った。
「…でも家族か、近いんじゃないか? 同じハイエルフだし」
「えへへ、そうだよね。 ならお姉ちゃんも家族に含まれるのかな?」
「家族みたいなものだろ。 姉さんだしな」
「そっか、ありがと…」
嬉しそうに頬を染めた彼女に髪を撫でられて、照れを隠すために視線を逸らすと、眼が合った。 その双眼が「起きて」と訴えるので、身体を起こす。
「なんだもう起きたのか。 疲れてるだろ?」
「はい、疲れていますのでこの子を連れて部屋に戻りましょう。 柔らかいベッドで休みたいので」
同じようにして身体を起こしたフィーナは、不機嫌そうに早口で捲し立てる。 彼からしたら謎の行動に首を傾げつつも了承し、レイアにこの場を任せても良いか訊く。
「うん、行ってらっしゃいユ〜君。 皆が起きたら“テレパス”で呼ぶよ」
「ありがとう。 よ…っと、じゃあ行くか」
イヅナの小さな身体をを抱き上げると、寄り添うようにフィーナが彼の隣に並ぶ。 レイアが微笑ましそうに見つめる中振り向いた彼女の視線には、慢心に勝ち誇ったような視線ではなくただ、冷たい氷のような、蔑みの感情だけが込められていた。
「…嫌な女ね」
「…どうした急に」
「……」
二つの意味に取れるその言葉に対する問いの返答は無い。
「…形だけの夫婦ってさ、嫌な言葉だよな」
「!?」
代わりに、内心思っていたことを当てられた彼女は息を呑む。
“形だけの夫婦”…『契り』という、ただ単にハイエルフの枠組みで結婚しただけだというのなら、この言葉は正しいだろう。 実際はそうなってしまうのだから。
「コホン…そうね」
「相手が自分のことを好いてくれているのか、常に恋する女の子は不安なんだよな」
「ふふ、そうよ。 指輪を贈られても、愛の言葉を囁かれても、私ですら不安なんだもの。 もっと不安に思っている人も居るわよ?」
「はは、口調戻す機会、最近増えたな」
その言葉におかしそうに笑うと、彼女は左手の薬指にはめてある指輪にそっと触れた。
同じものが弓弦の左手の薬指にもはまっている。 「ほかの人には悪いけど、これが争奪レースだったら私の、独走状態ね。 私は嬉しいのだけど…」と心の隅で苦笑しながら、考えながら咳払い一つする。
「コホン…こちらの方がよろしいですか?」
「お好きにどうぞ」
「犬として話せ、か、俺の女として話せか…どちらか命令してください」
「好きにしろ」
どちらも似たような意味であるような気がする弓弦である。
「…悩みます。 こちらの話し方ですと、ご主人様のものという感覚がしますけど…コホン、この話し方はこの話し方で、あなたの妻という感覚がするのよ」
「成る程…これがクーデレか。 昔からその気はあったが、最近になって覚醒したな」
冗談めかした彼の瞳がキラリと光るのを見て、おかしくて噴き出した彼女もまた、冗談めかして片眼を閉じた。
「ふふ…愛の力でしょうかしら♪」
「はは、だとすれば形だけの夫婦にはならないよな。 それに口調、混ざってるし…ぷっ」
「もぅ…意地悪な人、でも…もっと私を笑って…はぁ、はぁ…きゃんっ!?」
「…これだけMでも、放置プレイが苦手なんだよな、それとも、感じるのか?」
フィーナの首に巻かれてあるチョーカーから謎の原理で伸びた紐(珍しく鎖ではない)を引っ張った弓弦に、彼女は豊かな胸の下で腕を組みながら俯いて思考する。
「放置は放置でも、雌犬としての独占欲を刺激するプレイは高鳴ります。 ですが、女としての独占欲を刺激されるのはちょっと…」
「…言ってることは分かるが…難しいな。 線引きが分からない」
「男性が女性の心を全部理解出来る訳ではないのですから当然ですよ、ふふ」
リボンを解いて髪を下ろさせたイヅナをベッドに横たわさせ、彼女を間に挟んで二人も横に。
三人はいつも、この並び方で寝ているのだが、理由としてはそれが最も自然な風に思えるからだ。
そんな中弓弦は、“ゲートオブアイソレイト”を発動した時の状況を思い出していた。
ギリギリ間に合わなかったのを知影の時属性魔法で助けられた。 彼女がそういった反則的な行動を出来ることは周知の事実であるが、問題はイヅナのことが風音以外に知られた可能性が高いこと。 レイアの先程の発言は「自分は最初から知ってたよ」というメッセージであり、同時に「どうするの?」という問い掛けでもあった。
なんとなく彼女がそう言っているような気がしたのだが、フィーナも同じような言外のメッセージを受け取ったからこそ、こうして三人以外誰も居ない場所へ行くことを提案したのだろう。
ここまで相互理解が出来るのならハイエルフ同士仲良くしてほしいものだが、自分が原因である手前、弓弦からは強く言い出せなかった。
「…なぁフィー」
「はい、何でしょうか」
「訊きたいことがあるんだ」
合体魔法発動の条件に、まったく同種の魔力を持っていなければならないことが挙げられる。 少しでも違えば、血液の浸透圧と同様に、体内にある魔力の回路がズタズタに破壊されるというリスクがあるものの、『契り』を結び夫婦となれば、夫と妻の魔力が半分ずつ混ざり合い、この条件を満たせる。 無論それは夫と妻以外でも、まったく同種の魔力を持っていれば不可能でない。 夫の魔力を“A”妻の魔力を“B”として考えると、『契り』を交わせば、魔力の内容は互いに“AB”となる。
また魔力の性質も遺伝的要因を含む以上、“A”か“B”か“AB”の三パターンしかない。 魔力の量や使用出来る魔法の属性に関わらず、その元にあるのはこのパターンである。 これがまた複雑なのだ。
例えるならば、魔力の性質は、鍋だ。 鍋の中に入っている料理の量が魔力の量、具材の種類が、魔法属性の種類、各々の具材の質が使用出来る魔法の階級の上限に換言出来るであろう。
閑話休題。
イヅナは、フィーナが最初に抜いた『軻遇突智之刀』を抜くことが出来る。 それは、彼女の中にフィーナと同じ魔力があることになる。 姉妹であるというのなら、この条件に当てはまるであろう。
また弓弦も抜くことが出来る。 これも、『契り』によって弓弦の身体を流れる魔力の半分が、元はフィーナの魔力であることに起因するからだ。 互いの中に半分ずつ、互いの魔力が流れているということで、条件を満たし、合体魔法を使うことが出来る。 ここまでは、彼にとっても既知だ。
しかし今回、イヅナも合体魔法を使うことが出来た。 それは、何を意味するか?
それはーーー
「もしかして俺の中を流れている魔力の性質って、全部フィーナの魔力の性質じゃないか?」
そう、彼なりの根拠を言いながらの弓弦の問い掛けに、フィーナは眼を瞬かせる。
「‘…凄い解釈ね、驚愕だわ…っ’」
「だよな。 だがそう解釈しないと説明が出来ないじゃないか」
「…そうですね!? そうかもしれませんねっ!」
どこか投げやりなフィーナに、今度は弓弦が眼を瞬かせると、間で寝ているイヅナが身動ぎした。
「…マ……ん…」
「はは、イヅナが起きてしまうから静かにしないとな」
微笑みながら優しく彼女の髪を撫でている弓弦に、フィーナも倣う。
「…私達も身体を休めましょうか。 指輪…外します?」
「まさか。 仮眠するだけだから、わざわざ外す必要も無いだろ」
勿論そう答えると分かっていた上で敢えて、訊いてみたが、即答に彼の顔を見つめる。
照れているのか、顔を下に向けた彼の顔は微かに朱が刺している。
コツン。
「〜っ!! いきなりするな、驚くだろうが」
「〜っ!! でも離れないんですね」
額同士を触れ合わせ、息が混じる程に密着した二人は、揃って下に視線を向けて気を落ち着かせながら、魔力の消費による疲れからくる眠気に、そっと意識を預けた。
「ありゃ…本当に、嫌われちゃったなぁ…」
レイアは何度目か分からなくなったその言葉をもう一度呟いた。 艦橋で起きている隊員は未だ彼女のみであり、全員気絶している。
そもそも彼女は気絶していなかったりするのだが、それは置いておく。
「なんとか誤解を解ければ良いけど、あの子は頭固いから難しいか…でも取り敢えず私としては、ユ〜君と夫婦になった感想を訊きたいんだけど。 …多分『契り』を結んだのは気付く前だと思うけど皆にどう説明するのか…きっと、考えてるんだろうね。 幸せそうで良かったけど…出来れば私も側で見守りたい」
あそこまで敵視されると傷付いしまう。
しかし逆鱗に触れてしまったのも事実であり、その怒りの理由も分かっている。 「弓弦の家族への想い」を利用したこと、これに尽きるからだ。 無論事実。 「姉代わりになる」と言って彼に近付いたし、おそらくその切り口からで行かなければ、彼は心を開いてくれなかったから。
頭で分かってても、気が付いたらそうやってしまっていた。 だからやり直したーーー許されざる行為だ。 きっと彼女は、それとは正反対の方法で彼に好意を抱いてもらえたのだから。
そこまで考えてみると、自分の感情が分からなくなってしまうような、深みにはまってしまうような気がした。
「私はユ〜君のことが、好き」
姉として? 女として?
「好きだよ、女として」
きっとフィーナも「女として好き」だと、即答、断言するであろう。
『夢の中の彼女達』は、彼のことを“女として”好きだった。
しかし自分と彼女達は違う存在。 限りなく同じで、限りなく違う存在ーーーだが、確信出来る。
「女として、レイアとして…あの子が好き」
普通に考えれば、彼女の彼に対する好意は、“姉として”の好意の先にあると考える。 でも違う、断言する。
“姉として”の好意の先にではなく、“姉として”の好意の前に“女として”の好意があるのだ。
頼られたい、甘えられたい、愛されたいーーーそれが彼女の本心。 しかしそれに蓋をして“姉として”在ろうと思っているのだ。 勿論、彼から求められたらいつでも、蓋を開けられるようにしっかり準備済みではあるが。
「ん……弓弦…」
「おろ?」
誰かが寝言を呟いた。
レイアが周囲を見回そうとすると、時間を止めるという恐ろしい魔法を発動させてから、ずっと気絶したままだった知影が寝言を呟いているのが見えた。
「…一人に…しないで…っ」
どうもうなされているようだ。
「…捨てないで…嫌だ…」
閉じられた瞼からは、涙が溢れている。
弓弦が当初、眼の前の彼女に似ているからという理由で避けていたことを知っているレイアは、歩み寄ろうとした足を止める。
どうやら弓弦が好き過ぎて仕方無いことは今の状態からでも十分伝わってくるのだが「似てる…?」とレイアが首を捻った直後。
「…許さ…ない…!!」
「っ!!」
殺気を感じた彼女は倒れ伏しているディオの剣を素早く抜き放ち、襲い来た斬撃を受け止める。
「おろ」
しかしその刀身が彼女の短剣とぶつかった瞬間、砕け散ったのに彼女は驚いた。 決してディオの剣が悪かったのではない。 ただ、叩き斬られたのだ。
「女狐は…死ん…じゃえば…!!」
光の無い彼女の瞳に宿っているのは底知れない闇。 殺人マシーンと化した彼女は鋭くレイアの急所を狙い、殺そうとしていた。
動きとしては『アークノア』で戦ったディー・リーシュワには遠く及ばないが、寝惚けているにしては恐ろしい疾さと鋭さだ。
至近距離から放たれた矢を跳躍することで避け、折れた剣を振るうことによる空気の振動で矢の軌道を変える。
彼女に避けられることを見越した上での、風音を狙った矢は勢いを失い、床に乾いた音を立てる。
殺気を向けられたことで気が付いたのか風音を始めとして、艦橋に居る隊員が眼を覚ました。
「……あれ?」
勿論その中には寝惚けていた知影も含まれている。
演技をしている節は見受けられず、本当に今気が付いたようなので、“テレパス”で弓弦に連絡してから、ディオに剣を返した。
「剣折っちゃったから今度新しいのを買ってお詫びするね…ごめん」
「…う、うん安物だから気にしないで…」
値段は安いかもしれないが、あまり大きな収入の無いディオにとっては痛手だ。
「痛た…皆、大丈夫かい? 後弓弦君達は?」
「こっちだ」
扉が開いて入って来た弓弦に、知影が抱き着き少しだけ仰け反る。
「弓弦弓弦弓弦弓弦…おはようのちゅ〜をくださいな♪」
「うん人前だ、自重しような…って知影人をどこ」
頭を撫でようした彼の手を引いて、扉の外へと消えて行く。
暫くすると、
ーーーー!!!!!?!? ん〜っ!? ん〜〜〜っっ!?!?
ーーーちゅぱ…んっ、もっと口を開けてよ、そうそう、綺麗にしてあげるから♡
「…ゆ、弓弦…っ」
「発情しているな。 女と言うものは怖いものだ」
「うん、そうだねー…うわ何してるんだろ…」
「…ゴクリ「止めてくださいまし男共」ぐ、ぐぐ…」
「ありゃ…聞き耳立てるんだね」
ミシミシと音を立てているセイシュウの首が、あらぬ方向に曲がるが、風音とレイア以外の他のメンバーはなんとも耽美な音が聞こえる扉に耳を預けている。
「ユ〜君気持ち良さそう…えへへ♪」
「あらあら…うふふ…っ」
微笑ましそうにその様子を窺っている二人だが、どこか対照的である。
さらに暫くすると、扉がスライドして開いた。
「私の弓弦…ふぇへへ…私だけのぉ…ふ、フフフフフ…あ、涎が垂れちゃってるよぉ…♪」
お姫様抱っこ弓弦の流涎を啜るその、恍惚とした表情に二人を除いて全員がドン引きである。
彼の潤んだ瞳からの涙、上気した表情と荒い呼吸、垂れる流涎は既に事後感満載であり、男二人が合掌した。
「…あ、お気になさらず」
そのまま彼女は階段を降り、下の席の方で何かを再開した。 何を再開したのかは、気不味そうに上に上がって来た一階部分に居た隊員の姿で察してほしい。
「クス、私達も参りましょうか」
「う、うむ…く、加わるのか?」
「えへへ…それはもう、決まってるよユリちゃん」
「そうですね。 クスクス…」
意味深に笑いながら、その代わりに女性陣三人が階段を降りて行くと、意識が戻ったらしいセイシュウが「乱こぐっ!?」とリィルに踏み付けられた。
「これだから男共の煩悩頭は…。 さぁ今後どう行動するのか、考えますわよ」
「それがオススメだな。 行動指針を決めなければ動きようがない」
どうやら下に居るメンバーは放置のようである。
「博士も、起きてくださいまし。 このまま逃げ回るだけではいずれ追い詰められますわ」
「まず隊長を何とかして助けないといけないよね」
端末を立ち上げたリィルの隣にセイシュウが並び、何かしらの操作をすると、映し出されたディスプレイに「今後の予定」と文字が現れ、その下に「隊長の救出」と文字が現れる。
「そうだね、これが最優先事項だ。 あいつの処刑は裁判から三日後、それまでに事を進める必要がある。 そしてその日は今日。 僕達がこうして反旗を翻したこともあるけど、どの道あいつは死刑に持っていかれる」
「実行部隊全員で事に当たる必要があるという訳だな。 さらに言うなら、戦場は最低二つに分かれるか」
トウガの言葉に頷いたセイシュウによって「局地戦」と表示され、さらに戦闘が可能な十一人の隊員の名前が表示させた。
「この際守りは極限まで捨てる。 救出班、陽動班…この二つだね。 勿論どちらも激戦必至だ」
「ですが救出しようにも経路はどのよう…?」
表示されたのは『ティンリエット』という、トウガやディオにとって、覚えのない言葉だ。
だがリィルは信じられないように彼を見る。
「…僕とリィル君、後精鋭数名でここに向かう。 陽動はそれ以外の隊員だ」
「……救出…私も行く」
扉が開いて、506号室で身体を休めていたフィーナとセティが艦橋に入って来た。
リィルが打ち込むとディスプレイの救出班に、セイシュウ、リィル、セティの名前が表示された。
「シェロック大佐が来てくれるのならありがたいね。 後は…「俺が行こうか?」「なら私も」弓弦君以外だね」
戦力的に弓弦は申し分無いだろう、寧ろお釣りさえ来てしまうのだが、知影やフィーナが来てしまうので陽動の戦力が激減してしまう。
つまり弓弦は陽動班に確定となり、弓弦、知影の名前が表示された。
「まぁ、当然そうなるか」
「そういうこと、一緒だからね♪」
嬉しそうに背中から抱き着く彼女に溜息を吐きつつも、フィーナに視線をやる。
「フィー、どうする?」
「ふふ、私はこの子の所に行きます。 風音、あなたはご主人様の方へ」
「畏まりました」
「私は…いや、陽動は派手な方が良いからな、私も陽動だ、うむ」
風音とユリの名前が陽動班に表示される。
「俺とディオルセフも陽動で頼む。 こいつが潜入だと何か「ぐふっ」ヘマをやらかすような気がするからな」
「ひ、酷い…っ」
同じようにトウガとディオも。
「…ありゃ、私も陽動で良いかな」
レイアも陽動班になった。
「よし、じゃあ作戦は二時間後だ。 各自それまで準備兼待機で、二時間後になったら艦艇の転送装置の元まで来てくれ、僕からは以上だけど…弓弦君は何か、隊長代理として言うことないかい?」
殆どセイシュウ達によって話を進められていたのだが、いきなり振られると困るものがある弓弦だ。
と言っても、変なことを言ってもいけないのは承知の上なので、
「大軍勢を相手取ることになる、各自準備を怠らないでくれよ、はい、以上」
一番言わないといけないことは直前に言うべきだと思い、そう簡単に告げて時間まで一時解散となった。
* * *
あれから弓弦はどこかに行ってしまったので、私は彼を探していた。
多分、甲板かなぁと思って向かってみたんだけど……
「‘何か話してる…’」
微かに聞こえる声から弓弦が居るのは分かる…だけど後は誰だろう? フィーナはセティの所に居るし、風音さんもそこに居た。 博士とリィルさんは外に行っちゃったし、ディオ君はトウガさんと話してた。 レイアさんも部屋で物思いに耽ってたから他に弓弦がお話しする相手って……
「‘まさか、告白?’」
でも、だったらそんなヒソヒソとしてないか…むぅ、気になるけど…この扉を開けたら気付かれる、だけと、
「突入しかないよね!」
扉を開け放って甲板に出ると、弓弦がこちらに背を向けて、一人夕焼けを眺めていた。 他には…誰も居ないってことは何か、考え事でもしてたのかな。
何考えてるんかな? もしかして私との未来とか、きゃっ♪
「知影か、どうしんだ?」
「弓弦こそどうしたの? 声が聞こえたような気がしたけど」
さぁ、何を考えてたのかなー? 私のこと、私のこと?
「あぁ、あの三人のことだ」
「三人? あぁ、隊長さん達のこと…だよね?」
なんとなくだけど。
「…ほら、そっち見てみろ」
弓弦が顎でしゃくった方を見ると、博士とリィルさんが話をしているのが見えた。 多分最近のこと色々問い詰めてるんだと思うけど……
「『ティンリエット』って何だろうね。 リィルさんの様子がおかしくなったのって、アレ見てからだよ」
「…三人に関係があることなんだろうな。 ま、必要があれば本人達から教えてくれるだろうし、俺達が気にすることではないだろうな」
「…これは色恋、そう、三角関係! トライアングラー! 君は誰とキスをする!?」
ハリセンだー♡
「…はぁ、くだらないことを言うな」
「私だよね、私、わ・た・し!!」
私は待ってるよ、いつでもOKだよっ!! いつでも、いつでも結ばれる準備が…フフフ!
「はぁ…はしたない顔をするな。 俺もう行くからな」
「あ、待ってよ!!」
訊きたいことがあったのに!!
「ん…何だ?」
あ、今の振り向く動作イケメン(※個人の感想)だよぉっ!!
「セティってハイエルフなの?」
「さぁて、な?」
そう言って弓弦は背を向ける。
「本人に訊いてくれ」
あ、行っちゃった。 うーん…以前フィーナが教えてくれた条件以外にも特別な条件があるのかな…覗きたいけど弓弦の心覗けないし。
タイミングが悪かっただけ?
それとも…やっぱり私が扉を開ける直前まで誰かお話しをしていて、会話内容が私に覗かれないようにその人が覗いてるとか…あり得る。
「私も準備しよっかな!」
武器の確認に、弓弦からもらった矢筒を持ってって、たくさんたくさん……
「人を殺さないとね♪」
だって弓弦に刃向かうんだもの。 生きてる価値、無いよね♡
「フフフ…弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦弓弦」
どうしよう…弓弦への愛が止まらないよぉ…♪
でも殺したら弓弦、怒るかな…?
「…殺らなきゃ殺られるんだから…良いよね…?」
相手がどれだけ居るかなんて想像も出来ないけど、そんなどこかのガン○ムパイロットじゃあるまいし、絶対に殺さないなんて甘い考えじゃこっちが殺られるんだから。
殺ったら倍返しされるんだから、殺られる前に殺る、これに尽きる。
弓弦は殺らせない、私も殺らせない。
だって……
「私を殺して良いのは、弓弦だけなんだからね♪」
ふふふ…ふふふフフ…フフフフフフフッ!!!!
「二人の仲は深まるばかりにゃのにゃ。 これフィーニャの一人勝ちルートに行ったんじゃにゃいのかにゃ? にゃはは、でも前半押してれば押している程後半ににゃって負けてしまうヒロインって居るのにゃ。 もしかしてフィーニャもそう言ったタイプのヒロインにゃのかにゃ?」
「我は負けるとは思わぬがな」
「居たのかにゃ。 それでも贔屓が過ぎるのにゃ。 ヒロイン皆平等にゃ」
「我に云うな。 順序があるのだろう」
「他のヒロインメインでも、フィーニャはバッチリ活躍しているのにゃ。 やっぱり贔屓にゃ」
「我に云うな。 それよりも、予告を云え」
「にゃはは。 『救出劇の幕は上がる。 戦場を駆け抜けるのは、様々な思いと、圧倒たる力。 咆哮轟きし時、乙女は一人、微笑を浮かべるーーー次回、オペレーションデッドキャンセラー』…皆頑張るのにゃー」
「ふむ…出番が無いのか」
「言わにゃいでほしいのにゃ……」