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嫉妬の使者よ立ち上がれ!

 レオンとセイシュウが居ない今、隊長業務を行えるのは弓弦だけになるので、彼は朝から積み上がった書類と向き合っている。

 窓から見える景色は曇りであり、どうにも気分が晴れないし、代わり映えのない景色に若干鬱屈しながら判を押していると、機械がファックスを受信したようだった。


「ん? なんだなんだ……っ!?」


 出て来た紙に眼を通した彼はもう一度、確認のために順に読んでいく。


「『クロウリー・ハーウェル大元帥』が暗殺された。 物騒だな…容疑者は……『レオン・ハーウェル少将』!? なんでまたこんなことに…っ。 で、彼が隊長を務めていた戦艦アークドラグノフの全隊員は監査が終了するまで艦から離れる一切の行動を禁止する……!!」


 この文章を読んで彼が驚いたことは二つあった。

 一つは、話に聞くレオンの祖父が大元帥であったこと。

 もう一つはこの艦に監査が入ること。 監査の日付が書いていないのでいつ来るかは分からないが、このままだと非常に危ない。 何が危ないのかーーー隊員の相室だ。

 確か、倫理面に抵触するらしいので見つかったら余計なことが起こるのは想像に難くない。

 取り敢えず勝手が分かる人物に相談しなければならなく、現在この艦で勝手が分かる人物と言えばあの人、一人だ。

 他の隊員ならば艦内放送を使わなければならないのだが、彼女の場合はたった一言、言うだけでオッケー。


「くっ、こんな時どうすれば良いんだ…誰か説明してくれ……っ」


 渾身の演技の終了と共に開け放たれる扉。


「説明しますわ!」


 説明お姉さん(リィル・フレージュ)の登場だ。


「まずは監査が入る前に知影ちゃんとオープスト大佐、天部中佐の単独部屋を速やかに用意しなければなりませんわ……と言ってもセキュリティに監視されている今の状態ではシステムを経由することなどが難しいですわね。 こんな時に博士が居れば鬼に金棒ですがまだ帰りませんの。 コンピューターに詳しい人が居ればシステムにバレずにハッキングし、隊員の部屋を用意することも可能なはずですわ」


「そうか、なら打って付けが一人居るな。 他には?」


「弓弦君と知影ちゃん、オープスト大佐、天部中佐、アプリコット少尉は一切の戦闘行動禁止ですわ。 何らかの形でボロが出ては思う壺なので」


 隊長室の隣にある通信室からの艦内通信で、実行部隊隊員を全員隊長室に呼び出してから戻ると、隊長室の机に、蓋にデフォルメされたセイシュウがプリントされた、四つの端末が置かれていた。


「隊長はおそらく罠に掛けられた……相手方の狙いはこの部隊を解散させて強力な隊員を自分方に取り込むこと。 最悪実験動物にされるかもしれませんわね」


「それは…笑えないな。 頭ん中掻き回されるなんて俺は勘弁だ」


「…想像が生々しいですわね。 ですが十中八九そうなりますわ」


「だろ? 「どうしたのー?」…っと、来たな」


 案の定一番早く来たのは知影だったが、彼女に続いてゾロゾロと入って来た実行部隊隊員に向かって状況の説明をした。


「…という訳だ。 だから協力してくれ皆」


「…そうだよね。 離れ離れになるのは嫌だから…えーと、ハッキングだよね。 私に任せてよ♪」


「…裏で手を回すなんて…これだから…もぅ」


「まぁまぁ、良いではありませんか。 私は弓弦様と離れたくないですよ?」


「私も、ユ〜君とは離れたくないな」


「……頭の中を掻き回されるのは駄目…私はまだ…オモイデニサヨナラしたくない…ッ」


「これまで何度も隊長には助けられてきたから、恩返しをする良い機会だね」


「……。 だな、お得意様を見捨てるとなっちゃ名折れだ、喜んで協力させてもらう」


「うむ、話は纏まったな」


 知影、フィーナ、風音、レイア、セティ、ディオ、トウガ、ユリの言葉にリィルは頷く。


「そうですわね、まずは普通の部隊として違和感が無いように502、506号室の模様替えをしてくださいまし!」


 その言葉で知影とリィルを残して全員が模様替えに向かったので、二人はそれぞれ椅子に座って端末を起動する。

 簡素な画面の中にあるアイコンをクリックするとタスクが開かれていき、プログラムの起動画面になる。


「……速い」


「プログラムの立ち上がりが速い…!? まさか博士は既にこのことを予期して…!!」


 プログラミングは全て、終わっていた。 後は同時に、ボタン一つを押すだけで全ての作業が完了するので、彼女達は博士の用意の周到さに舌を巻いた。

 だが用意してあったということは、その当人もまた何らかの事情により、動けない状態にあるということだ。

 数日前からフラリと消えてしまった彼の行方は分からないが、彼はレオンに暗殺疑惑がかけられることを予期していたのは間違い無く、その点については疑惑の念を抱いてしまうのだが、遺されたデータを起動して、ハッキング作業は一瞬にして終了した。


「これで終わりみたい…ですね」


「そうですわね。 私達も手伝いに行きますわよ」


「はーい」


 レオンと同級生であるリィルやセイシュウは当然、暗殺されたというクロウリーに面識がある。

 二人の元帥に警護されているだけでなく、本人の実力も相当であり、彼からすればレオンやセイシュウなど、束になって襲い掛かったとしても赤子の手を捻るようなものだろう。

 彼女は気になっていたのだ、元帥の警護を掻い潜り、彼を殺せるだけの実力者とは一体何者かと……

 可能性があるとするのならば、この部隊の隊員全員が全力で挑めば、だ。 そこまでしなければ彼を殺すことなど夢のまた夢なのだ。

 手を下したのは間違い無く、革新派の人間だ。 クロウリー主導の保守派と拮抗する現状を打開しようとしたと考えるのが自然な流れだ。


「要するに保守派とは、今の組織の在り方そのものである、“全ての異世界の防衛”を行動理念とする派閥のことですわ。 対して革新派とはその反対、“一つの異世界のみを防衛”を主な行動理念として他の異世界は見捨てる利己的な考えの派閥ですわ」


 部屋の移動を終えてから、隊長室に戻った実行部隊の面々に、リィルは現状の説明をしていた。


「以前レオンが言っていた『一部の組織内で権力を持つ人間』とは、その革新派の連中なんだな」


「間違い無いですわ。 指導者と後継者を同時に潰して組織を掌握しようとしている魂胆が見え見えですわね」


「となると確実に隊長さんは、証拠をでっち上げられて有罪判決になっちゃうんだよね。 ここまで大胆な行動に出たってことは手回しも完璧で逃げ場も無い、詰み将棋状態ってこと…かな?」


「そんなところね。 そして私達の行動を封じる手回しも出来ていて、仮に私とご主人様の情報が漏れているのなら、ハイエルフ狩りの良い餌食よ……」


 二つの感情に身を震わせるフィーナの手が弓弦の手とセティの手を握る。 彼女にとってその言葉は忌まわしいものであり、激情の対象なのだ。


魔力マナ抽出機関…人間にとって私達ハイエルフは最高の研究動物だものね…っ!」


「うむ…革新派が戦力の摂取を目的としているのなら、この部隊は正に、お宝部隊ということだな。 本部が向こうの手に落ちているのなら、命令系統も思いのままだ。 部隊を抑えるために、息のかかった代わりの隊長を遣わしてきたら問答無用で従わなければならないのだろうな」


「命令に従わなければ軍規違反で即お縄…溜まったものじゃないな、それは」


 ユリの言葉をトウガが纏めて重い空気が流れ、知影の言う通り詰み将棋状態だった。


「…まぁ良い。 各自自室で待機していてくれ。 対策はこっちで練っておく」


「そっか…‘頑張ってね、ユ〜君’」


「…了解だ。 また何かあれば呼んでくれ…行くぞディオルセフ」


「え…あ、うん。 僕達で良かったら知恵を貸すから…じゃ」


 レイアとトウガとディオが部屋を去った。


「ほら、知影達も今は」


「…コク」


「…失礼致します。 ‘約束は守って下さいね’」


「…‘ずっと、一緒ですよ?’」


 風音とセティとフィーナがそれに続く。 女性二人の耳打ちに胸の高鳴りを覚えつつも、了承の証としてその頭を撫でると後ろから刺すような視線を感じた。


「私ここに居る」 


「大丈夫だから休んでいてくれ。 我儘わがまま言うな…な?」


「…ぁっ、う…ズルいよ弓弦…キスされたら逆らえないじゃん…〜っ」


 「弓弦の馬鹿ぁ…っ」と捨て台詞を残して出ようとして、戻りもう一度彼の唇を堪能すると、走って出て行った知影に苦笑しているリィルに促されて、話の続きをするために椅子に座る。


「セイシュウが何をしているのかが気になるな。 プログラムを用意していたんだ、今も何か目的があって動いていると信じたいが…居ない以上は当てに出来ない。 いや寧ろ…ヤバくないか?」


 実は命令書の内容に再度眼を通して、弓弦は疑問に思ったことがあった。 下手に不安感を煽らせないためにも伏せていたのだ。


「今のセイシュウって、命令書違反になったりしないだろうな? 向こうが、そこまで踏んだ上でこの命令書を寄越したとしたら…!!」


「…っ、も、盲点でしたわ。 でも待ってくださいまし、それは、それでは…」


「あぁ…疑っている。 何か思い当たることはないか? 例えばセイシュウが居なくなる前に、何かしていたとか」


「待ってくださいまし! 幾ら博士でもそれは…!!」


「『ゼロじゃなければそれだけで、思考する価値がある』」


「…っ」


 それは、昔から変わらない彼の口癖であった。

 そうじゃないと信じたい。 だがそうじゃないと信じれない要素がある。 もし弓弦とセイシュウの立場が逆だったとしても、同じことを彼女の耳は聞いたであろう。


「何でも良いんだ、どんな細かいことでも、変わったことなら」


 居なくなる前のセイシュウの行動、特に変わったということでもないが、一つだけ無いこともない。 だがそれが結び付くのかどうかーーー


「あ」


「あ?」


「アダルトサイトを…良く見ていましたわ…」


「アダルトサイトぉっ!?」


 驚きのあまり声が裏返らせてしまったが、咳払いと共に端末を立ち上げる。


「貸してくださいまし」


 椅子を動かしてリィルに場所を譲ると、何やらブツブツと呟きながらキーボードの上で指を踊らせる。


「ほんとに最近のあの人ときたらわたくしという存在がありながらこんなサイトを見るし糖分控えないし言うこと訊かないしそのクセ夜はフラフラフラフラ出歩いて、酔って帰って来たかと思ったらやっぱり変なサイトを見ますし、あの人最小限の音で聴いてるみたいですけど周り静かだから、聞こえたくないものが耳に入って悶々しますし夜更かしさせられますしそんな時にこれ見よがしに菓子の袋を開け出すものだから反射的に出て行きそうになって見たくないものを見せられますし酷い時は机の上に捨て忘れた…ご、ゴミを…ぁぁぁぁぁっ、もうッ! 許せませんわ、許っせませんわぁッ!!!!」


 何やらヒートアップしているようだが口を挟むのもどうかもと思うので、次々と開かれていく肌色が圧倒的に多いサイトを見ていく。


『ユ〜ル、見たら駄目なの』


 視界に入ってくる情報を見咎めてか、シテロの怒った声が弓弦の頭に響いた。


「‘い、いや見てない、見てないぞ’」


『見てるの、分かるの、私というものがありながらー、なの』


 リィルの真似言葉と誰かさんのような三段換言にクスリとさせられながらも、ちゃんと否定する。


『にゃはは、隠す必要はにゃいにゃ。 弓弦が見ているものを僕達も見ているのだから分かっているのにゃ』


「‘だから俺は見ていない…っ’」


『見るのなら…恥ずかしいけど私のを見るの。 今そっちに「‘来なくて良いっ!’」むーっ」


 心を無にして画面を見ていると、突然リィルの手が止まる。


「違いますわ、これは…フェイク?」


「…どうしたんだ?」


 カチャカチャカチャカチャッッ!!


「このジャンルは博士が一番嫌いなジャンルだったはずですわ…つまりアダルトサイトはカモフラージュ…なら本命は…本命はまさか…そうですの…そうだったのですの?」



 よく分からない違和感だが、ビーッ!!という音と共にエラー画面が表示された。


「これ…プロテクトか?」


「その通りですわ。 っ!? 流石は博士ですわね…っ!! なっ」


 同時に120と表示されたタイマーに、悪態を吐きながらキーボードを叩く。

 上から下へとスクローズしていく緑の文字を打っているようであり、どうやらそれが解除プログラムのコードのようだ。


「っ…間に合いませんわ…『動きは風の如く、加速する』…“クイック”? ありがとうございますわ!!」


 タイマーはデータ削除までの残り時間であり、間に合わなければ手掛かりとなるデータは手に入らないーーー何を思ってセイシュウがこのようなプロテクトを施したのは分からないが、“クイック”による倍速状態により、彼女は半分の時間を残して全て打ち終える。


「っ、これで一つ!!」


 エンターキーが強く押されると画面が逆にスクロールする。 するとタイマーはそのまま、再び彼女の指は高速で動き始める。


「これは…っ、ブチ切れましたわあの甘党ぉッ!! こんな鬼畜プロテクト正気ですのぉッ!!」


「何重だ!?」


「六重ですわぁッ!!」


「なんだってッ!? く…っ」


 弓弦も急いで端末を三つ立ち上げるがこれでは確実に間に合わない。 残り時間は四十秒だが、彼は精々ブラインドタッチが出来る程度、リィルの速度には到底及ばず歯噛みする。


「二つッ!!」


 残り時間三十秒。


『間に合わにゃいにゃ!!」


「っ、それを何とかするんだよッ!!」


 十五秒。


「鬼畜ですわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 残りプロテクトは三つ。 


「…次だッ!!」


 二つ。 残り十秒。


「「…ッ!!」」


 五。


「どうすれば…っ!!」


 四。


「後!!」「半分いってませんわッ!!」


 三。


「南無三ーーーッ!!」


 二。


『変わって弓弦!!』


 一ッ!?


「弓弦君っ!?」













* * *


「はぁぁ……」


 端末に表示された「解除成功」の文字を見つめて思わず溜息が出た。 残り時間はゼロコンマ下五桁の一秒。 本当の意味でギリギリ間に合ったんだな……


「博士をも凌ぐ速度…弓弦君あなた凄いですわ…っ」


「いや、やったのは俺じゃなくて…私だよ」


「私?」


 相変わらずの天才振り…流石だな。


『ふふふっ♪ またこうして一つになれるなんて、愛の力だね♪』


 愛の力かどうかは分からないが、助かったのは事実。 その点については感謝しないといけないな…。

 しかしまさか、すんでのところで魔法が発動するとは思わなかった。 だが何故に…?


「私って…知影ちゃん?」


「うん。 またまた弓弦と一つになっちゃいました……どうでも良いから離れるぞ。 えーっ!? 嫌だよ!! 駄目だ、戻るぞ。 いーやーだっ!! 駄目だ、嫌だ。 駄目だっ! 嫌っ!!」


 っ、参ったな……戻れなくなりそうだ。 今はそれどころじゃないってのに…どうしてこうなった。


「私は弓弦と一緒が良いの。 この幸せな時間、幸せな感覚を手放したくないな。 そう言われてもな、色々と困るんだけど。 困るってなんのこと? 私に知られて困ることってあるの? 広義的になるんだが? 一つ一つ言ってみようよ。 断る。 その断るを、断る。 その断るを断るを、断る。 その断るを断るを断るを、断る。 リィル、知影の身体って舐めると美味しいんだぜって何を言わせてるんだっ!!」


『キャーッ!! 弓弦のスケベ、変態♪ 私弓弦に食べられちゃうっ、キャーッ♪』


 っ、こいつ…人で遊ぶとは良い度胸だ。 リィル頰が引きつってるし…はぁ。


「‘相思相愛なんてズルいですわ、わたくしなんかずっと片思いですのに’…隠そうとしていたファイルはコレですわね…っ!!」


『開くのに時間がかかったね…まだプロテクトあったんだ』


 まだあったのか…一体何をそこまでして隠そうとしていたんだ?

 クリックすると開かれていくページ。 読み込み中を意味するバーが表示されてそれが左から右に伸びていっている。 これが状況打開のいとぐちになってくれれば良いんだが……


「……」


 ……?


『…亀の甲より年の功かな、セイシュウさんって凄いね』


「…どうかしたか?」


 知影が意味深なことを言うし『意味深な女…良い響きだよね』…リィルが突然身体を震わせ始めたからどうしたのかと訊くと、


「あんの甘党セイシュウッッ!! コンチクショウですわぁッ、コンチクショぉぉぉですわぁぁぁぁぁぁッ!!」


「な、なんだっ!? 貸して!!」


 突然悲鳴のような悪態を、叫びながら命令書に言葉を書き殴り始めたかと思うと、身体の主導権を知影に奪われた。


「知影ちゃん、分かりますの!?」


 画面に打ち込まれた数字は「3157903401」

 十桁の数字を見てリィルが息を呑んだが、今一つ分からない。


「覚えているんですよ、だってキリが良いじゃないですか…何の数字だ? 円周率だよ」


 円周率と言えば3.14から始まるあの頭痛くなるようなやつだよな…アレか? 何桁目の数字を入力しろってやつだったりするのか?


『うん、円周率の桁数を十ずつ区切って、九十九万九千九百十番目の数の次に九十九万九千九百二十番目の数、その次に九十九万九千九百三十番目っていう感じで、百万番目の数字まで入力しろっていう暗号だよ。 褒めて褒めて♪』


 偉い偉い…はぁ。


『どうしたの? これでヤンデレじゃなければ…って感じの溜息だけど』


 分かっているのなら訊くないでほしいし、早く出て行ってほしい。

 ん…? リィルが固まっている……


「何かあったのか」


 彼女は眼を見開いて、信じられないものをみてしまったかのように固まっている。


「…蘇生魔法? 蘇生魔法なんてものがあるのか。 地図があるってことは多分魔法が封印されている場所……かな。 …だな」


 …人の口で喋るのは、側から見ると俺が二重人格者に見えるから止めてほしい…ってあながち間違っていないのが悔しいところだが。


「蘇生魔法ってことは誰かを生き返らせようとしていた…ってことになるが…?」


 疑問系になってしまったのはリィルが、立ち上がり扉に手を掛けたからだ。


「…この話はもう止めですわ。 わたくしは部屋に帰らせてもらいますわ」


「……分かった」


『良いの?』


 考える時間が必要なんだ。 今はそっとしておいた方が良い。


『鬼が出るか蛇が出るかだね』


「そういうことだ、取り敢えず知影、お前は出ろ」


『やーだ』


「子どもかお前は、ちゃんと言うこと訊いてくれよ」


 あまり構ってやれなかった俺が悪いとは思うが、困る。

 どうせ彼女は、あわよくば離れ離れになりそうになってもこうしていれば大丈夫なのだろうと、思っているのだろうな…はぁ、つくづく似て非なるタイプだと断言出来るな。 誰とは言わないが。


『誰のこと?』


 ま、なるようになることを願って部屋に戻るか……と言いたいが、業務があったか。 端末をそのままにする訳にもいかないし、別の机に置いとくか。


『ねぇ誰のこと?』


「さて、労働労働っと」


 こんなことになっている不幸中の幸いか、処理しなければならない書類は少なく、それだけが救いだ。 本当に、それだけが……


『サボっちゃえば良いと思うけどな…お話ししようよ』


「やりながらでも話は出来るだろ? 物事はスマートに、コンパクトにだ。 要領良くやっていかないと時間の無駄だしな」


『えぇーっ!? じゃあ私と話すのが時間の無駄に繋がるって言うの、そうなの!?』


 いや、そうだと断言出来てしまうんだが……それは言わない方が良いか。 世の中には知らない方が良いって話もあるし。


『聞こえてるよー、バッチリ聞こえてるよ弓弦さーん』


「さて、なんのことだか…ぺったんこっと」


 しかしこれからどうしたものか…向こうが何らかのアクションを起こすことは分かるんだがそれが何か…分からない。

 レオンがどれぐらいの罪に問われるのかも分からないが、組織のリーダーを手にかけているのだから、それ相応の罪に問われる……殺されるのだろうか? …いや、確実に殺されるな。


『うん、だからその前に私達が助けるしかないよ』


「そうしたいのは山々なんだがな…はぁ、軍人って面倒だ」


『裏切り者になるのはマズイかな。 フリーでいける程世の中は甘くないしね』


「そうだな…組織を掌握しているってことは相手の規模も大きい。 包囲されて、艦ごとドカンだな。 …だが、知影と一緒ならジャックになるのも悪くないかもな…って、何を言わせるんだ!!」


『そんな一人ツッコミしても誤魔化せないよ弓弦、あ、因みに私はローズかな♪』


 心中する気満々だなこいつ……


『何度生まれ変わっても私と弓弦は出逢う。 出逢って、恋に落ちて、愛し合って、お爺ちゃんお婆ちゃんになって、死んで、また来世で出逢う……そんな運命の赤い糸で結ばれてるから心中しても大丈夫だよ♪』


 生まれ変わり…か。 決められた恋ってのもどこかつまらないような気がするが…はぁ。


『赤い糸、だよ』


「はいはい…終わりっと」


 業務終了。 ま、後は明日は明日の風が吹くことを願って…寝るか。


『今夜は寝かさない♪』


 寝かせろ…ったく。

「ふむ……」


「キシャ」


「そうだな。 だが要素があるとて、然程問題は無いはずだ」


「シャキ、キシャ」


「仕方無かろう。 我等だけだ」


「キシャァ………」


「……やはり、醜いな。 しかし光は翳らぬ」


「キシャッ!」


「……好きにするが良い。 我は悪魔だ。 あくまで気紛れよ」


「キシャ……キシャ。 『キシャシャシャシャ、シャ、キシャシャシャシャ!! キシャキシャキシキシ、キッシ、キッシ、キシャシャシャシャキキキキシャア!!!! シャシャーーーキシャ、キシシシキシ(科学的で空想的)』…キシャ!!」


「……ふむ、さて、蜜柑を食すとしよう」


シャシャァ(ツッコミは)ッ!?」

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