夏休み短編 “◯◯ッ!? ◯だらけの水平線”
青〜い海。
白〜い砂浜。
眩しい日差しが差し込むその場所で俺こと橘 弓弦は、悟った眼差しでなんとも言えない光景を眺めつつ、手紙を書いていた。
『拝啓、姉さん達へ。
猛暑が続く毎日ではありますが、元気にしていますか。
とある場所に居る僕は、凄まじく暑い思いをしています。
この暑さを超える場所は異世界広しと言えども、修造さんが居る場所と、ここぐらいなものだと思う。
多分ここまで読んだら、もう分かるかな。
そう、僕は浜辺に居るんだ』
「あはははは! あはははは! ほーらレオン、捕まえてみろよ!!」
「おいおい、お前さんが俺に体力で勝てるのか〜? 待てセイシュウ〜!」
「おしディオルセフ! 岸まで泳いで競争だ、付いて来い!!」
「了解、負けないよトウガ!」
『……男だらけの浜辺にね。 わーい』
「ノーノー、ロダン。 僕はレディが一杯のビーチに行きたかったよ」
「分かるが、愚痴るなヤハク。 この場に出られただけでも感謝すべきだ」
「イエス、でも…レディカモーン!」
「…一生やっておけ」
「ほらロイ、パース」
「任せろキール! スパァァイクッ!!」
「任せたぞ!」
「あぁ」
『誰が居るのか分からないだろうから、名前を書いてくね。
八嵩 セイシュウ
レオン・ハーウェル
トウガ・オルグレン
ディオルセフ・ウェン・ルクセント
ヤハク・レンブラント
ロダン・クウォルダム
キール・ジャンソン
ロイ・シュトゥルワーヌ
メライ・ソーン
カザイ・アルスィー
以上。 僕を入れて十一人だよ。
本編メインキャラからサブキャラまで、味方として行動を共にした面々はオールキャスト状態。
まったく誰得過ぎる状況が広がっています。
誰でもこれは、女っ気が欲しいと思うよね。 僕でさえそう思うよ。 正直今日一日で女日照りに陥りそうだ』
「…にゃはは、誰に向けて書いているのにゃ?」
「ん、姉さん達だ。 何故か書きたい気持ちになったんだよ」
「ふむ…海に冷凍蜜柑もまた、乙なものよ」
「ハリセンが…俺の…ハリセンが…」
『因みに僕の中に住んでいる悪魔達も、僕の姿を借りてそれぞれ顕現しているんだ。
だから今、木陰に立てられたテントの中には、様々な姿の僕が居るんだよ。 もうおかし過ぎる光景ばかりだよ。
あ、そんなに僕が居たら姉さん達が取り合いをすることもないかもね、はは。
でもね、一つだけ我儘を言っても良いかな』
「「女の子…」」
うわ、ヤハクと被った。
だが普通、思うだろ? あれだけの美少女陣が居て、誰一人としてこの場に居ないって、明らかにおかしい。
…誰でも良い。 取り敢えずこのむさ苦しい空気を緩和してくれる麗しき水着美少女が現れてくれるのなら十分であり、男…野郎の裸はもう沢山だ。
「なぁクロ。 皆どこに行ったんだ? どうしてここは男だらけなんだ!?」
「これはアレにゃ。 多分弓弦が望んだからこうにゃったのにゃ」
嘘だろ…俺がこんなのを望んだというのか。 こんな男だらけの光景を!? 冗談じゃない!!
「なら貴様が女になれば良かろう。 以前の様に姉の姿に変身出来れば清涼剤として十分足り得ると我は思考するが」
「いやいやいや。 俺本気で身の危険を感じているからそういうのは抜きにしたいんだ」
「ふむ。 つまり貞操は選んだ相手に捧げたいと、そう云うことだな?」
「にゃはは。 既にゃ「ハリセェェェェェェンッッ!! ホォォォォォォムランッッッ!!!!!!」にゃぁぁあぁあぁああああっっっ!!」
『そうそう今日のクロは良く飛ぶよ。
多分それだけ僕の怒りが凄いってことだよね』
「死ぬにゃ!?」
「お、早いお帰りで」
「にゃぁ……そんにゃん、弓弦が寝ている間に知影が寝惚けて『黙れ』…!!!! っ、っ、っ!!」
バアゼルが“サイレント”と言う、相手の口を魔力で塞ぐ支配属性初級魔法を使ったからクロの口が塞がった。
『でもたまには良いかなって思っている僕も居るんだよ。 まぁ折角海に居るんだから遊ばないとね』
「バアゼル、冷凍蜜柑余ってるか?」
放り投げられた冷凍蜜柑を掴んでそのまま齧り付く。 口に広がる冷たい酸味が最高に美味い。 シャーベットみたいだがこの口から徐々に身体が冷えていくようなこの感覚…あぁ、夏だよ。
「はぁ…キンッキンッに冷えたビールが飲みたいな…」
どこかに海の家とか無いのか…?
「…あった。 誰か飲み物か食べ物要るか?」
『にゃ。 じゃあ焼きそばにゃ』と砂に文字が…食えるのか。
「ロダンとヤハクはどうする?」
「あーイエス。 じゃあ悪いけど僕とこいつの分頼むよ」
「すまんな真相」
「ま、たまには良いさ。 二人は?」
バアゼルとアデウスから返事は無い。 どうやら必要無いみたいだな。
「じゃ、行ってくる」
男らしくないとは思うが、余り焼けるのも嫌なので上着を着用して行くので少々暑く感じる。
温度調節のために“シュッツエア”を使わない理由はまぁ、分かるよな。 夏はこの暑さを楽しまないといけないんだから。
ま、色々と程々が一番だ。
「いらっしゃいやせぇ!」
おっと、ここにも居たか。
「…『クメール商会』ってのはこんな所でも市場を広げているんだな」
『凄い偶然だよ姉さん達。
浜辺の海の家は顔見知りの人が営んでいたよ。 イェルフス・クメールっていう人で、社長なんだ。 なんでこんな…男ばかり…』
「おうともよ! あっしの感が、ここで商売をしろと言ったんでさぁ!」
「そいつはまた、凄い感だな。 まぁ良い。 ビール三本と、焼きそばを頼む」
「アイアイサーっと! 代金頂戴しやす!」
代金を支払って食物を受け取る。
ソースの香ばしい香りが俺の腹の虫を刺激したがま、クロのやつだし、帰ってからあいつらのご飯を平らげないといけないからな。 余裕を残す必要はある。
どうせ後々悪魔達が戻った時に、食べた物も俺の胃袋に換算されてしまうんだから、実際に味わえないのに胃袋だけが膨らむというのは虚しいものがある。
だからと言って、折角作ってもらった手料理を残してしまう理由にはならない。
だって俺が綺麗に料理を平らげて手を合わせた時、凄い嬉しそうな顔をするんだ、皆。
作っている時の楽しそうな顔、美味しい料理、そして食べ終えた時の嬉しそうな顔。 一度で三度美味しい幸せな時間なんだよ食事って。 一つでも欠けたら悲しい、一日の楽しみの一つだ。
だからそれを自分から欠けさせるなんてことはしたくないんだな、これが。
勿論それ以外の楽しみもある訳なんだが……
「バッドだよ! 何だその羨ましいエブリデイは!! 取っ替え引っ替えじゃないかぁっ!!」
「…っく、羨ましい話だな、けしからん」
暫くして悪魔達は俺の中に還ったので、男だらけの酒盛りが開かれた。
「あいつらが可愛過ぎるのが悪いんだ。 分かるだろこの気持ち?「「全然わからないな(ね)」」そうか。 だがなんかさ、あいつらには輝いていてほしいんだ、俺は。 いつも笑っていてほしいんだよ俺は…はは」
『うんでも、楽しいかな。
あ〜姉ちゃん、み〜姉ちゃん、ゆ〜姉ちゃん、木乃ちゃん、僕は皆のこと、弟や兄として大好きだからね♡ だけど近親相姦は駄目なので、浮気は許してください。
じゃあね、また気が向いたら送るよ、バイバイ』
『…女の子が居にゃいから、羽目を外して酔い始めてきてるのにゃ』
願いを魔力と共に込めて、以前フィー達の世界に跳ばされた際に吸収した“ランダムテレポート”と言う魔法を使って手紙の入った便箋をどこかに跳ばす。
届くと良いが…いや、きっと届くな、うん。
「ノーノー、そうやって口説き落としてきたんだ。 天性のものだよ羨ましいっ!!」
「…ん?」
「良いよどうせ、ビコーズ、この僕にはロダンが居るんだから!!」
もう結構飲んだな。
良い気分になってきた。
「お〜、やってんな〜!」
「良いね! よし皆で、グイッと行こうよ! はい全員酒持って集合!!」
セイシュウの号令に男共がテントに集まって来たので、悪魔達は俺の中に退避したようだ。
本気で暑苦しい……灼熱の太陽がテントを貫いて、直接照らし付けてくるみたいだ。
「乾杯ーっ!!」
『乾杯ーっ!!』
そして開かれる、酒祭り。
海というオープンな空間で解放された男達の心は実に赤裸々。 まぁ普段は話さない下世話な話も沢山出る訳だ。
下世話、つまり女性。 女性との交遊に関する話だな。
どんな女性と、こうこうこう言う風に何をしたとか…アレだ、あまり知影達女性陣には聞かれたくない話だ。
「えぇと…あはは…僕未成年だしお酒飲めないんだけど…」
「つべこべ言わずに酒を煽れ! まだまだあるぞ!! 今日は大盤振る舞いだ!!」
「はっはー! まさかここにも同業者が居るたぁ、思いやせんでした! あっしも大盤振る舞いでさぁっ! 飲め飲めっ!!」
「……」
お酒が飲めない、または苦手なディオとカザイは商売人二人に押されている。 おっと、カザイが視線で助けを求めるとは珍しいな。 「諦めろ」の意味を込めて首を振ると、瞳に動揺の色が見えたような気がした。
ディオは兎も角、カザイの泥酔姿は興味がある。 早く出来上がらないものか。
「橘隊長、飲んでるか?」
「あぁ、そう言うソーン少佐こそ飲んでるか?」
「二本だ」
「俺は五本だ」
もっと飲んでるが、空けたビール瓶は五本で間違い無い。
ジャンソン中尉は…潰れてるな、情けない。
「隊長、男ロイ・シュトゥルワーヌ! 一発芸やりますッ!!」
「よしやれ! シュトゥルワーヌ中尉!!」
「ハッ! 行くぜッ!!」
シュトゥルワーヌ中尉がハンドボウガンを装着して空に矢を放つ。
数多の矢が青空に吸い込まれたかと思うと放物線を描き、落下を始める。
落下した矢は、砂浜に吸い込まれ、直立する。 座って見ていたんだがどうも、何かの文字に見えたので立ち上がって見てみたのと、シュトゥルワーヌ中尉が息を大きく吸い込んだのは同じタイミングだ。
「待てロイ…それは俺も乗った」
「は?」
何に乗ったのか。
ソーン少佐が“ストーンフォール”を使って矢が並ぶ場所よりも海寄りに、家ぐらいの大きさの岩を落とした。
シュトゥルワーヌ中尉もそれで何かを察したのか、二人頷き合うとその岩を砕いていく。
一瞬の出来事か。 完成した石像を見つめて他のメンバーが感嘆の息を零している中、俺は自分の眼が飛び出しているような感覚になった。
ーーーな ん だ こ れ は。
「「楓さぁぁぁぁん! 好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」」
石は、見事としか形容出来ない程にそっくりな、玄弓 楓の石像に彫られていた。
さらに追い討ちを掛けるように、立ち上がったことにより見えた矢は、「楓さんLOVE」という文字になっており、俺は思わず「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁっ!?!?」と叫びそうになってしまった。
『にゃはははははは!! にゃぁっははははははははっ!!!! 傑作にゃ、これは凄いにゃっ!!!!』
『キシャァァッ!! キシャキシャキシャッッ!!!!』
普通に考えてみれば、酔った勢いで自分が惚れている美女の石像を製作してそれに、愛の告白をしている様子なのだが、アデウスの言う通りこれは、最高のツッコミ所だ。
何を隠そう『玄弓 楓』とは、『天部 風音』と言う女性と俺が、一人の人間に合体した姿であるからだ。
これを俺達は『同化』と呼んでいて、メカニズム的にはその女性を俺が、魔法で吸収していることになり紆余曲折あって以前とある任務で俺は、その楓としての姿であの二人や、今潰れているジャンソン中尉と、ここには居ない女性隊員と一緒に行動したことがある。
予想するに、あれから色々拗らせてしまったのだろう。 なんでこうなった。
『……フ』
…バアゼル…お前もか、お前も笑うのかぁぁぁ……はぁ。
「どうだ隊長! 頭の中にファイリングした楓さんの映像を元に製作してみたぜ、見事なもんだろ!」
「ははは…ソーン少佐」
「……自分と向き合った結果だ」
そう、メライ・ソーン少佐とキール・ジャンソン中尉はそのことを知っている。 だからソーン少佐は、楓が俺であると知っていてあの暴挙とも取れる行動に及んだんだ。
ホモしか居ないのかここは!? やってられない…はぁ。
「ん、ん、ん…ぷはぁ…っ!!」
「よーし、二人でやるぞディオルセフ!!」
「え〜何ひってるひゃわひゃらな〜いよ♪」
お前が何を言っているのか分からない件について俺は今問いたい。
「わ〜高いよ〜!」
トウガがディオを持ち上げた時点でもう読めた。 …さらば。
「ディオ・フィナーレッ!!!!」
滑るように投げられたディオの身体が飛沫を上げて海面を跳ねる跳ねる!! 凄いぞ、どこまで行くんだ!?
「どうだ!!」
『おー!』
パチパチパチパチ。
ディオよ…さらば。
「俺もやるぞ〜!! あ、ひょっとこ〜らひょっとこ〜ら!!」
レオンは泥鰌掬いを披露する。
「それそーれ!!」
ペンペンペンペンペンペンペンペンとセイシュウが三味線を披露する。 おぉ、中々上手い! ビールも美味いっ!!
「ロダン、そこの料理を使って三分クッキングだ!! オリジナルレシピで頼むよ!!」
「全部使ってくだせぇ! 大盤振る舞いでさぁっ!!」
「あぁやってやるッ!!」
ヤハクに指示されたロダンは、イェルフスが用意してくれた材料を使って調理を始めた。
…それよりもビールだビール!! 男に告白されるなんてもう、やってられん!!
「……」
カザイはジャンソン中尉の隣で瞑目している。 酒は進んでいないようだから…潰れたな。
「旦那ァ、良い飲みっぷりだなぁ!!」
「ははっ、もっと褒めろ!」
良い気分だ。 今なら何でも出来そうな気がしてくる。
「フィニッシュだね! じゃあ食べようよ!」
「つまみを意識して調理した。 真祖、試食頼む」
三分で一から、どうやって作ったのか分からないが、頷いて鳥や馬の刺身を食べ、親指を立てる。
「最高だ」
「当然だ」
美味い、美味い! どうやったらこの場所で作れるんだ!? 尊敬ものだぞこれ!!
「じゃあラストは真祖だ! 最高の一発ネタをお願いするよ!!」
「任せろ!!」
何をしようか?
俺が出来て、全員を驚かせるネタ……
…。
……。
………思い付いた!
「よし、今から声物真似をするから誰の声真似か当ててみろ!!」
いつの間にか背後に置かれている試着室の中に入ると、外から拍手が聞こえたのでテンションが上がってくる。
さて、最初は誰の声真似をするか……
「よし、ここは無難に…『真なる幻、其は理を捻じ曲げ我が身を化せん』‘あー、あー…よし♪’ じゃあ最初に、私が誰か分かるかな?」
外から驚く気配が伝わる。
まぁ当然だけど……さぁ! 私の名前を言ってみろぉってね♪
「え〜と、知影…ちゃん?」
隊長さんが答えてくれたから、扉を開けて答え合わ…せだ。
「正解」
説明しよう!
橘 弓弦は“エヒトハルツィナツィオン”という魔法を用いて姿を変えることが出来るのだ!
つまり彼はこの魔法を使って自らの姿を、彼への重い愛故に嫉妬の炎に身を焦がす少女、『神ヶ崎 知影』にその姿を変身させたのだッ!!
『おぉ…』
しかも声だけでなく、身体のあらゆる面に至るまで完璧に変身したのだ! 驚くのも無理は無いッ!!
『つまり彼女の身体を隅々まで知らないと出来ない芸当…にゃ? 支配の王』
『支配の王者』とはバアゼルの二つ名であり、クロは謎の発言をしようとしたため、バアゼルにお灸を据えられたようだ。
「よ〜し! じゃあ次いってみよ〜!」
……しかしそれが、事件の引き鉄となった。
俺は、声やら物真似を全力でしながら、男性陣を楽しませていったんだ。
だが丁度、四人目。
『ユリ・ステルラ・クアシエトール』の物真似のクイズを終えたところで、誰かが言ったのだ。
「今俺達の眼の前に居るのは実は、物真似ではなく本当に女なのかもしれない」…と。
「む!? わ、私はユリの真似をしている橘 弓弦だぞ!? お、女である訳ないではないか!!」
もっと早くに気付くべきだったのだ。
海によって女日照りの状況に陥っていたのは私だけではない…俺だけではなく、他の男性陣も陥っていたのだという重大な問題に。
眼が怖い…ヤバい、襲われたりしないよな? そりゃあ下手な女装とはまるで違い、俺の身体は女性になっているが…実際に男を受け入れることも出来るだろうが…!?
『キラッ☆』
い、今光ったぞ!?
だ、誰か…この超時空ホモデレラ=サンタチを…あ、アイエエエ! ホモデレラ!? ホモデレラナンデ!?
『ーーー!!!!』
だ、駄目だ! ユリの姿になっている所為か怖いもので身体が竦む…っ!!
…あ、いかん、襲い掛かってきた。
これは…掘られる。
身体に男を教えられる…ッ!?
インガオホー…サヨナラ!?
そんなの……
「そんなの嫌だぁぁぁぁぁぁぁーーーーぁぁぁぁっっっっ!!!!!!」
『追記。
ごめんね姉さん達…僕、僕っ!!
…汚されちゃった……汚されちゃったよぉ……ぐすっ』
* * *
「うわぁぁぁぁっ!?!?」
「ご主人様!? どうされました!?」
「はぁ、はぁ…っ」
「だ、大丈夫ですかっ!?」
いきなり飛び起きた俺にフィーこと、フィリアーナ・エル・オープスト・タチバナも声を裏返してしまう程に焦っているようだ。
仕方が無い、誰が責められようか。 あんな悪夢を見せられて冷や汗を掻かないはずがないんだから。
「…み、皆が俺を掘ろうと迫って…ぁ、ぁぁ…」
ふ、震えが止まらない……あ、悪夢だぞアレ…トラウマものだぁ…っ!!
「ふふ…大丈夫よ……」
俺の視界一杯に広がる暗闇と、温かく、沈み込むような柔らかい感覚、女の子特有の甘い香り……そうか俺……
「フィー…?」
「まだ夜だから寝直しますか? それとも少し起きて落ち着かれますか?」
フィーの腕の中…か。
「…私も忘れないで」
「忘れてないわイヅナ。 ほら…」
俺とフィーの間で寝ていた俺達二人の妹、イヅナ・エフ・オープストも眼が覚めたようで、抗議の視線にクスリと笑いながらフィーは二人一緒に抱きしめた。
「家族なんだもの。 忘れる訳ないわ…ふふ♪」
「…コク」
「……」
優しいなァ…幸せだなァ……
僕ァ人の温もりを感じれる時が結構、好きなんだよ…だから、
「!!!!」
…ん、なんか若大将が降りて来て、変なことを言ったような気がしたが…まぁ良いか。
「‘『叶うならば、死ぬまで君を離したくない』…か。 ふふ…寝惚けて言ってなければ最高の口説き文句よそれ……ふふ、大丈夫よ。 言われなくてもあなたの側に居るわ、いつまでも……♡’」
…。
……。
……お前の腕の中で今度は、最高に良い夢を見られそうだよ、フィー……
「弓弦…駄目ぇ…そんな、お互いに性転換なんかしたら私…弓弦を毎日開発しちゃうかも…二つの穴を同時に責めるんだ…快楽漬け…罪な毎日…ふふふ…」
はぁ…悪夢の元凶お前か知影……たく、悪い奴だな。
人の夢にまで干渉するって…どんだけ俺のこと考えてるんだか、仕方の無い奴だな。
ま、幸せそうな夢を見れてるようで何よりなんだがな…ははは。
…いかん、もう…そろそろ…落ちる……
…ま、寝れる日にぐっすり眠るとしようか。
おやすみ。 知影、フィー、イヅナ……
「……」
「…どうしたのかの?」
「…恐ろしい夢を見るものだな…人とは」
「ほっほ。 何を悟ったことを言っておるのじゃ。 何かを悟るのに主はまだ、若過ぎる」
「……」
「何じゃ、カザイの真似かの?」
「フン、真似などしていない。 少し考えごとをしているだけだ」
「…変にナーバスになっておるの。 何かあったかの?」
「……知るか」
「ほっほ…女は複雑じゃの。 さて予告じゃ…『男だらけだけと思うこと無かれ、ちゃんとあります女編。 全キャラ登場とはいかないけれども、サービスシーンがあるやもしれない。 …おや、女だらけのはずじゃが一人、不思議な人物が居るぞーーー次回、夏休み短編 “◯◯ッ!? ◯だらけの地平線”…飛沫と共に跳ねるは、二つの丘』…儂には無いのじゃ…空しいのぅ。 本当に…空しいのぅ…」