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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第三異世界
144/411

贈る指輪

 ユリとのデートの翌日弓弦は『皇都カズイール』ではなく、とある国の商会を訪れていた。

 昨日こっ酷くアンナに叱られたためか、その顔には疲れが見えるが、要素としては世界を跨ぐ転移を行ったということが大きい。

 今日の夜帰還ということで、既にお土産は買い揃えており、後一つを入手するために、またはその手掛かりを掴むためにそこを訪れたのである。


 ーーー界座標(ワールドポイント)【51694】『西の国オエステ』


「いらっしゃいやせぇっ! …お、あん時の旦那!! 本日はどんな用でぇ?」


 『クメール商会』の建物内に入ったところで彼を迎えたのは、都合の良いことにあの時のキャラバンのリーダーだ。


「少し、頼み事があるんだ」


「ほー、頼み事?」


「あぁ。 ここの商会にあるか少し調べてほしい物がある」


「……。 そいつぁレアな物なんですかい?」


「レアなんて言うのも憚るクラスだな……何しろ造られてから確実に二百年以上経過しているんだからな」


「……。 お前らぁっ、少し店番任せるぞ!」


「「「アイアイサー!!」」」


「商談が商談だ、場所ぁ移させてもらうぜ」


 店員スペースの柵を上げて、男は背中を向けた。

 彼に続いて、並べられた商品ケースの奥の扉を通ると、そこには小さな小部屋があった。

 しかし目的地はそこではなく、男は壁に隠された端末を操作して、さらにその奥へと進み、弓弦も付いて行った。

 その先には椅子が二つとその間に小さな机がある、いかにも密会に使われそうな部屋があり、促されて椅子に腰を下ろした。


「話を続けさせてもらいやすぜぇ。 大災害(ロストホープ)代の作品……つまり、あんたが求めてるのはかつてハイエルフが造った指輪で間違い無いですぁ?」


「あぁ、付加魔法(エンチェント)の有る無しは置いといてだ。 そいつを求めている」


「……」


 「この商人は当たりだ」と彼は思った。 店員の態度から鑑みても、キャラバンのリーダーとしての立場以上に重用されている存在であるようで、また、信頼の置ける人物だと判断した。


「ザイラッツ商会と並んで、このクメール商会はオエステ、延いてはこの世界中の流通に関わっている一大商会。 旦那が求めるのも、ありやすぜぇ」


「本当か!? 幾らだ?」


「幾らだなんてとんでもごぜぇやせん! 国宝級の物ですぁ、所有には当然国の許可が要りやす。 普通の御仁どころか、貴族連中にも到底商談の席に着くこたぁ出来ゃあせん」


 弓弦もそれは予期していた、否、当然のことなのだ。

 魔法が失われたこの世界にとって、魔法が関する物品は全て、相応の価値が付いており、まして、絶滅した種族が製作した逸品となると国宝として扱われて然るべしなのだ。

 だからこそ、手に入れる価値があるというものではあるが。


「はは、まぁそれはな。 だが俺をここに連れて来たということは、当然理由があるんだろ? 悪いな、急かすようで」


「いえいえ、とんでもごぜぇやせん。 ただ以前から、旦那…いいや、アンタらを見て思ってぁいたんですぁ、ただモンじゃないってなぁ」


 相手の本質を見抜く商人の眼が、まっすぐと弓弦を映していた。


「旦那、『賢人』じゃないんですかい?」


「はは、それはまた突然だな。 理由を聞かせてもらっても良いか?」


 賢人とは即ち、『二人の賢人』のこと。 顔でこそ余裕を見せているものの、彼は内心舌を巻いていた。


「はっは〜っ! あっしの商人としての勘ですぁ。 これでも人を見る眼、あると思っておりやすんで」


 「おっと、紹介がまだだったな」と懐からケースを取り出し、名刺を差し出した。


「あぁこれは丁寧に……イェルフス・クメール…? クメールってまさか」


「証明書としてはこれで十分やと思いやすぜ。 ちぃと事情はありゃあすが」


 イェルフスと名乗った男の身体は青い光を帯びている。 “センスダウト”の魔法を使っているので、つまりこれは嘘を吐いていないという意味だ。


「どうでぇ、信じてもらえねぇのならそこまでの話になっちまうんだが」


 弓弦がクロに問い掛けると、『信じた方が良いと思うにゃ』と言葉が返ってきた。


「分かった、信じよう……と、俺は橘 弓弦。 生憎名刺は持ってないから勘弁してくれ」


「弓弦…弓弦…おぉし、覚えた。 んで話を戻すが、承認が必要な物だ。 勝手に持っていても、手放しても違法扱いされちまう。 こちとら誠実がモットーってな訳でな…分かってくだせぇ」


「……。 さっきの問いの答えは、イエスになると…思う、いや、ま、これ見た方が早いか」


 被っていた帽子を取って犬耳を晒すと、イェルフスが感嘆の息を吐いた。


「一応こっちの名前だとユヅル・ルフ・オープスト・タチバナだ。 これで良いか」


「おぅともよ! ならあの奥さんは、フィリアーナ・エル・オープスト・タチバナになる訳か、通りであぁも別嬪(べっぴん)な訳だ…っと、逸らしちゃあいかんな」


「いや、大切な連れ合いを褒められて喜ばない旦那は居ないさ。 褒めたいのなら気にせず褒めてやってくれ」


 『にゃぁ…のーろーけーにゃー』という声が聞こえたが、本人曰く半分は社交辞令であるらしい。 怪しいものではある。


「はっは〜! 熱いのは嫌いじゃねぇが、本題だ。 ハイエルフの物はハイエルフに返すべき……と言いてぇのが山々だが」


「商売か」


「悪りぃな、こればっかは譲れねぇんだ。 んだが、そこまで鬼じゃあねぇからな、割引させてはもらうぜ」


「それは仕方が無いが…まずは実物を見せてもらいたい。 それぐらいは何とかなるだろう?」


「おぅともよ、じぃっくりと見て選んでくれや」


 イェルフスが端末を操作すると、さらに奥への通路が現れ、弓弦の眼に三つの強力な魔力マナの波動が映った。

 促されるまま彼に続いて奥へと進むと、それは視界に入った。


「真ん中のは展示品で、左右の二つなら商談に応じれる。 鑑定に間違いが無ければ、作は『ヴェルエス』っつぅ千年ぐらい前に生きてたハイエルフの付加魔法師(エンチェンター)で、なんでも付けた人物に変わらぬ愛を誓わせ、常に、共に在らせてくれるっつう交換がありやす。 二つで対になっているので、二つセットで……こんなところですぁ」


「な…っ」


 端末に打ち込まれた文字を見た弓弦の瞳が見開かれる。


結婚指輪(マリッジリング)としてはこれ以上にない逸品ではありゃあすが…いんや、後は任せやす。 ただこれ以上の値切りはご勘弁を」


 「ちょっと待っててくれ」と伝えてから、弓弦の中で会議が開かれる。


「‘…なぁ、どう思う?’」


『呪いの類いは一切(にゃい)のにゃ。 こういうのは気持ちが大事だから、後は弓弦に任せるのにゃ』


「‘バアゼルは?’」


『我は悪魔だ、人の感覚なぞ知らぬ……が、よもや値に気圧されているのではなかろうな』


「‘いやそれはないんだが…こういうの経験が無くてな、フィーの指に合わなかったりとか、あまり好きじゃなかったりとか…心配なんだよ’」


『私達の方がもっと知らないの』


「‘うぐ…っ’」


 シテロに言われて詰まってしまう辺り、相当に弓弦は戸惑っていた。 忘れているかもしれないが、彼は元高校生なのだ。

 流されに流されてるし、様々な経験を積んではいるがそれでも心は、それなりにはあの頃のまま(?)なので、結婚指輪を買った経験など勿論無い。 はめさせられた経験は多々あるが。


『色々な意味で…にゃ? 支配の』


 何故かクロが絞められたようだが、彼の頭の中はフィーに似合うか、彼女に気に入ってもらえるかで一杯だった。


『ユール』


「‘ん?’」


『魔法具の大きさ、変わるの』


「あ」


『ユールがくれる物なら何でも嬉しいの、それが恋する乙女なの」


「……」


 問題が解決した。

 まさかシテロがここまで的確なアトバイスをしてくれるとは思わなく、龍とはいえそういったところは乙女なのだと思う弓弦。 こうして会議は終了した。


「よし、買おう。 金は?」


「それを(かざ)してくだせぇ、あっしが確認するので」


「へー、使えるのか」


 現金でも用意してはあったのだが、指差された隊員証をイェルフスに渡すと、取り出された羽ペンでスラスラと空中に数字が書かれていく。

 彼が使っているのは『魔力筆』と呼ばれる魔法具であり、魔力マナで文字を書ける道具だ。

 空中に浮かんだ文字の表面を隊員証でなぞり、弓弦が魔力マナを込めると、隊員証が淡く発光し、収まるとイェルフスの手に小切手があった。


「確かに頂戴したぜ」


 指輪を覆っていた結界が消滅したので手に持って確かめると、部屋の光に負けじと強く優しく、温かい光を放った。


「良い買い物したと思うぜ。 弓弦、奥さんにもきっと、似合うはずですぁ」


「あぁ、寧ろそうでないと困るな。 ありがとう、良い買い物をさせてもらった」


「元はハイエルフの物だ、良いってことよ、はっは〜!! ところで」


 陽気なテンションから一転、少し低めに声のトーンを落としたイェルフスは躊躇(ためら)いの刹那の後に、言葉を続けた。


「『鹿風亭』の若女将は元気ですかい?」


「? 鹿風亭を知っているのか?」


「知っているも何も、ウチも贔屓(ひいき)にしてた旅亭だ。 …んで、どうよ?」


 世界を牛耳る大商会のトップの耳に届く情報量は多いらしく、「風音が一緒に行動していることは知っているから、あの子の現在を教えてくれ」と、その瞳は語っていた。


「腹黒さが少し出ているが、毎日元気に過ごしているはずだ」


「そうですかい、変な事訊いて悪かったぁなぁ」


 「何かあったら相談に乗ったるぜ」とイェルフスに送られた彼は、ピンクの包みで丁寧に梱包された指輪をしまい、商会を後にした。










 ーーー界座標(ワールドポイント)【30588】『豊穣の村ユミル』


「どこをほっつき歩いていたのだ馬鹿者ッ!!」


 戻った弓弦は、案の定アンナによって正座させられていた。

 外は豊穣祭で賑わっており、開いた窓から楽しそうな音が聞こえてくる。

 現在は部屋の中に二人きりであり、レイアとフレイの護衛はロダンとシテロ。

 森の警備はヤハクとユリに任せているのでその点は安全である。


「警備任務(ミッション)であるにも拘らず、警備対象から二日連続で離れるとは馬鹿にしているのか!!」


「…その説は当方と致しましても大変申し訳ないと思う次第で「ふんっ!」ぐぉっ!?」


 言い訳を許さぬ鉄拳制裁。

 「これ将来、子どもや夫が苦労するだろうなぁ…」と逃避思考に耽りながらも、顔だけは真面目に訊いているように取り繕う。


「弛んでいる、弛んでいるのだ貴様はッ!! 自らの意思で二日も持ち場を離れる警備員がどこに居るのだ!! これで報酬を貰おうとしているなど片腹痛いわこの大馬鹿者ッ!」


「いや別にそんなの要らな「ふんっ!」いっつ!?」


 いつもなら皮肉の一つでも言い返してやりたいのだが、今回も、どう考えても弓弦が悪くなってしまうのである。

 だから彼女の怒りが収まるまで、ひたすら説教と折檻を受けるしかないのだ。


「大体貴様は、どこまで私を怒らせれば気が済むのだッ、そうまでして、斬り捨てられたいのかッ!! なにが楽しい!? 嫌がらせにも等しいその行為を自粛しようとは思えぬのか! えぇ!?」


「ひゃうっ!?」


「こんな…こんな犬耳で…っ、ふざけるなッ!」


 そして怒りの矛先は、何故か犬耳へ。


「止め…っ」


「人を惑わせる犬耳など、こうしてくれるッ!!」


 話があらぬ方向へ逸れようとしているのは弓弦の気の所為であろうか。

 しかし目前の危機として、犬耳を触られると頭が、変になるので止めてほしいのが心よりの叫びだ。


「何なんだこの犬耳は、ピコピコピコピコわんわんわんわん…っ、人心乱すその魔の証はこれなのかッ!!」


「あ、アンナ止めてくれっ! おかしくなるっ、そんな強く触られると頭が馬鹿に…っ!?」


「貴様などもっと馬鹿になってしまぇぇぇぇぇーーッ!!!!」


「ーーー!!!!!!」


 憐れ弓弦。

 アンナの手技により身体という拘束から解き放たれた彼の意識は、静かに天に昇っていった。










「む?」


 犬耳で遊ばれた弓弦の変な声が聞こえたような気がして、ユリは村の方を見やる。


「プリンセスユリ、どうかしたのかな?」


「……その呼び方は止めてほしい、私は姫などではないのだからな」


 ヤハクのキザな呼び方に辟易としつつも訂正のお願いを言うが、彼女の頭の中は弓弦のことばかりであった。

 もう知影と大して変わらない自分を寂しく思いつつも、彼のことを考えてる間は決まって、幸せな心地になれるのだ。

 昨日のデートは正しく、この任務(ミッション)に赴く前に彼女が望んでいたことであり、無事に彼女の目的は達せられ、満足であった。

 その結果、彼の匂いがここまで好きになってしまうとは思わなかったが、それは一種の棚から牡丹餅。

 今朝宿の主人から「昨晩はお楽しみでしたね」と言われてしまう程充実した夜を過ごせたような気がした。


「ノーノー、プリンセスはプリンセス。 昨日と今日じゃまるで、別人の顔をしているからね、レディの顔をしているユリ姫をプリンセスユリと呼ばずしてなんと、この僕は呼べば良いのかな?」


「私がいつ女の顔をしたと言うのだ、甚だ遺憾だ」


「ノーノー、褒め言葉褒め言葉! 恋するレディは美しいし、唆るね…ジョークだよ」


 ライフル銃に手を伸ばしたユリを冗談ではなさそうな雰囲気で諌め、彼女が瞳から殺気が消えたところで緊張を解く。 何故かは知らないが、もう一対一でも後れを取ると彼は感じたのだ。

 また変わった彼女の雰囲気をヤハクは「レディ」と評したが、それは一つの側面での形容であり、同時に「強くなった」との形容でもあった。 美しくなり、強くなったーーーきっとそれは、彼女の自信から来るものだと彼は考えている。 迷いのない銃弾は捉えた対象を正確無慈悲に撃ち抜く。 そんな彼女に唆られると同時に、彼女を成長させた弓弦という存在に対して、一抹の嫉妬心を抱かずにはいられなかったが、自嘲の笑みと共にそれを振り払った。

 その後の会話は驚く程に無い。 ユリはヤハクが話し掛ければ応じてくれるのだが、彼女から話し掛けることは滅多に無かった。

 つまり先程の会話が今日初めての、会話らしい会話という訳だ。 


「……人と話すの、あまり好きじゃないのかい? プリンセス」


「別に話すことは嫌いではない。 ただ……話す必要を感じないだけだ」


「話す必要を感じないって酷いな、あ、あのナイトプリンセスの説教が余程怖かったんだね」


 ビクッと彼女の肩が上下する。


「ビンゴ。 村中に轟いてたからもしやとは思ったけど……男と話すなとでも言われたと、この僕は推理したんだけど、どう?」


「それは違うぞ、襲われると危険だから男と出歩くなと言われたのだ」


「シスター? それともマザー? ロダンみたいに堅いね、流石はナイトプリンセス。 それで、イエスタデイはどこに行っていたんだい?」


「…それをヤハク殿に教える必要性を私は感じぬぞ、うむ」


「ふーん、なら真祖はプリンセスに自慢すらさせられない程に、ボーリングなデートをしたってことだね」


「そんなことはない! わ、私は昨日たっぷりと弓弦の匂いを覚えたのだ!」


「え」


 ユリの墓穴を掘る発言にヤハクの時間が止まる。

 彼からしたら、完全に何言っているんだ状態であり、それ以前に彼女が言った言葉の内容を、理解するのに相当の時間を要してしまった。 ロダンが武略で他国に恐れられた名将ならば、知略で恐れられていた名軍師として名を馳せていたヤハクが、次の言葉を言うのにここまで時間を要してしまったこと、察してほしい。


「そ、それはまた、大胆…だねぇ、は、あはは…」


「なんだ今の妙な間はっ、ほ、本当に覚えたのだ! 嘘は言っていないっ」


「…プリンセスユリ、君、自分が今何を言っているのか分かってる、アンダスタン?」


 キョトンとしていたユリだが、徐々に自分が掘ってしまった穴が墓穴だと理解したのか、足先から顔まで真っ赤になる。


「〜〜〜っ!?!?!?」


「その甘い果実のように熟れた顔、グッドだね。 恥じらい、震えている様…実にビューティフル。 そんなプリンセスに想われている真祖はとんだラッキーボーイだね」


「ううう、美しいだとぉっ!? や、止めろ、そ、そんな眼で私を見るなっ!!」


「グッドだ! 良いねその反応、実に、実にグッド! グゥゥゥゥゥッド!!!! アメェイジングッ!!」


 銃弾装填。


「ぁ、ぁ、く、来るな寄るな触るな近寄るな…っ!!」


 射撃態勢。 引き鉄を引くと、鉛玉がヤハクの脇を通り抜けて木を穿つーーー前に“プロテクト”に弾かれて地面に落ちる。

 理由は当然、木を傷付けたら居た堪れないし、弓弦やレイアが悲しむからだ。


「そ、ソーリー…ついついヒートアップしてしまったよ」


 夕陽に照らされる銃口を突き付けられている彼は、まぁまぁと、両手でそれを押し留めるのだが、驚く程に冷たい表情をした彼女はそれを止めない。 

 そんな状態のまま時間だけが過ぎていき、村の方角から煙が上がっているのを見て指摘すると、ようやく外してくれた。


「この祭もいよいよフィナーレだね。 確か炎の周りで踊った恋人は結ばれるそうだよ」


「なんだとっ!? っ、感謝するぞヤハク殿!!」


 豊穣祭最終日のメインイベント。 聖なる炎の周りで思い思いに踊り、祈りを捧げると願いが叶うのだとか。

 弾丸のように走り去って行ったユリの背中を見失った時、ヤハクの思考にある考えが浮かんだ。


「そうだ、ロダンと踊ろうか」


 半ば冗談で言ってみたが、それも悪くないかもしれない。 そう考えてヤハクも村へと向かった。

「弓弦♪  弓弦っ♪ ゆ・づ・るー~♪」


「じょ、上機嫌ですわね。 弓弦君がどうかしまして?」


「リィルさん! やっと、やっと弓弦が帰ってくるんだよ!! 私の下に戻って来てくれるんだよ!!」


「…は、はぁ」


「ずっと会えずじまいだったよね…二ヶ月? ずっと私を置き去りにしてあんの女狐とイチャイチャ…この仮は大きいよ。 気持ち良いことしてくれるって約束もしてくれたし…これは、一発やってもらわないとね♪」


「ひ、人前でそれを言うのは、はしたないのではなくて?」


「はしたなくなんかないよ。 人間の生理的衝動を語っているだけなんだから。 生理的衝動は人間が元来持ち合わせているものであり、最も本質的な衝動である。 無意識下において、大きなウェイトを占めることとなっているので、抑え込めば抑え込む程水のように溢れてくるものである。 抑え切れない無意識は徐々に前意識を支配していき、能動的に行動する原理となる。 つまり私は今、欲求不満過ぎて、弓弦と一晩中夜の営みをしないといけないんだ」


「そうですの…「だから弓弦は私を寝かしてくれないんだ…激しく愛撫したり求めてきて」…予告ですわぁっ!!『炎が燃える中、二人は手を繋ぎ、舞う。 影で見守る存在はそれを見て、静かに想いを馳せる。 夜空を流れる存在に、気分はフライアウェイーーー次回、想い、いつまでも』…弓弦君…どんどん増やしていますけど、一体誰を選びますの? 次回も見ないと、暴れますわ…」

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