ひとつの想い
「夢オチって、残酷だね…」
知影のこの日の第一声は以前弓弦にも言った一言だった。
弓弦が任務へ向かってから五度目の朝、彼女が弓弦と会えるのは現在、夢の中だけだった。
「…今朝はどんな夢を見たの?」
紅茶が入ったカップを傾け一息吐いたフィーナが、本に栞を挟んでから彼女に訊く。
「弓弦が誰かに甘えているような夢だった…ような気がする。 なんかイライラした」
「誰かに? 知っている人では…ないみたいね。 予知夢かしら…」
「予知夢?」と知影は鸚鵡返しに訊くが、「こっちの話よ」とはぐらかされ話は打ち切られる。
その後彼女は朝シャワーを浴びてから普段着に着替え、フィーナと二人で朝食を作り、食べる。 「こういうのはあの人が居ない時に練習しておかないと、リクエストに答えられないから」の言葉通り、弓弦が居ない間フィーナが作る料理は冒険的な物が多かった。 しかし全ての料理に共通しているのは、家庭的な物が多く、純和風なものばかりなのだ。 姿はファンタジー要素満載であるのにも拘らず、作る料理は風音と同系統。
因みに三日前の夕食は、この部屋に風音とイヅナ、リィルを呼んで五人で食べ、その時はじゃんけんでフィーナと風音、イヅナが作ることなった。 イヅナの手際は、それほど手慣れているものではなかったが、女将としての務めを果たしてきた風音はまだ当然として、彼女と手分けして料理を仕上げていったフィーナの、味付けに知影は驚いた。 彼女の味付けは、弓弦に似ているのだ。 完璧ではなく多少アレンジが加えられているが、弓弦に似た味がしたし、今食べている料理の味付けも、弓弦みたいな味付けだ。
「ねぇフィーナ、どうしてフィーナの味付けって弓弦に似ているの?」
皿を洗っている彼女にどうしてなのか訊いてみると、
「ふふっ。 一緒に暮らして、一緒に料理を作っていれば味付けなんて自然と似るものよ」
なんともイラッとくる言葉が返ってきた。 「あなたもいつか出来るようになると思うわ」と続けられたので尚更そう思った。
「駄目よ、ご主人様との約束を破ることになっても良いのかしら?」
「…うぐぐ」
包丁を取り出そうとした手を“アクアバインド”で押さえられる。 困ったように彼女が額に手を当て、「もう…」と溜息混じりに行う動作が変に色っぽく見えてしまい、知影は負けたような気分に。
「朝ぐらいゆっくりしておくこと、紅茶淹れるから」
「……はぁ、弓弦帰って来ないかなぁ」
肩を落とした知影は椅子に腰掛け机に突っ伏した。 紅茶を淹れたフィーナは彼女の前にそれを置き、その対面側に座って本を開く。
「…ありがと」
「別に礼を言われる程のことじゃないわ。 ‘確か…あった’」
口に含む。 レモンティーだ、主張し過ぎないレモンの香りが、喉を通り、身体を温め、心を落ち着かせる。
「今日は何の任務に行く予定なの?」
「………」
「…フィーナ?」
「……あ、ごめんなさい。 どうしたの?」
本に集中していたのか、フィーナの返事は数テンポ遅い。
「今日ってどんな任務に行く予定?」
「悪いけど私は暫くゆっくりさせてもらうわ。 本を読みたいの」
そう言って本に視線を戻す。
「何を読んでるの?」
「本よ」
「それは分かってるよ。 フィーナって結構本読んでるから、今読んでる本はどんなのかなって」
「普通の本よ」
妙に素っ気ないのが気になる知影。
「私にも見せて」
手を伸ばすと本を退かされる。
「あなたが読んでもきっと分からないと思うわ。 これは私達ハイエルフの魔法文字で書かれている本だから」
「へ〜、そう言えば私、魔法文字を直接見たことがないんだ。 勉強のためにちょっとだけ見せてよ」
「駄目よ。 暇だったら風音やセティを誘って任務に行くこと、良いわね?」
「むぅ…」
抗議の視線は無視。 本の世界に入ってしまったフィーナは知影の言葉に耳を傾ける気は無いようだ。
「…あれ? その剣…」
こっそり本を覗いてやろうとした彼女の視界に、フィーナが腰に帯びている剣が入った。 最初は眼を疑ったが、見間違えようがない。
「なんで弓弦の剣がここにあるの?」
怪訝な表情をするフィーナだったが、その視線を追って、固まる。
「‘…もぅ、眼が良いんだから…。’ ご主人様から預かっているだけよ」
「…ぅぅ、何でフィーナにだけ…弓弦〜、弓弦〜…はぁ」
この世の終わりのように暗いオーラを放ちながら、まるで幽鬼のような足取りでドアへと向かった彼女を無視することは出来ず、フィーナは声を掛ける。
「……どこに行くつもりかしら?」
「…ストレス発散、行ってきます…ふふふ、ふ、フフフフ…」
「…そ、そう」
スライドドアが閉まる間際に、知影の眼が不穏な光を放っているように見えたが、彼女は視線を本ーーータイトル『妖精は夜に舞う』へと戻す。
だがその後暫くして、ディオとレオンが気絶して医務室に運ばれたという風音の連絡に、やっぱり溜息を吐くのだった。
* * *
懐かしい声が聞こえる…ような気がする、いや聞こえた…ような気がした。
「おろ、起きた?」
「ん…? 俺…」
霧に包まれた空間…並ぶ鳥居…あぁ、確か『タイタン』との契約のために彼女と一緒にここへ来てーーー? 何をしていたんだ?
「俺…何で寝ているんだ…?」
「ごめんね…私がもっと注意してればこんなことにはならなかったのに…」
注意…?
「でもお陰で、『タイタン』と契約出来たよ。 えへへ…ありがとユ〜君」
照れ臭そうにはにかむ彼女の隣で蛇が舌をチロリと出す。 この蛇が『タイタン』なのだろう。
「…ありゃ、どうしたのユ〜君ボーッとして…まさか衝撃で記憶が飛んでたりとかはしていないよね? 大丈夫?」
っ、駄目だ…ここに来てからの記憶が、まるで霧みたいにぼんやりとしている…。
「…そうかもしれない」
「そっか…どの辺りからぼんやりとしているか分かる?」
「…多分この辺りを歩いている時ぐらい…だと思う」
「……。 ならそこまで抜けてはいないみたいだね、良かったぁ」
何か変な感じがする…それが何なのか分からないのが余計変だ。
そうだ、クロ達なら…。
『彼女の言っていることは本当のことにゃ。 君が気を失っている時間はそう長くにゃいにゃ』
『すぴー…すぴー…んん、ユール…すぴーなのー』
一悪魔怪しいが…俺の疑い過ぎか? だが妙な感覚だ。
「本当に大丈夫? お姉ちゃんのこと分かる?」
お姉ちゃん? 何故に…?
「お姉ちゃん?」
「えへへ…さっきユー君が庇ってくれた時、私のことを『あ〜姉ちゃん』って呼んだでしょ? 私ってそんなにユ〜君のお姉さんに似ているの?」
「…あぁ」
言われてみれば…似ているかもしれない。 並行世界の同一人物だと言われれば信じてしまうぐらいには。
だが、姉さん達はもう居ない….ッ、いい加減割り切らないと情けないだけだが…馬鹿な男だな、俺。
「…ユ〜君さえ良ければ『お姉ちゃん』って呼んでも良いよ。 フレイはあの通りだし、お姉さんになるし、女の子だから…男の子、欲しかったんだ。 出来れば弟の方」
「…俺、記録上だとこれでも一応歳いってるんだけど」
記録上は、二百十八歳だ。 肉体的には十八だが…どこまで正しいのだろうか。 時を跨いだってだけなら十八だし…ん、それを言うのならフィーも十八になるのか? 氷の中で時を止めていたんだからそれはそれで正しいはずだ…多分。
「関係無いよ。 私はただ、ユ〜君が呼んでくれたら嬉しいなぁ…って思っているだけだから」
手を合わせてニコニコと微笑んでいる姿は『呼んで欲しいな、呼んで欲しいなぁ…呼んでよユ〜君、是非お姉ちゃんって呼んで♪』と俺に詰め寄っているみたいだった。
…ん?
「えへへ…ユ〜君が呼びたい風に呼んでくれれば良いんだよ?」
『またお姉ちゃんって呼ばれたいなぁ…っ、あ〜姉ちゃんって…えへへ』
おかしいな、繋がっているような気がするんだが。 なんで声が聞こえるんだ?
『………』
っ、この悪魔猫、知っていたな絶対。
「…あの、な? 流石に恥ずかしいんだよ…無理だ」
「ありゃ…そっか」
寂しそうな笑顔を見せ背中を向けられても譲れないんだ。 もし、彼女を『姉さん』と呼んでしまったら、俺は多分彼女を『レイア』として見れなくなってしまうような気がしてならない。 夢で見ることはあるが夢は、夢。 人に対して別の人を重ねるのは褒められたことではないし、俺はシスコンでもない。 忘れることとはまた違うと思うが、過去に囚われることなく今を生きないと…駄目だ。
「でもユ〜君が甘えちゃいけない理由にはならないと思わない?」
背中越しに淡々と彼女は語り掛けてくる。
「それこそ、過去に囚われていると思わない?」
「それこそ…?」
だって俺はシスコンじゃないし…いつまでも居ない人のことを考えていても仕方が無いはずだ。 なのに割り切ることが過去に囚われていると、そう彼女は言っているのだろうか…?
「ならどうすれば良いんだ。 俺が『姉さん』って呼べば解決するのか、そう呼んでレイアに姉さんを重ねてしまうことが解決すると、そう言うのか? 違うだろ…姉さん達は姉さん達だし、レイアはレイアだ。 違う人間を重ねてどうなるんだ…!」
「回路…どうして私とユ〜君が繋がったのか…そこに理由はあるよ…はい、ヒントおしまい」
回路…? 空間魔法によって心が繋がっている状態だよな…、そこに理由? それがヒント?
待て、何か引っ掛かった。 何だ…何に引っ掛かった、考えろ…っ、回路が開く条件…条件? それは…アレだ、相手の心の最も深い所に俺が居る…繋がっている以上彼女は…いや、今は良い。
問題はもう一つ、女の子の方からキス…? 俺彼女とキスなんてしたか? したとして…いつ? ユリみたいに、寝ている間にされたというのか? なんでどいつもこいつも人が寝ている間に眠姦未遂を起こすんだ…はぁ、薄い本が出来そうだぞホント。 いや、俺が襲われ過ぎなだけなのか? あぁいや、どうでも良い!
『にゃあ…これは駄目みたいだにゃ』
…っ、何が駄目なんだ? 考えているポイントが違うということだろうか?
「‘これで駄目なのね…なら’」
何事か呟いてレイアは振り返ると、
「これで分からなかったらお姉ちゃん怒るからね」
俺にそっと抱き付いた。 そして、
「…〜♪」
「ッ!?」
何かの歌を、鼻歌で歌い出した。 聞き覚えがあるメロディー…っ、まさか…!?
「な、なんでそ…の唄を知って…ぐ、いるんだ…っ」
そのメロディーはかつて、杏里姉さんが作詞作曲をした対俺必殺兵器、『ユ〜君子守唄』のものだった。 対俺必殺兵器というのは、これを直接聞いてしまうと…俺が…ふぁぁ…っ、眠気を覚えてしまうことにある…“スリープウィンド”なんか目じゃない威力だ…っ。
「……はい、スペシャルヒントおしまいだよ。 どう?」
「………」
どうって言われても足下が覚束なく頭が…回らない。
「おろ、難しかったかな…クロ、お願い」
『にゃはは、じゃあ答えにゃ』
ハリセンで叩きたい…この、悪魔を討滅したい…はぁ。
『にゃ〜と、回路は考えていることが相手に伝わる状態だそうだにゃ。 レイアがこの…『ユ〜君子守唄』を歌えたのは、君がいつもこの唄のことを考えていたからにゃ。 詳しく言うとにゃ、君は彼女と初めて会った時から、心のどこかで彼女にお姉さんを見ていたのにゃ。 それで君の心を見ていた彼女が、覚えた。 つまりそういうことにゃ』
「……な…っ」
つまり…俺は既に杏里姉さんを彼女に重ねていたというのか!? まさか…いやでも、そういうことになって…しまうのか。 どんだけ馬鹿なんだ俺は!? 最低だろ…はぁ…眠い。
「…ごめんなレイア…俺…」
これでは彼女が怒るのも無理はない…謝罪の言葉しか浮かばなかったが…眠い。
「ユ〜君がお姉さん達を大好きだってこと、一杯伝わってきた…でもそれと同じぐらい、悲しいって気持ちが伝わってきて…何とかしよう…って思ったんだ。 気付いてる? 私がユ〜君って呼ぶと犬耳がピコピコ動くんだよ」
「…気付かなかった」
犬耳は素直ということか…ははは…はぁ。 まぁユ〜君という呼ばれ方は聞き慣れていることもあって悪い気はしなかったが…これだと俺がシスコンだということを説明しているような気がして…嫌だったんだよ、違うのに…それより眠い…っ!
「えへへ…だから私で良かったらお姉さん代わりになろうかなって思ったんだ。 ユ〜君はたくさんの人々に支えられているけど、私もその一人になりたい…だから」
真っ直ぐと俺を見上げる瞳には、信念の炎が灯っているように見えた。 断る程、俺も落ちぶれてはいない、寝落ちはしたいが…ってくどい!
心を落ち着けて…息を吸って、
「…さん」
…よしっ、言ったぞ! 俺頑張った、うん!
「おろ? えへへ、お姉ちゃんよく聞こえなかったからもう一度お願い」
おい…! 絶対聞いているだろ、眼が優し過ぎるし…あぁクソっ。
「ね…さん、姉…さん…っ」
「こら、ちゃんと言わないと…めっ! するよ?」
ぐ…不覚にも「めっ」に…い、いや萌えてないからな、絶対にッ!
「…〜っ、止めてくれ…姉さん」
「ん、ちゃんと言えたね。 偉い偉い♪」
「〜っ!!」
良いかも…って思っている自分がいる…っ!? だ、駄目なのに…こ、殺される…絶対に知影達に殺されるぞ…!
『にゃは、仲良きことは美しき哉』
「出ろ、クロ」「にゃ!?」
クロを強制的に出してハリセン召喚。
「飛んでけぇぇぇぇッ!!」「にゃぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
ナイスショット。 これはイーグルが狙えそうだ。
「ユ〜君!」
「……」
「動物を苛めちゃ駄目だよ!」
「…………」
そんな会話をしながら来た道を引き返していく。 それにしても…似てるなぁ…はぁ。
「なぁレイア」
「………」
「……っ、姉さん」
「なぁに? ユ〜君」
ふと浮かんだ疑問を隣に並んで歩いている、自称姉代わりのレイアに「…」姉代わ「……」姉のレイ「………」…姉さんに訊く。 中々気難しいことで、はぁ。
「タイタンってどうやって契約したんだ?」
「戦ったよ。 ユ〜君が殆ど倒したようなものだけど」
そうか…記憶が飛ぶってなんか嫌だな。 こう言っては何だが、レイ…アがちゃんと戦えるのか、少し心配だったりする。 見た所…武器は持っていないし、戦うとしたら精霊を召喚して戦うんだと思うが…一体どうやって戦っているんだろうか。
「知りたい?」
「…あぁ」
「じゃあ、戦おっか。 弟に心配されるのは嬉しいけど、少し心外だもの。 お姉ちゃんの、お姉ちゃんとしての威厳を見せてあげないとね」
先に進み、転送用の石碑の前で振り返る。
「ほら、おいで。 お姉ちゃん頑張っちゃうから♪」
ほわわ〜んと、シテロみたいにお花オーラを振りまいているが、気の所為か眼が笑っていない。 逆鱗に触れたのかもしれないな、言葉は優しいのだがそんな気がする。
「…じゃあ…ッ!!」
地を蹴る。
「……」
レイアは動かない。 何かあるのは間違い無い…が、突っ込む。
「はぁぁぁっ「はい、止まって」なっ!?」
っ、支配魔法!? 何故レイアが!?
「じゃあ言ってみよっか、『僕の負けだよ…ごめんね、僕の姉さん』ってね」
この魔力…まさか。
『………』
お前なのか? バアゼル…って、ぐ、か、身体が勝手に…っ!
「僕…の、負けだ…よ、ごめんね…僕、の姉…さ、ん…ぐ、はぁ…はぁ」
「はい、良く言えました♪ これで分かってくれた? 私の実力」
「な、なんで“コマンド”を姉さんが使えるんだ!? それにその魔力はバアゼルの…」
「えへへ…お姉ちゃんはユ〜君と繋がってるんだよ? 回路を通じて『バル』の力を借りただけ」
回路を通じて? なんだそのチート…。 ん、バルって…バアゼルのことか?
『……我は悪魔だ。 呼び方なぞ、好きに呼べば良い』
寛容なことで。
「お姉ちゃんパワー。 お姉ちゃんは強いのよ。 ユ〜君が助けを求めてくれたらもっと頑張っちゃう! だから安心してお姉ちゃんを頼ってくれて良いんだよ♪」
『にゃはは、頼りににゃるお姉ちゃんが出来て良かったのにゃ』
『むー、なの!』「ごふっ!?」
俺のまたまた頭上にシテロが顕現し、例によって伸し掛かってくる。
「ユールは私のポカポカなの、独り占めだめなの!」
なんか怒ってるよこの子…勘弁してくれ。
「おろ? 独り占めはしないよ。 ユ〜君の意見を尊重しなきゃ…それにね、ごにょごにょ」
「…………分かったの」
何かを吹き込んだレイ「……」姉さんは耳に口を寄せてくる…女の子の甘い香りが…っ。
「辛い〜、ことが〜あ〜ったんだよね〜…♪」
…あ。
「沢山の〜、大変な〜思いをしたんだよね〜♪」
意識が…遠退く…それ…反…則…。
「でもね〜、今は〜、休〜んで良いんだよ〜♪」
……ぁ、ぐ……zzz。
* * *
「私の側で、お〜やすみ〜…♪」
歌い終わった彼女の隣で身体を休めるレーヴの身体を枕にするように、弓弦は深い眠りに落ちていた。
「すぴー…すぴー…」
彼の隣ではシテロが、同じように寝ている。 弓弦を挟んで反対側で腰を下ろしているレイアは、弓弦の頭をずっと撫でていた。
「ごめんね、バル。 出来ればしたくなかったよね」
『…………』
弓弦と回路が繋がった結果、彼女は弓弦と同じように悪魔をその身に宿すことが出来る。 使える魔法のレベルが上級までと限りはあるし、シテロのようにそもそも宿せない悪魔もいるが、基本的な能力は弓弦ハーレム(レオン命名)の中でも随一のポテンシャルを誇っていることには違いない。
精霊だけでなく、悪魔も召喚出来る。 その事実は少し前バアゼルに『貴様も此奴と同じ、神にも悪魔にも成れる存在か』と言わしめる程だった。
『君は君で、辛くにゃいのかにゃ? 王子様に姫として見てもらえなくて』
「私にとって、彼に『お姉ちゃん』として意識されることはどんなお姫様よりも、お姫様として見てもらえることに等しいんだよ?」
『にゃ。 うーん、頑張ってるのにゃ。 まさかここまで下地として用意がされているとは、あいつも驚くにゃ。 でもそんにゃホイホイ好かれても弓弦は困るだけだと思うにゃ? 君達チョロ過ぎにゃ』
「おろ? 他の女の子もそんな簡単に?」
『にゃ、コロコロホイホイにゃ。 “弓弦歩けば人に好かれる”っていう迷言、作られてもおかしくにゃいにゃ』
弓弦の身体から、クロが顕現して彼の頬を肉球で押す。
「柔らかいにゃ…彼のお姉さん達は頑張り過ぎにゃ」
「女の子の夢を沢山詰め込んだ宝だもの「そして?」その宝は後で自分達がもらうために…おろ」
脱力するクロに首を傾げるレイア。
「君は都条例と言う言葉を知っているかにゃ?」
「おろ、私はクロがその言葉を知っていたことに驚いた」
間違い無い。
「でも都条例って何んにゃ? 条例は分かるけど…都?」
「ユ〜君の世界にある、日本って国にある…東京って都市の都だよ。 ユ〜君が住んでいたのは愛知って都市だけど」
「にゃは、だから都市のルールってことかにゃ…どこも似たようにゃルール…世界は違っても人は変わらにゃいってことだにゃ」
身動ぎした弓弦から手を引き、その手を舐める。
「そう言えば、何んで彼の記憶を消したのにゃ?」
撫でる手が止まった。
「…ユ〜君は、『タイタン』…タインの攻撃から私を庇った時の衝撃で、ちょっとだけ記憶が飛んじゃったの、それだけだよ」
「…そうかにゃ…ニャー」
つまらないような、不満なような一鳴きが霧の彼方に吸い込まれていく。
「乙女って複雑にゃ」
「乙女じゃなくてお姉ちゃんだよ。 間違ったら、めっ、するよ?」
違いが分からないレイアの訂正の言に、「何にを言っているんにゃこの子は…」と弓弦の腹に乗って丸まった。
「結局と彼と結ばれたいことに変わりはにゃいのにゃ。 にゃら、あのまま攻めれば確実にこのシスコン男は堕ちてた…勿体無いにゃ」
「私はユ〜君をそういったことで困らせたくないの。 だからあんな方法は止め。 だから無理強いも…曲げられないところはあるけどしないし、出来ればユ〜君の意志を尊重してあげたいよ」
「押して駄目にゃら引いてみる…今の彼の周りには押しが強い子が多いから、攻略には効果的かもしれにゃいにゃ」
「打算がある訳じゃないよ。 うーんと…そう、ユ〜君の心のオアシスになってあげたいんだ。 助けを求められたら全部守ってあげる、お姉ちゃんは弟のためなら何でも出来るんだから…ね」
「何でもって…何でもかにゃ?」
「…ん…うん…」
「よしよし、えへへ…ユ〜君〜♪」
クロの問いには答えないが、弟の髪を優しく撫でる姉の微笑みが代わりに全てを語っていた。
「ドゥハハハハハ! サブキャラでも儂も出ることが出来るとは……太っ腹ではないか!」
「お祖父ちゃん、その笑い方少し嫌だったり…」
「……癖でな、許してくれいフレイ」
「んーまー、良いけどねーねーねー。 おにーさんの心が動いてるね」
「確かにレイアは村の男子の面倒を見たがったからな。 じゃがこれは、あの感情じゃ」
「うんうん、これも一つの形なんだよね。 違うところから攻める辺り、少しあざといけど」
「……曾孫は最低、二人は欲しいの。 頑張ってもらわんとな」
「でもそんなすぐ作ってくれるかなー。 おにーさんガード固いし、そこまで踏み込んでくれないような気がするけど」
「それは今後に期待しなくてはな。 さて、予告といこうか、フレイ、全部読むか?」
「良いのー?」
「勿論じゃ」
「やったね♪ 『国を信じ、国に裏切られた忠義の騎士は民がため、その剣を振るう。 火花散らす刃は閃き、民の明日を照らす。 剣が拓くは民の道、道整えるは同志の知略。 曲げられぬ信念が、そこにあるーーー次回、ヒスバラード』…二つの刃は明日を拓けるのか…だって」
「ドゥハハハハハ! 楽しみじゃ!「お祖父ちゃん?」……」