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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
第三異世界
127/411

その世界のどこかで

 豊穣祭初日は滞りなく無事終了した。

 そんな中、村を後にして森から出て行く人々を弓弦クロは注意深く見ていた。


「……にゃ、やっぱりにゃ」


 お祭りなので他所からも人は訪れる。

 それ程大人数でもないとはいえ、怪しい挙動を見落とさないようにするというのは骨が折れるほど大変だ。 これが後六日あるのだーーーそう考えただけで思わず身震いしてしまった。

 因みに弓弦はまだ寝ている。

 どうも昨晩は寝付けなかったようで一休みどころの話ではなく、これでこの後また、眠れないようではいい悪循環だ。

 悪魔だって多少疲れは感じるので休憩がしたいのだ。 面倒くさいのもあるが、一人と一匹のこの状態は色々な部分で覚えるのだ。

 この場合は精神的な疲れである。

 弓弦の一部でもあるクロは以前の知影と同じように弓弦の記憶を見ることが出来るが、知影や風音の精神力の強さには悪魔ながら本当に驚いていた。

 特に風音だ、彼女は本当に信じられない。

 クロははっきり言って、弓弦と主人格を交代するなど一日保つかどうかだ。 しかし風音は楓として、それを遥かに上回る時間彼と主人格を交代していたのだ。

 恋の力ーーーと片付けることが出来なくもないが、あまりに非論理的過ぎた。


「そもそも、にゃ。 常識的に考えて、僕達悪魔の精神力と同格にゃらまだしも、それを遥かに上回る精神力って一体どれ程のものにゃのか…にゃ。 彼の周りのおんにゃの子達は普通じゃにゃい子が多いけど、精神力の面ではあの子が段違いににゃるにゃ。 人間って面白いにゃ…」


 最後の数人が森から出て行く。

 丁度彼らで全員だ。


「にゃはは、希望にゃんて、僕達悪魔の柄じゃにゃいんだけどにゃ。 君が言うのにゃんて、もっと柄じゃにゃいにゃ」


「…………」


 クロの隣肩に乗る、掌大の蝙蝠こうもりは気怠そうだ。


「聞いてるのかにゃ? 『支配の王者』」


「…我は貴様の独言に付き合う趣味は無い」


「にゃはは、連れにゃいにゃ。 君はどう思うのにゃ?」


 後ろ足で頭を掻いてから、逆の方向を向いて、そこにいる存在に訊く。


「キシャ」


「……日本語でお願いするにゃ」


キシャ(右に同じ)


「ルビを振れば良いってものでもにゃいんだけどにゃ。 『空間の断ち手』、君は自分のこと伝えてるのかにゃ?」


キシャキシャ(伝えてはいない)シャ()シャシャキシャア(一応顔は合わせた)


 そこには鎌の代わりにハリセンが付いているハリセン蟷螂かまきりが居た。


「…まぁ良いにゃ。 ところで、アイツの存在を感じるってこと、気付いているかにゃ?」


「戯言を話したところで、所詮無意味だ。 其処まで図る必要は無い」


「…つまり、自分で乗り越えてもらわにゃければ成長で出来にゃいから、知恵を貸す必要はにゃいってことかにゃ。 にゃはは、彼のことよく考えてるにゃ…って、にゃにをしているのにゃ?」


 突然ハリセン蟷螂かまきりが、ハリセンを振り始めたのでクロは少し離れる。


キシャ(何って)キシキシャキシャ(ツッコミの練習だ)


「…ボケのレベルは秀逸だと思うにゃ」


 半眼でそれを見るクロ。 


「…ふむ、蜜柑を食したい。 『凍劍とうけん儘猫じんびょう』、蜜柑を出すがいい」


「…空気を呼んでほしいにゃぁ…」


 片や渡した蜜柑を食べ始め、片やハリセンを振っている、そんなかつての同胞達を見て魂が出てしまいそうな溜息を深々と吐くクロ。 昔の殺伐した空気よりはマシなのだが、これはこれで気が抜けてしまう。


「人の文化について知るのも悪くにゃいとは思うにゃ。 でも」


「…合いも変わらず美味だ…くく」


キシャ(少し)キシャキシャ(練習台になってくれ)キシャキシキシ(少しだけだから)


「これはちょっと違うようにゃ気がするのにゃぁぁ………」


 すっかりボケキャラになってしまった悪魔達の夜会はその後暫く続いたのだった。


* * *


 白刃一閃、木の葉が二つに斬り裂かれ地に落ちる。

 成したのは月光よりも静かな輝きを放つ光魔力(マナ)の剣。


「まだ…また…鈍っている…」


 剣を握る力を強めると力に負けて、粒子状に霧散する。

 自分の情け無さに身体が震えるのが分かった。 木の葉は黒ずむとそのまま地に帰るーーー無駄な力が入っていた証拠であった。


「くそ…っ、私は…っ!!」


 再度光魔力(マナ)で剣を創り、威力を“ライトソード”から“ブライトキャリバー”へと上げ数度振るう。 

 しかし彼女が望んだ通りの太刀筋からは、遠過ぎる位置にしか剣は通らない。


「何故だ、何故ッ!!」


「剣の迷いは、心の迷いだ」


「ッ!?」


 森の奥から、弓弦が姿を現した。 つい先程起きたばかりである。


「よくある言葉だが、俺からしたら姉さんの言葉だ。 明日も警護に就かなきゃいけないのに、こんな時間に何をやっているんだ?」


「……何様のつもりだ、無様な人の姿を見て、楽しいか?」


 アンナの全身から溢れんばかりの殺気が放たれる。


「お前の言葉を借りるのなら貴様のつもりだ…って、危なっ!?」


 冗談めかした言い方に、彼女の怒りはすぐに怒髪天を突き抜けた。

 躊躇い無く振るわれた斬撃は、少しでも反応が遅れていれば容赦無く弓弦の胴体を斬り裂いていたであろう。


「…全部貴様が悪いのだ…っ、昼は昼でにゃあにゃあにゃあにゃあ人の心を揺さぶって…っ、き、き、斬り捨てて、やる…!!」


「な…っ!? 昼はずっと森で」


「サボっていただろう! 突然顔を出したと思ったら、にゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあにゃあ、にゃああああぁぁぁぁっ!」


 訳が分からなくなっている様子のアンナだが、太刀筋が先程の数倍正確になっている。

 正確で直線的だからこそ動きが読めるので、帽子をしまうと最小限の動きで、紙一重で避けている弓弦。


「…っ!!」


 隙を狙って同じように“ブライトキャリバー”を使い、アンナの光剣を弾き飛ばす。


「…はぁぁぁぁっ!!」


 弾かれたアンナが、今度は両手に一振りずつ“ブライトキャリバ”を握り、互いに拮抗する。


「大体貴様、『にゃ』とは何だ『にゃ』とは! 年甲斐も無いし、仮にも男が言うな!!」


「…ぐっ、今のご時世男の『にゃ』にも、意外に需要があるらしいんだ! …って、誰がいつお前の前で『にゃ』なんて言っ…たッ!!」


「っ、今言ったじゃない…っ、かッ!!」


「…っ、それとこれとは別だ!」


 一歩も譲らない鍔迫り合いが続き、正面から睨み合う。


「男が『にゃ』と言って何が悪いんだ! それに俺は言いたくて言っているわけじゃない!! 言わされてるんだよ!!」


「それは貴様の中と契約している精霊のことか、だが、精霊に身体を自由に使われているとは、笑止だなッ!!」


「悪い奴らじゃないんだから良いだろ! なんだ、俺嫌いの次は精霊嫌いか! 随分色んなものが嫌いみたいだな!!」


「ふん、失笑させてくれる! 私は貴様のような腑抜けている男が大っ嫌いなん…っ、だぁッ!!」


「おわっ!?」


 押し切られ、蹴りをもらう。

 追撃で繰り出された突きを“テレポート”で回避し、アンナの背後に転移する。


「その手を食うか!!」


 彼女は木を蹴って反転し、同時に左手の光剣を投げ、数秒の間を置いてもう片方の光剣を投げ弓弦に迫る。


「っ!? ま、当然か」


 避ける。


「ふん、人を小馬鹿にするのもいい加減にすることだ、苛々させられる!」


「その割には、一人で剣を振り回していた時より今の方が、太刀筋が鋭いような気がするがな!」


 双剣が繰り出す乱舞をかい潜り、踏み込んで崩すと、鞘から剣を抜いてその首に添える。


「チェックメイト、だな」


「…小癪な」


 得意気な表情で犬耳をピコピコ動かす弓弦を、アンナは親の仇を見るような眼で睨む。


「不覚…っ」


「…気は済んだか?」


「ふん…」


「そうか」


 剣を鞘に戻し彼女に背を向ける。


「…武人に背を向けるのか」


「武人…か」


「何か言いたいことがあるみたいだな」


「いや、何にも?」


 触らぬ神に祟り無し。

 伝えぬアンナに怒り無し、である。


「そうか、切り捨ててくれよう」


 否、何を言おうとしても結局アンナは怒り突っ掛かかろうとする。 嫌われたものだと、弓弦は肩を落とした。


「…とと、帽子帽子…って、どうせシャワーを浴びるから良いか」


 帽子を取り出そうとするのを止めると、ふと視線を感じた。


「…その犬耳」


「ん?」


「見ていると無性に腹が立つ。 しまえ」


 理不尽だとは思ったが、斬られるのも面倒なので帽子を被る。


「…はぁ、これで良いか?」


「ふん…」


 その後は会話も無く、宿の通路で別れて弓弦はシャワーを浴びた。

 アンナとの稽古(?)でかいた汗を洗い落とし、部屋に戻るとそこには先客が。


「…ユリ」


「…弓弦殿、その…遅かったな」


 机の上にはラップを掛けられた料理が載っていた。

 ユリは椅子に腰掛けてうつらうつらと、船を漕ぎ掛けていたが、弓弦の姿を認めると寝惚け眼を擦りながら立ち上がった。


「用意していてくれたのか…帰るのが遅れて…すまないな」


「…いや、()いのだ」


 首を左右に振る。

 その瞳は微かに揺れ、唇も震えていた。


「勝手に私が用意しただけだ。 帰って来なかったのならば、それまでだったのだから」


「待たせた、それだけの事実が今は全てなんだ」


 ユリの頭をくしゃくしゃと撫でると、椅子に座る。


「じゃあ折角のユリお手製ご飯、たっぷり味わないとな」


「冷めてしまったし、食べなくても良いのだ…ぞ?」


 片眼を瞑りながら、ユリの唇を立てた人差し指で塞ぐと手を合わせる。


「不味いわけないだろ? 料理は、いかに気持ちが込められているか、それだけなんだからな。 さて、食べるぞ」


 箸を取り、それを一気に駆け込んでいく。 


「あ…そ、そんなに急ぐな、せる「んぐっ!? ゴホッゴホッ」言った側から…まったく」


 当然のごとくせた弓弦の背中を優しく叩くユリは、控えめな笑顔を彼に向けていた。

 若干眠気を感じているが、眠たいという欲求より、自分の料理を美味しそうに食べてくれる弓弦を見ていたいという欲求の方が勝っていたので、ほんの少し程度しか気に留める必要は無かった。


「…美味いか?」


「はは、本当に美味いよ。 少し腕、上げただろ?」


「む? …自分ではよく分からぬが…弓弦殿がそう言うのなら、そうなのかもしれん」


『褒められた…頑張った甲斐、あった…ぁぅ…』


 ふと彼女の心を覗いてみると、これだ。

 少し申し訳ない気もしたのだが、面白いので弓弦は少し踏み込んでみることにした。


「本当にレオンの言う通りだな」


「む? 隊長の?」


「ユリの旦那になる男は幸せ者だと。 こうして食べていると本当にそう思うよ」


「…そ、そそ、そうか」


『ぁぅぁぅぁぅ…〜〜っ、そ、そんな…そ、それってもしかして…ぁぅぅ…っ』


 内心ガッツポーズ。

 こういう美味しい思いをするのもたまにはと思う弓弦である。


「よし、ごちそうさま。 皿を洗ってくる」


「ふ…っ、私が洗ってくるから待っておけ」


「あ、おい!」


 皿をパッと纏めると、


「……」


「はははっ! ほら」


 両手が埋まってしまい、扉が開けられなかったので、声に出して笑いながら弓弦が扉を開けると、そそくさと出て行く。


『面白い子にゃ』


 一人になった時を見計らってか、頭の中に響くクロの声。


「俺もそう思うよ」


『ぶっちゃけたはにゃし、相手としてどう思ってるのにゃ?』


 鼻で笑う。


「さて、な?」


「…?」


 戻って来たユリに「何でもない」と言ってから、弓弦は大きく伸びをした。


「…さて、寝るか」


「うむ」


「…一緒に寝るか?」


 布団を捲りながら冗談のつもりで訊く。


「なんて、冗d「うむ!」…本気か?」


 力強く頷いた彼女に弓弦が固まるーーー今にも冷や汗をかきそうであった。


「本気だ。 なに、わ、私は構わないぞ、うむ」


「……」


 無言で布団の中へ入った弓弦に倣い、ユリもその隣に入る。


「…ぁぅ…っ、は、恥ずかしいな…」


「…なら俺が向こうのベッドで寝るからユリはこっちで寝てくれじゃ…」


 カチャ…と、何かを取り出す音に、逃げ出そうとした彼の顔は青褪めていく。


「私は本気だ」


「………………………分かった。 その代わり、ギリギリまで離れるからな」


 身体を動かして隅に移動する。


「…おい」


 それにくっ付くようにしてユリも移動した。 抗議しようと思ったが、


「…すぅ」


 その相手は、恐ろしいほどの寝付きの良さを発揮し、幸せそうな顔をしながら夢の世界に旅立っていた。 


「…どうしてこうなった」


『あ〜あ、にゃ。 雉も鳴かずば撃たれまいに、にゃ』


 狸寝入りの様子ではないので、クロに軽く悪態を吐いてから、弓弦は諦めて目を閉じた。










 隣の部屋では、今シャワーを浴び終えたアンナが机の上の置き手紙に肩を震わせていた。


「ふん…好きにすれば良い…好きにすれば…くっ」


 忌々し気に歯噛みをすると、怒りを抑え込むかのように布団に潜り込む。 


「……」


 交感神経が興奮しているのか、眼が冴えてしまっている。

 剣技は冴えないのに眼は冴えるーーー何とも皮肉なもので、眠れそうにない。

 原因も分かっているが、どうにも出来ない葛藤ーーーそれがアンナを余計に苛立たせた。

 思えば、自分は苛ついてばかりだ。 事ある毎に突っ掛かって、勝手に苛ついて…剣を抜いて、結局勝負になるが、有耶無耶になったり負けたりする。

 勿論、弓弦に剣で勝ったとしてもこの暗雲が晴れることはないがそれはそれで、悔しい。

 もう一つ、アンナはあの双子巫女の片割れに違和感を抱いていた。 取り留めもなく不確かなものだが、初めて会ってからずっと抱いているもの、強まることは今のところないが、弱まることもない、そんな違和感が。


「このまま、無事に終わってくれれば良いのだが…」


 叶うはずもない願いを月夜に願ってみる。

 その違和感が強まった時、きっと良くないことが起きる予感を感じながらアンナは布団の中に潜るのだった。


* * *


 暗い部屋の中で彼の眼鏡が光を反射し、キーボードを叩く音が無機質に響く。

 踊るように叩いていたその音は突然止められ、端末も閉じられる。

 彼は素早くベッドに身体を横たえると眼を閉じると程無くして、扉が横に開かれた。


「…博士」


 入って来た人物は迷わず端末を開くと、その画面をベッドで眠る彼の眼の前に向けた。


「………………何だいリィル君」


 薄眼を開いた博士ーーーセイシュウの視界に沢山の肌色が映る。


「博士は詰めが甘いですわね。 まさか端末の電源を切り忘れてとは」


「…………あははふごっ!?」


「おほほ…」


「ぶべしっ!?」


 顔面チョップが不埒なセイシュウへと振り下ろされた。


「…え〜とね、リィル君。 僕だって一応男なんだからさ、そういうのを観ても良いと思うんだ。 取り敢えず電源を落として端末を置いてくれれば当方としても非常にありがたいと思います痛い痛い!!」


「…信じられませんわ。 不潔ですわ!」


「痛い痛い痛い痛いぃぃっ!!」


わたくしというものがありながらあなたという人は!! 不潔ッ! 不埒ッ! 最っっ底ですわぁぁぁぁぁああっっ!!」


 悲鳴のような声を上げて彼に鞭をバシバシと振るう。

 鈍い痛みに彼が意識を失うのはそう遠くない時間のことであった。


「はぁ…っはぁ…っ!」


 リィルは荒い息で端末を操作してアクセス制限を掛けていく。 対象は端末上に残っている履歴にある、アレなサイト。

 何重にもプロテクト(因みに同じ名前の魔法もある)掛けてから、乱暴気味に端末の電源を落とし、肩を怒らせながら彼女は研究室を出て行った。


 ーーーそれから三十分後。


「……」


 ムクッと身体を起こしたセイシュウは端末を開く、すると。


 ダダダダダダダダダダダダダ!!


 高速でキーボードを叩いていく。 上から下へと高速でスクロールしていくアルファベットや数字の羅列の動きに負けじと眼球を動かして、


 ツターンッ!


 ロックを解除した。

 例えリィルが幾らプロテクトを掛けようとも、どんなプロテクトでも、彼を止められるプロテクトは早々無いのだ。

 端末を開いた彼は再び、ページに表示されたものに眼を通していくのであった。










「聞いてくださいまし!」


 バタンと隊長室の扉を開けたリィルの一斉はどこか涙声が混じったような嘆きの声だった。


「お〜お〜リィルちゃん、セイシュウのやつに何かされたのか〜?」


 丁度隊長業務を終えたレオンが書類を機械に入れていく。

 その作業が終わるのを待ってからリィルは話を切り出した。


「博士ときたら…博士ときたら…っ、は、裸の女性を端末で見ていて、し、信じられませんわ!!」


「……許してやってくれ〜、あいつも男だ〜」


 「…無茶しゃがって、まだ観るには早過ぎるだろ〜」と内心呟きながらも親友を庇うと、リィルは首を小さく左右に振る。


「何故男の人はああいったものが好きなのでしょうか…分かりませんわ」


「…分からなくても良いが、許してやってくれ〜。 三十路過ぎた独身男の楽しみなんて、そんなもんだ〜」


 ある種言い掛かりである。


「…そうですわねー、もう隊長も博士も三十路ですわーおほほ」


「ん〜? リィルちゃんも「黙ってくださいまし」」


「お黙りくださいまし」


 強めの語気で、重ねて言った。


「別に気にすることはないんじゃないか〜? 弓弦もオープストちゃんも、二百十八歳なのに若々しく振舞っているぞ〜?」


「あの二人は別ですわ! ハイエルフの体質で若く見えているのが羨ましい…ですわ…!」


 迫力を帯びて迫るリィルを両手で押し留めながらレオンは二人のことを思い出す。

 ハイエルフは何百年も生き、その身体は老知らずとは文献でよく書かれていることだが、あの二人を見ていると頷かない訳にはいかない。 「心は十八のつもりだ!」と以前弓弦が言っていたが、どうやら自覚もある様子。 

 いつの間にか追い越され、七倍近く歳の差を付けられてしまったが、見た目を始めとして大して変わりないように思えた。 再開出来たと思ったらいきなり髭を生やした老人になっていた…なんてことは笑えないので、それはそれで良かった。


「…若さって、何だろうな〜?」


「な、何ですの急に…!」


「いや〜、言ってみただけだ〜」


「…何なのでしょうね。 私にも分かりませんわ」


「ん〜?」


 怒りが収まったのか、憑き物が落ちたような顔でリィルは微笑んだ。


「失礼しますわ」


「ん〜、リィルちゃんちょっと待てくれ、俺も出る」


 機械から出てくる紙にサッと眼を通したレオンが、リィルの後に外に出て隊長室の扉を閉める。


「ま〜何だ、ちゃんとノックしてから入ってやってくれ〜、な〜?」


「分かっていますわ、それでは」


「お〜お〜、じゃ〜な〜…さてと」


 今日は思っていた以上に書類が多くて疲れてしまったので、トウガの店には足を向けずにそのまま501号室ーーー自室へ。

 レオンの部屋には、あまり細々とした物は置いていない。

 それは彼があまりこの部屋を使っていないことを示し、隊長室が行動拠点である以上仕方の無い話ではある。


「…ふぁ〜、ん〜〜っと、よ〜し、寝るか〜!」


 つまり彼がやることは一つ、寝るだけだ。


* * *


 暗闇に、蠢くものがいた。

 魔法陣から現れたそれは、否、解き放たれたモノは、周囲を確かめるように大きく鎌首をもたげると、小さく鳴く。

 溢れた吐息に周囲の緑が、色を失い枯れ果て、小動物が、死に絶える。


 バチッ。


 鬱陶しいと言わんばかりに眼を閉じると、何かが弾けるような音が地を打ち付け、否が応にも眼を開けさせられる。


ーーーまた、始まった。


 忌々しくも、下らない遊びがまた、始まった。


ーーー動かなくては、ならない。


 例えその意思が無くても、“そうなるようになっている”のだから。 “そうすることしか出来ない”のだから。


ーーー?


 ふと、感じるはずのない、『波動』を感じたような気がした。

 懐かしい、同胞の魔力マナを。


ーーー。


 だがそれはすぐに消える。

 きっと、思い違いだ、そうあってほしいという願いがもたらした、幻覚。


 バチッ。


 鬱陶しい催促、だが、あと幾許いくばくか朧の夢に浸ろうと、無理矢理眼を閉じた。

「一二の飛んで、最新話。 取り敢えずここから、行ってみよ~!」


「……コク。 …おー」


「『平和の終わりはいつも突然。 ユミルに迫る、魔の手があった』」


「……『立ち上がるのは彼と…悪魔達』」


「「『次回、Battle of “ASYUTERO”』」」


「さぁてこの次も、サービスあるかも! …って、え? また増えちゃうの!?」


「桜花が舞い飛ぶ浪慢の嵐…お楽しみに」

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