知影の物語
あぁ…何て素晴らしい一日になりそうなんだろ…。
「ん〜♪」
身体を起こした私はそのまま大きく身体を伸ばす。 う〜ん! 朝から元気百倍! 何でこんなにテンションが高いんだって? ふふふ! 決まってるよね! 分からない人は前話参照! 分かった人は前へ進め!
シャワーを浴びるのは鉄則、窓とドアも開けて素敵な日を演出! …ってドアを開けるのは駄目だね、私今タオル一枚だし…私の身体は弓弦のもの、キャッ♪
「…すぅ」
…襲いたい。 この寝顔を私だけのものにしたい…って思えるほど弓弦の寝顔は可愛い。 無防備なんだよ!? いつものキリッとした顔もカッコ良くて素敵だけど、寝ている時だけに見せるこの、愛らしい顔! ゾクゾクゾクって、キュンってしちゃうんだよ!? ほら見てよこの犬耳ッ! 私は犬耳っ子属性はないんだけど、弓弦に生えている犬耳は萌えてしょうがない! そう、私が愛する属性は弓弦属性! 弓弦の全てが大好きなの! 若い女の子がイケメンの男を肯定するように、私も弓弦を肯定する!
…え? 弓弦がイケメンかどうか、分からないって? 恋愛補正が掛かっているとは言っても弓弦は、イケメンだよ! 可愛い顔をしているし、最高にカッコいいよ! アイドルにもなってたかもしれないくらいカッコいい! カッコ良さのレボリューションだよ! さらに、シャツから僅かに覗く腹筋! ギリギリ見えそうで見えないこの感覚、チラリズム! それでも鼻血モノだけど…っ!
「……ん…」
「……!!!!!!」
キャーッ、キャーーーッッ!! 凄い! ボディビルダーの人みたいにムキムキ過ぎないのがさらに良い! カッコいいよぉぉぉっ、はぁ、はぁ…っ♪
「……すぅ」
襲いたい…でも、隣にはフィーナがいる…。 何なんだろこの女狐…いや、雌犬かな。 突然弓弦と私の間に入って来たと思ったら急にお姉さん面…しかも弓弦に信頼されていて、私と二人で寝ていた時よりもずっと安心して寝ていて…そのくせ私よりスタイルが良い。 腹が立つ。 何このキャラ…金髪!? 翡翠眼!? 犬耳が性感帯気味なハイエルフ!? どこのデビルーク星王女の尻尾!? ちょっと触られたぐらいであんな変な声出したりして…あざといよ、あざと過ぎ! わざと出してるんだよ絶対! 弓弦は! …弓弦は…うん、性感帯だよねきっと…じゅるる。 お、思いだじだだげで涎が止ばだない…っ。
っ、それよりフィーナだよフィーナ! 基本魔法は全種類使えるらしいし、馬鹿みたいに強いし、声も良い…あの声だったら演歌とか上手そうだよね…眼鏡も似合いそうだし…属性多過ぎるよ。
さらにさらに? 弓弦にだけ愛称で呼んでもらって? 自分はご主人様って呼んで? 首輪? 私は駄目な犬ですご主人様!? おかしいよ! 自分の変な性癖を私の弓弦に強制しないでよね! 本当に、うん! 皆もそう思うよね!!
そもそもだよ、フィーナって218歳なんだよね!? 私より200歳も年上…本当はお婆ちゃんなのに何であんな若く見えるんだろ…年齢のサバ読み? だとしても普通は逆だよね。 英雄…らしいし。
あ、でも私だって本気を出せば時を止められるんだから、フィーナも出来るのかも…チートだ。
さてさてさてはて。
「……何をしているの」
「ん? フィーナの暗殺」
「…本人に堂々と言うのね。 取り敢えずその短剣…しまってもらえないかしら」
寝首を掻いてやろうと思ったのに寸前で起きられた。 惜しいな…後少しだったのに。
「それより知影、何て格好をしているのよ。 浮かれるのは分かるけど、はしたないから止めなさい」
押し切れると思ったけど、駄目みたいだった。 …というか、一向に押し込めない。 …失敗だ。 しかも怒られたよ。
「は〜「伸ばさない」…はい」
しょうがない。 弓弦が起きる前に着替えなきゃ。 フィーナはフィーナで風音さんの所に行く準備してるし。
「弓弦はどんな服が好きかなぁ…?」
「私に訊くものなの? ご主人様のことは殆ど知っているのでしょう? でも…そうね、あなたが着てみたいものを着れば良いと思うわよ?」
私が着たい服は、弓弦が見たら見惚れてしまう服。 つまり、
「まさかとは思うけど、人に見せられないような服を選ばないように。 例えばご主人様が恥をかくような服をね」
…むぅ、下着は駄目か。 まぁ確かに人前では歩けなくなるけど。
「じゃあ…これなんてどうかな?」
箪笥から取り出したのは、ちょっと懐かしい服。
「…!!!! 神代高校の制服ね。 ふふっ、あなたらしくて良いと思うわ」
高校の名前、弓弦から訊いたのかな。
「うん。 じゃあこれにしようかな」
久し振りだなぁ…もう一年ぐらい経つのかな。
「私はそろそろ行くわよ。 折角の誕生なのだから、ご主人様に目一杯甘えておきなさい」
「うん」
アドバイスキャラの立ち位置…サブヒロインの立場にフィーナをさり気なく据える作戦…というわけではないけど! …って、私どちらにせよ悪い女に映りそうで怖いな。 で、も、弓弦が良いのなら、それで一番! うん!
「…弓弦」
私の大好きな弓弦。 フィーナがいなくなったからなのか、少し拗ねたような寝顔になってる…可愛いっ♪
そうだ、
「襲おう」
「駄目よ」
ちっ。
「…言い忘れていたのだけど、大人しく待っておきなさい。 制服にシワが寄ったらみっともないでしょう?」
「……」
反論出来ないのが悔しい。 はぁ、座って待っとこうかな。
…。
…眠たくなってきた。
……。
…起きてなきゃ、駄目だよね。
………。
…駄目…。
背中に微かな重みを感じる…って、へ?
「…ッ!?」
「ん、起きたか知影」
「時間は!?」
「九時だから丁度だ」
良かった…一分一秒も無駄にしたくなかったから…。
「俺の方も用意が終わってるから、知影の用意が終わり次第、すぐに行こうか」
「もう出来てる。 早く行こうよ」
「そうか」
弓弦も制服を着ていた。 多分私が着ていたのを見て着たんだけど…二百年振りになるのかな、弓弦にとっては。 あれ、じゃあ私の背中に掛かっていたのって…!
「…ぁ」
「? どうした?」
既に時遅し。 弓弦が制服の上着を羽織って身なりを整える。 神代高校の紺色ブレザーから覗く白のシャツとネクタイ…あの時駄目になった服を直してもらったんだっけ。 地味に軽く着崩しているのがカッコいい…♪
「ううん、犬耳はどうしたの?」
「魔法で隠してある。 あまり人に見せるようなものではないしな」
魔法使いこなしてる。 ハイエルフって凄いなぁ。
「あれ? いつも着けてるベルト、それだったっけ?」
「…ん? あぁ、ベルトは新しくしたんだ。 前のと大して変わってないと思うが…よく気付いたな」
「当然。 私の記憶力、馬鹿にしたら駄目だよ?」
一度見たものは忘れない。 それが、弓弦に関することだったら尚更…ね?
「ねぇ弓弦」
「何だ?」
「今日一日は、私の弓弦…だよね?」
「誕生日だからな。 知影は皆と一緒にいるよりかは、俺と一緒にいたいんだろ?」
「…分かってるのなら私だけを見てくれれば良いのに」
私がどれだけ切ない思いをしているか、分からない弓弦じゃないのに…ううん、分かってるんだよ。
「…それは」
「無理だよね…分かってる」
全部全部ぜぇ〜んぶ、あの女狐達が悪いってこと、分かってるよ。 弓弦はこれっぽっちも悪くないのだから。
「全然分かってないだろ? 全部俺が悪いんだ。 決められない俺がな」
「弓弦は悪くない! 全部あの女ぎ」
バンッ。
「知影」
「…ごめん」
鼻先にまで迫る弓弦の顔。 私今…弓弦に壁ドンされてる…っ♪
『…こうでもしないと気を紛らわせれないからな…はぁ』
眼の前に弓弦の唇…っ!
「ん…っ、キスして良い?」
軽く重ねると、甘くて柔らかい感触…うん、癖になるよ、これ。
「…した後に訊くな」
「本番のキスだよ。 ふっか〜いキス」
「誰がするか。 …そんなことより、どこに行きたいんだ?」
「そんなことじゃないよ。 弓弦分を補充しないと私死んじゃう」
「はぁ…。 好きにしろ」
「やった♪」
許可が下りたのなら、遠慮無く堪能しないと♪ 兎に角深く、弓弦の口の中全てを舐めるように…あ、ビクッてなった♪
「ん…ん!? んむぐ…っ、ん、んん!!」
『ち、知影! 激しいから! 止め…ろぉ…っ』
これを止めるなんてとんでもない!! そうだよね! このまま押し倒して…!?
「ん…っ、んあっ!?」
ゆ、弓弦の攻めが…激しいよぉ…っ♪ 嘘だ…私の方が優勢だったはずなのに…ぃっ!!
…あ♪ だ、駄目…立ってられない…!
「…ぅぅ、負けた…ズルイよ弓弦、私の弱いところばっか攻めて…♪」
「自業自得だ。 ハリセンで叩かなかっただけありがたく思ってほしいものだがな。 …ほら、立てるか?」
「…ごめん」
膝に力、入らない…だから、
「おんぶして」
「断る」
「お願い」
「嫌だ」
「何で?」
「知らん」
『胸が当たるし、流石に…って、覗くな!』
むぅ…ガードが堅い。 どうにかして攻略したいけど…どうすればおぶってくれるかな?
あ、そうだ、
「今日は私の誕生日」
「…はぁ、それで?」
「甘えさせてよ…ね? ぎゅ〜って掴まるから♪ 私の身体、柔らかいよ?」
「……」
眼を閉じて、暫く考える弓弦。 唇奪いたいなぁ。
「分かった」
「そこを何とか…へ?」
良いの? 良いの!? しちゃうよ! ぎゅってしちゃうよ!? 良いんだよね!!
「よ〜し! せ〜の!」
「はい、立てたっと」
おんぶしてもらおうと立ち上がった途端、ポンッと肩に手が置かれた。
「へ?」
「だから、もう立てるだろ? ほら行くぞ」
そのまま流れるように、私を自分の下に引き寄せる。 耳元に直接届く弓弦の吐息…やだ、艶っぽくて…濡…最・高♪
「ねぇ」
「ん?」
「このまま歩いて行こうよ」
「おかしいだろ。 ほら、手を繋ぐぐらいで十分だ」
優しく手を握ってくる弓弦の手が大きくて、温かくて、幸せ♪
そのまま弓弦に手を引かれて私は艦底部へ。 その先には転送装置があるのだけど、どこに行くのかな?
覗いちゃうとつまらなくなるから、弓弦の心は覗いていない。
弓弦の心を覗けるのって、もう私だけじゃないんだよね。 フィーナも、風音さんも覗くことが出来る…何か寂しいなぁ。 こっそり覗こうとしても、フィーナがさり気なくブロックするんだよ。
しかもフィーナの場合、ハイエルフだけにしか使えない“テレパス”っていう魔法で結び付きを強くしているから私よりずっと長距離で覗く…というか、会話が出来る。
私や風音さんは、心というノートに伝えたいことを書いて、それを弓弦に読んでもらうっていう筆談に近いんだけど、フィーナのは…フィーナのは完璧な念話だよ? …差があり過ぎないかな? ねぇ、そう思うよね?
弓弦が転送装置に界座標を入力していく…【27314】、確か…そう、ホワイトデーの日に弓弦が行った世界だ。 あの時は弓弦の様子を見に行っただけだから町の景色を少し見ただけなんだけど、デートにはもってこいの場所かも。
デート、デートデートデート! 弓弦と二人きりのお出掛け…あ〜んなことやこ〜んなことをして、最後は夜通し…ふふふ♪
「よし、やってるみたいだな」
「やってるって…何が?」
転移した先の町は魔法文字工場に登場しそうな賑やかな町。
まさか、何かお祭りでも開かれているのかな? どんなお祭りだろ?
「『迫〜るカブ祭り』だ」
「へ〜…良いの?」
「何がだ?」
だって…ねぇ? でも、弓弦が気にしていないのなら良いかな。 何とか一位になれれば、新しい武器とか貰えたりして…ふふふ♪
「参加するか?」
「うん!」
「狙っているのは?」
「分かってるでしょ?」
「一位か?」
「勿論♪ 私と弓弦のコンビネーション、他の参加者に見せてあげようよ♪」
「個人戦ということ、忘れていないよな?」
「へ?」
ドウイウコト? 二人一組の共同作業じゃ…うん、違ったね。
「知影が一位を目指しているのならライバルになるな」
「ん?」
ライバル? 何それ、美味しいの? 私が弓弦と戦うなんて…!
「はは、勝負するか? 何かを賭けて」
「じゃあ弓弦の貞操!! 私弓弦のっ!?」
バチーンッとハリセンが私の頭を叩いた…痛い。
「あげる必要性をまったく感じないな。 それに、それ相応のものを賭けないと釣り合わないと思うが?」
「うん、だから私の全て」
これなら丁度釣り合うよね。 私は弓弦とエッチして、弓弦は私を自分のものに出来る…完璧だよ♪
「…そうまでして欲しいものなのか? 自分で言うのも何だが、そこまでの価値は無いと思うぞ?」
「あるよ。 弓弦の童貞だもん。 何物にも代え難い価値があるよ。 一回だけなんだよ? 最初の、一回きりの、大切なものだよ」
「なら、あげられないな。 そうも大切なものと言われると尚更な?」
むぅ…逆手に取られた。
「…なら何だったら釣り合うの?」
「今あげないと言ったばかりだが?」
「もし賭けるとして、私が何を賭ければ釣り合うの?」
「そうだな…無いんじゃないか? そんなもの」
…その言い方は、無いと思うな。
「誤解するなよ」
次の瞬間、私は弓弦の腕の中にいた。 弓弦の香りと心臓の音、沢山の弓弦に包まれて頭がクラクラする。
「価値が無いんじゃなくて、価値があり過ぎるから絶対に釣り合わすことが出来ないんだ。 大切だから、壊したくないんだ…宝物だから、側に置いておきたいんだ。 な?」
あの時も今も、いつでも、何度でも覚えている…弓弦への、想い。 大好き…っていう、彼にしか抱けない想い。
「なら、受け取ってよ。 私の…大切な、大切な、弓弦にだけ受け取ってほしい贈り物」
君だけなんだから。 いつも私を受け入れてくれる人は…君だけなんだから…っ。
「悪いな…もう、貰ってる」
「え…?」
「何を?」…って訊けなかった。 強く抱きしめられて頭がもっとクラクラして、思考が弓弦色に染まっていく…。 弓弦、弓弦、弓弦って…いくら考えても出てくるのは弓弦という言葉だけ。 全部が弓弦…弓弦が弓弦で弓弦だから弓弦になって弓弦は弓弦、弓弦ということで…兎に角弓弦、弓弦、弓弦! 好き、大好き、愛してる、愛しい、愛しくて、激しく…狂おしいほどに彼の側でこの想いを育んでいきたいと、そう思った。
「…ほら、今からはライバルだ。 お互い全力で頑張ろうな」
私を開放してから肩をトンと叩く。
「…ねぇ弓弦」
「…何だ?」
何と無く気付いているのかな、上から見つめてくる表情が真剣なものになる。
「私が弓弦に勝ったら…お願い、何でも一つだけ…言うことを訊いて。 絶対に変なお願いはしないから」
「…分かった」
こうして私の、一世一代のお祭りが、始まる。 覚悟しててね弓弦…絶対に、勝ってみせるから…!
映し出され、迫るカブの映像を球を投げて当てていく。
天才少女知影は何でも出来る。 投げる球は正確にカブに当たっていって、ポイントは溜まっていく。 金のカブは纏めて当てる。 全部計算して投げると、狙いは違わない。 跳ね返ったり、僅かな風に流されて、当たる。
演算速度が、これまでにないくらい上がっていた。 全てが読み通りの位置に。
次に現れるカブの映像の位置も予想が出来て、その通りになる。
時が…視える。 私にも、視えるんだ。 それが私の魔法なんだから。 時を意のままに操れる…なんて、神様みたいなことは出来ないけど少しくらいなら…!
「私にだって、出来るッ!」
キィィ…ンッ! と鋭い音。 同時に周りの音が聞こえなくなる。
カチ…カチ…と、眼の前のカブに時が動き出すまでの時間制限が表示される。 私が至近距離で投げた球もカブの少し前で停止する。
反則だとは思わないでほしいな。 弓弦や隊長さんだって以前使ったんだから、良いよね? ここ、番外編じゃないってことは言いっこ無しだよ。
そして時が動き出す。
停止していたもの全てが動き出して、全ての球が正確にカブに当たって終了。 結果は勿論一位タイ。 二位以下に5000ptの差…流石に勝ちだよね。
『おぉっと!? これは凄い! また今回も優勝を攫っていくのか!?』
実況、あったんだ…? 今回も? だって私今回が初めてなんだけど…!?
「てりゃぁぁぁっ!!」
唸る豪速球。 甲子園に連れて行ってくれそうな球を投げた主は…やっぱり、
「次は…そこだぁぁあッ!!」
迫るカブ祭り…跳ね返った球がカブに当たっても点数になるお祭り。 つまり、一つのボールでかなりの数のカブが纏めて当たる。 コンボが重なってポイントがどんどん入っていく。 私のポイントにも追い付いてそして、
「……ッ!!」
跳ね返った球を正面に受けた。
静まり返る周囲の中、弓弦の身体がふらついて…膝をついた。 同時にブザーが鳴る…それが終了の合図だった。
『何と! 同点です!!』…って聞こえたけど、そんなことは今どうでも良かった。
「…つぅ…っ、同点…か」
周りの人達には不運で当たってしまったように“見えた”。 私も危うく、そう騙されそうになった。
弓弦の心を覗いたら、それは分かった。
「商品は二分割だな。 …はぁ、後一個でも当てれれば勝ってたはずだが…中々悔しいな」
「…何で」
「ほら、行くぞ知影」
「大切だから、壊したくないんだ」…弓弦の言葉が私の中で反芻されていく。 弓弦は私が何をお願いしようとしていたか分かってる。 分かっているからこそ、こんなあやふやな結果にした。
商品を二人で受け取って、ベンチに座る。 弓弦がクレープを買ってくれたけど…それなりにしか嬉しくなかった。 いつもだったらもっと嬉しいはずなのに…少しだけしか。
「美味しいか?」
「………」
分かってるよ。 ど〜せ、私のお願いなんて訊きたくなかったんだよ…ほら、今だって私のことなんかそっちのけでクレープ食べてたかと思ったら、爽やかな笑顔を向けて「美味しいか?」だって? ちょっとそういう笑顔を見せたからって私の機嫌取りになるなんて思わ…ぅぅ…っ、嬉しい…ご機嫌になっている私がいるよぉ…っ。 反則だぁ…っ!!
「……」
「…食うか?」
「うん」
ぁぁぁあっ!! 頷いちゃった…私の馬鹿ぁぁっ!!
「ほら…って、おい!?」
ゆゆゆ、弓弦の唾液が付いたクレープ…♪
「はむ…ん〜♪」
嗚呼、何という残念娘、知影なんだろう…美味しいよぉ…っ♪ 弓弦の唾液という最高のトッピングが堪らない…っ(※個人の感想です)
「…じゃあそれは良いから、そっちのをくれ。 それで良いだろ?」
「だが断る。 どうしてもと言うのなら、私から奪ってみよ!」
奪った瞬間時を止めて取り返してやる…! ついでに弓弦の唇も奪うよ私は!
「ほらほら、要らないのかな〜? 私食べひゃふむぐ!?」
…はい?
「…これだけ食べれば十分だ。 後は好きに食べてろ…っ」
え? え? 周りの皆がニヤニヤしてる…え? ちょっと待って、知影ネットワークを構築してるから…と知影は知影はネタを入れてみたり…?
「ほら! 何固まっているんだ! 早く…早く食べてくれ…っ」
弓弦が、自分から…私、何も言ってない…何も促してない…弓弦が、自分からやった…弓弦が私の口内からクレープを持っていった…弓弦が、自分から…私に舌を挿し入れた…弓弦が…弓弦が…弓弦が…!
「…弓弦、もう一回…やって?」
「だが断る。 もう十分だと言ったし、通行人の眼の毒になるからな。 後は勝手に食べとむぐっ!?」
弓弦が弓弦が弓弦が弓弦が弓弦が弓弦が弓弦が弓弦がぁ…っ♪
「どう?」
やられたらヤリ返さなきゃね?
「…知らん」
『何をやってるんだ俺は…はぁ』
ふと、思ったんだ。 もしかして私達って…結構なトコまで行ってたりするのかな? そりゃあ私も時々記憶が途切れているような気がする場所はあるけど…私のバージンって…まだあるのかな?
「ねぇ弓弦、科学の力って凄いよね」
「あぁ、そうだな。 今のご時世何でも出来るとか何とか言われていたからな」
「ねぇ弓弦、魔法の力って凄いよね」
「あぁ、そうだな。 常識じゃ考えられないようなことが普通に出来るからな」
「ねぇ弓弦、お酒の力って凄いよね」
「あぁ、そうだな。 朝起きたら何故かお互いに裸っていうことがあるからな」
言質を取った。 そっか、そっ…かぁ…♪ そうなんだね…そうなんだよね?
「…ん? 今俺何て…っ!? おい知影。 良いか、今聞いたことは全て忘れろ! 俺は何も言っていないからな!! そんな勢いに任せてとかはしていないから!」
「分かってるよ。 弓弦は私と、既に結ばれてたんだね…ふふふ、嬉しいなぁ…っ♪」
私、知らない内に大人の階段を登っていたみたい♪
「俺はしていない!! 勝手にフィーと結託して無理矢理していただろうが!! って、違ぁぁぁぁぁぁうっ!?」
無理矢理…ふふふ、良い言葉、凄く良い言葉…♪ 周りの人が私を見て少し後退っているような気がするけど…ふふふ、これは弓弦に責任をとってもらわなくちゃいけないよね? そうだよね? ね? ね?
「な、なな何てことを…ずっと隠してきたことがこうもあっさり暴露…!? 冗談じゃないぞこれは!! 俺は健全なお付き合い…? 健全なお付き合いって何だ…はは、お付き合い…?」
「弓弦♪」
これって私の勝利だよね? 私、弓弦と結婚出来るよね? 勝ったんだよね…やったぁ♪
「こ、こうなったら…」
「結婚、しようよ。 良いよ私、待ってたんだもん」
「……」
やっとだよ…これで物語はハッピーエンド。 私と弓弦が結ばれて、子どもと一緒に一家で仲良く暮らしていくの。 ハッピーエンドだよね? うん…! ありがとう皆、ありがとう…! 敗れていった人達のこと、時々思い出すから…だから私、幸せになります…っ♪
突然、瞼が重くなり始めた。
…あれ? 何だろ…幸せ過ぎる…からかな…眠たくなって…きちゃった…。 きっと次眼が覚めた時から私達の新たな物語が始まるんだよね…なら、今の内に言っておかなきゃ…!
これが私の、物語だよ…♪