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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
平和な毎日
116/411

セティ、始めてのおつかい

「セティ、買出しを御願いしても宜しいですか?」


「…お使い?」


 502号室、セティと風音の部屋で暫く寛いでいた俺達。 昼からどうするか…とぼんやり考えていると、風音がそんなことを言った。 …どうでも良いが、こうして俺がこの位置にいるのは久し振りになるな。


「はい。 豆腐や葱を切らしていまして…行って頂けませんか?」


「…コク」


 セティは頷く。


「俺も行こうか? 切らしているの、食材だけじゃないだろ?」


「…大丈夫…私一人で…行く」


『クス、心配ですか?』


 …いや、そういうわけではないが、荷物持ちはいた方が良いよな?


「本当に大丈夫? 無理しては駄目よ?」


「一人で…頑張る」


 やる気に満ちている様子だ。


「では…このリフトに書いてあるものを買ってきて下さいね?」


 風音の流麗な文字で書かれた“リスト”を受け取ってまじまじと見つめるセティ。


「なになに…豆腐、葱、茶葉に醤油に味醂みりんに洗剤、石鹸…風音さんが一度にここまで切らしているのって珍しいね」


 知影が俺の身体を跨ぐようにリストを覗き込む…あらぬ方向を見て事前に対処。


「……行ってくる」


 そう言うと、セティは扉を開けて外へと出て行った。 …一人で出来るだろうか?


「買い物ぐらい出来ると思うよ? そんなに心配する必要あるかな?」


「風音、あの子にお使いを頼んだのは?」


「今回が初めてですよ。 何時もは私が参りますので…」


「だが何でまた、今日頼んだんだ? 彼女抜きで話す必要がある話でもするのか?」


 それに話すような話なんて…あったか?


「そうですね…例えば…」


 視線を落とした先には俺とフィーの左指。 しまった、戻し忘れていた。


「クス、冗談です。 では私達も、そろそろ参りましょうか?」


 助かったようだ。


「参るって…まさか」


「はい、そのまさかですよ♪」











「だ〜れに〜も〜な〜いしょ〜でっ!?」


 突然歌い出した知影をハリセンで叩いて黙らせる。 いや確かに合ってるが…アウトである。


「…しっ、ご主人様静かにお願いします」


「す、すまん…」


 …くそ…っ、知影め…。


「恋か〜なピンッと〜き〜たらっ!?」


「…弓弦様、気付かれてしまいますよ?」


 またハリセンで知影の頭を叩いてしまい、今度は風音に咎められてしまった…。


「…待って、あの子何か歌ってる」


 フィーの言う通り、まず最初に石鹸と洗剤を買いに行ってる様子のセティの口が、小さく動いている。 …辛うじて聞き取れる。 どれどれ…?


「‘…お〜で〜か〜け〜だ〜ろ〜、ど〜こに、い〜こ〜か〜な〜’」


 セリスティーナ、お前もか。


「…おかしい、俺の聞き間違えか?」


「…私にもそう聞こえました」


「クス、楽しそうですね」


 楽しそうなのは結構だ。 だが、何で知っているんだ?


「世界が終るまでは〜っ!?」


 ハリセン。 …この馬鹿は何とかならんのか?


「…知影さんは先程から何を歌っておられるのですか?」


「知らないわ。 あ、中に入ったわよ」


 洗剤と石鹸、醤油と味醂を雑貨屋で購入したセティが今度は八百屋に入る。 それを物陰から見守る四人…怪し過ぎるな。 一定の距離を置いているからまだ気付かれていないみたいだが、知影のボケに逐一ツッコミを返している状況、見つかるのも時間の問題かもしれない。

 よし、次のボケは全力無視に努めよう。 そうすればリスクは十分減らせる。


「…あんなに持って、重くないかしら? 転けたりでもしたら一大事だわ…何か手伝えないかしら…」


「もし転けそうになったら風魔法で何とか出来ないか?」


「駄目です、気付かれます。 …が、いざという時には使います。 魔力マナの調節が難しいのが難点ですけど」


「俺も手伝うよ。 俺が出力、フィーが調節でどうだ?」


 合体魔法だ。 これなら確実な形でセティの転倒を防げるだろう。


「くだっくわれぇた、夢を拾いあ〜つめて〜♪ 俺はさすらう〜あってぇない〜旅を〜♪」


 …知影の歌が二番に突入したみたいだ。 確かに関連性はあるが、当て付けのように耳元で歌うのは止めてほしい。 こそばゆいし、変や気持ちになる。


「…? セティが誰かを見つけた様です」


 風音の視線を追っていく。


「…マジか」


 思わずそう言ってしまった。


「お〜ま〜えを見っれぇば〜くぉ〜くぉ〜rrrろぉがかぁわぁっく〜♪」


 いい加減ツッコミを入れたくなってきた知影が歌う歌に引き寄せられたのか、やつはいた。 硝煙を背負い、そこに立っていた。


「‘…何でここにいるの?’」


「‘………’」


「‘…無言?’」


「‘……休暇だ’」


 いつも通りの接し方だ。 無口気味な二人が集まり、その場所だけ空気が静まっている。


「じ〜ぐぉっくぅ〜を見〜むぐっ、ん〜!」


「おい知影、お前の所為でカザイが来てしまったじゃないか、いい加減止めろ、な?」


「ん〜! …れろ」


「な…っ」


 知影の口を手で塞ぐと、舐められたので手を離す…この変態め、平気で人の手を舐めるとは…っ。


「‘買い物か’」


「‘……コク。 …一人で…買い物’」


「‘そうか’」


 チラリと俺達の方を見たから、カザイは気付いているのだろう。 そこで会話を打ち切って、固唾を飲んで様子を見守っている俺達の下へと歩いてきた。 セティも買い物を再開する。


「邪魔をしたな」


「いや、非は…こいつにある。 気にするな」


「そうか」


 そう言い残し、カザイは歩いて行く。 隊長室へと向かっているのか、角を曲がる姿を見送ると少し、むせたような気がした。


「今気付いたんだけど」


 知影が俺の、左手を持ち上げる。


「この指輪…何?」


「最近指輪にハマっているんだ。 嵌めるだけにな?」


 …どうだ?


「そうなんだ。 ふ〜ん」


「…弓弦様、寒いですよ?」


 笑顔の風音。 眼がまったく笑っていなくて、相変わらずギャグに厳しいやつだ。


「…次、不愉快な発言をされたら、私が弓弦様にとって不愉快な行為をして差し上げます」


「…例えば?」


 俺にとって不愉快なことか…一体何だ? …風音の心をこっそり覗いてみる。


『クスッ♪ もし仰ったのなら、その日一日中、楓として生活しましょう♪ 残念ながら、拒否は許しません」


 不愉快というほど不愉快ではないような気がする。 あれはあれで、楽しいしな。


「……〜っ!!」


「風音? 赤くなってどうしたの? ご主人様も、置いていきますよ」


 慌てて合流すると、セティは豆腐屋へと入って行くところであった。


「…想像は出来るけど、触れてほしい?」


「…いえ、触れないで頂きたいです」


「そう、なら止めておくわ」


 視線をセティに戻す。 豆腐を真剣に一つ一つ吟味している姿が微笑ましい。 …そればかり考えているな、俺。


「…無事に終わりそうで一安心ね…ふふ♪」


 フィーもまた微笑みを浮かべながら彼女を見ている。 


「…では私は、御洗濯がありますので先に戻ります。 宜しいですか?」


「じゃあ俺も、戻るとするか。 フィー、カードキーを渡してくれ」


「はい、どうぞ」


「あぁ、ありがとな。 …風音、行くぞ」


「畏まりました」


 二人と別れて風音と自室への通路を歩く。


「では…」


「あぁ」


 彼女と別れてカードキーを挿し込み、自室へ。 …フィーか知影が朝、掃除したのだろうか机の上や部屋は片付いていた。 “アカシックボックス”を使い装束をしまうと、シャワーを簡単に浴びて身体の汚れを流してから脱衣所に出た。

 身体を吹いている時に部屋の扉が叩かれたので、タオルを腰に巻いて扉を開ける。


「橘殿、少し良いだ…ろ…ぅ…」


「…ん、ユリか。 どうした?」


 顔が赤い。 一体どうしたのだろうか?


「…う、そ、そのだな…」


 視線があちこちへと動く。 そして俺を見て、下へ。


「ぁ、ぁぅ…っ、服を着てくれ! 眼のやり場に困る!!」


「…あ、すまん」


 扉を閉めて脱衣所に戻り、着替えてから再び扉を開ける。


「いや、別にあのままでもい、いや、う、うむ」


 ? 歯切れが微妙に悪い。


「それで、何か用か? 生憎知影もフィーもいないが」


「その二人ではない。 橘殿に…少し付いて来てもらいたい場所があるのだが…良いだろうか?」


「良いぞ」


 即答する。 少しの時間なら大丈夫だし、断る理由は無い。


「そうか…! 急ぐぞ橘殿」


「え? あ、おい何をそんなに急いで…」


 俺の手を掴むと、引っ張るようにして俺を連れ出す。 柔らかい手だ。 少し、良い匂いもする…って、何を考えているんだ?


「入ってくれ」


 ユリはそのまま503号室ーーー彼女の部屋へと俺を連れて行き、


「ん?「きゃあぁぁぁっ!?」どわっ!?」


 俺を部屋の外に突き飛ばした。 勢いよく壁に叩きつけられて眼の裏に星が見えたような気がする。 いや、その前に何か絵みたいなものが見えたような…? 気の所為か。


「…少し取り乱した。 すまぬ…では改めて、入ってくれ」


「…じゃあ、お邪魔します」


 引き出しや箪笥の一部が妙に膨らんでいるように見える以外は普通の部屋だ。 ユリは机の上に置いてある情報端末を開いて手招きする。 それに従って彼女の下に行く。


「この任務ミッション、一緒に行ってくれないだろうか? む、無理にとは言わん。 だが来てくれれば…嬉しい」


 端末を開きながら、その項目を指で指す。


「どれどれ…『界座標ワールドポイント30588の、とある村の祭りの警備に当たってほしい。 ランクE』か…村の警備にしてはランクが高め気味だが、近くに強力な魔物がいるのかもな。 よし、行くか」


 祭りに興味があるわけではない、大事なことなので繰り返そう。 祭りに興味はないぞ、うん。


「本当か!! 本当の本当に来てくれるのか!?」


「何をそんなに驚いているのかは知らないが、男に二言は無い。 行くよ」


「うむ。 で、では登録しておくぞ…♪」


 カチャカチャとキーボードを叩く指がどこか嬉しそうだ。 ま、喜んでくれるのなら何よりだが…少しだけ、心配が無いといえば嘘になってしまう。


「………うむ! 任務ミッション開始日まであと四日ある。 それまで準備を整えていてくれ」


「あぁ、じゃあ「待ってくれ」」


 知影達のところに戻ろうとしたのを呼び止められる。


「橘殿はその、まだ時間あるか?」


 …どうしたものか。 時間…あると言えるのか?


『良いですよ。 知影は私が何とかしておきますので』


 …“テレパス”でフィーの声が聞こえた気がする。


「…だ、駄目か?」


「分かった。 …で、どこに行くんだ?」


 都合良く聞こえたことにしておこう。 空耳かどうかは分からないがフィーに感謝だ。


「…うむ。 ではこっちだ」


 質問をスルーして背中を向けたユリ…手が落ち着きなく微かに動いているのが分かる…からかってやろうか。


「…手、繋がないのか?」


「何故手を繋ぐ必要があるのだ?」


「いやさっき繋いでいたからさ」


 思いっきり人を引っ張るだけ引っ張って行って、挙句突き飛ばされたが。 …アレ、結構痛かったんだ…。


「…〜っ!! それはきっと橘殿の勘違いだ! 私は手を」


 俺の手を掴む。


「今から繋ぐのだ…っ!」


 ぎゅっと手を握ってくる。 ユリの手って意外に小さいんだな…といかんいかん、殺される。


「‘……ぁぅ…弓弦殿の手…やっぱり大きい…っ’」


「どうかしたか?」


 人の手を握るなり固まって動かないのは若干不気味だ。


「行かないのか?」


「行くぞ! うむ! 早く参ろうぞ!」


 元気だな。 良いことではあるが。


『だが無意味だ♪』


 …おかしいな。 知影の声が…気の所為か。


「橘殿、顔が青いがどうかしたか? まさか…私が強く握り過ぎてしまったか?」


「いや…もう少し強めに握ってくれても良いぐらいだ。 それで、どこに向かってるんだ?」


「この先だ」


 いやそれは分かってる。


「この先と言えば…VRルームか?」


「うむ、正解だ」


 そのままVRルームに入る。


「ん…? ここ、来たことないな」


「そうなのか…ここはVR4、射撃訓練所だ。 私はよくここで射撃の練習をしている。 確か橘殿の武器には銃形態があったな」


「あぁ…」


 剣と銃でガンエッジだったはずなんだがな…何故か薙刀に変形するんだよな。 風音が知っていたってことが一番不思議だった。 一体どうやってそんなことを知ったんだ?


「なら、私と共に射撃訓練をしてみないか?」


 VR空間の入り口を背に仁王立ちするユリ。 光をバックに…というのが様になっている。


「そうだな。 良いよ」


 自然と笑顔に。


「…そういう言葉も、使うのだな」


「? そういう言葉って、何だ?」


「ふっ…では参ろうか」


 中へ入る。 中の端末を操作し、自分の装備の情報を入力していく。 最後に直接、持っている武器を読み込ませて、VR用の武器を作る。


「…? 既に誰かいるみたいだな」


「む? …っ、そう…だな」


 ダンッ! と、よく刑事ドラマで見れるような空間に、無機質な発砲音が響く。 静寂が訪れると、また発砲音。 それ以外は何も聞こえなく呼吸の音さえも、例外ではない。 だがこの静かな圧迫感は何なのだろうか。 群れを嫌う、孤高の者が静かに発する圧迫感は…いや違う、虚無だ。 虚無感なのかもしれない。 あいつの心は、虚無なのだ。 硝煙の中の、虚無。 …だが妙な違和感を感じた。 まるで何かを隠しているような…いやそもそも、何故こんなことを得意気に思えるのだろう、謎だ。


「珍しいな」


 手に持つアーマーマグナムを下ろしてこちらを見る。


「来ていたのかカザイ殿。 しかし何故ここに?」


「……」


「暇潰しか。 休暇…だったよな?」


 ユリが困っているので、話の対象を俺の方へと逸らす。


「そうだ」


「…む? 休暇とは…あるものなのか? 任務ミッションに行かなければそれこそ休暇のようなものだと思うが…」


「話すためにここに来たのか」


「俺は、違う。 彼女がどうかは知らない」


 ユリが向ける抗議の視線を無視。


「……」


「ん、無言…か?」


 暗闇に光る、彼の髪色と同じ蒼の瞳が僅かに感情を帯びたような気がした。 どんな感情かは、分からない…が、確かにそう思った。


「仲が良いな」


 そう言って、向き直る。


「そうか、だとさ」


「…う、うむ」


「じゃ、やるか」


「うむ」


 それぞれのボックスに入り、構える。 ボックスの中に入ると俺からは二人が見えない。 二人もそれは同じだ。 視界に入るのは、人の形を模した的。 急所に当たる部分に赤いマーカーが現れている。 まぁ、要はそこを撃てということだ。


「…っ!」


 照準を合わせて、撃つ…これが中々難しいもので、微妙にズレる。 実際の戦闘中は牽制程度にしか使っていないから、正確性を持たせてもあまり意味は無いと思っていた…が、我ながら酷いものだ。 


「…!!」


 それに比べて、ユリは流石スナイパー、と言ったところか。 ここからじゃ、俺の眼でもかなり遠目にしか見えない的を的確に撃ち抜いている…今度ユリに射撃教えてもらうか。 射撃も剣道も凄腕の美郷姉さんの偉大さが分かるな。 …射撃、教えてもらえれば良かったな。


「む?」


 気付かれたような気がするが、顔を引っ込めて射撃を再開。 当たらないのなら、工夫して当てれば良い。 例えば、


『‘思い繋ぎて、誘え…テレポート’』


 魔法陣。 転移のための穴が俺の前に現れる。 穴に向けて銃弾を放つ…見事命中した。 中々使えるぞこれは。


「それで良いのか」


 振り向くと、気配を感じさせずカザイが俺の後ろに立っていた。


「…良いとは思っていないが、当てないよりはマシだろう?」


「ただマシというだけだ」


 何が言いたいのだろうか。


「精密射撃の場合、片手で撃つのは単なる無駄弾だ。 両手を使え」


 アドバイス? 兎に角、言われた通りに両手を使う。 引き鉄を引く手と、銃口を支える手…ライフル銃で撃つ時の感覚だ。 引き鉄を、引く。


 ダンッ!


 命中。 それも、的の中心に、狙った通りに飛んだ。 成る程、ズレはそのまま、ズレだったというわけか。


「その感覚を忘れるな」


 そう言い残すと、出口へと歩いて行く。 


「後で俺の部屋に来てくれ」


 背中に向かって俺は話し掛けた。


「……」


「お礼というのも何だが、コーヒーを用意しておく」


「貰おう」


 温かみを帯びた声音だったような気がする。 俺の言葉に何を思ったのだろうか…いや、俺の勘違いだろうか?

 彼の背中は何も語らない。 ただ、何かを背負っていた。 戦場、いや、瓦礫の山の住人が纏う死臭。 死に最も近く、また、死に最も遠い。 …言うならば、死の水先案内人。 背負うものは多く、語るものは、少ない…だがそれが逆に、底無し沼から抜け出そうと必死に足掻くように。 血にまみれながら無様に慟哭どうこくするように、何かを語っている…そんな、そんな謎の予感が、俺の心の中を妙に燻らせた。

 …だから何でこんなことを得意気に語っているんだ? まるで誰かに無理矢理話させられているみたいだ…? いや、違う…きっと、あの男が放つ硝煙の香りが俺にそうさせたのかもしれない。


「…橘殿?」


 少しの間放心してしまったみたいだった。 いつの間にかユリの顔が正面に。


「…良い香りだな…って、何言っているんだ!?」


 嗚呼、虚しい。 一人ツッコミ、虚しいな…。


「わ、私に聞くな!! …だが良い香りか…う、うむ…っ」


 嬉しがっている…のだろうか? いや違うな、気味悪がってる感じだ。


「もう射撃練習、やらないのか?」


「うむ、満足だ。 私達、二時間ここにいたのだぞ?」


 嘘だろ。 どれだけ熱中していたんだ俺…。


「次はVR2だ! 参るぞ橘殿!」


「おわっ!!」


 楽しんでるなぁ…悪い気は、勿論しない。


* * *


「うむ! 一度しっかりとした一対一で橘殿と戦ってみたかったのだ…!」


 所変わって、VR2。 それぞれの武器を構えながら、俺達は対峙している。 対峙しているといっても、距離は物凄ーーーーーーーーーーーく遠い。 通信で聞こえてはくるが、遠過ぎて見えない。


「しっかりとした…か。 で、どうするんだ?」


「純粋な勝負だ! うむ!」


 純粋な勝負…か。 この距離…いや、何も言うまい。


「準備は良いか?」


「うむ! 全力で来てくれ!」


 全力で来てくれと言われてもな…実際どれだけ距離が開いていても、隔絶された空間である以上、ユリの魔力マナを頼りに“テレポーテーション”で転移して肉薄することも不可能ではない。 魔法と弾丸の雨嵐をプレゼントすることも楽々である。 …我ながら下衆な発想だ。


「行くぞ!」


「…っ!!」


 遠くにキラリと光る物体。 銃弾だ。 確実に俺の急所を狙っており、正確な狙撃である。 それが…凄い数だ。 避けても、“プロテクト”の応用を用いた跳弾が俺に襲い掛かる。 …うん、正直舐めて掛かっていたな。 “クイック”を使って加速。


「シフト!」


 銃口を前方へ。 “テレポーテーション”の魔法陣を多数出現させて、対象座標を眼前の光魔力(マナ)ーーーユリの周囲に多数展開する。


一斉発射フルバースト!!」


「な…っ!?」


 きっとユリの下には様々な角度から銃弾が襲い掛かっていることだろう。 …下衆なこと、この上ないが一応それなりに頑張ろう。 …負けず嫌いなんだ、俺。 …今更か。


「シフト! …“テレポーテーションッ!!” はぁぁぁっ!!」


「橘殿!? 一体どこから…つ!」


 肉薄、接近戦に持ち込む!


「…だが、読み通りというものだ!」


 スナイパーライフルを俺の額に向ける…転移して回避。


「ふっ」


 それを見てユリが鼻で笑う…転移した先には、“クロイツゲージ”が仕掛けられていた。 良い読みだ…だがっ、


「ッぅぉぉぉぉッ!」


 気合いで弾き飛ばす!


「ならばこれで!」


「遅いッ!」


 ユリがライフルを構えるのを下に潜り込んで、右足で蹴り上げる。 銃弾は天高く飛んでいく。 


「俺の勝ちだな」


「いや違うぞ」


 左手に持ち替えた剣で逆袈裟に斬ろうとしたところで、ユリが笑った。


「引き分けだ」


 先程撃ち上がった銃弾が落ちてくる。 …特殊狙撃弾だ。 距離をとる前に、ユリが俺の身体を抱きしめた。


「な…!! 道連れということか!」


 “テレポート”で逃げることも出来なくはなかったが何というか…うん。


「…弓弦殿の身体、温かいなぁ…っ♪」


 そういえばユリの胸って、成長しているんだったな…とわ銃弾が地面に落ち光を放つのを見ながら、俺は身体に触れている柔らかい物体について考えていた。


* * *


「ふぅ、良い汗をかいたな橘殿!」


「…そうだな」


 結論だ、凄く柔らかかった。 フィーに勝らぬとも劣らぬ大きさ…うむ、見事。 …なんて誤魔化してはみるが…無駄か。 それに変態っぽく聞こえる。


「またいつか対戦する! その時は、私が絶対に勝つからな! うむ!」


 元気なユリはそのまま手を振って…胸を揺らして、帰って行く。 俺も、この後のことを考えながらトボトボと自室に戻るのだった。

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