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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
指揮訓練任務編
109/411

支配の…胎動

 楓は元の場所へと戻っていた。


「…あれで良かったのでしょうか?」


『さて、な。 だが先への進み方が分かったんだ。 進むぞ』


「…畏まりました」


 ヴォルダーと呼ばれていた騎士がしたように、肖像画と壁の隙間にあるスイッチを入れて隠し部屋への通路を開く。


『…アンナの魔力マナはあの先から感じる。 警戒を怠らずにな』


 隠し部屋への通路を進む。


『…穢れた魔力が集まってきたな。 来るぞ…!』


 通路に充満する腐敗臭を“エアフィルター”で遮断しながら奥へと向かっていくと、道に転がる骨が動き始める。


「…っ、焔よ!」


 あまり眼によろしくないので、視界に入る前に焼き尽くす。 そして隠し部屋へ。


「…またなのですか!?」


『構うな! 突撃だ!』


 転移陣。 最近よく見かける、というか、見る羽目になるそれの中に入りどこかへと転移した。












「「アンナ(さん)!」」


 転移した先は玉座の間だった。 しかし先程の玉座の間や、過去の玉座の間と違うのは肖像画の代わりにアンナが十字架に四肢を光の輪で磔にされていることであった。


「…」


 アンナが瞼を開ける。 鳶色の瞳が“風音”を見つめ、次にその隣に立つ“弓弦”を見て大きく見開かれる。


「貴様…ッ、何故ここまで来た!!」


「プッ…」


 風音がした真似そっくりそのままで、不覚にも弓弦は吹いてしまった。 恐るべし。 


「何故笑う!?」


 案の定、怒るアンナ。


「ここがどこか分かっているのか!!」


「いや、知らないが。 お前を追ってきたらここにいた」


「バカ! …者が!」


 何故言葉を切った。


「…ヤツが、来るぞ…っ」


「ヤツ…?」


「…ルフェぐあっ!!」


「アンナ! 「きゃあっ!?」風音!!」


 アンナに雷が刺さる。 驚いて駆け寄ろうとした弓弦の背後で風音が宙を舞った。


「いけないね。 まだにじ…彼には名乗っていないのに」


 振り返ると、小さな子どもがそこに立っていた。


「さて、会うのは二回目だね…ってその顔は覚えていなさそうな顔だね。 まぁ良いや」


 漆黒の翼を背中に生やして軽く羽ばたかせる。


「僕の名前はルフェル。 君達のところでいう、【リスクX】の悪魔さ」


「…彼女を連れ去ったのは、お前か?」


「クク、そうだ…と言ったらどうする?」


「シフト」


 銃口を向けてトリガーを引く。


「討って彼女を連れ帰らさせてもらう!」


「勝てるかな、今のお前が!」


 翼で銃弾を止める。


一斉発射フルバースト!!」


 発射された銃弾がルフェルへと向かう。


『動きは風の如く加速する!』


 同時に“クイック”で動きを倍速化させた弓弦が銃弾を再充填リロードして背後に回り込む。


「もう一つ、持ってけ!」


 再度、一斉発射フルバースト。 反動を利用して飛び退く。


「…効いてないか」


 銃弾は全て空中で静止していた。


「当然、舐めないでもらいたいね」


 手を天にかざす。


「今度はこっちの番だよ」


 手を振り下ろすと、漆黒の雷が降り注ぐ。 その一つが風音に届く前に弓弦は彼女を抱えて離れた。


「風音、おい!」


 揺さぶるも反応は無い。 その様子を見てルフェルが嘲笑う。


「無駄だよ、結構本気目の睡眠魔法掛けたから。 当分は起きない…クク、そんなお荷物を抱えた状態でこの僕と戦えるかい?」


 再度、漆黒の雷が降り注ぐ。


「まぁ、ムリだけど」


 その内数発が弓弦を貫く。


「ぐあっ!?」


「そら、逃げないのかい? あぁ…逃げられないんだ」


 雷が徐々に収束する。


「止め」


 一際巨大な雷が、風音を覆い被さるようにして守っている弓弦に落ちた。 


「……」


 ルフェルの表情がおかしそうに歪み、そのまま彼は崩れ落ちる。


「…!? ーーーッ!!」


 アンナが声にならない悲鳴を上げながら必死にもがく。


「…しまった、僕としたことがまさか、やり過ぎたか。 困ったな…ここで倒れられ…って、おぉ」


 全身から煙を立ち昇らせながも、立ち上がってルフェルに剣を向ける弓弦。 瞳からは確かな戦意を感じることが出来た。 


「…もう良い…逃げろ…逃げてくれ…」


 立ち上がった彼を見てアンナが涙声で呟いた。


「驚いた。 殺っちゃったかなって思ったから…良かったよ、いやこれは本…」


 どこか安心した表情でそれを見下ろしていたルフェルの表情が翳る。


「……悪い……」


 弓弦の手から、剣が、落ちた…。












* * *


「…弓弦と楓さんって、どうやって同時に倒したんだろ…」


 玉座の間へと続く扉がある橋の上、肩で息をしながら知影が目の前を飛ぶ巨大なボーンドラゴンに弓を向ける。


「…手強い」


「…だな」


 彼女と一緒に敵の注意を引きつけているセティとトウガも同じように肩で息をしていた。


「…っ」


「“ヒール”。 …っ、私の魔力マナはそろそろ限界だ…」


 ディオに“ヒール”を掛けたユリの顔にも疲労の色が見え隠れしている。


「ご主人様はきっと…一箇所に集めた後に強力な光魔法で跡形も無く消し飛ばした…のでしょうね。 だから合体の暇さえ敵に与えられなかった…といったところかしら」


「大人数が仇になってしまったんだな〜…だが今更引き返すなんて馬鹿なことは出来ないからな〜」


 こちらはまだまだ余力があるフィーナとレオン。


「‘ご主人様の魔力マナが急激に弱まった…!?’ っ、誰でも良いから時間を稼いで。 こんな敵、消し飛ばすから…っ!」


 全員が頷いて巨大ボーンドラゴンに向かう。


「あまり使いたくはないけど…全てはご主人様のため。 覚悟することね…!」


 刀を鞘にしまい、眼を閉じてそれぞれ両手を左右に広げる。


『ケシルクンハヤクスイ、ヒグレテレニウソスロギテルチキ…!』


 両掌りょうてのひらから光魔力(マナ)が溢れ始めると、それを重ねる。


『覚悟しなさい…!』


 重なった光が、巨大な剣をかたどる。 フィーナはそれを握り、跳び上がって振り下ろした。


『エクス、カリバーッッ!!』


 弓弦やアンナが使う光剣魔法とは比較にならないほど凄烈な一撃が、ボーンドラゴンを縦から両断し、消し飛ばす。 言葉では表せない断末魔が響き渡り、玉座の間へと続く扉が開いた。


「うわ…相変わらずのチート。 でもこれで先に進めるよ! 凄いよフィーナ!」


「…っ、急ぐわよ!」


「…あ…行っちゃった」


「…!? …ッ!!」


「セティ殿!!」


 フィーナとセティが扉の奥へと走っていった。 疑問に思いながら残った知影達も玉座の間へ。 隠し部屋への道は閉ざされており、先に入ったフィーナとセティが玉座の間、“タイムワープ”が使われた場所に立っていた。


「…どこかへと転移して、戻っているわね…先への通路があるはずよ、探して!」


 その声に各々が、部屋中を調べ始める。


「あるとしたら〜、壁か〜? それとも地下への階段で床か〜?」


 注意深く壁や床を調べても、それらしきものは見つからない。


「…」


 ディオが複雑な表情で肖像画の方へ。 カチッといった音と共に隠し部屋への通路が現れる。


「さ、弓弦がいるのはきっとこの先だよ」


「…ディオルセフ、お前」


 歩み寄ってきたトウガから逃げるように現れた通路に入るディオ。


「イヅ、セティ、待ちなさい!」


「…行っちゃったな〜」


 彼の傍を通り抜けてセティが通路へ、その瞳を焦りという感情で彩らせて奥へと消えた。


「…この先に…狭くて細くて暗くてジメジメして…っ、ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 ユリが謎の雄叫びを上げながら兵隊のように銃を構えて突撃した。 彼女にとって長年開けられていない、今にも霊の類が出る場所は地獄なのであった。


「きゃぁぁぁっ!? 出た、いやっ、やだっ、弓弦殿ぉぉぉぉっ!!」


 極度の恐慌状態から口調が崩れている、続いて発砲音。


「…ユリちゃん……やっぱり弓弦のことが……ふふふ、そっかぁ…っ」


「ハーレム結構〜…は〜」


 追い付いた知影とレオンが乙女な彼女に異なる意味合いを含んだ笑いを向けて足取り軽く通路を進むのであった。











* * *


 ーーー無様だな。


 声が、聞こえた。


 ーーー然し間際の貴様から彼の時と変わらぬ、勁烈けいれつを見た。


 重く響くような声。


 ーーー此処で果てようとは、思わぬな?


 頷く。


「…だが」


 ーーー。


「繰り返すだけだ。 今の俺では」


 ーーー。


「だが…」


 ーーー。


「諦めるわけには、いかない」


 ーーー再び立つ、力が欲しいか?


 嘲笑うかのような声。


 ーーー薮蛇やぶへびか。


「…」


 ーーー力を貸してやろう。


 今度は否定的なニュアンスなど一切無い、甘く誘う言葉でもなく、心から『心配している』と感じさせる声。


「…甘言に俺が頷くと思うか」


 ーーーがえんじられては困る。 我が勝手に使うだけのこと。


「…ッ!?」


 自分の中に眠っている何かが、目覚めた。


 「やめろ…っ」


 底知れぬ恐ろしさに抵抗を試みるも、謎の力に身体の自由が奪われていく。


 ーーー何、暫し借りるだけのこと。 之を一宿一飯の恩義…と人間の言葉では言うそうだ。


 だが、そこには冷たさも暗さも無かった。 まるで…そう、知影や風音が俺の身体を勝手に動かしているようだ。


 ーーーだが代償を貰う。


 言葉こそ不吉そのものであったが、友人に頼むような響きをもって俺の耳に届いた。












「蜜柑を用意しておけ」と。


* * *


「…また立ち上がった。 折角の命、無駄にしない方が良いよ?」


「……」


 今度は先ほどよりも確かな足取りで立ち上がった弓弦にルフェルは面倒くさそうに地に降りた。


「ほら、君からも何か言ってやったら? このままだと僕、彼を本気で殺しちゃうかもしれないよ。 そこの君も」


 雷が落ち、当たった風音が眠りから覚めて立ち上がり、薙刀をルフェルに向ける。


「!? 弓弦様!」


「彼を引き下がらせてくれない? 死ぬよ、彼」


 その言葉に従ったわけではないが風音がボロボロの弓弦に駆け寄ろうとして…立ち止まる。


「…良い」


 弓弦の空いた左手が彼女を制していた。


「あ、そっか」


 何かを考えていた様子のルフェルが手を打った。


「…ぐっ!」


「動けば…彼女を殺すよ?」


「…シフト」


 手刀をアンナの首に当てたのが、始まりだった。


「この距離で勝手を許すほ…ど?」


「…モード、サイズ」


 X字に、ルフェルの胴体が切り裂かれた。


「な…っ、どこにこんな力が!?」


 ビュゴウッと忘れたように風が裂かれる。 …音が遅れて聞こえるほどの速さであった。


「ククク、良いね! 楽しくなってき…っ!? か、身体が「動かないか?」…っぐ!?」


 ピシッと固まったように動けないルフェルに向けて、鎌に変形させた武器を振り下ろす。 漆黒の魔力マナが鋭い斬撃となってルフェルの翅を切り裂いた。


「…退け」


「何? 勝利者気取り? クククハハハハハッ! へぇ、良いご身分だ! …っ!?」


「…二度は云わん、退け」


 冷たく言い放つ弓弦に、おかしいのか大笑いしているルフェルの表情が、真横を斬撃が通り抜けた瞬間に凍り付く。


「…僕をも縛る支配魔法…まさか『支配の王者』の存在を完全に切り離したのか!? 何て馬鹿なことをしたんだ奴は! 生き還れな」


 全力で抗ったのか、間一髪で首を狙った斬撃から逃れてアンナが縛り付けられている十字架に手を触れた。


「…っ、悪いけど彼女、連れ帰らせてもらうよ…!」


「…っ!? 何だとぐぅっ!!」


「大人しくしろよ。 …じゃ、またね」


 次の瞬間、翅が竜巻のようにルフェルとアンナを包み込み、その姿を消していた。


「…っ、貴様離…ん?」


 正確には、消えたのはルフェルだけで、アンナは呆気にとられた表情で取り残されていた。 魔法の効果が切れたのか拘束が解かれ、綺麗に着地する。


「…引き戻したか」


 遠くを見ながら鎌を剣に戻して腰に帯びた鞘に戻す。


「…貴様、橘 弓弦ではないな?」


 回り込み、アンナが風音を背に庇う。


「…何故なにゆえそう思うのだ? …いや貴様には尚更栓無きことか。 もっとも、隠す必要は感ぜぬが」


「……」


「察している筈だ。 其の意味を、察せざるを得ない筈だ」


 顔を彼女達に向けずに淡々と弓弦の口は動く。


「私は…私はジャンヌベルゼ・アンナ・クアシエトールだ! 偽りの感情などに躍らされたりはしないっ!」


 キッと睨むその瞳は、揺れている。


「…貴様が望みしことだ。 望まなければ、臨まなければ「黙れッ!」」


「…貴様が誰かは知らん、だが…返してもらおうか…っ!」


 長剣を弓弦に向ける。


「…アンナ、さん…?」


 会話が妙に噛み合わさっていないように風音は感じた。


「ご主人様、風音!」


 フィーナ達が追い付いた。 その後に追い付いた面々も、彼女も弓弦を見て、固まる。


「……」


「「「「……ッ!!」」」」


 それを一瞥してから、糸の切れた人形のように崩れ落ちかけた彼を支えようと女子勢が駆け出す。


「…………はっ!?」


 距離的な差もあったのだが彼をそっと支えたのは、アンナであった。 反射的な動きだったのか、支えて、横たわせてから我に返ったように顔を上げて、


「「「「………」」」」


 笑顔の4人を見て、固まった。


「アンナ…ふふふふふぐっ!?」


「落ち着きなさい知影。 あなたが暴走すると話が拗れるから…はぁ」


 武器を取り出そうとした知影がフィーナに止められる。


「…クアシエ、トール。 私と同じ…?」


 ユリは先ほどのアンナの言葉が引っ掛かっていた。


「…それよりも…」


「…風音と、言ったな。 何か私に用があるか?」


 膝枕されて眠っている弓弦を覗き込んだ風音が、困った様に、


「…弓弦様に“ビール”を掛けられた方が宜しいかと思うのですが」


 と、言うものだからそこからフィーナ、ユリ、アンナによる“ヒール”祭が暫く催されるのであった。


* * *


「…ここは、よし一番だ」


 指定されたページへと進んで、弓弦は愕然とする。


「くっそぉぉぉぉっ! またかぁっ!?」


 『突然やってきたバイクに撥ねられて死亡』と、弓弦が開いたページには書かれていた。


「…なら五番だ…っ」


 元のページに戻って五番の所に書かれているページを捲って見る。


「ぐあ…っ」


 『突然やってきたバイクに撥ねられて死亡』再び。 また戻る。


「…ならどれだ…?」


 弓弦は炬燵空間の本棚にあった『ときめくメモリアリー』というゲームブックを手に取り適当に遊んでいた。 このゲームブックは、主人公がヒロインと恋人同士になることを目的とする本で、本の場面の至る所で主人公が行うべき行動を五つの選択肢から選んでストーリーを進めていく。 因みに弓弦が現在選んでいる選択肢はこれだ。


 『朝起きた俺は制服に着替えると、いつもと同じように高校への道を進む。


「…ふぁ…ぁ」


 晴天と呼ぶに相応しい空の下、変わらない毎日を、変わらない足取りであくびを噛み締めながら歩く。 生徒の姿は無い。 この時間帯に通学路を通る高校生なんざ俺と、あいつぐらいだ。


 ーーードルルル…。


 バイクのエンジン音が聞こえたような気がする。 聞き間違えじゃなければ、あいつだ。


「…さて」


 1.ギカスレイブ。

 2.心の壁、全開!

 3.右? いや、正面か! …左へ。

 4.トラン○ムッ!

 5.オンアビラウンキャンシャラクマン!』


「後は2か3か4の三択か…」


 因みに1を選んだ場合ーーー


 『どうせあいつのことだ。 死にはしないはず…と、後ろに振り返り遠目に映るバイクに向けて詠唱を始める。


「闇よりもなお暗きもの、闇よりもなお深きもの、混沌の「どいてぇぇぇっ!」うわぁぁぁぁっ!?」


 詠唱の途中の鈍い衝撃によって、俺は宙を舞い道路に打ち付けられる。 頭から生温かいものが流れ出ているような気がする。 遠ざかるバイクのエンジン音をBGMに俺はそっと瞼を閉じたーーーDead End』


 5の場合ーーー


 『動き自体を封じれば…と、懐から数珠を取り出して両手で挟み込む。


「オンアビラウンキャンシャラクタン!」


 真言を唱えたのでバイクは止まる…はずも無く。


「どいてどいて!」


 鈍い衝撃が俺を襲う。 二次元の陰陽術で三次元の物を縛ることは出来ない…と今更ながらに感じながら、そっと目を閉じたーーーDead End』


「…よし、ここはそれっぽい3でいくか」


 悩んだ末に3を選択、ページを捲った。


 『背後からプレッシャーを感じた俺は、右へ逃げようとするフェイントをかけて道路の中央へ。


「墜ちろカトンボっ!」


* * *


 その後、とある病院に、とある男子高校生が入院した。 


「違うな…彗星はもっと、びゅ〜って飛ぶんだ…ははは…」


 …彼は轢き逃げされた際のトラウマで精神を酷く病んでしまい、一生廃人として生活しましたとさーーーBad End』


 無言で元のページに戻った。


「…魂、持ってかれたんだなきっと…はぁ」


 次は2を選んで指定されたページへ。


 『こちらに突撃してくるバイクに向けて、俺は自分の目の前に、拒絶の意思を具現化させた障壁を作って防ぎ切ろうと試みた。


「…絶対恐怖領域、展開!」


 俺は、あいつを拒絶する。


「うぉぉりゃぁぁぁっ!!」


「うわぁぁぁぁっ!?」


 心の壁はバイクと接触した瞬間、まるで最初から無かったかのように簡単に崩れた。


「…無理、だよな…」


 …だって。


 …あいつは俺の。


 …大切な人、なんだから。


「…拒絶出来るわけ、ないじゃないか…っ」


 それが、撥ねられて宙を舞った俺の最期の言葉となるのであったーーーDead End』


「綺麗に終わらせてあるように見えるが全然綺麗じゃない!?」


 結局弓弦が一番無さそうだと決め付けていた4が正解のようである。 今一つ納得がいってないままページを捲る。


 『バッと振り返ると、物凄いスピードでこちらに接近してくるバイクが視界に映る。 スピードに勝つにはスピードしかないと判断した俺は叫んだ。


「ト○ンザム!」


 起動ワードが認証され、俺の体内に搭載されているDM(Delusion Materialize)ドライブがDM粒子を一気に開放した。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 開放された粒子が俺の身体を赤く発光させる。 


「世界の歪み、私が撥ね飛ばす!」


 バイクが速度を更に上げ俺の反応速度に付いてきた。


「人を世界の歪み扱いするな!」


「突撃による障害排除、それこそが、ゴウホテキヒキニーゲ!」


 フェイント多用の高速ステップで待ち構える俺に対してバイクは見事に反応、一つ一つ丁寧に突撃を試みている。


「バイクがそれを成す、私と、共に!」


「成すなバカやろぉぉっ!」


 ギリギリまで引き付けて、


「そうだ、私が! 私こそがバイクだ!」


「当たるかぁぁぁっ!」


 回避成功! 向こうがスピードを限界まで上げていたのが幸いであった。 通り抜けた際に聞こえた舌打ちは聞こえなかったことにして、俺は学校へと向かった』


 パタン。


「………アホらし」


 そう言って弓弦は本を閉じた。 これ以上読んだら何かいけないような気がしたのだ。 それに先ほどから炬燵の中が光っているので、元の場所に戻れるようになったみたいだった。


「…。 蜜柑、ダンボールでここに置いておくからな!」


 そもそも最初からあったのだが、弓弦は空間内全域に届くような大きな声でダンボールの場所を知らせる。 助けてくれたその相手への、お礼だ。 その後炬燵の中へと潜って彼は帰還した。


* * *


 彼女は、城のもう一つの隠し通路を通って外に出ていた。


「お主に頼んで、正解だったようじゃの」


 その先では小型飛空挺があり、金髪ツインテロリ少女、ロリーがそこで彼女を迎えた。


「首尾はどうじゃ?」


「…完璧、です」


「2人が上手い具合にカモフラージュになったか…ほっほ、ルフェルの鼻を明かすことも出来たしの。 儂も満足じゃ」


 えっへんと、彼女を知る者(主にレオン)からしたら冷や汗もののポーズをとる。


「しかしの…お主はどう思っとるのじゃ?」


「……………のこと? 大好き…です♪」


 その表情は愛しい人を想うそれだ。 逢いたくて、逢いたくてしょうがない、そんな表情。


「それはお主の?」


「私…ではない私の…だったけど…私…私自身のもの…です」


「ほっほ、補正が入っているのではないか? お主自身との接点はまだそれほど無いはずじゃが」


「………」


「まてまて! 泣くことはないじゃろ!?」


 眼尻に涙を溜め始めたのに驚いて焦る。


「…いじめないで…」


「何やっとんじゃぁぁっ!? って、あぁもぅお主は黙っておけ!」


「………いじめる…ぅぅ」


 謎のツッコミを始めたロリーに更に怯える。


「……戻るぞ」


 飛空挺の中からカザイが呆れを思わせる目付きで2人を見る。


「…主はまだ寝ておけ。 …ほっ、怒られてしまったわ。 じゃ、帰るとするかの」


「…うん…帰る」


 2人が乗り込むのを確認して、カザイが起動させ、小型飛空挺は人知れずその世界を後にした。


* * *


 ーーーテトの村、村長の家の中。


「…っ、しくじったよ…」


「ボロボロだな。 誰にやられたんだ?」


 背後に降り立ったルフェルに対して、振り返ることなくモアンは彼の身体を一応気遣う。


「彼だよ彼! つぅ…っ、あぁもう…馬鹿やったよ…」


「出しゃばって行くからそうなったのだ。 良いお灸ではないか?」


「まぁ良いよ。 それより、土産を預かってほしいんだ。 僕ちょっと、本格的に危なそうだし」


「ふむ」


 椅子に座り物憂げに虚空を見つめていたモアンが背後を振り返った。 さもおかしそうに顎に手を当てる。


「して土産はどこにある? 見た所、何も持っていないが」


「ん、ほら彼女…っ!? クッソォォォォっ!! 僕としたことが!? うわっ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 頭を掻き毟って翅を忙しく羽ばたかせるので翅が飛ぶ飛ぶ。


「ぁぁぁぁっ、もう良い! 不貞寝してやる、クソッ!!」


 一頻り騒がしくしてからルフェルがどこかへと消える。 不貞寝とはまた何ともいえないものだ。

 モアンは箒と塵取りを両手に持つと、


「…翅、飛び散らすだけ飛び散らして…またこれは掃除が面倒だ…まったく…」


 などと愚痴をこぼしながら翅の掃除を始めるのであった。

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