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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
指揮訓練任務編
106/411

酒と…友情

「フィーナ。 フィーナ起きて…」


「…流石に待たせ過ぎてしまったか。 時間はいか程経過しているのだ?」


「…楓の買い物が終わってから二時間。 …だから多分…計三時間」


「…怒ってるかなぁ」


 右肩に重みを感じて目を開けたフィーナの視界に入ってきたのは買い物袋を提げた知影、ユリ、セティ。


「…すぅ」


 顔を右に向けて重みを感じた原因を確かめると、楓が寝ていた。 安心しているかのように身体を預けている楓の寝顔が、フィーナの中で弓弦とどこか重なった。 ぱっとは分からなくともそれが弓弦だと確認出来ると、


「…可愛いわ」


 よしよしと頭を撫でてしまい、固まる。


「「…」」


 一歩、二歩と後退あとずさるユリと知影。


「…きゅ、急にお風呂一緒に入ろうとか言い出してたもんね…弓弦に飢え過ぎるあまり女の子に…大事件だ…大事件だから…近所のわんこと格闘しなきゃ…というわけでフィーナ、プロレスしよ♪」


「わ、わけが分からないぞ知影殿!」


「断るわよそんなこと!」


 目を怪しげに光らせ手をわきわきと動かして突撃しようとした知影がユリに引っ掛けられて転ぶ。


「…う…あ、も、申し訳ありません!」


 フィーナの声に起きた楓が嵐のような勢いで頭を下げる。


「い、良いのよ。 私もその…悪い気はしなかったから…」


『…誤解を招く言い方…って招いてるか。 しかし何でまたフィーの隣で寝たりなんかするんだ風音…』


 それは風音自身理由が分からないことであった。 フィーナの隣に座った瞬間何故か急に睡魔に襲われたのだ。 一瞬の出来事で記憶があやふやなくらいに。


『そう言えば、珍しく夢を見なかったな…風音は何か夢を見たか?』


「そ、それよりも! もうそろそろ食堂が閉まる時間よ。 急がないと閉まってしまうわよ」


 無理矢理気味に話しを逸らして食堂の方へと歩いていくフィーナ。 買い物に夢中になって、昼食を忘れていた知影達もついて行く。


「‘私も見れなかったのです。 …ですがそういった日もあります’」


「…そう言った…日?」


 セティだけが楓の側に残って彼女を見ているが、気付いていない。


『…結構楽しみなんだがな…夢の中だとしても姉さん達に会えることは…』


「‘クス、本当に大好きなのですね’」


「…クス…?」


『…おい風音』


 弓弦が気付いた。


「…あら、如何されましたか?」


 ちょこんと横に立って見上げてくるセティに楓はそう聞く。


「……何でもない」


「…では私達も急いで食堂に向かいましょうか」


「…コク」


 急ぎ気味に食堂へ向かう。 オーダーストップ間際なので食堂は空いており、知影達はいつも座っている端の席に座っていた。


「遅かったわね。 早く注文した方が良いわよ。 私達はもう済ませているから」


「はい、これメニュー」


 知影に渡されたメニューを広げて目を通す。


『好きなものを頼んでくれて良いからな』


「…私、これ」


「うむ、楓殿は?」


 棊子麺を指差す。


「此方にしようと思います」


 タイミング良く料理が運ばれてきたので注文する。 


「先に食べておくね」


「はい、どうぞ」


 そこから暫くして、楓とセティの料理も運ばれてくる。 手を合わせてから食べ始めた。


「そう言えば最近魔物の襲撃、無いような気がするんだけど気の所為かな」


「襲撃など錚々(そうそう)あってもらっては困る。 これが普通だ。 “アデウス”の襲撃が相当なレアケースだったからな。 何、平和が一番だ」


「アンナが行方不明なのだから平和とは言えないのだけど、ここが安全である分には良いわね」


「…あ、リィル…」


 セティが見た方向ではリィルが店員に何やら注文しているところであった。 目が合うと手を振ってくれる。 既に用意してあったのか二種類の料理とパフェが乗ったお盆が渡され、それを持って研究室の方へと歩いていった。


「セイシュウ殿と自分の料理だな。 リィルも甲斐甲斐しい」


「博士…本当どうしちゃたんだろう…」


「私達が気にしても迷惑よ。 意味が無いわ」


「それはそうだけど…ちょっと冷たくないかな?」


 丁寧な箸動作で白米を口に運んで飲み込んでから口を開く。


「駄目ね、第三者がいくら関わっても結局は本人の問題なのだから無駄よ。 それに私達より適任の人物が2人いるわ」


「…リィルと…隊長」


「そう。 偉いわよセティ。 だから私達は見守るぐらいで良いの」


『…やたらセティに甘いな。 これがシスコンというやつか…』


 決して弓弦が言えることではない。 そんな彼の発言に風音は内心苦笑していた。


『…何故笑うんだ』


「ごちそうさま。 皆食べ終わったら私はもう部屋に戻ろうと思うのだけど…知影は?」


「私も今日は寝ようかな。 疲れたし」


 やり取りの間に食事を終えていた知影が即答。


「そうだな。 私も戻るとしよう。 少々やることを思い出したのでな」


「…アル「何か言ったかセティ殿」…何でもない。 …私も戻る」


 何かを言おうとしたセティがユリの凄味を帯びた笑顔に押し黙る。


『ここの棊子麺きしめん悪くはない…ないんだが…コシが足りないな。 神宮で食べた棊子麺きしめんの方がもう少し美味かったな。 いや棊子麺が食べれるということだけで十分か』


 一番最後に楓が食べ終わり、解散となった。 知影、フィーナ、楓が506号室に戻り、セティが502、ユリが503号室へと戻った。











 艦橋の連絡隊員に「何かあったら艦内通信で知らせてくれ〜」と言い残してレオンは隊長室へと戻っていた。 業務が残っているからである。


「…ぺったんこっと〜。 入って良いぞ〜」


 彼が業務を始めてから三十分程度の時間が経過し、集中力が切れ始めてきた時に部屋のドアがノックされた。


「「失礼します(する)」」


「お〜? どうした〜こんな時間に」


 入ってきたのはディオとトウガ。


「簡単な納入任務(ミッション)を2人でやらせてもらった。 その報告だ」


「お〜お〜。 ご苦労さんだ〜」


 書類をさっと書き終えて小さな機会の中に入れる。 反対側の機械から出てきた2枚のカードを2人に渡した。


「【Jランク】任務ミッション、終了だ〜。 …しかしよくこんな短時間で完遂したな〜」


「美味い酒を納品すれば良かっただけだからな。 ディオには運ぶのを手伝ってもらった」


「…僕がもらうのは少しおこがましいけどね。 本当に運んだだけだから」


「ま〜2人で受けて2人で納品して2人で完遂したのなら、2人に報酬はいくんだ〜。 気にするな〜」


 カードを勲章にかざした2人を見て業務を再開するレオン。


「もう特に用が無いのなら帰って良いぞ〜」


「失礼しました」


 ディオが退室する。


「…どうした〜トウガ、戻らないのか〜?」


「あぁ、これを渡そうと思ってな。 任務ミッションの時に余ってしまった物だ」


 どこからか取り出した酒瓶とグラスを“二つ”置く。


「ん〜? 何で二つなんだ〜?」


「すぐに分かる」


「お、お〜い!?」


 トウガが退室してしまったので、首を傾げつつも書類に判を押していく。 暫くすると再び、ドアがノックされる。


「入って良いぞ〜」


 ディオかトウガが戻ってきたのかと思ってレオンが扉の方を見ると、


「…やぁレオン。 急な要件って…何だい?」


 セイシュウがいた。 レオンと別れた時より幾分か顔色が良くなっている。 


「そんなことよりお前…大丈夫なのか〜?」


「糖分の力だよ。 リィル君がストロベリーパフェを持ってきてくれてね。 頭も大分冷えたみたいだ」


 ディオがセイシュウを呼びに行っていたのだ。 2人でゆっくりと話をさせるために。


「そうか〜…そりゃ〜良かった。 んじゃ〜、飲むか?」


 部下の心遣いを無駄にするレオンではない。 


「飲むために呼んだのかい?」


 呆れの感情が混じった声音である。


「何だ〜、飲まないのか?」


「飲むに決まっているじゃないか」


 即答してセイシュウはソファーに座る。 レオンも机を挟んで反対に座って酒瓶の蓋を開けてグラスに注ぐ。


「「乾杯」」


 互いにグラスを軽くぶつけ合う。


「好きだね、君も…隊長業務ほっぽって良いのかい?」


「いつでも出来る退屈な業務より、今しか出来ない楽しい親友と酒を酌み交わす方が数倍マシだな〜」


「…君らしいよ。 ま、それは僕も同意だけど。 君と飲むのは楽しいから…糖分の次にね」


「おいおい〜、俺は糖分以下か〜?」


「半分冗談だよ」


「…半分なんだな〜」


 笑い合う2人。


「…それで」


「ん?」


「まだお前さん、引き摺ってるのか?」


 セイシュウがグラスに視線を落とす。


「…あぁ。 だけど、君もだろ?」


「何故そう思うんだ〜?」


「一つ目の物的証拠と言えるものは君が一番分かってるだろう? 分かってて使ってないんだからさ」


「…そうだったな〜」


 手を開いたり閉じたりを繰り返して最後に強く握る。 それを見たセイシュウは軽く笑うと、


「もう一つの理由は…勘。 纏めると親友としての勘だね」


「お〜お〜、言ってくれるな〜」


「まぁね」


 敢えて言わなかった理由は幾つもある。 その殆どにレオンは気づいていないが、仮定の中で一つだけ確信を得ていることがある。


「‘あの2人に自分達を重ねているんだね’」


「ん〜? 何か言ったか〜?」


「何も言ってないよ」


「そうか〜」


 釈然としないのか、レオンは酒を一気に煽って新しく注ぐ。 あの2人、弓弦と風音のことだ。 今の

体調としてのレオンになる前…その少し前のレオンを弓弦に重ねることがセイシュウですらある。 彼は頭で考えるということが苦手だが、負い目を感じている、そんな彼だからこそ、弓弦も風音も、セイシュウ達以上に自分達に重ねてしまうのだ。


「そ〜いやセイシュウ、お前さん今日…何を調べていたんだ〜?」


「何のことだい?」


「艦橋の端末の履歴が消えていたんだ〜。 直前まで触っていたのはお前さんだからな〜。 ちょっと気になったんだ〜。 …人に見られちゃマズイやつか〜?」


「言わせるなよレオン、僕にだって…そういうのを見たい日はあるんだよ」


「お前ってやつは〜…リィルちゃんがいながらなんてもんを見ているんだ〜…ま、俺も時々あるけどな〜?」


 どっと笑い合う。


「…飽きないね、君といるとさ」


「お〜お〜、お褒めの言葉、ありがとさん…そら、どんどん飲め〜」


 グラス一杯に注がれた酒を一気に飲むセイシュウ。


「どんどん飲も〜っ!」


 レオンが肉体派なら、セイシュウは頭脳派。 セイシュウの脳裏に学生時代の思い出が思い起こされる。


「お〜? ノッてきたな〜?」


「ノッてきたよ! …お代わりもあるみたいだしね!」


 セイシュウが扉の方に視線を向け、レオンがそれを追うと酒瓶が三本、そこに置いてあった。


「ったく〜あいつらは〜…お〜し! 全部空けてぶっ倒れるまで飲むぞ〜っ!」


「勿論だ!」












 フィーナとの入浴を終えた楓はピュセルのシートに凭れて瞳を閉じて身体を休めていた。 因みに今日買った服は丁寧に畳まれて後ろに置いてある。


『なぁ、“アカシックボックス”でしまった方が良いと思うが…本当に良いのか?』


「はい、フィーナ様に持って帰って頂きます」


 弓弦の身体を利用する気満々の彼女である。 真実を知ったらフィーナが激昂するのは間違い無い。


「折角の弓弦様の御身体です。 楽しまなくては損ですので」


『どう損するんだよ…というか知影のようなことを試みようとするものなら許さないからな』


「あらあら…知影さんのようなこととはどのようなことですか?」


 からかうような問い掛け。 分かっていて聞いているからタチが悪いものだ。


『そ、それはだな…言えない』


「他の方には言えない試みを私がするということを御考えになっておられたのですね…そのようなことは致しましません」


『おい…よく分からなくなってるぞ』


「致しましませんよ? 致しませんと御思いですか? 致さないはずがないではありませんか」


『つまりするってことだよな!? 勘弁してくれ…』


 否定に否定が重なって肯定となっている風音の言葉に弓弦は心底疲れたような溜息を吐いた。


「クスッ、フィーナ様との入浴は如何でしたか?」


『言うな。 極力思い出さないようにしているからな』


「大胆ですよね。 御気付きになっていない知影さん達なら未だしも、楓が弓弦様と御思いになっているフィーナ様がわざわざ落ち着いて御話をするためにあの様なことをされるとは」


『俺は知らん。 何も知らない』


 話すことならピュセル(ここ)でも出来る。 それこそ、一緒にシャワーを浴びる必要など無かったはずなのにフィーナな敢えてその選択をした理由に心当たりが無い弓弦ではなかった。 …というか、それ以外に考えられない。 考えたらそれが風音に伝わってしまうので、考えることが出来なかったのである。


「…何もそこまで頑なに御考えになられないのですか? まさか…私には仰れないことをこっそりと…」


『知るか! 考えていないからとっとと寝るぞ!』


「クス…必死になられているところが怪しいですよ? 大丈夫です。 私は弓弦様の味方ですから遠慮することなく仰って宜しいのですよ?」


『現在進行形で俺の味方じゃないだろ!? それに俺は何も隠してない! 隠してないから早く寝るぞ! 寝てくれ! な?」


 風音が覗こうとしても弓弦は必死に心を見られないように注意しているのでその内心は彼女には分からない。


「…承知致しました」


 なので結局折れて寝ることにした。


 *


「あら? …此処は…?」


 何かに入っているみたいだったので、風音がひょこっと外に顔を出してみると、


「…やっと寝てくれたか。 人の従者名乗るなら人の頼みぐらい聞いてくれよ…まったく」


 弓弦が立っていた。


「え? ゆ、弓弦様!? そそ、その御姿は!?」


 …一糸纏わぬ姿で。 動揺した彼女は再び顔を中に引っ込めた。


「何故そのような御姿でおられるのですか!? 御召し物は何処へ!!」


「知らん。 楓になってからずっとこの姿だ。 不思議と寒くはないがな。 それに風音も…」


「…ッ!?」


 風音も何故か弓弦と同じような出で立ちになっていた。 恥ずかしくて布団から出て行くことが出来ない。


「…相変わらず魔法も使えないし…いつのも場所かと思ったら何か遠くに扉が見える…何なんだよ一体? …先に向こうに行っているから後で付いて来い」


「…畏まりました」


 また顔だけを出して弓弦の後ろ姿を見送った風音は周りを見ていつもの炬燵空間であることに気づく。 つまり彼女がいるのは炬燵の中だ。 炬燵布団を引っ張ってみるが取れないし周りに着る物も…無い。


「…如何致しましょうか…知影さんやフィーナ様なら未だしも、私がこの様な姿で弓弦様の下へと参るのは…」


 先程の弓弦の姿を見た時、ドキッ…と胸が高鳴ったのを彼女は感じた。 …弓弦の裸をもっと目に焼き付けたいと、そんな衝動も身の内から湧いてくる…が、やはり恥ずかしい。 …そんな衝動と彼女は戦っていた。


「…参りましょうか」


 そしてすぐに完全敗北。 どこかスッキリとしつつも、恥じらいのあるような表情で風音は弓弦の下へと向かう。


「御待たせ致して申し訳御座いません…」


「いや、問題無いから大丈夫だ。 どの道決心がつくまで待つつもりだったからな。 …極力見ないようには努める…が、あまり離れないでくれ」


 「アンナさんの件があるからですね」…と、姿を見られないように弓弦の真後ろに立った風音は思った。


「畏まりました」


「だからと言って密着する必要も無いから先に言っておく」


「クス、あらあら♪ そのようなことを御考えになっているのですか? その様なことは致しませんよ♪ ‘…多分’」


 言われなければ勿論するつもりであったが、面白いのでからかう。 結局後々になってするであろうということは2人にとって想像に難くないことだが、弓弦は必死にそんな考えを捨て去ろうとしている。


「…開けるぞ」


 石の扉を開けると、その先に転移用の魔法陣があった。 以前別の場所にあった時のような、守護ゴーレムはいない。


「これは…?」


「…中に入れば分かる。 何が待っているのかはな…。 ほら、行くぞ」


「…ぁ」


 2人が足を踏み入れると、魔法陣は光を放ち初め、何処かへと誘った。










 *


 人々で賑わう町に佇むとある老舗旅館。 その上空に弓弦と風音は浮いていた。


「「…鹿風亭」」


 2人は同時にその旅館の名前を言い当てていた。


「な、何故ここに鹿風亭があるのですか!? 何故ですか!?」


「落ち着け、ここは俺達が知っている鹿風亭とは違う。 何かの、誰かの、記憶だ」


「記憶…?」


「…待て、誰か出てきた」


 鹿風亭の中から黒い忍び装束のような服を着た1人の男が出てきた。


「シュウ様…です」


 風音がその男の名前を呟いた。


「シュウ?」


「フィーナ様から伺っていませんか?」


「…いや、聞いてはいたが…」


 その男は、弓弦が知るとある人物と瓜二つなほどに似ていた。 身のこなしも、隠し持つ武器も。


「…魂の性質が同じ、平行世界上の同一人物…だよな。 しかしこうも似てるとな…」


「…ですが何故シュウ様が…」


 “シュウさま〜っ!”


 「シュウ」というその男の名前を呼びながら女の子が出てきた。 半纏を着た可愛らしい女の子である。


「可愛い子だな」


「…私です」


「…そ、そうか」


 “どこへいってしまわれるのですか?”


 “…当てもない旅だ。 俺にも分からん”


 子どもに慣れているのか、優しそうな笑みを浮かべて小さな風音の頭を撫でると、その手にシンプルだが、精巧さを感じさせる簪を握らせる。


「いつも風音が結う時に使うやつだよな」


「はい、そうです」


 言いながら髪に挿してある簪にそっと触れる。


 “これは?”


 “将来お前は綺麗になるだろうからこれをやる…新品だから安心して使ってくれ”


 “どういうことですか?”


 “…教えてくれるヤツがその内現れる。 いつかきっとな…あばよ”


 最後にポンポンと頭を撫でると背中を向けて何処かへと歩いていく。


 “…遥か向こうを眺むるどころか…別な世に来ちまったよ…”


 そんな、言葉を呟きながら…。











 *


「…やはりあの男は…しかし、シュウとして存在していた…シュウという存在だったんだ…」


 “シュウ”という男が彼方へと歩いていったところで突然世界が暗転し、元の場所に2人は戻されていた。


「…だとすれば他にも…切り離された存在が出ているのか? それとも…やはり似ていただけ…なのだろうか」


「弓弦様、先程の映像は一体…?」


「…多分風音、お前の記憶だ」


 弓弦はそう結論を出した。


「私の…記憶ですか?」


「多分な。 今はそれ以外に考えられないな。 …どうやら他の扉も現れたみたいだ」


 魔法陣が消えて、2人の目の前に扉が二つ現れる。 


「…開きそうにありませんね」


「…だな。 どうやら次の機会に持ち越しのようだ」


 入ってきた扉が淡く光っていた。


「…この簪が新品だから安心しろとは結局、どのような意味だったのでしょうか?」


「汚れていないという意味だ」


「どう汚れていないという意味なのですか?」


「俺が知る架空の人物と同一人物なら…いや、やっぱりただ汚れていないという意味だ。 戻るぞ」


 弓弦が扉を開くと、その姿が消えた。


「…シュウ様はこのことを…予期していたのでしょうか…」


 風音も開かれた扉を潜って元の場所へと戻った。

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