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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
指揮訓練任務編
102/411

行方…不明

「…御待たせ致しました」


「…!? お、女っ!?」


「…やたらと気合い入ってるね…まさかそっちの趣味あり?」


「…本物みたい…です」


「クス、どうでしょう? …秘密とさせて頂きます」


 どうしてか弓弦様と私の人格が入れ替わってしまい、時間が無いということもあり、戻った私は困惑しながらもこのまま成り行きに身を任せることに致しました。 今のこの弓弦様の御身体はまるで、私の身体のように違和感無く動くのでやはり困惑していますが、それは後回しにしまして今は帰還を優先せねばなりません…嬉しコホン。 弓弦様には申す訳ありませんが、原因が判明するまでは私が弓弦様の御身体を御守りしなければ…。


『…俺の身体を自由に動かせて嬉しそうだな』


 そんなことはありません。 ありえません。 あってはいけません…私は弓弦様の御身体を御守りするだけです。 それ以外の感情は…。


『丸分かりだ。 …いざ自分がこの立場になると分かるが、知りたくないことまで全部聞こえてくるんだ。 その…何だ、すまない…。 …くそ、知影のヤツ…』


 …何が御分かりになっているのか、気になりますね。


「…お、起きたな」


「起きた…です」


 勢い良く起き上がられるロイさん。


「…? っ、俺は…そうだ、隊長はどこなんだ!?」


 そのままの勢いで私達一同を順番に見られ、動きが止まる。 視線の先には当然、私がいます。


「お袋!?」


「え? はい」


『認めてどうする!!』


「いや…悪い、雰囲気が似ていたからつい…で、どちらさん?」


「本部の連絡員…オタンコ・ナスさんだ」


『オタンコナス!? 何でそんな↑←↑な名前を』


 弓弦様少し生き生きとなさってます…クス、やはりどこか気負われていらっしゃいましたから…嬉しいですね。


「…御紹介に預かりました牡丹と茄子です。 任務完遂に関わらず戻られる様子が全く見受けられませんでしたので、皆様の状態の確認、催促の件で参りました」


『…流石は元若女将、だがそこまで言えて何故名前を訂正しない…』


「…皆様…? 隊長はどこだ? どこに行ったんだ? 俺、隊長を殺そうとして…飛び蹴り食らって…」


「主じ…橘少将は先んじて捜索に当たって頂いています。 記憶の混乱が見られたようですが、御身体の方はよろしいですか?」


「問題無い…っ、駄目だ重なる…っ」


「…お母さんみたい、です」


「…おぉぉ落ち着け俺…こ、こいつは…っ」


「…今更だけどこの部隊、まともな男がいないような気がするよ」


『俺はまともだぁぁぁぁっ‼︎』と弓弦様の御声が。 …無性にゾクゾクさせられるのは何故でしょう?


「それで、あと女2人を探さなきゃいけないんでしょ? こんな所で油を売らずに急ごうよ」


「…はっ!? そうだな! 早く合流して終わらせるぞ」


「…そう言えば俺…見たな」


 私達全員の視線がロイさんに注がれる。


「そうだ、ここの隣にある道を歩いて行った…と思う。


『早く言ってくれ…って、仕方が無いか。 急いで追ってくれ』


 …考えるのは止しましょうか。


「皆様、それでは参りましょう。 橘少将には私から連絡しておきます」


 右の道へと急ぐ。 外が近いのか寒さを感じますがそれはほんの少し、何故か心が温かいと言いますか…弓弦様が私の側におられるということを常々感じられていることが私に安心感を与えているのでしょうね。


『戦闘になったとして…武器はどうするんだ? 持ってきてないだろう?』


 弓弦様がそのようなことを私に聞かれた際、一際冷たく感じる風が吹いて狼が現れました。


「ホワイトウルフか。 通らせては…くれないみたいだな」


「数も多いね…それに」


 キールさんの魔法が発動…ですが地を這う炎は魔物に到達する寸前に消えてしまいます。


「…強そうだ」


 それが戦闘開始の狼煙となり、魔物が次々と私達を攻撃せんと牙を剥きます。


「あんたは戦えるのか?」


「はい。 己が身は自身で守れますので大丈夫ですよ」


『…本当に大丈夫か? 薙刀は無いんだぞ?』


 …いいえ、薙刀は…。


 腰の鞘から剣を抜いて飛び込んできた魔物を斬る。 


「参ります。 …シフト」


 この剣の変形機構を起動させようとすると、不意に不思議な単語が頭に浮かんできました…横文字でしたが、この時私には絶対に言えるという自信があったので迷わず言葉に。


「…モード、ハルヴァード!」


 柄を引き伸ばすように手をなぞらせると、剣は一瞬で薙刀へとその形を変えました。


『嘘だろ…』


「はぁぁぁっ‼︎」


 襲い来る魔物を蹴散らす…弓弦様の御身体には指一つ触れさせません。


『うん、なら下がっていような?』


「…れ、連絡員ってこんなに実力があるものなのか!?」


「…あの連絡員は少し、いやかなり特殊だからそう思うのは早いね」


「…おぉぉりゃぁぁぁっ! 邪念退さぁぁんっ‼︎」


 それぞれが魔物に攻撃しながら弓弦様の御姿に見とれています…まだまだ、これならですよ!


烈焔波れつえんは‼︎」


 刃に焔を纏わせ、魔物へと斬撃を飛ばして斬り裂き、燃やし尽くします。


『そぅら吹き飛べ! ウィンドキャノン‼︎』


『焼け、ファイアーボール!』


『砕けろ! ロックバレット‼︎』


『…湧いてください、スプレッシャー‼︎』


 噴き上がる水が魔物を打ち上げたところを風弾、炎弾、岩礫が魔物へと飛んで押し潰しました。


『良い連携だな。 タイミングも揃ってたし、全員無傷だ』


「…炎の斬撃を放つ技、中々面白いね。 良かったら今度教えてくれよ」


「申し訳ありません、教えて差し上げたいのは山々なのですが…私は人にものを教えることが不得手でして…」


「…まぁ、良いや。 見せてもらっただけでも勉強になったし…でもその代わりにまた見せてよね」


 歩きながら短剣を握って試行錯誤を始められたキールさんが先頭。 私は前をロイさん、後ろをトレエさんに挟まれる形で一行の中央を歩きつつ、犬耳をそっと撫でています。 また、帽子から弓弦様との関係性を疑われてしまうのも今回の場合は駄目ですので、先程の戦闘にに紛れさせる形でしまってあります。


『それしても驚いたな。 可変式の銃剣だと思っていたが…まさか別携帯にも出来るとは…“エヒトハルツィナツィオーン”の効果なのか?』


「‘弓弦様が使われた(略)という魔法の前後で武器の形状も些細ではありましたが変化しました。 機械というものに対してあまり理解がある方ではありませんが、何故か出来るような感覚がしたのです…’」


 心での会話も出来ないことはないのですが、伝わる必要性が無いことまで伝わってしまう可能性があるので私は小声で会話を行っています。 注意してはいますが、小声で会話をしている以上…。


「…今少し聞こえたが連絡か?」


 聞こえてしまったのか、ロイさんが振り向きます。


「はい。 色々と、所謂野暮用というものが多い身ですので…」


 納得されて前を向かれる。


『そんなに俺に内心思っていることが伝わるのが嫌なのか? …覗いたり聞いたりするつもりは無いが、聞こえてくるから無意味だぞ』


「‘乙女の秘密を盗み聞くとは何事ですか。 あの…御怒りなのですか?’」


『何がだ?』


「‘いえ…いつも私やフィーナ様にされていることの仕返しなのですか?’」


『そうだ。 いつも止めろと言っても聞いた試しが無かったからな。 こういう時ぐらいは人の気持ちを考えてほしいから、仕返しだ』


「…はうっ、急に止まっては駄目…です」


 …まさか本当に仕返しだとは思わなかったので驚きのあまり足を止めてしまいました。 後ろからぶつかられたトレエさんに謝り、会話を続けます。


「‘少々、器が小さいですよ弓弦様’」


『…知るか。 折角の機会を有効活用しているだけだ。 風音がどんなことを考えているか気になるからな。 まぁ悪く思うな』


「‘参考までに聞かせて頂きたいのですが、どのようなことが御聞こえになるのですか?’」


『そうだな…一番聞いていて面白い…というか、恥ずかしいのは風音がいつも考えているらしい、あることの内容だな』


「…ッ!?」


『録風亭を…「きゃぁぁっ‼︎」』


 上げてしまった声に視線が私に集まる。


「…む、虫に思わず驚いてしまいました…申し訳ありません」


「へぇ、意外と上手いんだねそういうの。 中々芸達者だ」


「クス、…御褒め頂きありがとうございます」


 少し、苛立った言い方になってしまいましたか。 気にはなさらなかった御様子でしたが。


『はははっ! 誰にも言わないから大丈夫だ。 それ、叶うと良いな』


 …。 他人事にされたのが腹立たしいです。 御自分が御関わりになられていることを分かって仰っているのですから尚更。


『…そんな日が来る可能性もあるかもしれんが……一緒に背負うと言った以上はその覚悟はあるぞ。 …だが、あの2人を納得させることが出来れば…の話だがな』


「あ、貴方様が決められることなのですよ!? …っ、申し訳ありません…」


「今の上の人間か? 連絡員も中々大変なんだな」


 背中越しにこちらを見るロイさんの言葉に深く頷く。


「えぇそれはもう。 本当に、本当に大変です。 肝心な場面で中々御決めになれませんし配慮も至らないですし他人の感情の機微が分からない方ですが天賦の才故か何故か他の女性の心を次々と御掴みになる方です…方です、が…心の底では常に大切な方のことを御考えになっている…そんな私の最愛の人です…♪」


 何故か沈黙される皆様。


『…なぁ風音。 お前は今、“女になった俺”として行動しているわけだ。 その意味、分かるよな? 分かっているよな? 忘れて…ないよな?』


 …静かだったのもあるのでしょう。 誰かが走っているような音が犬耳に届きました。


「モテ男君、見〜つけた! …ってあれ? モテ男君は?」


 奥からこちらへと駆けていらっしゃったユズナハさんが順番に私達を見ます。


「…てっきりモテ男君かな〜と思ったけど違ったか…。 それでどうしたの? こんな所に集まって…あとこの人は?」


 目配せをし合い、私が前に出ます。


「御初に御目にかかります。 玄弓くろゆみ 楓です。 任務は完遂されたので、帰還のために他の隊員の方を捜しているのですが、御心当たりはありますか?」


『…オタンコナスじゃなかったのか?』


 橘の木と風音の風、弓弦様の弦を組み合わせて作った即興の名前ではありましたが、悪く無い名前だと思いたいです。 以降この姿の際はこの名前を名乗ることに致しましょうか。


『…今後もこの姿になること前提なんだな』


「モテ男君は分からないけど、あの娘ならさっき見かけたよ。 この洞窟が揺れる少し前ぐらいにこの先でね」


『…っ、時間が経っているな。 急ぐぞ』


「‘畏まりました。’ 急ぎましょうか」


「…確認が取れてないが良いのか?」


「仕方が無いね。 この広い洞窟の中で掴めた居場所の手掛かりなんだから…2人で警戒だけはしていくよ」


「…あぁ。 了解だ」


 メライさんとキールさんが気づかれないように注意しつつ、ユズナハさんの側を、その後ろにロイさんトレエさんと私という1、2、1、2人ずつの形で洞窟内を走ります。 相当に複雑な洞窟なのか何度も分岐路がありますが、ユズナハさんは迷いなく案内されています。


「…た…楓さん」


「何でしょうか」


 トレエさんは走られながら器用に私に耳打ちをされました。 聞き返すと躊躇いを少し見せながら再び私の犬耳に御顔を近づけます。


「…本当に…隊長…です?」


「はい…そうですよ?」


「…! …変なこと言って…すみません…何となくそう思ったの…です」


 …一体どうされたのでしょうか。


『…俺、と言うより風音を見ていたような気がするな』


「‘私…ですか?’」


『…いや、何でも無い。 それより別のことが気になる…今から俺が言う通りにしてくれないか?』


「‘畏まりました’」


 返答に要した時間は一秒もありませんでした。


『よし、じゃあ今すぐ全員立ち止まらせてくれ。 じゃないと出来ないからな』


「…皆様申し訳ありませんがその場で止まって頂けますか‼︎」


 すぐさま足を止められる皆様。


「…? …まさか…ね」


 ユズナハさんだけが近くの壁に触れ始め、固まられます。


『…これでレイヤー中尉は一切関係無さそうだな』


 …弓弦様が御一人で納得されている御様子。 何が分かったのいうのでしょうか。


『…良いか。 今から頭の中に五感を全て閉ざすというイメージを描け。 そして自分の内側へと意識を集中させろ。 大丈夫だ、俺が手伝うから出来るはずだ』


 弓弦様が仰った通りに目を閉じ、五感の全てを遮断するという感覚(…で合っていますよね?)を脳内に描きながら内側へ、内側へと意識を集中させていきます…。


『…良いぞ、その調子だ』


 弓弦様の御声だけが、私に聞こえてきます…私が、私の全てがこの御方と共に在るということを確かに感じたその時、私の内側に脈動する“何か”を、同時に感じました。


『それが魔力マナだ。 俺は詳しく伝えれないから今度フィーかリィルにでも聞いてくれ。 兎に角今はそれを瞳に送るようなイメージを描いてくれ』


 …徐々に瞳の奥が熱くなるのを感じます。 やがて…。


『今だ! 開け‼︎』


「…ッ‼︎ …!? こ、これは…っ‼︎」


 私達の周囲を黒と紫色の光が流れているのが視えます。 色鮮やかに映るそれらが魔力マナであるということは私にすら想像に難くありませんでした。


『…やはり同じ所を延々と走らされていたか。 …それにアンナの魔力マナを一切感じない…っ、あいつ一体どこに行ったんだ!?』


「驚くってことは…ゴメン、私がドジってたみたい…同属性の魔力マナを全然感じ取れなかったなんて…」


「そういうことか…薄々疑問には感じていたよ。 成る程、でもどうすれば良い? 普通に考えて同じ奴等だろうけど、色々とどうしようも無いよ」


「闇なら光で相殺出来るはずだが…発光石この程度の光魔力(マナ)じゃ厳しいし肝心の隊員が行方不明だ…どんな魔法かは知らんが壁を砕いて無理矢理道を作っても駄目だろうな」


「…無理…です…」


「打つ手無しってやつか? …どうすれば…」


 成す術も無い状態に途方に暮れられるしか出来ない皆様。 …どうされます?


『…事ここに至ったら仕方が無い、というやつだな。 …誤魔化せるかどうかは分からんが背に腹は変えられない…っ、ありったけの魔力マナで“ライト”を使うぞ。 詠唱は分かるな?』


「‘『照らせ』ですよね’」


『そうだ。 次に、俺の体内に複数の属性の魔力マナがある。 その中から…そうだな、ユリかジャ…アンナのことを頭の中に思い描いてくれ』


 …色々言いたいことはありますが、今はあの御方に従うのみです。 アンナさんやユリさんのことを思い浮かべると私の身体から小さな光の粒子が溢れてくるのが分かります。


『よし…詠唱を』


 …自然と私の手が、まるで今から水を掬うかのように動き、頭上に挙げられる。


『…照らせ、ライト』


 皆様が息を飲まれるのが分かります。 


『…レーカ、ナケフォオセリペ』


 …ッ!? 耳に覚えの無い言葉が私の口から紡がれました…。


 眩い光を放つ光球が私の手に生じた魔法陣から現れ、魔法が発動したことが分かります。 


「…これって、発光石の魔法と一緒だよな…三属性も使えるのか…?」


「…そのはずだよ。 光属性初級魔法“ライト”…? でもこれ…」


 洞窟内に光が射したかのように広がります。


「皆! こっちにも道があるよ!」


「お! これで永遠ループとはおさらばなんだな‼︎」


 1人を除く皆様が先程まで見えなかった道へと向かわれます。


『…焦る気持ちは分かるがあくまで好きにさせなきゃいかんだろう…だからこんな事になるんだ…あの馬鹿が…気付かれていないから良かったものを』


 …弓弦様は何を仰っているのでしょうか?


「……っ」


『…あくまで望むのなら、だ。 出来ることは限られている…本当の意味でその覚悟を持てる時までは絶対に早まるなよ…って、何が早まるななんだ?』


 御自分自身に静かなツッコミをされている弓弦様。 


「…皆、行ってしまいました…」


 トレエさんが浴衣の袖を引っ張り、私の意識を弓弦様から離させました…確かに皆様向こうの方で御待ちになっています。 


「クス、皆様御元気ですね。 私達も参ると致しましょうか」


「…はい、です」


 何者かによる妨害を切り抜け、アンナさんを探すためさらに洞窟の奥へと進む私達。 …これでアンナさんと合流出来れば…それで良かったのですが…それ以上の問題がこの先私達を待ち構えていたのです…。












        *


 アークドラグノフの隊長室から行ける隠し通路。 そこの奥にある、他の転送装置とは違う特別な転送装置に『20th.ark』と特別な界座標ワールドポイントを入力することによって転送される『もう一つのアークドラグノフ』と呼べる場所。 そこでレオンはあることをしていた。 それは…。


「………」


 腕を組み瞳を閉じている様子から想像は容易であろう。 そう、瞑想だ。


「………zzZ」


 重ねて言うが、瞑想である。 ピクリとも動かずただジッと椅子に深く腰掛けていることから相当集中しているのだ。


「………zzzZZ」


 彼は“敢えて”隊長業務から離れリフレッシュを兼ねた瞑「zzzZZZ」想をすることで自らを研鑽を「zzZ…ん〜? もうこんな時間か〜よく寝たな〜」自己研鑽を、していた‼︎


「…ふ〜! 良い感じにサボれたし、そろそろ戻るか〜‼︎」


 …わけでは無く、単に隊長業務から逃げていた。 艦内を変に隠れるよりこうして限られた人間(レオンと弓弦)しか知らない場所に逃げた方が良いのではないか…と、ふと思い、早速この場所でサボることにしたのが今日の朝。 …そして今は、夕方。 彼は実に1日の半分ともいえる時間を無駄に費やしたのである。 『何故そうしたのか?』と、聞かれると『何故かそうしたかった』と答えるしか無い。 要するに気分である。 『馬鹿ではないか?』と思うこと無かれ、事実馬鹿なのである。 能天気、マイペース、気分屋と三拍子揃ってしまうレオンではあるが、一応やる時はやる男であり、非常に部下思いでもある。 もしかしたら彼が今こうしているのも弓弦やアンナのことが心配過ぎて業務に集中出来ず、それで気を紛らわそうとしてこのような行動を起こしたのかもしれない。


「…リィルちゃん、いないよな〜…っと、誰もいないよな〜。 今の内に〜」


 急いで業務机の裏にあるボタンを押して通路を隠し、溜まりつつある書類に判を押していく。


「ぺったんこ…ぺったんこ。 リィルちゃんの胸は「失礼しますわ」」


「あら隊長、どちらにいつの間に戻られたのですか?」


「ん〜? 結構前からいたぞ〜。 多分リィルちゃんと入れ違いだったんじゃないか〜?」


 リィルの顔を見ることなくあたかも仕事に集中しているように見せているレオンはひたすら判を押していく。 それを胡散臭気に見るリィルが退室しようとした時。


「レオン! うわっ!?「きゃあっ!?」」


 大慌てで隊長室に入ってきたセイシュウとぶつかって彼共々倒れこむ。


「…痛た…博士! 危ないですわよ‼︎」


「すまないリィル君! だがそれよりもレオン、マズイことになった」


 その言葉を聞いて表情を引き締めるレオン。


「…弓弦達に何かあったのか」


「正確にはもしもの時のための護衛だった彼女だ。 彼女が『MIA』になった」


「「MIA!?」」


 “MIA” Missing,In,Actionの略で『任務遂行中行方不明』を表す言葉だ。 驚きのあまり2人共立ち上がる。


「あいつ程の隊員が!? クソ、弓弦達は!」


「そろそろ帰還するはずだよ。 彼の話によると彼女の魔力マナがどこにも感じられなかったみたいだ」


「連れ去られた…と考えた方がよろしいですわね」


 レオンは深呼吸をして荒くなった息を落ち着けさせると、椅子に腰掛ける。


「…取り敢えずは弓弦のやつが帰ってくるのを待つぞ〜。 話はそれからだ〜」


 セイシュウとリィルは「了解」と言うと、その場で弓弦の帰還を3人で待つことした。

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