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俺と彼女の異世界冒険記   作者: 仲遥悠
指揮訓練任務編
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仲が良いのか…悪いのか

 様々な魔力マナが感じられる方角へと進むと既に俺の部下という扱いで今回の訓練に参加する5人全員が揃っていた。 


「…俺達がどうやら最後だったみたいだな」


「…フン、貴様があんな馬鹿なことを言わなければもう少し早く着けたものを」


 …俺の所為なのか?


『そうですね。 元はと言えば…になりますが』


 …俺に非があるのなら仕方が無いか。


「すまないな」


「…分かれば良い」


『弓弦様、御話は程々にして下さいね。 自己紹介をしなくてはいけませんよ?』


 5人の隊員を見ると若干困惑している…まぁ普通はするよな。 うん。


「橘 弓弦だ。 短い間だが隊長を務めさせてもらうからよろしく頼む。 じゃあ、俺から見て右から順に自己紹介をしてくれるか?」


 自己紹介をすると、頷いて一番右の男性隊員が一歩進み出る。


「メライ・ソーン少佐だ。 一応地属性魔法の使い手だ。 こちらこそよろしく頼むよ、橘隊長」


 ハンマーを背負った大柄の男が親しげな笑みを浮かべて手を差し出す。


『中々ランドリーな御方ですね』


 ランドリーではなくてフレンドリーだ…訂正したいが言えないのがもどかしい。 


「あぁ、よろしく」


 握手を交わす。


「ロイ・シュトゥルワーヌ! 階級は大尉だ! あ、属性は風な?」


 ボウガンを構えて撃つような構えをしてから名乗るスキンヘッドの男。 


「キール・ジャンソン。 火。 よろしく」


 こちらはフードを被った短剣使い。


『…身のこなしが軽いですね。 要注意人物…かもしれません』


 …だが、まだ決めつけるのは早い。 様子見をするべきだな。


「あぁ、よろしく頼む」


 次におさげ眼鏡の娘が前に出る。


「トレエ・ドゥフト中尉…です。 よ、よろしくお願いしましゅっ!?」


 笑いが。


「あ、あぁ…っ、噛んでしまってすみません!」


「ははっ、いや…謝らなくても良い。 だが少し肩の力を抜いた方が良いな」


「え? すぅ…はぁ…はい、頑張ります…?」


「ん? あ! すまんつい…」


 俺…何で撫でたんだ? 


『…弓弦様…貴方という方は…そうやって御手を付けられていくのですね…』


「へぇ〜。 こうやって女の子達を口説いていったんだ。 流石あちこちで噂のモテ男君は違うね♪」


「ユズナハ・レイヤー中尉、闇属性だよ♪」と、親指を立てて元気そうに名乗るショートカットの女性隊員。


「…貴様という男は…早速そうやって…っ!」


「ははは…まぁまぁ、兎に角さっさと終わらせよう…っ!」


「ほぉ…ある種見習いたいものだな」


「あれを? 確かに羨ましいと思うが…あぁでもあの“シュッツエア”の安定性は見習いたい」


「…命がいくつあっても足らないよ、アレ」


 振られる剣を紙一重でかわす。


「に、逃げるな!」


「逃げ、なきゃ…いかんだろ!」


『あらあら…暫くは楽しい任務になりそうですね』


「他人事にするなぁぁっ!」…と叫びたいが出来ない…!


『闇を斬り裂け! ブライトキャリバー‼︎ はぁぁぁぁっ‼︎』


「馬鹿、こんな場所でそんなもの放ったら…っ‼︎」


 魔力マナで形作られた光の剣が振り下ろされる。 衝撃音が周囲に轟く。 衝撃音が周囲に轟いたということはつまり…。


「…っ、雪崩が起きる! 逃げるぞ!」


「…巻き込まれる方も堪ったものじゃない…!」


「どうするの! 近くに洞窟は!?」


「あわ…あわわわわ…」


「…大地を隆起させる! 俺の後ろに回れ!」


 ドドドドド‼︎


『吼えろ大地…ロックウォール‼︎』


「手伝うぜ!『風壁形成…ウィンドウォール!』」


「…っ、貴様の所為で…」


「…こうなったら、ひたすら横に沿って逃げる? 魔法で上に乗った雪溶かすから」


『…どうされるのですか?』


 土と風の防壁が雪崩を阻むものの、勢いに負けて徐々に崩れていく。 


「逃げるが勝ち、全員俺に掴まれ!『勇ある者に風の加護を…ベントゥスアニマ!』…飛べぇぇぇっ!」


 うぐ…魔力マナが持ってかれた…っ、が、全員の周囲に魔力マナを行き渡らせて飛翔する。


「す、凄ぇ…飛行魔法ほどの高位魔法を全員に掛けちまった…」


「これが空を飛ぶ感覚というものか…」


「洞窟はあるか?」


「私達が来た場所は向こうだよ!」


「…わぁぁ…」


「…生意気な…っ」


「よし、しっかり互いに掴まってろよ! っ…それ!」


 …あとで少し寝ないといけないな。












「“ファイア”」


 洞窟の中に入った俺達はそこで一先ず休憩することになった。 キールが拾ってきた薪に火をつけて暖をとりながら俺は失った魔力マナの回復に努めるために横になっていた。


『…大丈夫ですか?』


 風音の気遣わし気な声に小さく「あぁ」と返す。 “地脈の宝珠”が使えれば失った魔力マナ程度直ぐに戻せるのだが…見られたら困るので取り出すことが出来なくて辛い…。


「橘隊長、大丈夫か?」


「あぁ…問題無い。 良いからソーン少佐も休んでくれ。 すまない…みっともない姿を見せてるな」


「みっともないところか同じ風魔法の使い手として寧ろ尊敬だ! 俺も橘隊長みたいな使い手になりたいな…!」


「ホントホント、モテ男君凄かったよ!」


 口々に褒められて悪い気はしない…が眠いので一言断って眠ろうとする。


『…流石にいささか無防備ではございませんか? 何方が敵方の間者か分からない状態で眠られるのは…』


「…フン、寝たければ勝手に寝ろ。 いざという時に倒れられては困るからな」


 アンナが枕元に腰を下ろし、片膝を立てた上に右手を乗せながらぶっきらぼうに言う。


「…お言葉に甘えて寝かさせてもらうよ。 …ありがとな」


「…さっさと寝ろ。 そんな言葉を吐いている暇があるのならな」


 眼を閉じて身体をリラックスさせる。 …まったく、素直じゃないやつだ…。


『クス、弓弦様が仰ることですか?』


 反論するべきか…と考えたが、魔力マナの消耗が激しい俺の身体は一瞬にして俺を眠りへと誘った。












 *


「うわぁっ!?」


「私の勝ちよ。 …はぁ、キモいよユ〜君。 いつになったら一方的な勝負以外の勝負になるのよ」


「うぅ…み〜姉ちゃんが強過ぎるんだよ…少しは手加減してよ…」


 大袈裟気味に溜息を吐く竹刀を握る女の子、美郷は自らの弟である弓弦の稽古相手を務めていた。


「手加減なんかしたらユ〜君が上達しないでしょ? 甘えるのは、キモいよ」


 ビシッと竹刀を突き付ける美郷を見る弓弦の瞳は潤み始めて…。


「…ぅ、ぅっ…み〜姉ちゃんの意地悪…うわぁぁぁぁんっ‼︎」


「ゆ、ユ〜君!? 私もしかしてまたやっちゃった!?」


 大声で泣き始めた弓弦の近くに寄ろうとする美郷だったが、


「ぅ、ぅ…意地悪するみ〜姉ちゃんなんか…嫌いだぁぁぁっ‼︎」


 『嫌い』発言を聞いて固まり、弓弦が消えてからは庭の隅でしゃがみこんでしまう。 静かに土弄りを始めた彼女に姉としての威厳は殆ど無い。


「…あはは…やっちゃった。 …またやっちゃった…絶対嫌われた…どうしよう…」


 ふるふると震えてこの世の終わりかのように落ち込む美郷の背中をちょんちょんと、戻って来た弓弦が小さな手で突っ突く。


「……どうしたの? ユ〜君お姉ちゃんのこと嫌いになっちゃったんでしょ…?」


「ううん。 さっきは少し怒って言っちゃったけど、あ〜姉ちゃんが『人を嫌いって言うのは良くないことだからみ〜姉ちゃんと仲直りして来なさい』って言ったから…」


「…お姉ちゃんと仲直り、してくれるの…?」


「うん! だって僕、み〜姉ちゃんのこと大好きだから!」


「ユ〜君…ユ〜君!」


 振り返ってガバッと抱きついて弓弦の頭を撫でる美郷。 弟の発言一つで気分が上下するのが激しい美郷は所謂“ブラコン”である…いや、ブラコンどころかそれ以上、弟が姉としてではなく女性として大好きで結婚したいとさえ思っている彼女は特殊な人間なのであろう。


「ごめんね。 昔から意地っ張りだからさ…どうしてもユ〜君に強くなってほしいから辛くあたっちゃうけど、お姉ちゃんはユ〜君のことが世界で一番大好きだから…ね?」


 それを踏まえて考えると、このような一見姉としての発言でも意味が180度違ってくるのだ。


「僕は…どうなんだろうな…」


「ん?」


「僕はお姉ちゃん達がどこまで好きなのかな…ってさ。 分からないんだ…」


「そうかぁ…でも、お姉ちゃんのこと大好きなんでしょ?」


「うん…」


「なら、このお話はそこまでなの。 お姉ちゃんはユ〜君のことが大好きでユ〜君もお姉ちゃんのことが大好き。 これで十分。 人の気持ちってね、ずぅっと向き合わないといけないものだけどね…向き合ったら向き合った分だけ人それぞれの答えが出る。 この人なんか嫌い! …って思っていても気がついたら頭の中がその人で一杯になっていたりするのよ。 そしたらその時向き合うの…何でこんなに嫌なのか…ってね。 その結果が実は嫌いとは反対の好きだとしても全然おかしくない。 『嫌よ嫌よも好きの内』…それで本当に好きだったら…」


「好きだったら?」


 弓弦は少し抱きしめる力を強めた美郷の言葉に聞き返す。


「変わるわよ…価値観とか、考え方とか…色んなものがたくさんね? さてと…折角だから久し振りにやってみるか…」


「何を?」


 立ち上がった美郷に弓弦もついて行く。 美郷は等身大の藁人形を離れた所に立たせて距離をとる。


「ユ〜君に使えるようになってほしい技。 『居合い斬り』って言うんだけどね。 一度しか見せないから良く見ててね?」


「うん!」


 竹刀から模造刀に持ち替えてその柄を握る美郷。 次の瞬間。


「…!」


 弓弦は瞬きしていないはずなのに、一瞬で藁人形の後ろに移動しゆっくりと刃を鞘に収めていく、そして刃が鞘に完全に収まりチャキっという音が聞こえた瞬間、藁人形が横に両断された。


「一刀抜砕…成敗」


 このドヤ顔である。


「わぁ…っ! 凄い! カッコ良いなぁ…‼︎」


 大はしゃぎで手をパチパチと叩く弟の顔をしゃがんで正面から見る。


「ちゃんと見てた? 見てないとキモいけど」


「うん! ここを…こうやって…こう! …どうかな?」


「おぉ! 近いz…近い! あとは…そうそう! それで無駄な力を抜いて…」


「一刀抜砕! あれ…違うな…」


 ぎこちない動作で美郷の動作を真似る弓弦だが、出来ずに首を捻る。


「はは…まだ早かったか。 でも型は出来てるからあとは練習あるのみね」


「うん! 頑張るよ!」


「いい子いい子♪ 頑張ってね♪」


「うん! もし出来たら…ご褒美ちょうだい!」


「出来たら…ね?」


 そう言って弓弦の額に口づけし、ウィンクをする美郷であった。










 *


 美郷姉さんと一緒に家の中に戻るところで俺は夢から覚めた。


『おはようございます弓弦様。 クス…しっかりと眠られたようですね。 御姉様の名前を呼ばれていましたよ?』


「…俺はどれぐらい寝ていたんだ?


 …一休みしたお陰で魔力マナも結構戻ったみたいだ。


『四時間程でしょうか。 他の皆様も今は眠られていますよ…それで弓弦様、御気づきになってますか? 御自分が今どこで眠られているのか…」


「…どこで寝ていた?」


 確かに洞窟で寝ているわりには後ろが柔らかい…ような…。


「…まさか」


『…とても怒っていらっしゃいましたよ。 起こすのは忍びなかった様で我慢されてはいましたが』


 心無しか声音が冷たい。


「…貴様…寝ながら人の膝を枕にするとは良い度胸だな…‼︎」


 俺が起きたことに気づいたアンナが真上から睨みつけてくる。 …本当に相当怒ってるなこれは。


「あぁ…だがお陰でぐっすり眠れた。 ありがとな」


 決して嘘ではない。 何故なら…。


『適度に鍛えられた筋肉が程良い硬さで非常に寝心地が良かった…ですよね。 …フィーナ様に報告させて頂きますからね』


 …こっちも相当怒っているみたいだ…はぁ。 しかし。


「…何故か妙に安心したんだよなぁ…何故だ?」


「私に聞くな! 何が安心だ! 何が…っ」


 身体を起こして壁に凭れる。 


「それについては謝る。 だが本当に本当のことだから俺も困惑してるんだ…あの夢と言い…レオンじゃないがさっぱり分からん」


「ゆ、夢だと!?」


『…どのような夢を見られたのですか?』


「美郷姉さんに初めて“一刀抜砕”を見せてもらった日の夢を見ていたな…しかし何でそんな夢を見たんだ…?」


「み、美郷姉さん!?」


 声が裏返るアンナ。 何故そうも驚くのか訳が分からない。


『…怪しいですね。 先程も夢の中で弓弦様がどうこう仰ってましたのでここは夢についてアンナ様に伺ってみてはいかがでしょう?』


「…そうだな。 …なぁ、夢で俺がどうこうとか雪崩の前に言っていたよな? それって「黙れ!」」


「…く…っ、おのれ…私までも誑かそうとするのか…っ!」


 そう言いアンナはフラフラと立ち上がりながら剣の柄に触れ、背を向ける。


「…付いて来い」


 そしてそのまま洞窟の奥に消えて行くので書き置きを残して彼女を追う。


「…単独行動…隊長失格ものだぞこれは…」


『ですが仕方がありません。 どうされるのですか? あのままでは間違い無く…』


「決闘…だよなぁ…血気盛んなことで何よりだ…はぁ…。 俺、そんなに嫌われているのか…」


『嫌よ嫌よも好きの内』という美郷姉さんの言葉が何故か思い出されたが次の瞬間には忘れていた。 …そんなことを考えている暇がなかった。


「きゃぁぁぁぁっ!?」


『弓弦様!』


「…ッ‼︎」


 奥から聞こえてきたアンナの悲鳴に俺は走り出した。


「これは?」


 足下に大きく開いた、空間。


『穴…ですね。 恐らくここから落ちたものかと』


「…っ!」


 穴に飛び込み、着地する。


「…く、くぅ…何と情け無い…まさか足下の注意を怠るとは…」


「…はぁ…。 大丈夫か?」


「…っ、嘲笑いに来たのか」


「今の発言のどこをどうとったらそうなる」


「貴様の発言のどこをどうとってもそうなるに決まっている」


 駄目だこれ…はぁ。 一体どうすれば良いんだ?


『話し合って理解して頂くしかありませんね…ですがその前に…』


 周囲を取り囲むように闇に蠢く陰。


「魔物か…」


「フン…倒すまでだ」


 “ヒール”を自らに掛けて俺の背後に背中合わせに立つアンナ。


「足、引っ張るなよ?」


「貴様こそ…! はぁぁっ!」


 背後を振り返ることなく前方の敵群に斬り込む。 


『ライトソード!』


『唸れ風の刃…ウィンドカッター!』


『闇を斬り裂け! ブライトキャリバー‼︎』


「シフト! 全弾持ってけ…! 全弾発射フルバーストッ‼︎」


 魔物はそれぞれの攻撃によって数を減らしていく。 そして殆ど同時に最後の敵を倒した瞬間。


「「ブォォォッ‼︎」」


 奥から牛頭の魔物が出、俺とアンナの頭上をそれぞれ飛び越えて中央に揃う。


「“ジェミノタウルス”…今回の目標ターゲット…! とっとと終わらせ」


 バキッ。


「「…バキッ?」」


「「ブオ?」」


 バキバキバキバキッ‼︎


『あらあら…どうやらまた落ちるみたいですね』


 風音だけが呑気にそんなことを言っているが、今正に再び地下に落ちようとしている方はそうも言ってられない。 


「うわぁぁっ!?」


「きゃぁぁっ!?」


 地面が崩れ、俺とアンナは先程よりさらに地下へと落下する。 …しかも、さっきよりも高い。


『勇ある者に風の加護をベントゥスアニマ‼︎』


「な、何をする!?」


「落ちたくなければ大人しくしろ!」


 “ベントゥスアニマ”でアンナの下まで飛び、彼女の身体を抱えて(お姫様抱っこ)ゆっくりと着地する。


「こ、こんな辱めを受ける…とは…っ‼︎」


 顔を真っ赤にして怒りに震えるアンナ。


「後にしろ! 来るぞ!」


 着地と同時にジェミノタウルスがそれぞれ手に持つ槌を地面に振り下ろす。 魔法陣が展開され地面が揺れる。 天井から岩が落ちてきて、且つ穴を塞がれる。


「閉じ込められたか…っ!」


「帰り道がどうこうは後だ! 今は「分かっている!」」


 先程の魔法の際に体内から放たれた魔力マナの流れに違和感を感じたので妖精の瞳(セイクレッドロウ)でジェミノタウルスを視る…二体の間に魔力の繋がりを感じる…そうか。


『同時に倒す…ですね』


「そういうことだ。 …分かってるな?」


「言われるまでも無い。 だが、貴様が私に合わせろ」


「…はいはい」


 アンナが柄に手を添え、俺もそれに倣うように同じ構えをとる。


「「ブォォ「「…っ‼︎」」…ォ…ォ…」」


 踏み込んだのはアンナが先だが、刹那の間に斬り抜けたのは同時。 腰に帯びた鞘にしまいかけた剣をやはり同時にしまう。


「「一刀抜砕…成敗()」」


 二体のジェミノタウルスの身体が縦に横にずれて消える。


「…さて、どうするか」


『…入ってこられた場所からは…無理ですね。 さらに崩れる危険性があります』


「フン…行くぞ」


 周りを見て通路を発見したアンナが歩いて行き、その後について行く。


「…早いことで…はぁ」


『あらあら…溜息ばかり吐かれていると幸せが逃げてしまいますよ?」


「うるさい。 気苦労が絶えないんだ…」


『…アンナさんのことですね』


 …風音のことでもあるが、まぁ本人も流石に分かっているだろう…というか、分かっていてやっているからな…まったく。


『それにしても先程の“一刀抜砕”…御二方共見事なタイピングでしたね』


「…タイミングな。 あれは当然だろう。 …互いが互いに合わせようとしていたからな」


『そうだったのですか? 私にはアンナさんに弓弦様が合わせたのかと…』


「斬る直前にスピードを落としたからな。 多分間違い無い。 まぁあいつなりに気を使ったんだろ」


『…、ですね』


「何だって?」


『あ、いえ…何でもございません』


 辛うじて聞き取れるかの大きさで喋ったものだから途中聞こえなかった。 「え? 何だって?」では無いとはっきり否定しておこう…誰に言い訳しているんだよ…。


「…取り敢えず今はこれで終わりだ…後々怖い」


『……左様ですか』


「………」


 ギリギリ見えるか見えないかの距離で壁に寄り添ってアンナが俺を待っている。 …これ以上イライラさせても面倒なので、風音との会話を打ち切って彼女の下へと急ぐ。 …風音、またヘソを曲げたな…本当にどうすれば同時に2人の機嫌をとれるんだ…はぁ。


「何をもたもたしていた」


「…妖精さんと話をしていた」


「また妖精か。 フン…つくづく呑気だな」


 先に進もうとして、立ち止まるアンナ。


「…私は妖精と話すことが出来ないのか?」


「? 信じ「何でも無い」…そうか」


『…纏う雰囲気が柔らかくなった…? アンナさんまさか…』


 …どうやら俺のことを少し見直してくれたのだろうか。


「…ナー、か…」


「何か言ったか?」


「フン…急ぐぞ」


 出口を探して俺とアンナは洞窟の奥へと進んだ。

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