Memory Ⅱ ~ 廃虚の向こうの館 ~
Memory Ⅱ ~ 廃虚の向こうの館 ~
周りは山で囲まれ、道は砂利道。大きめの石も多く、ここまでの道はかなり揺れた。長時間車に乗っていたせいで痛くなった体を大きく伸ばすと、サイファーは山の方にまだまだ続く道を眺めた。
「あー……長い」
もう三時間は走っているにも関わらず、目的の場所にはまだ着いていなかった。今、車から降りている場所は目的の村よりも下の方にある、少し大きめの町だ。合宿中に必要になった物は、ここに買い物に来たりするつもりらしい。
「眠いぞー……」
「さっきまで二時間は寝てただろ」
眠たそうに目を擦りながら車から出てきたリュウリョウ。その後ろから、今度は背中を痛そうにしているファラルスが出てきた。
「皆は出てこないのか?」
「大半が寝てるか車酔いで潰れているからねぇ」
暇つぶしにって、下向いてゲームなんかやってるから車酔いになんてなるんだよ。
「その前に目の前のあれがありえない……」
三人が疲れた顔して見ている先には……。
「こんにちは!今度、例の村で合宿する事になった田舎の方の学校の部活動、MRSYの部員と顧問の俺です。三週間よろしくお願いします!」
「おやおや、元気な先生だねぇ。こちらこそよろしくお願いしますよ。村の周辺や館の中についての説明は、先日お送りしました資料の通りですので」
「はい!分かりました!」
運転をしてきて、一番疲れてるはずの人物が一番元気とはどういうことなのだろうか。その前に、その挨拶の仕方でいいのか?と三人は苦笑いしながら見つめた。
さすが、先生のようで先生でないような先生だと思う。見てるとドッと疲れが増してくる……。
「ほらほらお前ら!そんな疲れた顔すんなって。もうすぐで館に着くんだぞ!」
先生はまるで子供の様にはしゃぎながら、笑顔で手を振っている。
あまりの煩さにうんざりしていると、とうとう酔いが限界まできたのかステアーが車から這い出てきた。他の車酔い組も次々と出てきては外で深呼吸をした。
「全員アウトだな。せんせーここでしばらく休憩にしましょー。でないと、車酔い組みが村まで持ちませーん」
「しょーがねぇな。んじゃ、車ここに止めて十分休憩な。ついでに、使いそうな店の場所とか把握しとけ」
先生が先生らしからぬテンションで、町の人達に挨拶をしている中。部員は先生に言われた通り、町にある店の場所などを確認をしていた。合宿中はお世話になるだろうし、ちゃんと把握しておいた方がいいだろう。
サイファーも言われた通りに町の中をうろうろと周っていた。ふと、ある場所に辿り着いた時に足が止まる。
「……この道から村に行くのか」
見上げるその先には、一本の山に続く道―――。この先に村があるとは、とてもじゃないが思えない。今から行く廃墟の村は民家などが取り壊され、今残っているのは立派な館だけだという。館は村を少し過ぎた山の上にあるそうで、行く際には村の横を通ることになるのだろう。
そんな事を考えていると、道の入り口付近にある交番の前に立っていた男性と目が合った。その男性は眉間にしわを寄せた状態で、こちらをジッと見ている。
(何だ……?)
サイファーは気になり、どうかしましたか?と、男性の所へと向かった。近くで見てみると、男性は年齢が五十代ぐらいの細身の男性だった。服装はほとんどが私服の様に見えるが、どうやらこの交番に勤務してると思わしき警察官だった。
「―――」
男性は口を開いて何かを言っている。聴こえなかったので、もう一度と今度はもう少し近づいてみた。
「行ってはいけない」
サイファーはキョトンとし、何のことだか分からないと首を傾げた。
「あんたら、この上に行こうとしているんだろう?」
「そうですけど……」
どうやら男性は、例の村に行くなと言っているようだ。何故ですか?と聞くと、男性は静かに答えた。
「私はあの村が無くなる前、ここではなく村で働いていた。だから、あの村の事はよく知っている。あの村は……悪魔に呪われた危険な場所だという事を」
「悪魔に……呪われた?村で何かあったんですか?」
「………『それを開けてはいけません』……今は無き村のとある記録に残された本の一文だ」
「?」
「何か起こる前に帰った方がいい。でないときっと……」
ピー!
男性の言葉が途中だが、車の方から集合の知らせを伝える笛の音が聞こえた。
「すみません。もう行かないと」
「帰った方が身の為なのだが……どうしても行くのなら絶対に怪しい物に触れてはいけないよ?そして、早めに帰った方がいい」
「あ……はい、分かりました」
男性に背を向けて、その場を立ち去ろうとしたが、一歩踏み出してから直ぐに後ろを振り向いた。
「あの……名前は何ですか?」
「……高橋だ」
高橋と名乗った男性は、不安そうな顔でサイファーを見ていた。
サイファーは急いでみんなの所に戻ると、一番最後だと言われてアイスを奢らされる羽目になってしまった。皆はもうすっかり車酔いは治っていて、MRSYの部員達は直ぐに村に向かった。
++++
補強されていない山道を、車を揺らしながら走り続けて三十分。またもやステアーが車酔いで顔を青くし始めた頃、ようやく狭い山道から広い場所へと出た。出て直ぐに、半分程壊された建物が見え、その他には多くの草木しか見えない……自然の中に埋もれかけた村だった。
それを見て何か引っかかることがあったが、それが何かは分からずに、サイファーは窓から目をそらした……ら、車内でステアーの様子が更に大変なことになっていた。
「ステアー……お前、本気で大丈夫か?」
「俺がさっきから見てる限りでは、リバース寸前ってとこじゃね?笑えるー」
いや、それは非常に笑えない状況だ。特に、こいつの隣に座ってる俺が被害を受けるという意味で笑えない状況だ。
「ほらステアー!窓の外見てみろー気分がよくなるくらいいい景色だぞー」
今みんなを乗せた車が走っている場所は、横が崖になっている上り坂で、外を見ると夏らしい綺麗な緑色をした葉で埋め尽くされた景色が見えた。草木に花、川に自然の動物と大自然を一望できた。
「わぁ、本当だ……山の上辺りから大きい滝が見える……あ」
瀕死状態のステアーは車の外に向かって指を差した。見ると、目線の先に青い屋根の建物があることに気が付いた。先程まで見てきた村の建物とは違い、少しも壊れていない様子の建物に違和感を感じてしまう。どうやらあれが合宿中に使うことになる館らしい。
入口の門を開け、庭を抜けて館の前で車が止まる。近くで見ると更にその綺麗さが目立った。下にあった町の人が掃除をしてくれたそうだが、元々この建物が頑丈に作られていたのだろう。
「すっげぇ!俺、ちょっと一周してくる」
「あ、りーさん。うちも行く」
女子力とはどこへ行ったのだろうか、二人はわんぱく男子の様なスピードで走って行ってしまった。だが、すぐに引き返してきて反対側から周って行った。
「途中が岩で塞がれてて、その向こうは四めーとーぐらい行くと崖だった」
「反対側からなら行けるぜ」
「探索もほどほどにして、お前らも荷物降ろすの手伝えよー」
チアンが二人に呼びかけて荷物の運び出しに加わった。こういう時に、いつもなら真っ先にこき使われるのはサイファーなのだが、何をしているかと言うと……車酔いで立つこともできなくなったステアーの介抱だった。
目の前で唸りながら車に寄りかかって、座ってしまっているこの男子生徒をどうしろと言うのだろうか。館に運べと言われても、体格的に考えてそんなに大きくは変わらないというのに。身長差はいいとして、力が足りない。
「体格……そうだ、ガリュ!」
みんなと館の前に荷物を運んでいた、自分よりも身長の高いガリュースを近くに呼ぼうと手招きする。
「お、何だい?」
「こいつを館の中に運ぶには、俺じゃ不向きだ。頼んだ」
「りょーかい、ステアーしっかりしろ」
ガリュースがステアーを背負った時、館の入口の前で手を振りながら、イーリュンが車に置いてある館の鍵を持ってきてと叫んでいた。どうやら、荷物は全部運び終わったようだが、体格のいいトモとジルザが主に運んでいたのにも関わらず、随分と時間がかかったもんだ。そういえば、荷物の中には何に使うのかも分からない物が多かったことを思い出す。それで余計に荷物が多かったのだろうけど……よく車に積めたもんだな。
鍵を持ってサイファーが入口まで来ると、開けるのは隊長に譲ってやるよとみんなに言われ、ミュキとリュウリョウに背中を押された。
手に鍵を持ち、みんなが見守る中で俺は鍵穴に鍵を差し込んで回す。
ガチャリと音を立てて扉の錠は外された。