Memory Ⅰ ~ 一学期の終わりに ~
Memory Ⅰ ~ 一学期の終わりに ~
年々と紫外線が強さを増している感じを嫌でも味わってしまうこの夏。ここは田舎な為、都会と比べるとかなり気温は低いのだろうが……暑いもんは暑い。
学校の周りは山に囲まれ、近くには川もあるのでここいらの学校の中でも比べたら気温はかーなり低い。
「おーい、りーさーん。準備OK?」
「もちろんだぜ、みーさん!」
だが、暑いもんは暑い。
「防壁完成!」
「チアン。予備の枕はどこにある?」
「後ろにあるよ」
だから、俺はせめて風を受けようと窓から顔を出している。
「よーい……スタ――!」
「ひっさぁぁぁつ!枕ボンバぁぁぁぁ!」
だから……。
「ちょっ!フライング―――」
「フライングがなんぼのもんじゃぁぁい!そっちだって、同時ぐらいにスタートしとるわ!」
「そうだそうだ!」
「あっ、ホントだ」
だから………。
「いった!…って、誰だよ、この三角定規一緒に投げたの!」
「ちょっとそれ、俺が今使ってた三角定規だよ!何で、枕投げに混ざってんの?」
「迷子。今は忙しいから後でな」
「えっ…てか、そこにある三角定規を返し―――ぶっ!」
「そんな近くにいるから当たんだ―――あだっ!」
「ほらほらー前方注意―」
「んのやろぉ!こうなったら二倍で行くぜ!」
ギャーギャーギャー!
「お前ら静かにしろぉぉぉぉ!」
サイファーの声が教室の外まで響き渡った。その声の主は、せき切って皆の方を見る。
「こんな暑い中、暑苦しいんだよ!大体何で枕投げ!何で雪合戦みたいな状況!何でBCDのメンバーが普通にここにいる!」
「電車で来たから」
「理由になってねぇ!誰が交通手段聞いた!」
気温が高くてとか、紫外線が強くてとかで暑かろうがなんだろうが、このMRSYは変わらなかった。みんなは元気だが、俺は無理だ。
(暑い……この部屋にエアコン付けてくれぇー!)
来週、数日間登校すれば後は夏休みだ。と、言っても学校には部活で何度か来るのだが……。
とにかく、あと数日で夏休みというのはいい。
「夏休みはワクワクするよなぁー」
「そうそう」
「そうなんだよなぁー……って!お前らいつから横に居たんだよ!」
『いつから』の部分辺りで、ガタガタンと物にぶつかりながらサイファーは後ずさりをした。いつの間にか気が付いたら、左右にはリュウリョウとウォータムがいた。
「心臓に悪っ!」
「気付かなかった」
「お前が悪い♪」
「なんで!」
今日も悪乗りコンビは調子がいいようだ……いや。
「どんどん心臓悪くしろ♪」
「嬉しそうに言うな!」
ミュキも居るから、悪乗りトリオだった……。
はぁ…と溜め息をついたその時、扉が力強く開けられて、大きな音と声が教室中に響いた。
「お前らっ!そこの川でスイカ割りをするぞー!」
「先生突然過ぎますよ!突然何を言ってんだか……いつもですけど」
入って来たのはMRSYの顧問、ミチリュウだ。子供みたいにはしゃぎながら、手にスイカを持って叫んでいる。そして、教室にいた面子がそれに反応して立ち上がった。
「夏だー!」
「えっ?その反応おかしいだろ!大体、川でスイカ割りって所に誰かツッコめよ!」
「ノリの悪い奴は置いていくぞー」
人の話しを聞いちゃいねぇ!
「はぁ……って、俺のこと置いて行きやがった!待てよ!」
辺りを見渡すと、教室の中には自分以外誰も居なく、俺は急いで教室を後にした……。
++++
俺は、MRSYという部活に所属している。MRSYとは俺が立ち上げた部活で、今の所部員は十一人。活動内容はお遊び部……と言った所だろう。みんなで集まってゲームから何から何でもしているイメージだ。
改めてそのMRSYのメンバーを紹介しよう。とりあえず、順番に行こうか。
M『ミュキ・アパード』(女)
気の強い女子部員で、しょっちゅう「サイファーを殺す」などと言って、何だか恐い奴。リュウリョウとつるんでる事が多い。ホラー系の話しなどには、やたら活き活きとする。
R『リク・リュウリョウ』(女)
楽しい事なら何でも乗る、遊びに命かける奴。本人いわく、霊感があるとのこと。その上多重人格で、『リン』と言う少年が自分の中にいるらしい……いや、会ったかららしいじゃないな。
S『ショウ・ステアー』(男)
正規のメンバーなのに、おどおどと気の弱い感じの奴。リアルや、ゲーム内のあっちこっちで迷子になるので、迷子と呼ばれる事もある。
Y『ユウ・サイファー』(男)
MRSYの隊長。色んな奴に弄られる、弄られキャラが定着してる奴……俺、普通にしてるつもりなのにな。
ここまでが初期のメンバーで、正規メンバーとなる。後のMRSYメンバーは、サブメンバーとなる。まぁ、余り正規・サブなんてMRSYには関係無いかもしれないが。
W『ウォータム・ポール』(男)
ミュキやリュウリョウ程ではないが、変な所で悪乗りする奴。かけてるサングラスが、変な形をしている。
T『トモ・ヒューム・セルウィッチ』(男)
いつも白い帽子をかぶっている奴。一言で言おう。こいつは苦労人の位置だ。
F『ファラルス・ロッジ』(女)
消極的な奴。だけど、怒ると本で叩いてくるので恐い…。
G『ガリュース・エルノ・ミャーキズ』(男)
いつも笑っている奴。ステアーと凄く意気投合しているのは何故だろうか?
E『イーリュン・ジェダ』(女)
他のメンバーと比べると、唯一普通な奴。他の女子メンバーと比べても、一番女らしい。
C『チアン』(女)
たぶん腹黒い奴。普段は悪乗りする奴等を止めるツッコミ役。だが、こいつも悪乗りしたりする。その時はとても楽しそうだ。
Z『ジルザ・シアク』(男)
楽しいことが好きそうな奴。MRSYには入ったばっかだが、何となくメンバーの中には溶け込んでいる。
ここまでが一応、「MRSY」メンバーとなっている。今いるあとの四人の内三人は、「BCD」というメンバーになっている。BCDは俺がこの学校に入る前に所属していたやつだ。
『カロン』(男)
俺と一番仲の良い奴。眼鏡を取ると豹変する。
『フクス』(男)
いつも何かにやついてる奴。ふざけるのが好きなんだろう。
『レイン』(男)
存在感薄い奴。存在感薄い……いや、空気だ。
あとの一人は、このMRSYの顧問である先生だ。
『ミチリュウ』(男)
先生のようで先生でないような、普通のようで普通でないような、よく分からない先生。よく分からないと言うか、自由な先生。部室でタバコを吸う。
この紹介で分かったと思うが、この部活では皆が本名ではなく別名で呼ばれている。もちろん、顧問である先生もだ。普段から部員や先生をこの別名で呼ぶせいか、学校のクラスメイトや先生方までそれで呼ぶようになった。
さて……みんなの紹介はここまでにして、今の俺の状況を伝えようか。
「右だ右!」
「うーしろだ後ろ♪」
「俺的に右希望ー」
サイファーは目隠しをしてバットを手に持っていた。見事に、スイカ割りの割る方になってしまったのだ。周りから場所を教える声が聞こえるが、皆一斉に本当と嘘を言っているので全く分からない状態のようだ。
(どれが本当の言葉なんだ?)
「左に百歩進めー」
(これは嘘)
「オイ、スイカ通り越したぞ!」
(いや、そんなに歩いてないからスイカまでは行っていない筈だ)
「あっ、川に落ちる」
(そんな軽く言われたって、信じるわけ……)
と、鼻で笑ったその瞬間。
ズルッ
「えっ?」
足を踏み外し、サイファーはそのまま水の中に落ちてしまった。水の中で急いで目隠しを取る。
「ぶはっ!」
水から顔を出すと、みんなの笑い声が聞こえたので、サイファーはその方向を向いた。見ると、先生まで笑っている……。
「あーあ。だから言ったのに……」
「チアン……もう少し真面目に言ってくれよ」
「面倒くさいし」
はぁ、と溜め息をつきながら川岸まで着くと、リュウリョウがしゃがんでこちらを見ていた。
「よかったら手ぇ貸してやるぜ?」
目の前の女子生徒はとてもニヤニヤしている。
「……お前、貸す気無いな?」
「分かってんじゃん」
サイファーはなんとか自力で川から上がると、ミチリュウの方を向いて叫んだ。
「先生まで何笑ってんですか!大体、何の為に土曜日に学校に来たと思っているんですか。今日は合宿の場所を決める為に来たんですよ?」
「気にするな」
そう。今日は夏休みの合宿の場所を決める為に来たのだ。合宿……というか、只の旅行みたいな物に近い。
場所は事前に、部員達からリクエストを受けていた場所から決めることにしていた。
「うりゃっ!」
バコンと音を立ててスイカが割れる音がした。
「せんせー。スイカが割れましたー」
「よーし。食うか」
「再開早っつーか、割るのも早ぇ!」
皆が本当の目的を忘れてるような気がして、サイファーはまた大きく溜め息をつく。
「あれ?ファラルスースイカ食べるよー」
少し離れた所の日陰で本を読んでいたファラルスに、イーリュンが呼びかけた。それに気が付いたのか、読んでいた本を閉じるとこちらに向かって歩き出した。手に持っている本は少し分厚い。
「何読んでたの?」
「たぶんホラー小説」
ホラーという単語に反応したのか、ミュキが2人に近付いた。その後ろを女子みんなの分のスイカを持って、リュウリョウとチアンが追いかける。
一方、男性陣の方はというと……先生込みで、軽くスイカの取り合いになっているような感じだった。
「たぶんって、分からないの?」
「図書館から借りてきた、ジャンル不明の本だから」
「それ面白かったら後で貸して!」
目を輝かせているミュキにファラルスは了承の意を込めた返事を返した。
「あれ?図書館って……俺がいつも行ってる図書館?」
「そうだけど……なんで?」
「いや、その本見た事無いなぁって思ってさ」
リュウリョウは暇な時は図書館に籠っているらしい。まだ読んでいない本があったとしても、図書館内にある本は大体を把握している。
「……もしかして、あの今は廃虚になった村の図書館にあった本。こっちの図書館に入ったのか!」
「そう言えば、そんな張り紙がしてあったような……」
前々から図書館の人が話していたことだ。山の中に小さな村があって、その村はもう無くなってしまうから、村にあった図書館の本や村の記録をもしかしたら家で引き取るかもしれないと。
「今度見に行かないとなぁ……あっけど、夏休みはほとんど合宿だし、無理かな?」
「合宿は三週間だっけ?」
「長いよねぇ」
「その長さは合宿ではなく、もはや旅行の域」
うんうんと頷くファラルスが、そういえばと何かに気づいたようにみんなの方に目を向けた。
「合宿所のアンケートに、廃墟になった村を書いたんだけど?」
「……ファーちゃん最高」
にんまりとリュウリョウが笑った。それに続いて、ミュキや他のその場にいた女性陣が楽しそうに笑った。みんなの目線に答えるように、ファラルスが頷く。
「そこが合宿にも使える理由は、今もまだ残されてる大きな館があることが分かったから。今読んでいる 本は、その村の記録とかの図書と一緒に置かれていたから、ちょっと気になって調べてみたんだ」
「だから、選んだんだね?」
「さっすが。部員のことよく分かってるね」
この部活に所属する奴の大半が、面白いことが大好きな人間なのだ。面白ければなんでも食いつく。
「たぶん、この後は多数決とかでアンケートの中から合宿所を決めると思うし」
「……みんな分かってんな?」
「もちろん」
バシャーンッ!
女性陣がニヤニヤ笑ってる中、男性陣の方では水に何かが打ちつけられる大きな音と共に、川から水飛沫が上がっていた。
「ふざけてたら、ステアーと一緒に誰か川に落ちたぞ!」
「どうせ隊長が一緒に落ち……」
「俺ここにいるけど?今、上にいない奴って言ったら……」
サイファーがみんなの数を数え始める。
「…………」
「ジルザぁぁぁ!」
まぁ……珍しいこともあるもんだ。何故一緒に落ちたのか、見ていなかった女性陣は全くもって分からない。
その様子をとりあえず笑いながら見ていると、イーリュンがファラルスの持っている本を覗き込んで、ファラルスに問いかけた。
「そう言えばさ、その本のタイトルは何?」
「タイトル?」
フェイユムはイーリュンの方に表紙を向け、その問いかけに答えた。
「タイトルは……『悪魔の箱』」
++++
その後、多数決や女子部員からの力説によって、合宿所は『廃虚の村』に決まった。
『悪魔の箱』というタイトルの本が村の記録と一緒に置かれていたということ。俺はこの時に、その意味に気付けば……気付いていればと、後になって後悔した―――。