9話 対人競技とか団体競技って緊急事態の時に役に立つんだよね
僕は今まで以上の速さで森の中を走り回る。
現実では味わえない、体感速度時速120キロ。
実際の時速はどのくらいかわからない。
疲れと恐怖でひたいには汗。
ワガママに対するイライラで舌打ちする口。
死に対する怯えで見てしまう走馬灯。
僕は涙目で“逃げる”。
***
最初の一文でカッコよく戦っていると思った人は多いだろう。
『そんな森の中を走り回り、敵と戦えればカッコイイんだが・・・』
後ろを振り向くと、追っかけてくるガラパゴス。
あんなのと戦いたくない。
僕は襲われる前、610番のパートナー(?)は方向転換する時に尻尾が木に当たった。
僕の予想では木の皮を1枚剥がす程度で済むと思っていたのだが、
尻尾で木を叩き根っこから倒した。
その光景を見て青ざめた僕は610番に『何が何でも倒してやるからな!』と言い残して逃げた。
これも作戦通りで水華と二手に別れた。
不運にも追っかけてきたのはガラパゴスだ。
ドスドスと走りながら尻尾を振り回し、尻尾にぶつかった木は根っこから倒されていく。
あんなので背骨を叩かれたら骨折だけで済みそうにないと考えた僕はアプリを起動させて逃げ続けることにした。
***
走ること15分、逃げても無駄と考えた僕は別のアプリを起動させようか迷っている。
このガラパゴスを倒せば逃げる必要は無いが、マジで戦って勝てるのかが不安だ。
多分水華は来栖玲子の体力を地道に削ってるんだろうなと呟き、アプリを起動させた。
多重起動は可能なのだが電池の消耗が早くなることを知っている僕は電池の減りを確認して、攻撃系のアプリを起動させた。
体力上昇系のアプリは5分で平均1%、攻撃系のアプリは2分で平均1%消耗する。
残りの怪しいアプリは奥義扱いにしているので未だに使ってない。
現在の電池残量は65%、節約好きの僕は走行アプリを終了させ、片手剣のオブジェクトを出現させた。
「悔しかったらマジで来い!」
垂直に振り下ろした銀色の片手剣はガラパゴスの爪を斬り、節約してたら負けると思った僕は対応力上昇アプリを起動させた。
「グアァァ」と叫ぶガラパゴスは手ぶらの僕の左手を突進してきた。
食べられると思った僕は右足を軸に反時計回りして突進を躱した。
躱せたがガラパゴスの突進によって生み出された風圧によって僕は吹き飛ばされた。
そして頭から地面に倒れ、仰向けになった。
この状況でいう話ではないが、僕が通っていた中学の体育ではバレー、バスケ、サッカー、野球、持久走、水泳、剣道をやっていた。
作者が知っている限り、8割の中学校では武道の選択授業では柔道を選択する。
もし僕が剣道ではなく柔道を授業内だけでもやっていればガラパゴスの短い左前足を掴んで一本背負いでもしていただろう。
実はさり気なく躱す直前、それを考えていたが怖くて躱した。
左斜め後ろに崩れた僕は風圧に負け頭から地面に倒れた。
ちょっとでも受け身を勉強していれば左横受け身で頭部の損傷は防げただろう。
頭がクラクラしてボケーとしていた僕の左手をガラパゴスは襲い、
噛んだ。
痛みで試合前に離さないと誓った右手の片手剣を手放してしまった。
「ギャアアァァァァァ!!」
今まで絶望に浸っていてやる気を出せない僕は合唱コンクールでは毎回バス。
そんな僕は死を予感したのか、今まで以上に大きく、高い声で叫んだ。
僕の左手を噛み砕き飲み込むガラパゴスはどんどん腕へ向かって食べる。
涙目でこらえていた僕はついに涙を流した。
このペースで行けば1分後には肩まで来る。
自称社会の紙屑と名乗る絶望少年は最後の絶望日記を書こうとポケットに向かう右手を止め、最後の足掻きを決行することにした。
クラスメートの柔道の試合で見た、あのカッコイイ技を試すことにした。
僕は左肘と左の足裏を地面に付いて右足で地面を蹴りガラパゴスの背中に乗った。
失神覚悟で左肩を振り回し、肘より先を切断させた。
ドジなのかは解らないが僕の左腕を食べ続けるガラパゴスを見た僕は死にそうな目で見つめ、
偶然にも亀のようになっているガラパゴスの尻尾の付け根を腹で押し右手でガラパゴスの右手を掴み、顔を潰しながら前に向かう。
尻でガラパゴスの顔を潰し、ガラパゴスの右脇から左手首を掴んで左斜め上に引く。
柔道経験者ならこの下手な文章でも多少はわかるようにこれでガラパゴスは仰向けになった。
柔道の試合であればこのまま上四方固めでいいのだが、“今回はサバイバルゲームだ”。
右手で掴んでいるガラパゴスの左手首を掴んだまま、右足で顔を右に向かせて潰し、左足で左腰を踏みつける。
これによって身体を起こす時に莫大な体力を使うことになる。
どんなに無知でも流石に僕が優勢になっていることに気づいたガラパゴスは僕のことを睨む。
さっきから左手首を掴んでいる右手を離してスマホを操作して起動させた。
『両手剣アプリ』を起動させてオブジェクトを出現させた。
今回の両手剣の刃はマグマのような感じだった。
両手剣を右手で握って垂直に持ち上げ、
「残念だったな・・・僕の左手は美味しかったか?」
ガラパゴスの腹に両手剣を垂直に刺した。
***
電池残量30%、節約したつもりだが減りが早すぎる。
もしかしたら残量と僕の命は連動されているのか?
感情変換じゃなくてアプリ起動の間違いじゃないか?
沢山の疑問をガラパゴスの死体を椅子代わりに座りながら考える。
そして今水華は何をしているのか?
その疑問を教えてくれるのがこのスマートフォン。
仮想世界に飛ばされる前に僕は水華にガラケーをプレゼントした。
まぁPHSだけど。
通話を押してスマホを耳に当てた。
『RRRRR…p』
「あっもしもし水華か?」
僕は私語バージョンの電話の一言目を言った。
『もしもーしっ』
元気が・・・いいな・・・
それと声が違うな・・・
「も、もしもし」
『今祭ちゃん何してるの~?』
「・・・・・・はッ!?」
つい声が漏れてしまった、通話相手は水華じゃない。
来栖玲子、610番だ。
「610番・・・、お前」
『何よ?』
相手もトーンを下げてきた。
「水華に何した?」
『教えない、知りたきゃ見て確かめなさい』
僕は電話を切ってマップを起動させた。
GPS機能を使って携帯所有者(現在来栖玲子)の現在地を確認して僕は全速力で向かった。




