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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

整形した口裂け女のお話

作者: 分福茶釜

 夢で見た話を適当に肉付けして作ったお話……

 夢で見たのより、だいぶ……シリアス風味になってしまった……

「私……キレイ?」


 夜の学校の薄暗い理科準備室で、一人の女性が呟いた。

 薄暗くて良く見えないが真っ赤なコートを着こなし、腰まで届く栗色の髪を持った涼しげな眼差しの女性は口元を覆う巨大なマスクをそっと外した。


「どうよ?」


 うっすらと目を細め、勝ち誇るかのように腰に手を当てながら彼女は一人、理科準備室で微笑んだ。マスクで顔の半分以上を隠されていて気付かなかったが、大した美人だ。顎のラインは美しく、品の良い口は弧の形を浮かべている。

 と、彼女の真正面にあった人体模型の目玉がコロリと床に転がる。目玉が突然取れるとは気味の悪い出来事だが、それを見た彼女はむっと口を噤んで、目の前の人体模型を睨みつけた。


「何? その反応……」


 目の前の人体模型を非難するような彼女に口を開いた彼女に、人体模型は全く反応を見せない。それはそうだ。プラスチックでできた彼(恐らく)に彼女の言葉に反応するという能力など備わっているはずもない。


「ほら、もっと他にあるでしょ? た、例えば……ほら、キ、キレイになったねとか……」


 少しだけ、俯きながら小さな声で彼女は呟いた。それが聞こえたのか、聞こえないのかは知らないが、それまで微動だにしなかった人体模型がまるで生きているかのように動くと勢いよく彼女を理科準備室の外へと突き飛ばした。

 あまりにも突然の事に目を見開いた彼女に顔を向けることも無く、人体模型はピシャリと理科準備室の引き戸を閉めた。彼女はただ一人呆然と薄暗い廊下に取り残される。


「な、何怒ってるの? 私が一体何したっていうのよ?」


 理科準備室の戸に手をかけるが中から鍵をかけているのか、開かない。何度かノックしてみるものの中から返事は無かった。


「……せっかく一番最初に見せたのに……」


 彼女は人体模型の反応が気に入らなかったのか不満そうにマスクを付け直した。白い大きなマスクが彼女の口元を覆う。

 と、彼女がマスクを付け直したのとほぼ同時に、彼女に声をかけるものがいた。彼女が振り返ればそこには人の顔をした犬……所謂人面犬と呼ばれるものがそこにいた。ブルドックの様な体付きに中年特有の脂ぎった親父顔。そんな彼を見て丁度いいとばかりに彼女は口を開く。彼女の声はマスクでくぐもっていた。


「ねえ……」


「あ? なんだ? こっちから声掛けといてなんだが……俺も暇じゃないんでね、手短に頼むわ」


 彼の言葉に彼女は少しだけ柳眉を持ちあげるがすぐに本題を思い出したのか先程と同じようにマスクに手をかけながら彼女は言った。


「私……キレイ?」


「は? おまえ、頭おかしくなったのか? ……確かに最近じゃあ人間も俺達の事怖がらなくなったさ……それを嘆くのも良く分かるよ、同じ境遇のものとしてな……だがなぁ、そうやって人をおちょくるのは頂けねえな?」


 親父顔を不快そうに歪めて唸り声を上げる人面犬に慌てて彼女は違う違うと否定する。


「……そうじゃなくてね、ほら……見て」


 マスクをゆっくりと取りながら微笑む彼女とは対照的に、それを見せられた人面犬は顔を青ざめる。人面犬は恐る恐るといった風に彼女へと疑問を口にする。


「お……お前!? その顔……一体どうしたんだよ!!」


「フフ、すごいでしょ?」


 驚く人面犬に得意そうな様子を見せる彼女。しかし、人面犬はそんな彼女を「アホか!!」と怒鳴り付ける。どうして怒鳴られているのか分からないのか困惑した表情を浮かべる彼女に人面犬はきつい口調で話し始める。


「おまえっ!! なんだその口は!! あの耳まで裂けた口は一体どこにやっちまったんだよ?」


「え? バイトでたまったお金で整形したのよ? ほら」


 口元を優しくなでる彼女に人面犬は学校中に響き渡るのではないかと思うほどに大きな声で叫んだ。


「馬鹿ーーー!! おまえっ、自分が何したのか分かってんのか?」


「……え? 私はただ……」


「ただ……なんだ? おまえ、自分が口裂け女だってことを自分で否定したんだぞ?軽い気持ちでやったのかもしれないがな、考えても見ろ。俺達は人間じゃない……俺達は人間どもに恐怖を味遭わせるための産物じゃねえか。 俺の顔を整形して犬にしたらどうなる?唯の犬だろう? ンなモン誰が怖がんだよ。 いいかお前はもう唯の女になっちまったんだ……そんな奴はもうこの世界にゃいられねえよ」


 そう言葉を吐き捨てた人面犬に、彼女は眉尻を下げておろおろと口元を押さえる。


「そんな、私は……」


「っけ……まあ、後は自分で考えるんだなぁ……んじゃあばよ、()妖怪口裂け女さん」


 彼女が声をかける間もなく、一方的に会話を終わらせた人面犬は薄暗い廊下に消えていった。ポツンと一人残された彼女はふと、窓ガラスに映った自分の顔を見つめる。悲しそうな表情を浮かべた女性の顔がこちらを見つめている。これは自分の顔なのだ。先程まであんなに嬉しかった筈の……普通の顔……


 無意識にコートのポケットに手を入れた彼女の手に金属的な冷たい何かが触れる。なんだろうと思って取りだしてみるとそれは医療用のハサミだった。


 良く尖れたハサミの刃が怪しい光を放っていた。


 ハサミを使ってもう一度口を切り裂きました……なんて真似は彼女にはできないと思いますよ。それにコメディーですからね一応……

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― 新着の感想 ―
[一言] 酷い奴ら、また新しい友達見つければ良いと思う。
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