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景色2

 志穂は自分の部屋から鞄を取ってくると、階段を駆け下りて

「行ってきまぁす」

 そう言って、玄関を出た。

「あ、いけない」

 後戻りして再び玄関のドアを開け、傘立てから自分の傘を抜き取ると、それを広げながら小走りに門を出た。

 ここは、埼玉県の所沢から西武沿線で少し奥へ位置する場所だが、途中から出来た大通りに合わせて住宅地の開発がはじまったので、駅からは遠い。

 最寄りの駅は、入間市駅だが、バスで十五分、道路が混んでいると三十分以上掛かる事もある。

 そして、学校は駅に程近い場所に在る。

 天気が良いと自転車で行く事もあるが、大抵はバスを使う。それは、学校が緩い坂の途中にある為、行きは下りで良いが帰りは上り坂になってしまう為だった。

 雨の日は、鬱陶しい。と思いながらも、この黴たような古い土の臭いから開放される距離まで歩くと、志穂はホッとする。思わず深呼吸してしまうほどだ。

「今日は、雨だから遅れてるかな」

 志穂はそう言ってバス停まで来た時、ちょうどバスが来た。何時もより五分早い。いや、このバスは本来一本前のバスなのだ。

 つまり、現在バスは二十分ほどの遅れで運行されている。志穂は、今までの経験から、だいたいそう言うことを読んで家を出るのだ。

 この時間帯にバスに乗っている学生と言えば、殆どが志穂と同じ学校の生徒だ。ベージュのブレザーにワインレッドのチェックのスカートは意外と目立つ。男子はベージュのブレザーにグレーのスラックスだ。

「おはよう!」

 バスに乗り込むと、何時もは会わないはずの里美が声を掛ける。彼女は何時も志穂よりも一本早いバスを使うのだ。

 里美はクラスでも一番仲が良い友人だ。他にも数人、何でも話せるような友人はいるが、志穂は比較的彼女と行動を共にする事が多い。

 志穂も一年生の頃は、毎朝里美と同じバスに乗っていたので、自然と仲が良くなったのだ。ところが、ある日寝坊をして、泣く泣く一本遅いバスに乗ったら、何とかギリギリに間に合う事を知って、それ以来、なかなか一本前のバスに乗れなくなってしまったと言う訳だ。

 志穂は里美の横で吊革に捕まった。

「乗ってくると思ったよ」

 里美は、志穂が雨の日は自分と同じバスに乗って来る事が判っていた。時々お互いの行動パターンが読めてしまうほど、二人は気が合うのだった。

「混んでるね」

 志穂は小さく息をついた。

 雨の日は、何時も自転車を利用する人もバスを使う為、非常に混雑する。しかも、隣の人の傘が、自分のスカートを濡らす事も少なく無く、それを含めて、志穂は雨の日が嫌いだった。

 学校の前は駅に続く並木通りになっている。バス停から校門までほんの少しだけ歩く、この銀杏の並木道が、志穂は意外と好きだった。

 片山一家は、志穂が中学二年生の時に東京の世田谷から埼玉県に引っ越して来た。

 世田谷の中学校は校庭が狭く、陸上トラックが楕円ではなく、まん丸だった。もちろん百メートルの直線なんて取れはしない。

 埼玉の中学に転校して、陸上トラックが一周三百メートルあると聞いて驚いたものだった。勿論、高校の校庭も広く、公式競技のできる四百メートルトラックの横には野球部とサッカー部のグラウンドが別々に在る。

 そして、正校門を入る際、並木の歩道を必ず通る。

 世田谷で通った中学の通学路にも銀杏の並木通りが在って、志穂はこの並木道を通ると世田谷で暮らしていた頃の友達を思い出す。




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