秘密(2)
月曜日、学校へ着いた志穂は、智也を探した。もちろん、彼が昨日言った言葉の意味を訊く為だった。
智也は学校が終わったら話すからと言い、その場では口を閉ざしていた。
志穂は尚更気になって、この日は授業どころではなかった。里美達との雑談も半ば上の空だった。
放課後、里美と由美子に声を掛けられたが、ちょっと用事があると言って、そのまま校門を出た。校門を出た所で智也は待っていた。
「で、どういう事なの?」
「うん。じゃぁ、行こう」
「えっ、行くって、何処に?」
「行けばわかるよ」
志穂は智也に言われるままに、到着したバスに乗り込んだ。
「ねぇ、こっちってあたしん家よ」
「そうだよ」
智也はサッカー部に所属しているせいか、歩くのが早かった。志穂は時々小走りになりながら智也についていった。
「やっぱり、あたしん家じゃん」
二人は志穂の家の前まで来ていた。
「用があるのはこっちさ」
智也は、志穂の家の奥に広がる墓地を指差して「実際にその目で見たほうがいいから」
志穂はあまり、気が進まなかったが、智也について墓地へと足を踏み入れた。
「この入り口には昔『奥津城』って書かれた立て札が在ったんだ」
「オクツキ?」
「墓所って言う意味らしい。今で言う『霊園』て言う呼び方みたいなものじゃないかな。今も、神社の近くに小さな札が立ってるよ」
智也は話しながら奥へ進んで、志穂もそれにつづいた。
何年ぶりかで入った墓地は、急に秋が深まったかのようにしんみりと、寒々としていた。
「俺も、本当はあまり来たくはないんだ」
智也が呟いた。
「ここは、入った事はあるかい?」
「ええ、ずいぶん、前に越して来たばかりの頃」
「何か、気付かなかった?」
「何かって?」
「墓石の文字が薄いのがあるだろう」
智也は辺りを見渡すようにして言った。
墓地の中は、空が晴れているにも関わらず薄暗い風景に映る。それは、黒やグレーの墓石の色と、茂みと木々の深い緑が背景を暗くしているせいなのだろう。
「ええ。でも、風化したんでしょ」
「じゃぁ、アレは?」
智也は細い土の通路を入って行った。
志穂もそれに続くように歩いた。
「この墓石はそんなに古くはないぜ」
智也の立ち止まった場所に立つ墓石は、確かにスベスベに研磨加工が施された御影石で、そんなに大昔に建てたものではない事が伺える。
しかし、なんとその墓石の名前の文字は、まるで何十年のも歳月を掛けて風化したかのように薄くなっているのだ。
「元々、薄く彫ったとかじゃないの?」
志穂は、そんなはずは無いと思いながらも言ってみた。
「じゃぁ、向こうのは?」
智也はあえて指は指さなかった。
志穂は、智也の視線の先を辿ってみた。斜めに四つ先の墓石もピカピカなのに、名前が薄かった。
「でも、それがどうしたの?」
墓石の文字が薄い。確かに妙だとは思うが、志穂にはそれが何を意味して、何故そうなのか検討もつかなかった。
智也は再び歩き出した。
「俺は、人一倍霊感が強いわけではないんだ。でも、ここへ来ると、どうにも背中がゾクゾクして、産毛が逆立つような感じになるんだ」
「それは、あたしも少しは感じるけど……」
志穂はそう言いながら、自分の両手で両肘を抱えて擦った。
二人は、少し湿った土の通路を奥へと歩いた。




