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秘密(1)

 うろこ雲が高い空に波のように浮かぶ、晴れた日曜の朝、切らした食パンを買いに志穂は外へ出た。一番近くのコンビニで買い物を済ませて帰宅すると、家の横の路地に車が止まっていた。

「よう」

 仲村智也だった。

「どうしたの?」

 自転車を止めて志穂が訊く。

「爺ちゃんの命日なんだ」

「お爺さんのお墓、ここだったの」

「ああ、お前はどうしたんだよ」

「あたしん家、ここ」

 志穂は、直ぐ横の自分の家を指差した。

「へぇ、お墓のまん前なんだ」

 智也は笑って言った。

「じゃぁ、この墓地の事知ってるか?」

「なに?」

「いや、知らないならいいんだ」

 智也は言葉を濁して、

「じゃぁ、親が待ってるから」

 と軽く手を上げると、車の横を通って墓地の方へ入って行った。

 この墓地の事知ってるか? この墓地に何かあるのだろうか……

 志穂は智也の言葉が気になった。最近の不可解な出来事が、その思いをいっそう大きくさせた。




 志穂は夜気の静けさを頭の隅で感じながら、真っ暗な世界が途端に開けて行くのを見ていた。何も無く、何も聞こえない。

 まるで、この世に生を受ける前の世界に意識が飛んでしまったようだ。

 ピンポーンと、突然玄関のチャイムが鳴った。気がつくと目の前には自分の家の玄関が在る。志穂は何の抵抗も無く扉を開けた。

 そこには一人の少女が立っていた。志穂にはそれが誰なのか直ぐに判った。

「千絵……」

「元気?」千絵が言った。

「え、ええ。元気よ」

 志穂はそう言いながら千絵の後に視線を向けた。彼女の後ろに広がっているのは長々と続く銀杏の並木道だった。

 玄関は確かに自分の家のはずなのに、どうした事だろう。

「入れてくれないの」

 千絵は笑った。

「あ、どうぞ」と、志穂は彼女を招き入れる。

 しかし、そう言って振り返ると、そこは外の風景だった。

 玄関だったはずなのに……

 周囲が雑木林に囲まれ、所々に枝垂れ柳の木が、もの悲しげに枝を揺らしている。

 一軒の家の裏側が見えた。志穂の家だ。

「ここは、裏の墓地だ……」

 志穂の目の前には真新しい墓石が在る。おそらく、一番最近、そう、ついこの間納骨を済ませていたお墓だろう。

 ふと見つめて、彼女は目を見開いた。

 太田家之墓……

 まさか…… まさか、そんな。

 右手に冷たい何かが触れて、志穂がびっくりして振り向くと千絵が立っていた。

 再び見た彼女の顔は、青白く紫がかって、血の気が全く無かった。

「千絵、あなた……」

 志穂が、そう言いかけた時、千絵の顔の表面がセルロイドの人形のようにドロドロと溶け出した。

 志穂はあまりの驚きに声が出せずに、後に身じろごうとするが身体が動かない。

 千絵の顔は、皮膚がみるみる削げ落ちて、頭骸骨を露わにした。

 ふと見ると、志穂の腕を掴んだ千絵の手も、白色の骨になっていた。僅かに皮膚と血管が纏わり着いている。

「やめて、千絵!」

 志穂は全身の力を振り絞るようにして後ろへ身を引いた。

 ドスンッという音と共に、背中に痛みが走って目を開いた。

 自分の部屋の静けさが、まるで別世界のように感じた。

 彼女は自分のベッドから転げ落ちていたのだ。

「夢……」

 彼女は床に膝立ちになって、そのままベッドの上に上半身を突っ伏した。

 あの声…… あれは千絵。前に聞いた電話の声も千絵だ。

 ベッドサイドの時計に目をやると、二時十分だった。




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