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第11話 分担しろ、この世界を守るなら

 世界は、均され始めていた。


 空の奥から現れた“管理側”の存在。

 それが視線を向けただけで、揺れが整えられていく。


 音は一つにまとまり、影は本体に重なる。

 人の動きは滑らかになり、迷いが消える。


 それは一見、美しかった。


 だが――


「……息苦しいな」

 リクが言う。


 ユウも同じだった。


 整いすぎている。

 選択の余白がない。


 それは“正しい世界”なのかもしれない。

 だが、生きている感じがしない。


「……来る」

 ミナの声。


 同時に、複数の“修正者”が動いた。


 音を削るもの。

 影を固定するもの。

 記憶を整理するもの。


 それぞれが、役割を持って動く。


 そして、その背後で――


 管理側が、それを統合する。


「……分業してるな」

 リクが言う。


「しかも無駄がない」


 ユウは小さく頷いた。


 これは戦いではない。

 “工程”だ。


 世界を整えるための作業。


「……なら」


 一歩、前に出る。


「こっちも分ける」


 リクが振り返る。

「どういう意味だ」


「全部は無理だ」


 ユウは短く言う。


「でも、分ければ止められる」


 ミナが静かに言った。


「役割を対応させる」


 ユウは頷く。


「そうだ」


 一つ一つの修正に、対抗する。


 全体ではなく、局所で。


 固定される前に、崩す。


「リク」


「おう」

________________________________________

「お前は音だ」


「……音?」


「消されたら終わる」


 一拍。


「感じろ。ズレを」


 リクが苦笑する。

「無茶言うな」


「できる」


 ユウは断言した。


「お前、気づいてただろ」


 リクは一瞬、黙る。


 そして、小さく舌打ちした。


「……ああ、まあな」


「なんか変だとは思ってた」


「それでいい」


 ユウは次にミナを見る。


「ミナは記憶」


「了解」


 短い返答。


「削られる前に繋げる」


「できるか?」


「やる」


 それで十分だった。


 最後に、自分。


「俺は固定を崩す」


 世界の核。


 決められようとしている部分。


 そこを揺らす。


「……三人で分担か」

 リクが言う。


「チーム戦ってやつだな」


 ユウは少しだけ笑った。


「今さらだろ」


 その瞬間。


 修正が加速した。


 音が消える。


 リクが、目を閉じる。


「……ある」


 小さく呟く。


「完全には消えてねえ」


 ユウが叫ぶ。

「引っ張れ!」


 リクが手を伸ばす。


 見えない何かを掴むように。


 そして――


 音が戻った。


 わずかに。


「……戻した!」


 同時に、影が固定される。


 ミナが動く。


 記憶を繋ぐ。


 断絶しかけた意識を、再接続する。


「……繋がった」


 人の表情が戻る。


 名前が戻る。


 関係が戻る。


 その裏で、ユウは踏み込む。


 固定されかけた空間。


 そこに触れる。


 揺れを滑り込ませる。


 決まりかけた現実を、ずらす。


「……ここだ」


 押し込まれる。


 だが離さない。


 固定と揺れが衝突する。


 世界が軋む。


 そして――


 一箇所、崩れた。


 完全に固定されていたはずの部分に、ズレが生まれる。


 管理側の存在が、わずかに反応した。


『――異常発生』


 初めての“想定外”。


 ユウは息を吐く。


「……いける」


 リクが笑う。

「マジかよ」


 ミナも小さく言う。

「成立してる」


 三人の役割が、噛み合っている。


 個別では弱い。


 だが、組み合わせることで機能する。


 それが、今の戦い方だ。


「……もう一回だ」


 ユウが言う。


 次の修正が来る。


 同じように。


 だが――


 さっきより速い。


「……対応してきてる」

 ミナが言う。


「学習してる」


 管理側が、処理を変えている。


 同じ手は通用しない。


 リクが言う。

「どうすんだよ」


 ユウは、わずかに笑った。


「なら、変える」


 一拍。


「こっちもな」


 その瞬間。


 三人の動きが、わずかにズレた。


 リクが先に動き、ミナが遅れ、ユウが別の位置を崩す。


 パターンを崩す。


 固定されない動き。


 それ自体が、揺れになる。


 修正が追いつかない。


 処理が遅れる。


 その一瞬の隙を突く。


 さらに一箇所、崩れた。


 管理側の存在が、明確にこちらを見た。


 初めて。


 “敵として”。


 ユウはそれを見返す。


「……来いよ」


 一歩、前に出る。


「まだ終わってねえ」


 そのとき。


 空の奥で、さらに深い層が動いた。


 今までとは違う。


 圧力が、質的に変わる。


 リクが顔を上げる。

「……おい」


 ミナが小さく言う。


「……来る」


 ユウは、理解した。


 これは。


 “次の段階”だ。


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