推しヒロインが現実にやって来た!
【第1話】推しが部屋に来た日〜嘘だろ、リアルに存在してる!?〜
【あらすじ・本文】
東京郊外の6LDK古民家アパートに一人暮らしする白川蒼(20歳・大学2年)の朝は、いつも通りラノベを読みながら始まった。
「今日も推しの桜咲凛が最高すぎる……現実にいたら俺、絶対死ぬな」
ため息をつきながらページをめくった、その瞬間——
ドガァァァン!!
窓から、何かが飛び込んできた。
煙が晴れると、そこには見覚えのある銀髪が広がっていた。
「——ここは……どこだ?」
凛とした声。整いすぎた顔立ち。腰に帯びた聖剣のレプリカ(ではなく、本物)。
「え……桜咲、凛……?」
「貴様は誰だ。なぜ私の名を知っている」
蒼の手からラノベが床に落ちた。表紙には今目の前に立っている少女が描かれていた。
その後、次々と異変が起きた。玄関チャイムが鳴るたびに知らない顔——いや、知っている顔が増えていく。
「こんにちは〜! わたし春野めいって言います! なんか気づいたらここに来てて……」
「……場所を確認している。邪魔をするな」(月城ルナ、窓枠に座りながら)
「あの、わたくしこのような場所に住んだことがなくて……」(華園アリア、荷物が多い)
夕方までに10人全員が集合した。
蒼は部屋の真ん中で崩れ落ちた。
「俺の全推しが……全員……現実に……」
橘みずきが蒼の肩にそっと手を置いた。
「大丈夫? 顔が真っ白よ」
「だ、だだだ大丈夫じゃない!!」
氷室千夜が眼鏡を光らせながらメモを取り始めた。
「興味深いですね。私たちが物語から実体化した理由を解析する必要があります。しばらくここを拠点にさせてください」
「え? え? みんながここに住むの?!」
全員がうなずいた。
こうして、陰キャラノベオタク・白川蒼の「世界で一番幸せで一番しんどい同棲生活」が始まった——。
【ラッキースケベ①】
深夜、蒼がトイレに起きると廊下でルナとばったり遭遇。ルナは薄手のネグリジェ姿で、眠そうに目を細めていた。
「……なんだ、蒼か」
距離ゼロ。蒼の視線がどこに行けばいいか分からず固まっていると、ルナがふらりとよろけて蒼の胸に倒れ込んだ。
「……あたたかい」
蒼の心臓が爆発した。
「ル、ルナさん!! 起きてますか?!」
「……寝ている」
完全に蒼を抱き枕にして立ち寝し始めたルナを、蒼は真っ赤な顔で部屋まで担ぎ戻した。翌朝ルナは「そんなことあったか?」と言った。
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【第2話】10人の朝ごはん大作戦〜台所は戦場でした〜
【あらすじ・本文】
翌朝6時。蒼が目を覚ますと、台所から何やら争う声が聞こえてきた。
「火加減はこうだ! 炎の剣士たる私が料理できないわけがない!」(凛・フライパンから火柱)
「却下。科学的に最適な調理温度は——」(千夜・温度計を持参)
「あのー、わたしが作りますよ? 普通に?」(めい・困り顔)
蒼が台所に入ると、10人の美少女が冷蔵庫の前で陣取り合戦を繰り広げていた。
「お、おはようございます……」
「おはよう、蒼くん!」(ソラ、元気よく振り返る)
「……」(ルナ、コーヒーを飲みながら壁にもたれている)
「おはようございます、蒼様」(アリア、丁寧にお辞儀)
結局、めいの仕切りのもとで朝食が完成。10人分の朝ごはんが並ぶ食卓は、蒼が一人で食べていた時とは別世界だった。
「いただきます」
にぎやかすぎる朝食。夜宵だけは隅の席でひっそりと食べていたが、蒼がそっと隣に座ると、耳まで赤くして目を逸らした。
「……別に、隣じゃなくていい」
「え、嫌でした?」
「……嫌とは言っていない」
蒼はこっそりほほえんだ。
【ラッキースケベ②】
食後、蒼が洗い物をしていると背後からソラが「手伝う!」と飛び込んできた。しかし狭い台所でぶつかってしまい、蒼はソラを受け止める形で壁との間に挟まれる体勢に。
「わっ! ごめんごめん、蒼ってこんなに細いんだー!」
「細くない! あと近い近い近い!!」
顔が10センチの距離で向き合ったまま固まる二人。ソラが気づいて真っ赤になった。
「わ、わたし今なんか変な体勢じゃない?!」
「変な体勢!!」
みずきが台所の入口で静かに笑っていた。
「青春ね〜」
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【第3話】ツンデレ凛の秘密〜剣士姫はお風呂の使い方を知らない〜
【あらすじ・本文】
問題が発覚した。
「あの……凛さんって、お風呂入りました?」
めいが恐る恐る聞くと、凛は腕を組んで視線を逸らした。
「……入り方が、わからん」
どうやら凛の出身世界は中世ファンタジーで、シャワーも浴槽もない。川で水浴びはしていたが「現代の入浴システム」は完全な未知の領域だった。
蒼がシャワーの使い方を説明しようとしたが、凛は頑として「誰かに教わるなど恥だ」と言い張った。
結局「声だけ聞こえるように廊下で待機する」という妥協案で落ち着いた蒼だったが——
バン!!
「蒼! この、このつまみが!!」
凛がドアを半開きにして顔だけ出した。髪は濡れていて、首から下はタオルだけが巻いてある。
「な、なんで開けるんですか!!」
「うるさい、つまみの場所を教えろ! 温度が変わらん!!」
「だだだ言います言います! 閉めて!!」
蒼が真っ赤な顔で壁に背中をつけたまま説明し、凛が自力で解決するまで5分かかった。
【感動エピソード① 挿話】
その夜、お風呂から上がった凛が蒼の部屋をノックした。
「……礼を言いに来た」
少し照れながら蒼の前に立つ凛。プライドの高い彼女がお礼を言いに来るのは珍しいことだと、蒼は何となく分かった。
「大したことしてないですよ」
「貴様は……嫌みなくそういうことが言えるのだな」
凛が窓の外を見た。
「私の世界では、弱みを見せると笑われる。だから……ありがとう、というのは慣れていない」
「……そうなんですね」
「だから今のは聞かなかったことにしろ」
ドアを閉める直前、凛の耳が赤いのが見えた。
蒼は声を出さずに笑った。
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【第4話】お嬢様アリア、コンビニへ行く〜値段って何ですか?〜
【あらすじ・本文】
冷蔵庫が空になった。買い出しに行くことになり、アリアが「私も行きます!」と立候補した。
「アリアさん、コンビニって分かりますか」
「わかりません。ですが蒼様の隣で学べるなら、どこでも参ります」
この一言だけで蒼の心臓が3回跳ねた。
コンビニに入ったアリアは、目を輝かせてあらゆる商品を手に取った。
「これは……光る棒?」
「それ蛍光ペンです」
「このおにぎりは、なぜ三角なのですか」
「食べやすいからだと思います」
「……食べてみてもいいですか」
「どうぞ」
アリアがおにぎりを一口食べた。
「……っ!!」
目が潤んだ。
「美味しい……これが庶民の食事……! こんなに美味しいものが手軽に……!」
感動のあまり涙ぐみ始めたアリアを、蒼は半笑いで止めた。
【ラッキースケベ③】
帰り道、段差でアリアがつまずいた。とっさに蒼が手を掴んで支えた。
「大丈夫ですか?」
立て直したアリアと目が合った。距離、ゼロ。
「……蒼様のお手が、温かいですね」
そのまま手を離さないアリア。蒼の心拍数が最大値を記録した。
「あ、あの、もう大丈夫ですよね?」
「……わかっています」
それでも手を離さないアリアと、引っ込められない蒼の手が、夜の住宅街でしばらく繋がったままだった。
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【第5話】魔女・夜宵の泣き虫な秘密〜闇属性は涙を隠す〜
【あらすじ・本文】
夜宵がひとりで屋上にいるのを蒼が見つけた。
深夜2時。星が見える夜だった。
「……何しているんですか、こんな時間に」
「…………月を、見ていた」
夜宵は蒼を見ようとしなかった。その横顔を見て、蒼は何かを感じた。
「泣いてますよね」
「——違う」
「目、赤いです」
長い沈黙。
「……物語の中では、私は強かった。誰にも負けなかった。読者に恐れられる魔女だった」
夜宵がゆっくり続けた。
「でもここに来て初めてわかった。私は……ずっと、孤独だったんだ、って」
蒼は何も言わなかった。ただ、隣に座った。
「物語の私は一人でよかった。でも今は……少し、怖い」
「何が?」
「みんなといることが、好きになりそうで。……また失うのが」
蒼は空を見上げた。
「夜宵さんの話、ちゃんと聞きますよ。俺、ラノベで夜宵さんのことめちゃくちゃ好きだったから」
「……本で知っただけだろう」
「本でもリアルでも、好きは好きです」
夜宵が初めてこちらを向いた。目が少し潤んでいた。
「……馬鹿じゃないか、貴様は」
「よく言われます」
夜宵が小さく、ほんの少しだけ笑った。蒼の胸に何かが刺さった。
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【第6話】メガネひよりの誤解〜「そういう本」を読んでいるのは誰だ〜
【あらすじ・本文】
蒼の本棚を整理していたひよりが、一冊の本を発見した。
「……これは」
タイトル:『ドキドキ☆制服ハーレム〜君たちの全てが俺を狙っている〜』
蒼の愛読ラノベだったが、表紙が非常に……扇情的だった。
ひよりは眼鏡の奥の目を細めて、本を抱えて蒼の部屋へ向かった。
「蒼くん、これは」
「ああそれは!! 違います本当に文学的に優れた——」
「読んだよ」
「え?」
「昨日の夜から今朝にかけて、全巻」
ひよりは眼鏡を直した。
「……正直に言う。面白かった」
蒼が硬直した。
「え」
「感情描写が丁寧で、各ヒロインの掘り下げが秀逸。特に第3巻の文化祭エピソードは泣いた」
「ひよりさんが!? 泣いたの!?」
ひよりが少し顔を赤くした。
「あくまで文学的評価として。……続きはあるの?」
「全12巻あります」
「貸して」
【ラッキースケベ④】
本を受け渡す際に指が触れた。ひよりが「あっ」と声を出し、眼鏡がずり落ちた。蒼が反射的に眼鏡を支えようとして、ひよりの顔に手が触れてしまった。
完全に頬に手を添えた体勢で数秒固まる二人。
「……眼鏡、かけ直しました」
「ご、ごめんなさい!」
「……謝らなくていい。わたしもぼんやりしていた」
ひよりが顔を本で隠すようにして部屋へ戻った。背中が少し赤かった。
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【第7話】アイドルノアの「本物の笑顔」〜輝くためじゃない、君のために笑いたい〜
【あらすじ・本文】
ノアが突然塞ぎ込んだ。
いつも明るく部屋を照らすような彼女が、自分の部屋から出てこなくなった。
心配した蒼がドアをノックすると——
「……入っていいよ」
ノアはベッドに横になっていた。あの輝くような笑顔がない。
「どうしたんですか」
「……わたしってさ、アイドルじゃん。笑顔が仕事。みんなを幸せにするのが役割」
ノアが天井を見つめた。
「でもさ……ここに来てから、本当に楽しくて笑えてるのに、それが怖くて」
「怖い?」
「本物の笑顔って、どこからが本物かわかんなくなる。わたし、ずっと笑い方を練習してきたから」
蒼はしばらく考えてから言った。
「ノアさんの笑顔、俺は本物だと思いますよ」
「なんで」
「作った笑顔って、目が笑ってないんです。ラノベで読んだんですけど」
ノアが少し笑った。
「ラノベかよ」
「でも本当に。ノアさんが昨日夕飯食べながら笑ってた時、目もちゃんと笑ってた」
「……それって」
ノアがゆっくり起き上がった。
「それって、蒼のこと見てくれてるってことだよね」
「え、そんなつもりじゃ——」
「ありがと、蒼」
ノアが素の笑顔を見せた。舞台用でも練習用でもない、たった一人のための笑顔。
蒼は目を逸らせなかった。
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【第8話】体育会系ソラ、勝負を挑む〜ベタ惚れを認めたくない乙女のスプリント〜
【あらすじ・本文】
「蒼! 勝負しろ!!」
朝6時、ソラが玄関前でランニングウェア姿で仁王立ちしていた。
「なんで……」
「昨日の夜、夢に蒼が出てきた! 好きになったら負けだと思ってる! だから勝負で決着をつける!!」
論理がよくわからないが元気なのでしょうがなく蒼はついていった。
マラソン対決。結果:蒼の圧勝。(ソラは運動能力は高いが、持久走は苦手だった)
「……負けた」
「ソラさんが挑んできたんですよ?」
「……好きになってもいいってこと?」
「え?」
「負けたら好きになっていいルールだった」
「そんなルール聞いてない!!」
【ラッキースケベ⑤】
走り終えた後、ソラが足首を押さえた。
「捻挫かも……」
「見ます」
蒼がしゃがんでソラの足首をそっと触った。
「いたっ……でも、蒼の手、優しいね」
顔を上げると、ソラが真上から見下ろしていた。朝日のせいもあって、輪郭が光って見えた。蒼の心拍が跳ねた。
「……か、かわいいな」
小声すぎて聞こえていないと思った蒼だったが——
「……今、なんて言った?」
「なんも言ってない!!」
ソラが耳まで赤くなって目を逸らした。
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【第9話】おねえさんみずきの「特訓」〜恋愛初心者に距離感とは何かを教える授業〜
【あらすじ・本文】
みずきが蒼を呼び出した。
「蒼くん、あなた女の子の気持ちにまったく気づかなすぎ」
「えっ」
「凛ちゃんも、ルナちゃんも、ソラちゃんも。全員あなたのことが好きなの、わかってる?」
「えええええ」
みずきがため息をついた。
「今日から恋愛特訓。わたしが教えます」
みずきの「恋愛特訓」は即席すぎて謎の内容だった。
・目を見て話す練習(蒼が顔を赤くして5秒で終了)
・褒め言葉を言う練習(「みずきさんは……き、綺麗です」「ありがとう。でも噛んだ」)
・手を繋ぐ練習(両者とも無言で1分間手を繋いだ後に気まずくなった)
【ラッキースケベ⑥】
「自然に支えあう練習」として二人並んでソファに座っていたところ、みずきが静かに蒼の肩に頭を預けてきた。
「……み、みずきさん?」
「……ごめん。練習じゃなくて本当に眠くなってきちゃった」
数分後、みずきは本当に寝ていた。肩に顔を埋めたまま、安心しきったような表情で。
蒼は動けなかった。動く気が起きなかった。
(なんで……こんなに穏やかな気持ちになるんだろう)
2時間後に目を覚ましたみずきは「ご、ごめんなさい!」と跳び起きて逃げていった。
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【第10話】科学者千夜の「感情バグ」〜演算不能・心拍数異常値の原因は蒼くん〜
【あらすじ・本文】
氷室千夜がおかしかった。
いつも完璧な彼女が、蒼と話すたびに計算ミスを起こすようになっていた。
「……おかしい。演算が乱れる」
千夜が手帳に書き記していたのは「蒼接触後の心拍異常データ」だった。
蒼が差し入れにコーヒーを持っていくと——
「……ありがとう」(手帳にチェック:心拍+23)
「寒くないですか?」(ブランケットを渡す)(手帳にチェック:体温+0.3度)
「……なぜ体が勝手に反応する。感情的であることは非効率だと理解しているのに」
千夜がひとりで悩んでいると知らない蒼が「千夜さん、今日も研究ですか?」と声をかけてきた。
千夜は反射的に答えた。
「……あなたの研究です」
「え?」
「——今のは忘れてください」
【感動エピソード②】
深夜、千夜がひとりでいるところへ蒼が来た。
「千夜さんって、自分の感情を怖がってますよね」
「…………」
「俺、分かる気がします。俺もずっと、推しに本気になるのが怖かった。現実の人間じゃないから、って」
「……それは」
「でも千夜さんは今ここにいる。俺の隣に。だからもう——本気になっていいかなって思ってます」
千夜が手帳を閉じた。
「……感情は、非効率ではないかもしれません」
初めて、千夜が手帳なしで笑った。
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【第11話】全員集合・文化祭作戦〜陰キャ蒼が主役になる一日〜
【あらすじ・本文】
蒼の大学の文化祭が近づいてきた。蒼には縁のないイベントだったが、全員が「行く!」と言い張った。
「蒼くんの大学見たい!」(ノア)
「社会見学になる」(千夜)
「……私は別に」(ルナ・でも玄関で待ってた)
10人と一緒に学内を歩くと、当然ながら大騒ぎになった。
「あいつ、誰……?」
「10人いる……?」
「全員美人なんですけど……」
陰キャとして大学3年間を過ごしてきた蒼が、初めて学内で人に話しかけられた。
「あの……お友達の方々ですか?」
「は、はい」
凛が蒼の隣に立った。
「この男の何が気になる? 言ってみろ」
威圧的な笑顔で聞く凛に相手が逃げていった。
「凛さん、助けなくていいです」
「私は助けていない。牽制していた」
【ラッキースケベ⑦】
お化け屋敷に全員で入った。
暗闇の中でルナが蒼の手を握った。
「……怖くない」
「握ってるじゃないですか」
「……データ収集だ」
一方で後ろからはノアが蒼の背中にしがみついていた。
「こわーい!! 蒼!!」
「た、高い高い!! ノアさん身長あるから重——」
「重いって言った??」
「言ってない言ってない!!」
出口で凛だけが「何も怖くなかった」と腕組みしていたが、その手が少し震えていた。
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【第12話】初めての「好き」〜ラノベの言葉じゃなく、君自身の言葉で〜
【あらすじ・本文】
文化祭から帰った夜、蒼は自分の部屋でラノベを手に取った。
いつもなら没頭できるのに、今日は読めなかった。
(みんなの顔が頭から離れない……)
凛の横顔。ルナの手。ノアの笑顔。夜宵の涙。千夜の初めての笑い。
蒼はラノベを閉じた。
「……俺、本当にみんなのことが好きだ」
扉をノックする音。ドアを開けると——10人全員が廊下に並んでいた。
「な、なんですか……」
「みんなで話し合ったの」(みずき)
「……蒼に言うことがある」(全員を代表してルナ)
ルナが一歩前に出た。
「私たちは物語のキャラクターだ。いつかここを去る日が来るかもしれない。それでも——」
凛が続けた。
「貴様を好きになるのを止められなかった」
めいが両手を重ねた。
「蒼くんといると……ここが、わたしたちの本当の物語みたいで」
蒼の目が熱くなった。
「俺も……みんなのことが、好きです。ラノベで読んでいた時より、ずっと」
夜宵が小さく呟いた。
「……馬鹿だな、貴様は」
でも、全員が笑っていた。
蒼も笑った。
10人と1人の「本当の物語」が、ここから動き出した——。
〜第1期 前半 完〜
(第13話以降に続く)
【第13話】ルナの「好き」は無口すぎて伝わらない〜月光少女の不器用な告白大作戦〜
【あらすじ・本文】
月城ルナは、感情の表し方を知らなかった。
物語の中での彼女は「クールで無口、全てを月の魔法で解決する」キャラクターだった。だから愛情表現も、距離のつめ方も、誰かに教わったことがなかった。
「……蒼」
「はい?」
「今日、隣に座ってもいいか」
「もちろん」
それだけでルナは耳が赤くなった。
ルナの「好き」の表現は全て間接的だった。
蒼の好きなコーヒーを黙って用意しておく。
蒼が風邪を引いた時に無言で葛根湯を枕元に置く。
蒼が落ち込んでいる時だけ、そっと同じ部屋にいる。
「ルナさんって、実は世話焼きですよね」
「……違う」
「じゃあなんで俺の部屋に来るんですか」
「……データ収集だ」
「それ、第1話から言ってますよね」
ルナが小さく視線を逸らした。
【ラッキースケベ⑧】
夜、蒼が廊下で立ち止まると、ルナが壁にもたれて眠っていた。手に本を持ったまま。
近づいて顔を覗き込むと——本のタイトルは「伝わる愛情表現100」だった。付箋だらけで、ルナの書き込みが全ページに入っていた。
(頑張ってたんだ……)
蒼がそっとブランケットをかけようとした瞬間、ルナがうっすら目を開けた。
「……蒼」
「ごめん、起こした?」
「……ここにいろ」
ルナが蒼の手首を掴んだまま、また眠りに落ちた。蒼はその場に座り込んで、夜明けまでルナの隣にいた。
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【第14話】めいの手料理と「ありがとう」の重さ〜彼女が料理を作り続ける理由〜
【あらすじ・本文】
春野めいは毎日料理を作っていた。
朝も夜も。誰かが遅く帰っても、必ず温かいものを用意していた。
「めいさんって、疲れませんか」
洗い物を手伝いながら蒼が聞くと、めいは少し首を傾けた。
「疲れないよ? 楽しいから」
「でも毎日10人分ですよ」
「うん。だって……物語の中のわたし、ずっとひとりだったから」
めいの声が静かになった。
「隣人は美人ばかり——じゃなくて、わたしのいた作品の話なんだけど。わたしって脇役だったんだよね。主人公の隣に住んでるだけの、名前もほとんど出てこない女の子」
蒼は何も言わなかった。
「誰かに料理作って、ありがとうって言ってもらえたことがなかった。……だから嬉しいんだ、蒼くんがいつも「美味しい」って言ってくれるから」
蒼がめいの手を止めた。
「俺、ちゃんと言ったことなかったかも。……ありがとう、めいさん。毎日、本当に助かってます」
めいの目がじわっと潤んだ。
「……蒼くんって、ずるいよ。そういうこと自然に言えるの」
「ラノベで学んだ成果です」
「ラノベかよ」
二人で笑った。台所があたたかかった。
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【第15話】凛、初めてのデート〜「これはデートではない」と言い張る剣士姫〜
【あらすじ・本文】
「……蒼。今日は二人で出かけよう」
「え、デートですか?」
「違う。世界の調査だ」
凛は頑として「デート」という言葉を使わなかった。
だが出発前に30分かけてコーデを悩み、蒼に「今日の私はどうだ」と聞いてきた。
「すごく綺麗ですよ」
「……そうか。まあ当然だ」
耳が赤かった。
二人で商店街を歩いた。凛は全ての店が珍しく、蒼の袖を引いて「これは何だ」「あれを説明しろ」と問い続けた。
クレープ屋の前で凛が立ち止まった。
「……これを食べてみたい」
「クレープですね」
凛が生クリームのクレープを一口食べた。
「——!!」
目が見開かれた。
「甘い……こんなに甘いものが……」
生クリームが鼻につきそうになった。蒼が「ついてますよ」と拭くと、凛は硬直した。
【ラッキースケベ⑨】
夕方、帰り道で雨が降った。コンビニの軒先で二人が雨宿りした。
狭い軒先。肩が触れる距離。凛が少し蒼の方に寄った。
「……寒い」
「上着、貸しましょうか」
「いらん」
でも凛は蒼の腕に手を添えた。そのまま雨が上がるまで、何も言わずに並んでいた。
帰宅後、凛が小声で言った。
「……今日は、悪くなかった」
「デートでしたよね」
「世界調査だ」
でも口元が笑っていた。
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【第16話】夜宵と蒼の「秘密の場所」〜屋上の魔女と星の名前〜
【あらすじ・本文】
夜宵が蒼を屋上に呼んだ。
「今夜、星が綺麗だ。……見るか」
二人で並んで空を見上げた。夜宵が星の名前を教えてくれた。彼女の世界では星は「魔法の源」で、全ての星に名前と物語があった。
「あれはヴェリスの星。孤独な魔女が自分の影を星に変えた伝説がある」
「夜宵さんっぽいですね」
「……そうか?」
夜宵が蒼の横顔を見た。
「貴様は、私の物語を読んでいたと言ったな」
「はい」
「では……私が何を怖れているか、知っているか」
蒼は少し考えた。
「物語の中の夜宵さんは、一番怖いのは誰かを傷つけること、って言ってましたよね。だから一人でいることを選んでた」
「……よく覚えている」
夜宵が膝を抱えた。
「今は……一人がいいとは思えない。それが怖い」
「一人じゃなくて怖いのは、普通だと思います」
「普通? 魔女が普通か」
蒼が夜宵の隣に少し近づいた。
「夜宵さんが魔女でも、ここでは同居人ですよ。10人いる中の一人」
夜宵が小さく息を吐いた。
「……蒼は、言葉がうまいな」
「ラノベで——」
「ラノベで学んだんだろう。もういい」
二人で笑った。屋上があたたかかった。
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【第17話】ノアの「本番」〜ステージの上じゃなく、蒼の前で歌いたい〜
【あらすじ・本文】
ノアが歌の練習を始めた。
深夜に小さな声で歌っているのを蒼が偶然聞いてしまった。
「……すごい」
思わず声が漏れた。ノアが振り向いた。
「聞いてたの?!」
「ごめん……でも綺麗で」
ノアが少し顔を赤くした。
「本番用の歌じゃないんだけど。……本番用って、みんなのための歌じゃん。これは……特定の一人のために作ってたやつで」
「誰のために?」
ノアが蒼を見た。
「……蒼のために」
蒼の言葉が止まった。
「蒼がいたから、ここにいてよかったって思えるようになったから。だから……歌にしたくて」
ノアが照れて視線を逸らした。
「ちゃんと完成したら聞いてくれる?」
「……もちろんです」
【ラッキースケベ⑩】
練習中にノアがバランスを崩した。とっさに蒼が受け止めた。
ノアを抱きとめた体勢で、二人の顔が至近距離になった。
「……蒼、顔赤い」
「そっちもですよ!!」
しばらく固まって、二人同時に離れた。
「えっと……練習、続けますか」
「……うん、するけど。さっきの、わたしも心拍上がった」
「言わないでください!!」
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【第18話】ひよりの「告白研究」〜司書は恋愛小説を読み尽くして実践した〜
【あらすじ・本文】
白雪ひよりは計画的だった。
「恋愛成就の研究をする」と宣言し、蒼の書棚から全ての恋愛ラノベを読破した。
付箋の数:147枚。
ノートのページ数:83ページ。
結論:「直接言うのが最短経路」
ひよりが蒼を部屋に呼んだ。
「座って」
蒼が座った。ひよりがノートを開いた。
「研究の結果を報告します。わたしは蒼くんのことが好きです。この感情は第4週目から継続して記録されており、強度は週を追うごとに上昇しています」
蒼が固まった。
「……今のは、告白ですか」
「そうです」
「ノートに書いてありましたか」
「はい」
ひよりが眼鏡を直した。わずかに手が震えていた。
「……緊張していますか」
「しています」
蒼は少し笑った。
「ひよりさん、研究よりも本人の方がずっと可愛いですよ」
ひよりが眼鏡の奥を真っ赤にした。
「……そういう返し方は、研究してなかった」
「俺もラノベで学びました」
「……ラノベは偉大だね」
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【第19話】みずきの涙〜お姉さんは一番最後に泣く〜
【あらすじ・本文】
橘みずきはいつも「お姉さん」だった。
誰かが悩んでいれば聞いた。落ち込んでいれば支えた。蒼のことも、みんなのことも、笑って見守っていた。
だから蒼が気づいた時、みずきは一人で泣いていた。
台所に水を飲みに来た蒼が、暗い廊下でみずきを見つけた。
「みずきさん……?」
みずきが振り返った。泣いていた。そして——「あははは! 見られちゃったね」と笑った。
「笑わなくていいですよ」
みずきの笑顔が固まった。
「……わたし、みんなの相談聞いてて気づいたの。みんな蒼のことが好きで、蒼もみんなのことが大切で。……わたしも好きなんだけど、なんか一番言えなくて」
蒼は何も言わず、みずきの隣に座った。
「年上だし、お姉さんキャラだし、先に泣いたら格好悪いじゃん」
「格好悪くないですよ」
「……蒼って、優しいね。本当に」
みずきが蒼の肩に頭をそっとのせた。
「少しだけ、こうさせて」
「いくらでも」
みずきが静かに泣いた。それから深呼吸した。
「……ありがとう。明日からまたお姉さんやる」
「お姉さんじゃなくていいですよ」
みずきがぽかんとした顔をした。
「……それ、どういう意味?」
「そのままの意味です」
みずきがもう一度、今度は照れながら笑った。
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【第20話】千夜の「帰還計算」〜感情は非効率でも、止められなかった〜
【あらすじ・本文】
氷室千夜が「帰還の光」を発見した。
物語世界と現実世界の間に生じた「裂け目」が、一定周期で閉じようとしている。それが完全に閉じた時——ヒロインたちは元の世界へ戻される。
「……残り、何日ですか」
蒼の声が静かだった。
「計算では、30日前後です」
千夜は感情を殺した顔で言った。
「みんなに言いますか?」
「……言わなければなりません。しかし」
千夜が手帳を握りしめた。
「私は……この30日を、どう使うべきか。帰還準備をするべきか。それとも」
目を閉じて、続けた。
「……蒼の隣にいるべきか」
蒼が千夜の手帳をそっと押さえた。
「30日、全部一緒にいましょう」
千夜が目を開けた。
「……後悔しませんか」
「後悔したとしても、それが本物の時間だと思うので」
千夜の手から手帳が滑り落ちた。拾おうとした千夜の手を、蒼がそっと掴んだ。
「……感情は、非効率ではなかった。ですね」
千夜が小さく、でも確かに笑った。
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【第21話】「帰還の光」の告知〜10人の返事、それぞれの想い〜
【あらすじ・本文】
夕食後、千夜が全員を集めて「帰還の光」のことを告げた。
しばらく沈黙が続いた。
最初に口を開いたのは凛だった。
「……30日か」
静かな声だった。
「それまでに決着をつければいい」
ノアが手を上げた。
「わたし、残り全部使って歌完成させる!」
めいが目を拭いた。
「……蒼くんのために、全部の料理作っておきたい」
ソラが立ち上がった。
「悔いなく全力で行く。それしかない」
ルナが静かに言った。
「……データは取り終わった。あとは残るだけだ」
ひよりがノートを閉じた。
「研究は終わり。これからは体験に使う」
アリアが手を胸に当てた。
「わたくしは……蒼様のそばにいたい。それだけです」
夜宵が窓の外を見た。
「……月が綺麗だな。30日あれば十分だ」
みずきが涙をこらえて笑った。
「みんな、ちゃんと蒼に伝えなよ。わたしも伝える」
千夜が最後に言った。
「私が計算できるのは日数だけです。感情は……あなたたちに任せます」
蒼は10人の顔を一人ずつ見た。
「……俺も、全部使います」
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【第22話】ラッキースケベ最終決戦〜28日目の大混乱〜
【あらすじ・本文】
残り2日となった28日目。なぜかこの日が今まで最大の混乱日となった。
【ラッキースケベ大全集・第22話】
朝:蒼がシャワーを終えて脱衣所を出ると、凛がいた。「出口を間違えた」(眼が泳いでいた)。蒼のバスタオル姿と凛のパジャマが廊下で一瞬鉢合わせ。両者絶叫。
昼:ソラが「腕立て伏せのカウントして!」と頼み、蒼が床に座って数えていたらソラが勢い余って転倒。蒼の膝に顔が激突。ソラの顔面が蒼の太もものあたりに5秒埋まった。両者絶叫。
午後:ルナが「本の取り方を教えろ」と高い棚を指差し、蒼が踏み台に乗って取ろうとすると踏み台が倒れた。蒼とルナが組み合うように床へ。ルナが上、蒼が下の体勢で固まること10秒。ルナ「……データ収集完了」蒼「違う意味で完了してる!!」
夕方:めいが「試食して!」とスプーンを口元に持ってきた際、タイミングが合わずに蒼の顔に生クリームが激突。めいが慌てて顔を拭こうとして蒼の頬に手を添えた。距離ゼロ。めい「ご、ごめんなさい!!」蒼「息が当たってる!!」
夜:アリアが「着方がわからない」と浴衣を持ってきた。蒼が後ろから帯を結ぼうとしたら、アリアが振り返った。完全に正面から抱き合う体勢。「……距離が、近うございますね」「す、すみません!!」
深夜:ノアが「ねえ隣で寝ていい?」と入ってきた。「ダメです!!」「なんで!!」「なんでって!!」言い合いながら結局ノアが蒼のベッドの端っこで眠ってしまった。蒼は床で一夜を明かした。
翌朝、千夜がログを見ながら言った。「28日目は異常値が多い」
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【第23話】29日目の「本当の気持ち」〜10人×1人の告白リレー〜
【あらすじ・本文】
残り1日。
朝から順番に、それぞれが蒼のもとへやってきた。
[凛]
「……蒼。私は不器用だ。言葉も、感情表現も。だが一つだけ言える。貴様が好きだ。それは本当だ」
[ルナ]
「……愛情表現100を全部読んだ。でも使えなかった。だから直接言う。好きだ。蒼が好きだ」
[めい]
「蒼くん、わたしのこと名前だけの脇役だと思ってた。でも蒼くんがいてくれて、ここが主役の物語みたいになった。……大好きだよ」
[アリア]
「わたくしは生まれて初めて、お嬢様でも令嬢でもなく、ただの一人の女性として蒼様に想いを伝えたい。……好きです。蒼様のことが、好きです」
[ソラ]
「勝負で好きになってもいいってルールにしたけど、本当は最初から好きだった。……ずっと、ずっと好きだったよ」
[夜宵]
「……私の物語には愛の言葉がなかった。でも今は言える。蒼——好きだ。貴様のことが、心から好きだ」
[ひより]
「研究の結論。好きです。この感情は、本物です」
[みずき]
「お姉さんとしてじゃなく、一人の女の子として言わせて。……蒼くん、大好き」
[ノア]
「歌にしたかったけど、言葉の方が早い。蒼、わたし蒼のことが一番好き。ずっと好きだった!」
[千夜]
「……計算外でした。でも今は計算しなくていい。蒼くん——好きです。ありがとう」
蒼は10人の言葉を全部受け取った。
夜、一人で屋上に上がった蒼は空を見上げた。
「……俺が、一番幸せな陰キャだ」
泣きながら笑っていた。
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【第24話】「また会いに来るから」〜帰還の光と、11人の約束〜
【あらすじ・本文】
30日目の朝。
起きると全員がリビングにいた。いつもより少しだけ静かで、いつもより少しだけ近くに座っていた。
「帰還の光」は夜10時に来ることが千夜の計算で分かっていた。
その日は全員で過ごした。
めいが全員分の「一番好きなメニュー」を作った。
凛が初めて蒼に剣を教えた。(蒼は3分で音を上げた)
ルナが「最後のデータ」と言って蒼の手を握ったまま2時間離さなかった。
ひよりが「記念に」と言って二人で本を一冊読んだ。
アリアがお嬢様らしさを全部捨てて「友達みたいに話したい」と言った。
ソラが「全力で走ろう」と言って夕暮れの公園を二人で走った。
夜宵が自分の世界の星の話を全部教えてくれた。
みずきが「何もしないで隣にいる時間が好きだった」と言った。
ノアが完成した曲を歌ってくれた。一人だけのための歌。
千夜が「感情は、最後まで非効率ではなかった」と笑った。
夜10時。部屋の真ん中に光の柱が生まれた。
10人が一列に並んだ。
凛が代表して言った。
「蒼——また会いに来る。それは約束だ」
「……来てくれますか」
「私たちは物語のヒロインだ」
凛が笑った。
「読んでくれる人がいる限り、物語は続く。だから——次の章で会おう」
ルナが蒼の手を一度だけ強く握った。
めいが「ごちそうさまはちゃんと言ってね」と言った。
アリアが深くお辞儀した。
ソラが「次は絶対負けない!」と叫んだ。
夜宵が「馬鹿め」と言いながら目を潤ませた。
ひよりが「次は研究じゃなく体験から入る」と言った。
みずきが「蒼くん、ちゃんと生きてね」と笑った。
ノアが「歌、また聞かせるから!」と手を振った。
千夜が「再会の確率:高」と静かに言った。
光が強くなった。
10人が光の中に消えていった。
部屋は静かになった。
蒼は一人で床に座っていた。
手の中に、凛が残していった羽根が一枚あった。
蒼は笑った。
「……また会いに来るから、か」
ラノベを一冊手に取った。表紙には10人の顔が並んでいた。
「俺、ちゃんと読み続けるよ。だからみんなも——ちゃんと俺を好きでいてくれ」
窓の外、夜空に10個の光が流れ星のように瞬いた。
白川蒼は、初めてラノベ以外で泣いた。
——それはまた会うための、約束の涙だった。
〜第1期 完〜
次回予告:第2期「推しヒロインが現実にやってきた!2」
〜あの子たちが戻ってくる——今度は蒼を本気で落としに〜




