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ラベルのない小瓶

掲載日:2026/02/03

普通でいるって、意外と大変だ。

特別な才能もないし、見た目が優れている訳でもない。

そんな人間は、普通から外れないように生きるのだ。

今日も明日も、同じように勉強ができて、眠れて、志望校に受かるように。


✼ ✼ ✼


最近の私の日課は自習だ。

第一志望の大学に合格するために、毎日図書館に通っている。

ひたすらに問題集を開き、答えを埋め、丸つけをする。

普通の受験生だ。


最近、模試の結果が安定している。

偏差値、判定、志望順位。

成績表に書かれる数字も少しずつ上がっている。

受験が終わるまで、私がやることは変わらない。

問題集を、数をこなすだけだ。

気がつくと、何かを探すように、手が動いている。


「無理しないでね」

母にそう言われたことがある。

笑ってうなずいた。

無理なんてしていない。

本当に。

ただ、普通に勉強しているだけだ。



自分の部屋に戻った私は、机の引き出しの奥から小瓶を手に取った。

透明なガラス。ラベルは空白。

半分ほどまで、透明な液体が入っている。

中身は、何だっただろうか。


整理整頓をしていると、時々こういうものが出てくる。

賞味期限の切れたお菓子、なくしたと思ったペン、古いプリント。

私はこの瓶も、そういう類いだと思うことにした。

また、何かの拍子に思い出すかもしれない。


翌日も勉強は滞りなく進んだ。

手が震えることもない。

効率は悪くない。

むしろ、安定している。

「最近、調子いいね」

先生にそう言われて、私は笑顔を浮かべた。

少し、身体が重い。はやく帰りたい。


夜、帰宅して自室に戻る。

視界の端に、ラベルのない小瓶が映った。

透明の液体が入った、小さな小瓶。

前に見た時より、少し減っている気がする。

いつ、ここに置いたんだっけ?


翌日。

学校が休みだったから、図書館で勉強することにした。

普通に勉強すれば、志望校に受かるはず。

問題集を開き、ひたすらに問題を解く。

自己採点して、間違いは直して、完璧に。

いつも通り。


ふと、ラベルのない小瓶が頭に浮かんだ。

あの小瓶を置いてある場所。

机の引き出しの奥。左の隅。

なぜか、とても気になった。

いけない、集中しなければ。

私は首を振り、勉強に戻った。


家に帰り、コートを脱いだ。

夕飯まで、少しだけ机の整理整頓をしようと思いついた。

使っていないものは、減らしたほうがいい。

そうすれば、作業効率も上がる。


机の引き出しの奥、左の隅。

空白のラベルがついた小瓶を手に取る。

軽い。

中身は、もうあまりない。

「……何かに、使ったかな?」

独り言が、やけに静かな部屋に落ちる。

無色透明の液体は、ただの水にも見える。

しばらく手の中で転がして、元に戻した。


元の位置。

机の引き出しの中、左の隅。

瓶がその位置に収まると、とても心が穏やかになった。

用途不明のこの小瓶は、ここにあるべきなのだ。


母が部屋の扉をノックする音。

私は机の引き出しを閉めた。


「夕食、出来たわよ」

「すぐ行く」


棚の鏡に写る自分と目が合った。

いつも通り。「普通」だ。

ふと、机が目に付いた。


――何を、しまったんだっけ?

旅路の終わりには、光がありますように。

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