オットドッコイ帝国物語
私の名前はへーデル·クサイ。このオットドッコイ帝国の王太子だ。
あれはいつのことだっただろうか。幼い私に当時、王太子だった兄は私に言ったのだ。
「私は悪いことをしたからもうここにはいられないのだ。お前は私のようになってはいけないよ。本当に愛さなければいけない人を違えてはいけないよ」
そう言った兄は衛兵に連れて行かれた。それが兄を見た最後だった。
成長する過程で、兄のことを知った。なんでも兄はある男爵令嬢に入れ込み、何の瑕疵もない婚約者だった公爵令嬢に冤罪をかけ、婚約破棄をしたという。そのため、ある塔に幽閉されているという。その話を知った私は何と愚かなと思ったものだ。やがて私にも婚約者ができた。婚約者となった公爵令嬢·スットコ·ドッコイショは美しく優秀で努力家だった。激しい恋愛感情はなくとも彼女とならいい関係を築けると思っていた。
ある時、私は偶然、父の国王陛下と母の王妃が話しているのを聞いてしまった。
「よい婚約者が決まってよかったですわ。多少、王太子が不出来でも伴侶となる令嬢が優秀であれば心配はいりませんもの」
「そうだな。あれも兄に似て不出来だ」
私は愕然とした。私はそんなに不出来なのか。いや、努力をすればいいのだ。スットコのように。私は今までにも増して努力をした。だが、スットコはそんな私よりさらに一歩先を行っていた。そして、それにあぐらをかくこともせずに努力を怠ることもなかった。
年頃になり、学園に通うようになった。そして私はある男爵令嬢を気がつけば目で追うようになっていた。今なら兄の気持ちがわかる。だが、兄の言葉を思い出し、必要以上に関わることはしなかった。が、彼女は魅力的だった。私の他にも彼女に惹かれる令息も多くいて、その令息たちにも政略的な婚約者もいるのだが、近頃ではその婚約者達ともうまくいっていないらしい。
ある時、その男爵令嬢は令息たちの婚約者に囲まれていた。
「婚約者のいる殿方に馴れ馴れしくするものではなくてよ」
彼女たちはそう言って問い詰めていたのだ。彼女たちの言うことは正論だが、だからと言って大勢で一人を攻め立てるのはどうなのだ。気づけば私は彼女を庇っていた。
彼女たちが去って行った後、私はその男爵令嬢と話をした。彼女はスーダラ男爵の庶子で近頃、男爵家に引き取られたらしい。名前はパンツ·スーダラという。
「ここはいや…町に帰りたい」
「帰ればいいのではないか」
「かあさんが病気になってお金が必要になって父を頼ったの。父はお金を出す代わりに学園に通って位の高い子息を捕まえろと言ったの。手当たり次第に声をかけたわ。でも、みんな、私を遊びとしか見てないの。それでは父の目的は果たされないの。今は治療を受けていられるかあさんも男爵の胸一つでどうなるかわからないの」
「なんてやつだ」
私は自分の私費からその男爵令嬢の母の治療費を払った。その後、彼女は学園から姿を消した。彼女にちょっかいをかけていた子息たちも元の鞘に治まったらしい。
予定通り私はスットコ·ドッコイショ令嬢と結婚式をあげた。結婚パレードのとき、私は民衆の中にパンツ·スーダラの姿を見た。何人かの子供の手を引いていた。側には彼女の夫だろうか。優しげに寄り添う男がいた。幸せそうでよかった。
民衆に手を振りながらスットコは私に言った。
「殿下、あちらをご覧ください。私たちがパレードをしている通りは整えられていますが、あの路地を入れば貧しくて明日のパンさえも買えぬ人々がいるのですわ。そのような人々をなくさなければ、この国の未来はありませんわ」
「確かにその通りだ」
私たちにそれぞれ恋愛感情などはなかったが信頼関係があった。皆は賢王·賢妃とたたえてくれる。
国王となった私は、幽閉されている兄のある塔を見上げた。そこには例の男爵令嬢も一緒に幽閉されている聞いた。
兄は愚かだったけど私は兄が好きだった。幼い頃、優しくしてくれた。今、兄は例の男爵令嬢とともにあって幸せなのだろうか?幸せであって欲しい。




