第五話 コートの争いは、コートで解決 ①
学園艦〈ながと〉に乗艦してから早くも二週間が経ち、そろそろ法科高専生としての生活にも慣れてきた頃だった。
「本日から一週間、全艦で『部活勧誘ウィーク』が開催されます!運動部も文化部も、たくさんの個性豊かな部活動が目白押しです!どうぞ皆さん、中央総合体育館までお越しください!」
このような艦内アナウンスが朝から休み時間ごとに流れ、まるで私たちを洗脳するかのように「部活動に参加しよう」と繰り返していた。
「皆さんは、部活動には参加されるのですか?」
休み時間、私の机に集まってきたミヤさまとイチョウとで案の定、部活動の話題になった。
「うーん、中学まで特にやってなかったし部活なんて考えてもみなかった。イチョウは?」
「部活って……何?」
「えっ、あんた本気で言ってる!?」
学校に通っていなかったミヤさまでも一応部活動の存在は知っているというのに、イチョウが知らないなんてことはないだろう。
「いやいや、さすがに部活動の存在は知ってるよ。バスケ部とか、バレー部とか。でもあたしの中学には部活なんて一つもなかったんだよねえ。だから、部活動といえば何をするかってあんまり知らなかった」
「あら、そんな中学もあるのですか?」
「いや、大半の学校には何かしら部活はあると思うけれど……どうして部活動が一つもないのよ。まさか全部あんたが壊して回ったわけじゃあるまいし」
大学のサークルではサークルクラッシャーというのが時たま出没し、サークルを次々解散に追い込むらしい。しかし中学の部活動が解散するなんてあまり聞いたことのない話だ。
「昔は部活が色々あったんだと思うけど、あたしの時はもう学生が一人しかいなかったからねえ。校舎がぜーんぶあたしの物だったんだよ」
「へえ……じゃあ、イチョウの中学も今は、もう……」
「そりゃもちろん廃校だよ。というより、村ごと無くなっちゃった」
「……最近、増えているそうですわね、廃村」
ミヤさまは少し言いづらそうに話す。私もニュースで幾度となく廃村という文字を見たことがあった。それも、この数十年で地方の荒廃は加速していてこれを何とか止めないといけない、というコメンテーターの決まり文句付きで。もっとも、止めないといけないという言葉は、私の物心のついた時から使われていたのだけれど……。しかしイチョウは特に気にとめる様子もなく、
「まあ、しょうがないよ。だって人がいないんだもん。ところでアカリん、みゃーちゃん、今日の放課後、中央体育館に行かない?どんな部活があるか見てみようよっ」
と私たちを誘った。こういう展開になるのは大体予想がついていたし、こうもアナウンスで何回も言われると行きたくなくても行かざるを得ない。私たち三人は授業が終わるとすぐ、船上鉄道で十五分ほどかけて中央体育館へ向かった。
* * *
実は〈ながと〉では学校単位で部活動を組むわけではなく、学園艦単位で部活動を組んで大会に出場する。そのため、人気の部活動は数百人も部員を抱えていることもあるという。そして部活動の数それ自体も尋常ではなかった。
「うわあ、すっごいブースの数」
多くの部活動が同じ時間帯に活動できるようにと広く作られたはずの体育館を埋め尽くすほど、ブースがひしめき合っていた。当然その熱気もすさまじく、各部活が新入生の気を引こうと必死に声かけをし、それが体育館中に響いていた。こういう光景はどこかで見たことがあるような……?
「アカリん、見てあれ。学園生活部だって! 学校で寝泊まりするらしいよ」
「あの作品は日常系を装ったホラーだよ」
「えっ、何の話?」
とりあえず私たちは順路に沿って色々なブースを見て回ることにした。とはいっても、順路に沿って進むだけで一時間はかかりそうだ。
「ブースはたくさんありますが、部員がいないところも結構多いですわね」
「熱心な部活ばっかりじゃないってことだね。ポスターを貼ってるだけのところもあるし」
イチョウは何やら、あるブースのポスターに見入っていた。
「興味ある部活でもあった?」
「この『隣人部』の勧誘ポスターなんだけどさあ……」
「イチョウには関係ないから大丈夫。あんたは友達が少なくないから」
「今日のアカリん、謎のツッコミが多くない?」
ちなみに私は、隣人部の部員といえばやっぱりメインヒロインのよぞ……。いや、やっぱりこの話はよそう。
「あのお……新入生の方ですよね。お忙しいとは思うのですが、お話だけでも聞いていってくれませんか」
私たちが囲碁サッカー部のポスターを眺め、囲碁サッカーとは一体何だろうと思案をめぐらせていたその矢先、後ろから突然声をかけられた。
「その話しかけ方は……訪問販売部っ!」
たしかに「お話だけでも」という割には玄関先までズカズカと押し入り、本当に効用があるのかよく分からないウォーターサーバーを契約させてきそうな声のかけ方ではある。
「えっあの……すみません、違います……」
「そのポロシャツ、有名なテニスブランドのものですわね。もしかしてテニス部ですか?」
ミヤ様の推理にピンク色のかわいいポロシャツを着た女の子は、
「はいっ!女子軟式テニス部です!」
と顔を明るくして女子軟式テニス部のブースに案内してくれた。体育嫌いな私はそこまでテニスに興味があるわけではないけれど、せっかくならということでついて行くことにした。
「皆さんはテニスの経験はおありですか?」
ブース内のパイプ椅子に私たちを座らせた女子部員は私たちにそう尋ねた。私とイチョウは「否」、ミヤさまは「屋敷のテニスコートで嗜んでいた」とのことだった。テニスはどの世界線でもお嬢様の基礎知識らしい。
「私たちの半分くらいは未経験者なのですが、それでも楽しくやっています! ご興味があればぜひ、明日の放課後にテニスコートに体験に来ませんか」
そう言いながら女子部員は私たちにラケットや軟式ボールを次々に握らせてくる。ラケットって案外重いんだなあ、と素人なりに思うけれど、隣のイチョウは早速ぶんぶんラケットを振っていた。
「ルールとか全然知らないんですけど、それでも大丈夫なんですかねえ」
と言いつつもイチョウは明らかに乗り気である。
「もちろんです。実際のテニスコートを見て、私たちと軽く練習してみましょう! ルールは難しくありませんから」
「参考までに、練習ってどんな練習をするんですか」
どうせこのままイチョウに誘われてテニス部の体験入部に行く羽目になることは薄々予想していたので、あらかじめ聞いておく必要がある。これで走り込みだとか言われたら即撤収だ。私はスポコン漫画の主人公になるつもりはない。
「そうですね。まずはラケットを持ってもらって、素振りとか……だけじゃ楽しくないので、試合もやりたいですね」
「おおっ、試合かあ。いいじゃん、腕が鳴るなあ!まだやったことないけど。アカリん、ミヤさま……」
「はいはい」
「久しぶりに試合ができそうですわね」
走り込みがないなら体育嫌いな私でも何とかなるだろうと二つ返事で承諾してしまったけれど、今回もと言うべきか、またまた事件に巻き込まれることになるのだった。




