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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校2年生

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第94話「それぞれの“窓”が開く」

主役:全員


冬の光が静かに差し込む、校内展示会の朝。


展示会場の一角に設けられた手芸部のブースには、大きな白布の上に刺繍作品が並んでいた。

テーマは──「窓」。


いとの描いた下絵をもとに、それぞれの“今”と“これから”が、色と糸で紡がれていた。

四人の2年生と、数人の1年生。全員の個性が滲んだ「窓」の景色が、布の上に広がっている。


「……始まったね」


開場直後、律がそっとつぶやく。


初めて訪れた来場者たちが、ゆっくりと足を止め、作品の前でじっと立ち止まっている。


「わぁ、細かい……」

「これ、ぜんぶ手縫い? すごい……」


ざわつきはない。ただ、静かな感嘆の声と、目を細めて見入る表情が、展示空間を満たしていた。


一年生の明日香は、自分の刺繍の前で、友人に照れくさそうに語っていた。


「……これはね、“今の私の窓”っていう意味で。先輩たちが“描けるよ”って言ってくれたから、やってみようって思えたの」


その隣で、別の1年生が「わたしは“まだ開いてない窓”かな」と笑う。

それを見ていた律の目元が、ふっとやわらぐ。


さゆりは、来場者と何気ないやり取りをしながら、自分の作品に込めた「未来への色彩」について話していた。


希音は、静かに会場を回りながら、時折足を止め、来場者の表情を目に焼き付けていた。


「……なんか、見てたら、泣きそうになった」


ふいに、ひとりの来場者──同学年の別クラスの生徒がそう言って、少しうつむいたまま去っていく。


その言葉に、いとの動きが止まる。


彼女はふと自分たちの刺繍に目を向けて、そっとつぶやいた。


「“届く”って、こういうことなんだね……」


自分たちが思っていた以上に、針と糸が語っていた。

窓の向こうにいる“まだ見ぬ誰か”に、確かに、想いは届いていた。


閉場が近づいた頃、手芸部のメンバー全員が、展示会場の窓際に立った。


外はもう夕方。

冬のやわらかな光が、長く差し込んでいた。


白布の上に並ぶ“窓”たちが、その光を受けて、まるで本当に開いているように見えた。


あおばは、ふと笑う。


「この光って、“向こう側”から来てるんだね」


いとが小さくうなずいた。


「うん。……私たちの“これから”も、きっと、あの窓の先にあるんだと思う」


誰も何も言わなくても、全員の心がそこに重なっていた。


展示会場の窓から見える冬空は、どこまでも澄んでいて。

それぞれの“これから”を、やさしく照らしていた。

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