第93話「“違い”があるから、一緒にいられる」
主役:希音・さゆり
「……もうちょっと全体の並びを揃えた方がいいと思うの」
展示準備スペースで、希音が冷静な口調で言った。
「うん。でもさ、それぞれ違うから面白いんじゃない? 色も、形も、見せ方も」
さゆりは、並べられた刺繍作品の前で首をかしげながら反論する。
校内展の準備もいよいよ佳境。
作品の展示レイアウトをめぐって、希音とさゆりの意見がかみ合わなかった。
希音は、「ひとつの展示空間としての統一感」を重視している。
それに対してさゆりは、「作品ごとの個性をどう引き立てるか」にこだわっていた。
「これじゃあ、見てる人がバラバラに感じちゃうよ」
「でも、整えすぎたら、せっかくの“違い”が消えちゃう」
交わらない視線。
互いに間違っていないからこそ、正解が見つからない。
「……少し、休もうか」
そうつぶやいた希音の声に、さゆりはゆっくりうなずいた。
夕方。冷たい風が吹き抜ける校舎裏のベンチ。
ふたり並んで座っても、しばらくのあいだ言葉はなかった。
「……ごめんね。わたし、意地になってたかも」
さゆりが先に口を開いた。
希音は黙ったまま、枯葉が風に舞うのを見ていた。
「でもね、わたし、展示って“舞台”だと思うの。作品ひとつひとつが“役者”で、見せ場がちゃんとあるようにしたくて……」
希音の声が、ささやくように続く。
「……わかる。わたしは逆に、自分の作品を“声”みたいに感じてる。誰かに届くかもしれない、って。だから、他の声とも響き合ってほしいの」
さゆりのその言葉に、希音の瞳がそっと揺れる。
──“違い”って、ぶつかるものじゃない。
──“響かせ合う”ものかもしれない。
「……バラバラでも、きっと“ひとつ”になる見せ方があるはずだよね」
希音がぽつりとつぶやくと、さゆりは目を丸くし、すぐに笑った。
「うん。“合わせる”んじゃなくて、“つなぐ”って考えよう」
夕陽に照らされたその笑顔は、まるで一枚の刺繍のように、柔らかく、あたたかだった。
展示最終確認の日。
展示台の上に、色も形も異なる作品たちが並ぶ。
それらは決して“揃って”いなかった。
でも、順序や高さ、空間の使い方──すべてが、絶妙に“つながって”いた。
まるで一筆書きのように、ひとつの流れがそこにあった。
「……いい感じ」
「ね、ちゃんと“ひとつ”になってる」
作品を前に、希音とさゆりの視線が重なった。
どちらからともなく、小さくうなずく。
互いの“違い”が、いま確かに、美しい形を生んでいた。




