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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校2年生

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93/150

第93話「“違い”があるから、一緒にいられる」

主役:希音・さゆり


「……もうちょっと全体の並びを揃えた方がいいと思うの」


展示準備スペースで、希音が冷静な口調で言った。


「うん。でもさ、それぞれ違うから面白いんじゃない? 色も、形も、見せ方も」


さゆりは、並べられた刺繍作品の前で首をかしげながら反論する。


校内展の準備もいよいよ佳境。

作品の展示レイアウトをめぐって、希音とさゆりの意見がかみ合わなかった。


希音は、「ひとつの展示空間としての統一感」を重視している。

それに対してさゆりは、「作品ごとの個性をどう引き立てるか」にこだわっていた。


「これじゃあ、見てる人がバラバラに感じちゃうよ」

「でも、整えすぎたら、せっかくの“違い”が消えちゃう」


交わらない視線。

互いに間違っていないからこそ、正解が見つからない。


「……少し、休もうか」

そうつぶやいた希音の声に、さゆりはゆっくりうなずいた。


夕方。冷たい風が吹き抜ける校舎裏のベンチ。

ふたり並んで座っても、しばらくのあいだ言葉はなかった。


「……ごめんね。わたし、意地になってたかも」

さゆりが先に口を開いた。


希音は黙ったまま、枯葉が風に舞うのを見ていた。


「でもね、わたし、展示って“舞台”だと思うの。作品ひとつひとつが“役者”で、見せ場がちゃんとあるようにしたくて……」


希音の声が、ささやくように続く。


「……わかる。わたしは逆に、自分の作品を“声”みたいに感じてる。誰かに届くかもしれない、って。だから、他の声とも響き合ってほしいの」


さゆりのその言葉に、希音の瞳がそっと揺れる。


──“違い”って、ぶつかるものじゃない。

──“響かせ合う”ものかもしれない。


「……バラバラでも、きっと“ひとつ”になる見せ方があるはずだよね」


希音がぽつりとつぶやくと、さゆりは目を丸くし、すぐに笑った。


「うん。“合わせる”んじゃなくて、“つなぐ”って考えよう」


夕陽に照らされたその笑顔は、まるで一枚の刺繍のように、柔らかく、あたたかだった。


展示最終確認の日。

展示台の上に、色も形も異なる作品たちが並ぶ。


それらは決して“揃って”いなかった。

でも、順序や高さ、空間の使い方──すべてが、絶妙に“つながって”いた。


まるで一筆書きのように、ひとつの流れがそこにあった。


「……いい感じ」

「ね、ちゃんと“ひとつ”になってる」


作品を前に、希音とさゆりの視線が重なった。


どちらからともなく、小さくうなずく。

互いの“違い”が、いま確かに、美しい形を生んでいた。



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