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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校2年生

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第90話「“描きたい”が見えてきた」

主役:いと・全員

舞台:部室、ミーティング中、白い布を前にしたシーン


 年明けの空気は、静かで澄んでいる。

 部室の窓から差し込む光も、少し柔らかくなった気がする。


 いとは、その光の先にある真っ白な布を見つめていた。

 何も描かれていない、大きなキャンバス。

 今の気持ちを、ようやく言葉にできる気がして、口を開いた。


「……やっぱり、私、みんなでひとつの作品を作りたい」


 その言葉に、部室がふっと静かになる。


 さゆりが、最初に目を細めてうなずいた。

 律が穏やかに微笑む。

 あおばは、少しだけ戸惑いながらも、「いいと思う」とぽつり。


「“今の私たち”を、何で表現できるだろう?」


 さゆりの問いかけに、自然とミーティングが始まった。

 白い紙が広げられ、ペンが走る。


「町の風景とかどうかな。馴染みのある場所を切り取って」

「それぞれの時間が重なる感じ……放課後、休日、あの公園とか」

「心の中にある風景を、布に映すのってどうかな」


 アイデアが次々と飛び出す。

 気づけば、1年生たちも加わっていた。


 そして――


「“窓”とか、どうかな?」

 あおばの一言に、全員が顔を上げた。


「窓……?」

「うん。外の景色を見る“窓”でもあるし、内側の景色を見せる“窓”でもある」

「それぞれの“今”を、窓越しに見ている感じ……」

「すごい、それ、いいかも!」


 全員の視線が、一枚の白い布に集まった。


 その午後。

 大きなテーブルの上に広げられた布の中央に、薄い鉛筆の線が描かれはじめる。


 いとが、手を止めずに静かに言った。


「この窓の向こうに、私たちの“これから”を、ひと針ずつ描いていこう」


 周囲の空気が、ふっと温かくなる。

 誰もが頷いて、静かに糸を選び始めた。


 針が布を刺す音。

 それは、また歩き出す合図のようだった。


◆小まとめ(第87~90話)

 年明けの静けさの中で、手芸部は新しい挑戦――地域コンテストへの出品を決めた。

 「個人とチーム」「過去と未来」「伝えたい」と「届く」――そのあいだで迷い、語り合いながら、それぞれが自分なりの答えを見つけていく。


 そしてたどり着いたのは、“窓”というモチーフ。

 それは、「今の私たち」が「これからの私たち」に向けて開く、新しい入口。


 真っ白だった布に、針が走る。

 静かな光の中で、また一つ、物語がはじまる。



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