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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校2年生

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87/150

第87話「“これから”をデザインする」

主役:いと・さゆり

舞台:部室、帰り道の公園ベンチ


 年明け最初の部活の日。

 手芸部の部室は、まだ暖房が本格稼働する前の冷たさを残していて、窓際の椅子に腰掛けた私は、軽く身震いした。


「今年もよろしくお願いします!」


 元気な声と共に、さゆりが部室に入ってくる。お正月明けとは思えないくらい元気な笑顔だ。

 私は小さく笑って「うん、今年もよろしく」と返す。


 そのあと、あおばと律も続けて登場。四人が顔をそろえると、顧問の先生が持ってきた一枚のチラシが机の上に置かれた。


「市が主催する創作コンテストがあるみたい。手芸も対象ジャンルに入ってるって」


 そのチラシには、大きくこう書かれていた。


『第3回 わたしのまち 創作アートコンテスト』

テーマ:「わたしのまち、わたしの物語」


「自由すぎて……逆に難しいかも」

 そう口にしたのは、私だった。


 去年の全国コンクールとは違う。決められたテーマ、規定のサイズ、評価基準。そういった“枠”があるほうが、実は作りやすいと感じてしまうのは、私の弱さなんだろうか。


「でもさ」

 さゆりが言う。

 「“自由”ってことは、今の私たちにしかできないものを出せるってことだよ」


 その言葉は、まっすぐすぎて眩しくて、私は少し視線を落とした。

 “今の私たち”って、どんなだろう。

 去年、悔しさを味わったばかりの私たちに、何が作れる?


 その日の帰り道、私とさゆりは、途中の小さな公園に立ち寄った。

 風は冷たくて、ベンチに座るとコート越しでも体温が奪われる。でも、不思議と嫌な寒さではなかった。


「いとちゃんは、何が作りたい?」

 さゆりが唐突に尋ねてきた。


「うーん……まだ、分からない」

 本音だった。

 悔しさはまだ胸の奥にあって、でも、それだけで何かを作れるほど、私は強くない。


 しばらくの沈黙。

 その中で、さゆりがぽつりとこぼした。


「“これからの自分たち”を、針と糸で描けたら、いいよね」


 その言葉が、心の奥で小さく灯った。

 それは火花みたいに、ふっと瞬いて、でも確かに、あたたかかった。


 夜、自分の部屋に戻って、私は机に向かった。

 机の上に置いたのは、去年の文化祭でも使ったスケッチブック。

 まだ描かれていない白いページを開いて、ペンを手に取る。


 何を描けばいいのか、まだ分からない。

 でも、描きたい。何かを。


「“今からのわたしたち”って……どう描けるんだろう」


 呟いた声は、小さく部屋に溶けていった。

 それでも、私はそのページに、最初の小さな線を引いた。

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