表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校2年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/150

第85話「たぶん私は、“伝えたい”」

「手芸部の展示……? うーん、美術展って“絵”のイメージだからさ」


放課後、美術室。壁に並ぶスケッチや油彩画たちの前で、私はぽつんと立ち尽くしていた。


隣では、美術部の子が申し訳なさそうに笑っていた。


「いや、作品はすごく丁寧だし、好きなんだけどね。ちょっと方向性が違うかもっていうか……」


——“絵じゃない”から。


その一言が、ふいに胸の奥まで染みこんで、冷たくなった。



次の日の朝。

通学途中、いつもの電車に揺られながら、私はぼんやり窓の外を見ていた。


目に入ったのは、駅の柱に貼られた、小さな広告。

手刺繍で作られたロゴと、細やかな飾り縫いのライン。


目立つわけじゃない。でも、あたたかかった。目が、心が、止まった。


——あ。


ほんの一瞬、胸がざわついた。


誰かの手が、そこにあった。

言葉じゃなくて、でも確かに伝わる“なにか”が。


それって、絵と……そんなに違うのかな?



夜。部屋の電気を消して、窓の外を眺める。

小さくスマホが震えて、画面に「いと」の名前。


通話ボタンを押すと、すぐに、いつもの声が耳に届いた。


「大丈夫? 今日、美術部の子と話してたよね」


私は、ごまかすように笑った。でも、そのあと、ぽつりと本音がこぼれた。


「……見てもらいたかったんだ。わたしの作ったもの。うまく言えないけど、伝えたくて」


少し間があって、いとの声が優しく返ってくる。


「それって、絵と同じじゃない?」


静かに、でもまっすぐに響くその言葉に、なぜだか涙がにじみそうになった。



通話を終えて、私は机に置いていた刺繍枠を手に取った。

作りかけの、小さな風景。まだ途中の空と、線のない木。


窓を開けて、その刺繍をそっと夜の光にかざす。


「“伝えたい”って、それが……たぶん、わたしの理由」


誰かに届くかどうかなんて、まだわからない。

でも、それでも。私は、針を持ちたいと思った。


言葉にできないものを、縫いとめていくために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ