第84話「“役に立たない”から、意味がある」
「家庭科の自由課題、何作る?」
授業の終わり際、隣の席の子に聞かれて、私はつい口にしてしまった。
「……なんか、“使い道がないやつ”が作りたいなって」
言った瞬間、数人が笑った。
「意味わかんない」「それってゴミじゃん」
冗談っぽく、でも刺さる感じで。
私は笑わなかった。ただ、うまく笑えなかっただけかもしれない。
*
放課後、気持ちが落ち着かなくて、図書館に足が向いた。
人が少ない、静かな場所にいたくて。
ふと文芸コーナーに目をやると、座っていた後輩の女の子が、こちらに気づいた。
「あ、手芸部の……希音先輩?」
文芸部の一年生だった。名前は、確か柚葉ちゃん。
少し話をするうちに、彼女が言った。
「小説も、“役に立たない”ってよく言われますよ。誰かの生活を変えるわけじゃないし、読んでも何も残らないって」
私は黙って聞いた。
「でも、“無駄”が残ってるって、案外すごいことだと思うんです。消えないで、残ってる。それだけで、意味があるんじゃないかなって」
彼女の言葉は、音もなく胸に落ちた。
*
帰り道、ふらりと寄った商店街の手芸用品店。
古い木枠のガラス棚。棚の奥に、ほこりをかぶったビーズ細工のブローチがひとつ、眠っていた。
もう色もあせて、パーツもところどころ欠けてる。
でも、そこに「誰かの手」があったことは、ちゃんとわかる。
「それでも……作った人がいたんだよね」
私は、誰に言うでもなく呟いた。
役に立つかどうかじゃない。
使えるかどうかでもない。
ただ、手を動かしたその時間と、残ったものが、確かにここにある。
それだけで、心が少しだけ、ほどけた。
*
帰り道、ポケットの中で、小さなブローチが揺れる。
「わたし、こういうのが好き。それだけじゃ……ダメかな?」
その問いに、今はまだ答えは出ない。
でも、たぶん、そんな自分を否定しなくていいんだと、少しだけ思えた。
それは、“使い道”なんてなくても、
きっと胸に残り続ける、ささやかな灯りだった。




