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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校2年生

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第84話「“役に立たない”から、意味がある」

「家庭科の自由課題、何作る?」


授業の終わり際、隣の席の子に聞かれて、私はつい口にしてしまった。


「……なんか、“使い道がないやつ”が作りたいなって」


言った瞬間、数人が笑った。

「意味わかんない」「それってゴミじゃん」

冗談っぽく、でも刺さる感じで。


私は笑わなかった。ただ、うまく笑えなかっただけかもしれない。



放課後、気持ちが落ち着かなくて、図書館に足が向いた。

人が少ない、静かな場所にいたくて。


ふと文芸コーナーに目をやると、座っていた後輩の女の子が、こちらに気づいた。


「あ、手芸部の……希音先輩?」


文芸部の一年生だった。名前は、確か柚葉ちゃん。


少し話をするうちに、彼女が言った。


「小説も、“役に立たない”ってよく言われますよ。誰かの生活を変えるわけじゃないし、読んでも何も残らないって」


私は黙って聞いた。


「でも、“無駄”が残ってるって、案外すごいことだと思うんです。消えないで、残ってる。それだけで、意味があるんじゃないかなって」


彼女の言葉は、音もなく胸に落ちた。



帰り道、ふらりと寄った商店街の手芸用品店。

古い木枠のガラス棚。棚の奥に、ほこりをかぶったビーズ細工のブローチがひとつ、眠っていた。


もう色もあせて、パーツもところどころ欠けてる。


でも、そこに「誰かの手」があったことは、ちゃんとわかる。


「それでも……作った人がいたんだよね」

私は、誰に言うでもなく呟いた。


役に立つかどうかじゃない。

使えるかどうかでもない。


ただ、手を動かしたその時間と、残ったものが、確かにここにある。


それだけで、心が少しだけ、ほどけた。



帰り道、ポケットの中で、小さなブローチが揺れる。


「わたし、こういうのが好き。それだけじゃ……ダメかな?」


その問いに、今はまだ答えは出ない。

でも、たぶん、そんな自分を否定しなくていいんだと、少しだけ思えた。


それは、“使い道”なんてなくても、

きっと胸に残り続ける、ささやかな灯りだった。



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